PBP2019: 本編⑱ DREUX~Rambouillet(1218km)

ばる

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8/22 10:08、PC13: DREUX(1174km地点)に到着。


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DREUXのPCの駐輪場はPC入り口近くにあり、ControlはPCのかなり奥の方にある。ゴールリミットに間に合いそうならばControlの建物前まで自転車に乗っていく所だが、既にどうやっても間に合わない。駐輪場に自転車を置いて、ゆっくりとControlの建物へと向かう。ペダリング中は何とか痛くない回し方を見つけたが、徒歩になるとアキレス腱の痛みが辛かった。

Controlのスタッフの方は、何も言わずにブルベカードを受け取り、サインをくれた。書かれた時間は10:11。リミットまであと1時間半である。このまま走れば、あと3時間弱でゴール出来るだろう。しかし、タイムオーバーとなれば91時間でも93時間でも同じこと。DREUXでゆっくり休んでから、ゴールの施設が撤収される前にゴールすることに決めた。


そうと決まれば腹ごしらえである。DREUXのレストランの食事は、恐らくPBPのPCで一番レベルが高い。そして、前回はこの大会がモデルとなったケーキ「パリブレスト」も置かれていた。これを食べずには終われない。


トレイを取って列に並びながらフロアを見回すと、一人の人物と目が合った。その人物は私のほうに近づいてきた。

それは、先行していたはずの妻だった


  「え、なんでまだここに……」
  「一緒にゴールしようと思って。」



一度はかなりのペースでゴールを目指して進んでいたようだが(GPSログを見ると、グロスで23km/hほど出ている)、あるところで思いとどまって私を待つことにしたらしい。

  「散々助けてもらったのに、自分だけ先にゴールするのは何か違うと思ったんだ。」

そのままのペースで最後まで走っていれば、ゴールリミットに間に合っていた可能性もある。別れ際の私の台詞が可能性を阻んでしまったことへの残念さはあったが、それ以上に待っていてくれたことが嬉しかった。これで一緒にゴールをすることが出来る。残念ながら、スタート前に描いていた「時間内に」という理想は叶わなかったが、二人とも五体満足でゴールラインを越えることはできそうだ。


  「じゃあ、ここでしっかり食べよう。
   DREUXのメシはとびきり美味いよ!」



妻にもトレイを持たせて、一緒に列に並ぶ。残念ながら楽しみにしていたパリブレストは売り切れ。しかし、他にもケーキが沢山並んでいる。他のPCにはここまで豊富なデザートは置かれていないので、ここぞとばかりにトレイに乗せた。


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豚肉の煮物とパン2個、そしてケーキも2個。この豚肉の煮物は圧力鍋で煮込まれているのか柔らかで、とても美味しかった。ケーキの味も素晴らしい。やはり、ここのレストランはPBPのPCの中でも一番レベルが高いと思う。時間に余裕があれば、次回以降も是非ここで食事を取りたいものだ。

向かいの席に座った妻は、食べながら寝落ちしていた。時間外完走を受け入れたことで気が抜けたのだろう。ゴールまで45km。安全に完走するためには、私も寝ておいたほうが良い。食事を終え、そのまま机に突っ伏した。

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特にタイマーは掛けなかったが、起きると30分ほどが過ぎていた。頭はかなりスッキリしている。妻は相変わらず寝たままだ。

現在時刻は11:00。もう間に合わないことが分かった以上、もっとダラダラしたい所。しかし、そうも行かない。PBPには、ゴールリミット以外にもう一つのタイムリミットが存在するからだ。

そのもう一つのタイムリミットとは、「ゴールの撤収時間」

実は、PBPはゴールリミット時間を過ぎていても、ブルべカードさえ受け取ってもらえれば、完走メダルを貰うことが出来る(ただし、認定完走と違い、メダルに完走時間が刻印されない)。本来、BRMでは「時間外完走」と「リタイヤ」の区別は無いはずだが、PBPではリザルト上でも「HD(Hors Delais)」「AB(Abandone)」は明確に区別されている。

認定は逃したけれど、せっかくだからメダルは持って帰りたい。そのためには、ブルべカードを受け取ってもらう必要がある。ブルべカードを受け取ってもらうには、ゴール受付の撤収前にゴールに辿り着かなければならない。90時間の部の最終ゴールリミットは15:00までなので、少なくともその時間まではゴールが開設されているはず。恐らく、翌日スタートの84時間の部はもっとゴールリミットが遅いはずだが、明確な最終時刻が分からない。このことから、15:00までにゴールしておくのが無難だと結論付けた。そうなると、このPCは12:00には出発しておきたいところだ。

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出発まであと1時間の時間がある。それまでに、このPCでやっておきたいことが二つあった。

一つは、テーピング用のテープを救護室で貰うこと。もう一つは、スマホの充電である。Loudeac出発から丸一日が経っていて、スマホの電池は残り20%。モバイルバッテリーは前のPCでライトを充電するのに使ってしまい、もう残量が無い。DREUXには珍しくスマホ充電用のブースがあった。ここを使わせてもらうことにしよう。

スマホを充電器に繋いで、その後に救護室に行くのがロスが少なそうなので、その順番で動くことにする。


妻を起こし、食べかけの食事を済ませて、Control横にある充電ブースへと赴く。この時は迂闊にもUSBアダプタをもっていなかったが、ケーブルとセットで貸し出してくれた。他のPCにもこのサービスがあったら有難いが、DREUX以外では見かけた記憶が無い。スマホのシェアは年々拡大しているはずだし、次回は全てのPCにこうしたブースが設けられているかもしれない。

スマホを充電器に繋いだら、次は救護室へ。救護室は、仮眠所が設けられた体育館の隅にあった。テーピングテープが無いかを尋ねてみたが、残念ながらそういったものは置いていないとのこと。残り45㎞は騙し騙し走るしかなさそうである。まぁ、それでも15km/hくらいは出るだろう。


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トイレや食べ物の買い出しを済ませて、充電器からスマホを回収。駐輪場に戻ろうとすると、通路にスマホが落ちていた。急いでいれば見なかったフリをする所だが、そこまで急ぐ理由も無い。スタッフの人に拾ったスマホを届けた後、改めて駐輪場に向かった。

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11:50、DREUXを出発。いよいよ最終区間である。

すっかり日は登り、雲一つない晴天。日差しが刺さるように体を照らす。少し暑いが、PBPの最終区間の天気としては上々だ。アキレス腱はまだ痛むが、45kmくらいは何とかなりそうである。


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DREUXの街を出てからしばらくは登り坂があったものの、そこから先はご覧の通りの平坦路。PBPでは実に珍しいまっ平らな道が約15kmに渡って続いていた。……もう少しコースプロファイルをよく見ておくべきだった。これなら少し無理をすれば、グロス時速20km/hを出すことも可能だったかもしれない。2015年のPBPで走ったラスト区間はもっと起伏があり、結構苦戦した覚えがあった。それに比べると、2019年のラスト区間は随分と易しくなっていた。事実、最後まで諦めずに踏んだことでギリギリ時間内に完走した人も多くいたようである。

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ここで、後ろから来たヴァントゥーさんと一緒になった。彼はPBP完走には十分な走力があるが、メカトラでハブ破損。色々なメカニックをたらい回しにされ、ようやく走れるようになったものの、私達と同様にタイムオーバーになってしまったとのことだった。PBPのPCにいるメカニックの腕はピンキリであることは、Guile.Kさんのブログを読んで知っていたが、それは本当のようである。アキレス腱が痛くてスピードが上げられないため、ヴァントゥーさんには先に行っていただいた。


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残り20kmほど。矢印看板の示す方向が、GPS上に表示されたルートと分かれた。ここからは、スタート3日前になって急遽変更になったコースに入る。ここからは完全に矢印を頼りに走らなければならない。

……が、分かれ道なのに矢印看板が無い交差点がいくつかあった。恐らく、不届きな人間がお土産に持って帰ってしまったのだろう。結構な数の参加者が勘違いしているが、この矢印看板は勝手に持って帰って良いものではない。PBPのキューシートは日本のブルベのキューシートほど親切ではなく、それだけで走ることは不可能。この矢印看板がなければ多くの参加者は完走することが出来ない。それを持ち帰ることは他の参加者に多大な迷惑を掛けることになるので、是非ともやめていただきたい。

この矢印看板を路上から持ち帰らずに入手する方法も存在する。それは、「ゴールやPCでスタッフから貰う」こと。設営時に使用しなかった予備分を、頼めば貰うことが出来る。もし、お土産に欲しかったらゴール地点でスタッフに声を掛けてみてほしい。

なお、迷った分かれ道では、恐らくGPSで最新のルートデータを持っていそうな参加者の行く方向に従った。まだ走っている人が多い時間で良かったが、後から来る人は大変だろう。


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それにしても平地である。「フランスにこんな平地があったのか」と思うほど。時折坂は出てくるものの、その頻度はこれまでとは段違いに少ない。獲得標高を見ると、44kmで299mしか登らない。PBPの全区間でもっとも平坦な区間であった。次回も同じ道を通るとは限らないが、「ラストは平坦基調」であることは覚えておきたい。


ゴール手前、8kmくらいの場所にあった建物の前で、PBPジャージの子供たちの集団を追い抜いた。恐らく、Paris Brest Paris Youthと呼ばれる併催イベントに参加した子供たちだろう。PBPのコースを1日100kmずつ、12日間掛けて走るらしい。彼らも数年後、その道のりを4日間で走るようになるに違いない。


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スタート直後に見た並木道に帰ってきた。ここまで来れば後少し。

まもなく、Rambouilletの街に入る。スタートとは少し違う道でランブイエ城の門へ。ここはかなり荒い石畳なので、しばし押し歩き。再び自転車に跨り、荒れた舗装の道を行く。既にゴールした人たちや、沿道の人たちから、次々に、

  「Bravo!!」
  「Congratulations!!」


の声が掛かる。前回のPBPのゴール地点であるSaint-QuentinはPBPのゴール地点とは思えないほど閑散としていたので、「PBPのゴールはそういうもの」と思っていた。それに比べると、この盛り上がりはどうだ。これまでの道のりが誇らしく思える。スタート/ゴール地点の変更は当初不満だったが、これなら次回以降もRambouilletでやってほしいとすら思えた。


そして、ゴールゲートのある「Le Cez Sheepfold National De Rambouillet(ランブイエ国立羊舎)」の敷地へ。ここも入り口は石畳であるが、せっかくなので乗車して突入。敷地内は砂地だったが、ここも降りずにペダルを回す。シクロクロッサーではないが、ここまで来たら乗ったままゴールしたい。


14:47、二人で並んでゴールゲートを通過!

残念ながら時間内完走はならなかった。しかし、二人共無事にゴールまで辿り着くことが出来た。

スタートから92時間58分。スタッフの方々の拍手に迎えられ、1218kmの旅が終わった。


(つづく)
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