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東京→糸魚川ファストラン2012 ⑤直江津~ゴール
直江津からは進路が西へと変わる。この日は北東の風。ここまでは向かい風だったが、追い風へと変わる。サラ脚なら40km/hは出るであろう道。しかしスピードは平坦30km/hが限度。登りでは20km/h台前半まで落ちこむ。
しばらく走っていると、下りで追いぬかれたロヂャースの選手たち2人に追いつく。彼らもかなり参ってる様子。暗黙のうちに3人で回すことになったが・・・平坦では何とか先頭を引けるが、登りでは残念ながら脚を引っ張ってしまっている。残念ながら、登りでどんどん差は開き千切れてしまった。悔しい。いつもならこんな事はないのに。
ここからは一人旅。気づけばボトルの中身が空になっている。信号で止まった隙に自動販売機でアクエリアスを補給。・・・美味い。体に染み渡るようだ。あと40km、まだ行ける。
直江津~糸魚川までのR18は何度も同じような風景が繰り返される。「あれ、さっきも来たよな?」の堂々巡り。ただ、風景は綺麗だ。
ふと、サイクルコンピューターに目をやると、目を疑う数字が。
残り距離は30km、現在の時刻は15:20・・・。あと1時間で30kmを走れれば11時間を切れてしまうのだ。膝の痛みでペースが落ち、直江津到着の段階では予定よりも8分も遅れていたはずだ。なのに、まだ希望は潰えていない。どういうことだろう。
振り返ってみると、2つの原因が考えられる。一つは、海沿いのR8の信号の少なさ。10kmに一度くらいしか信号が無い。もう一つは追い風であったこと。痛みで踏み込めない足を風がサポートしてくれる。
当初の予定表では、直江津→ゴールまでのグロスAveを28km/hと見積もっていたが、明らかに見積りより速い。29km/h程度は出ている。
(これは・・・もしや11時間切り行けるのではないか?)
そうとなれば踏むしかない。膝は痛いはずなのに、メーターの刻む数字はどんどん挙がっていく。35~40km/h巡航。一体どこにそんな力が残っていたのか。そしてもう一つ驚いたことがある。
膝の痛みが消えている。
正確には、「膝の痛みを感じないように脳内麻薬が出てる」状態だったと思われる。
(精神が肉体を凌駕したッ!!)
志々雄様光臨ッ!!ゴールまではこの集中を切らせてはならない。この状態が切れた時に痛みは一気に押し寄せてくるはず。切れたら、終わりだ。
猛然とペダルを回す。「糸魚川 10km」の看板が目に入る。そんな時、バックミラーに影が映った。しめた、ようやく後続の列車が来た!実は、直江津のあたりでロヂャースに千切られてから40km、ここまで誰にも抜かれず一人旅。先ほどは列車から千切れたが、精神が肉体を凌駕した今の状態であれば、列車についていくことくらいは可能なはずだ。
・・・が、良く見ると列車では無い。向こうも単機だ。そしてそのマットブラックの自転車には見覚えがあった。
「オヒサシブリデス!」
松本~CP2まで一緒に走ったGさんであった。ココに来て一番脚の合う相手の合流。これは大きい!もちろんここからは協調体制。40km/hで回していく。ラストスパートとはまさにこのことだ。全てを出し尽くす勢いで、回す。
そして残り3km。目標の11時間まではあと6分。糸魚川駅脇を左折。後はゴールまで一直線ッ!!
しかし、街中に入ることで信号が増える。いきなり最初の信号にハマる。
「信号ハ優シクナイネ!」
と笑うGさん。全くだ。信号が変わると同時に一気にトップスピードに乗せる。残り1km、11時間まではあと2分。さすがに厳しい。
残り500m、ゴールのホテルが見えた!ここに来て最後の力を出し切るGさん。自分は残念ながらこれ以上踏めない。悔しいが、先にゴールする姿を後ろから見ることとなった。そしてGOALに設置された「歓迎 糸魚川」のゲートに飛び込む!
16:21、ホテル国富アネックス(旧ホテル糸魚川)にゴール!!
タイムは11時間01分05秒。惜しくも目標に1分及ばず。CP3での休憩がもう少し短ければ行けたんじゃないか?と思うが、たらればの話をしても仕方が無い。今の実力はこれなのだ。
ゴール後、自転車から降りて地面に脚を付くと激痛が走る。志々雄様モードはもう切れたらしい。歩くのすら困難である状況に、よくもここまで走ってきたものだと自分に呆れた。
ヨロヨロと、足を引きずりながらGさんに歩み寄り、握手。そしてチームメイトの261さん、Sさん、Mさん、アイスさんに迎えられる。
261さんは10時間28分前後とのこと。やはり速い・・・。用意周到に試走もしていたようだし、その辺りの姿勢の差が出てしまっただろうか。悔しい!
意外だったのはチームの正エースであるMさんのタイムが11時間5分であったこと。自分の方が速かっただって?聞けば、最近は登りを全く登ってなかったらしく、登り方を忘れたとのこと。確かヤビツの記録は34分台を持っていたはずなので、言っている事は本当なのだろう。化け物クラスの実力を持つMさんでもやはり練習は必要らしい。
糸の切れた人形のように、椅子にへたり込む。ホテル糸魚川の庭で過ごす、完走後のこの時間。これがたまらなく良い。
ホテル糸魚川は昨年の大会の直後に経営母体が変わり、「ホテル国富アネックス」へと名前を変えた。経営母体が変われば方針も変わる。毎年、ホテル糸魚川の全面協力の下に行われていた「東京→糸魚川ファストラン」。今年はゴールが変わるのではないか?と噂されていたが、蓋を開けてみれば今年もゴールは変わることは無かった。
やはり僕たちのゴールはホテル糸魚川なのだ。
(つづく)