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PBP 2015 本編⑦Carhaix ~ Brest(614km)
8/18 1:35、PC5:CARHAIX(526km)に到着。
ようやく東京から大阪に着いたくらいの距離。24時間はとっくに経過している。
早々にチェックを済ませ、レストランへ。さすがに深夜ということもあって死屍累々である。足の踏み場も無いほどに床で寝ている人が多い。食べ物は先ほどたらふく食べたので、ここでは仮眠のみを取る。机に突っ伏して15分ほど寝た。
PCを出ると小さな丘を一つ越えた後に、本コースの最高標高地点・Trevezelを目指して約15kmのヒルクライムが始まる。最高標高と言っても350mにも満たない小さな峠なので、ゆるやかに標高を稼いでいく。最高標高がこれだけの高さしかないのに、ここまで550kmの獲得標高は5500mと、キッチリ100kmで1000m登るペースが守られている。細かいアップダウンが如何に多いか、この数字からも良く解ると思う。
峠に到着。最高標高地点のランドマークかと思って撮影したが、単なる街の案内だった様子。この辺りは霧が出ていて見通しが悪かった。
ここからは久々のダウンヒルなのであるが、正直嬉しくない。気温は既に10度を下回っており、かなり寒い。手や胴や足はカバーされているので良いのだが、ダウンヒルでは顔がまともに風を受けて冷える。ジャケットのファスナーを一番上まで上げるが、それでも冷気が防ぎきれなかった。薄手のものでも良いので、ネックウォーマーを持ってくるべきだったと後悔。
夜明けが近づくにつれ、気温は更に低下していく。Garminの示す気温は8度。これは少々キツい。冬場ならばこれだけ着ていれば十分に耐えられるのだが、数日前までは40度近い気温の日本にいたのである。体が適応しきれていない。事実、今回のPBPは「暑い国」の完走率は低かったようだ。台湾、ブラジルの完走率は50%前後。インドは36%、シンガポールやタイは30%を下回っている。近年、熱帯に近い気候となっている日本人にとっても、この寒さは体に堪えた。
この寒さによって恐れていた事態が起こる。……腹が痛い。次のPCであるBRESTまでの距離は約20km。周りは山である。トイレなどという文明的な施設は見られない。道中、いくつかの街は抜けるものの民家ばかりでトイレが借りられそうな施設は無かった。この際、民家でも良いから借りようかとも思ったが、思いとどまる。時間は早朝5:30。私設エイドすら出ていない時間帯に人の家を訪ねることなど出来ない。嗚呼、日本ならば10kmも走れば必ずコンビニがあるのに。
騙し騙し走っていたが、BRESTまで10kmのPlougastel-Daoulasという街でついに限界を迎える。ペダリングすらまともに出来なくなり、速度は時速10km台まで低下。これはいよいよ野外でするしかないのか……と、思ったその時、一本隣の道沿いにガソリンスタンドを見つける。しめた!と思い近寄ろうとして、自分が道路の左側を走っていることに気付く。1200kmの道中で、通行区分を間違えたのはこの一回だけ。それだけ余裕が無かったと言うことだろう。
やっとの思いで辿り着いたガソリンスタンドのトイレは、無情にも営業時間外で施錠されていた。万事休す。ああ、下痢止めを持ってくるべきだった……と思ったその時、かすかにバターの香りが漂ってくるのに気付く。パンを焼いている場所が近くにある。
香りの漂ってくる方向を見ると、そこにあったのはホテルだった。朝食のビュッフェ用のパンを焼いている香りだったのだろう。管理人らしき女性がホテルの入口に入っていくのが見えた。ここだ、ここしかない!!
地面に自転車を倒し、入口のドアを開ける。開口一番、
「Toilet(トワレット), please!」
混乱していて、フランス語と英語が混じっている。一瞬ポカンとした顔をした受付の女性も事態を察したのか、急いでトイレまで案内してくれた。一時間に渡って求め続けたトイレとようやくの邂逅。こうして、文明人としての尊厳は保たれたのであった。
トイレから出て、丁重にお礼を言う。いきなり東洋人が物凄い血相で入り込んできたのである。相当驚いたことは想像に難くない。それでもきちんと対応して貰えたのは、ランドヌール然とした格好ゆえだろうか。折り返し地点まで10kmの街ということで、受付の女性はPBPのことを知っているようだった。
ちなみに、ホテルの名前は「ブリットホテル」であった。狙ったわけではない。全くの偶然である。もしBRESTに旅行に来る機会があれば、是非ここに泊まろうと思う。
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腹も軽くなり、ペダリングも軽くなった。2kmほど進むと、見晴らしの良い橋に差し掛かる。Albert-Louppe橋。若干、しまなみ海道を思い出す橋だ。
大西洋を望む絶景に思わず息を呑む。近くに居た初老のサイクリストも、
「なぁ見ろよ!!BRESTまでついに来たぜ!!」
と興奮を隠さずにまくし立てる。そうだ、ようやく折り返し点に着いたのだ。
この橋の標高は高く、今見下ろしている港町にPCはあるのだろうと思っていた。しかし、港町へ一度降りたと思ったら、再度登りが始まる。GPSの示す場所を見ると、PCはキツめの坂を登った先にあるようだ。まさか海沿いに来てまで登ることになろうとは……PBPのコースは最後まで油断出来ない。