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PBP 2015 本編⑫Fougères ~ Villaines-la-Juhel(1008km)
8/19 5:37、PC10:FOUGERES(919km)到着。
チェックを済ませてTwitterを見たが、タッチの差でふぃりっぷさんは出発してしまったようだ。
折角追いついたと思ったのに……脱力したところで、床にマットが敷いてあるのを発見。仮眠所が一杯になってしまったので、ここで寝ろという温情らしい。若干の眠気もあるし、都合よく寝られるマットもある。これは寝るしかない!ということで夜が明けるまで寝ていくことにした。
提供されるのはマットのみでブランケットなどは無い。これはそのまま寝ると寒くて目が覚めるパターン。こんなこともあろうかと用意していたエマージェンシーシートを取り出す。実は使うのは生まれて初めて。予想外に薄いが、こんなもので寒さを凌げるのだろうか……と思ったが、これが意外と温かい。そのまま眠りに落ちた。
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一時間半後、目覚めて外に出ると夜が明けていた。予定の上では最終日の始まり。もう使うことも無いだろうと思い、エマージェンシーシートを処分した。
ここFOUGERESでは、やらなければいけないことがあった。「ラザニアを食べること」である。往路で食べ逃したラザニアを食べることをモチベーションにここまで走ってきたのだ。
レストランに入り、列に並ぶ。カフェテリアコーナーの先にあるメインディッシュのコーナーでラザニアを頼もうとすると……売り切れていた。なんてことだ。
結局、前のPCと同じくボロネーゼを頼んだ。肉を山盛りにしてくれたのは有難いが、完全にラザニア腹だった身には辛い。そしてここのヨーグルトは相変わらず美味しかった。
さて、残り300km。大きなトラブルが無ければ15~6時間もあればゴールしてしまうはずだ。到着時刻は23時から0時と言ったところだろうか。77時間でゴールなら上出来だ……と思っていたが、ここであることに気付く。
(今夜の宿、取ってたっけ……?)
今回の宿泊に関しては全てふぃりっぷさん任せ。果たしてゴールしたところで寝る場所があるのか解らない。ゴール地点に仮眠所があるかもしれないが、確証は持てない。最悪、ゴールしたのにベロドロームの硬い床の上で寝る羽目になる可能性がある。
ふぃりっぷさんに確認のリプライを飛ばすと、やはり今夜の宿は抑えていないらしい。スタート前に泊まっていたホテルなら空きはあるかも知れないが、シングルルームだと10000円を超える可能性がある。ならば仮眠所で寝てからゴールしたほうが安い、という話だった。
言われて見れば確かにその通り。ホテルで寝れば1万円、仮眠所で寝れば500円。別に目標タイムを達成したところで何か表彰されるわけでもない。ならば、時間を十分に使ってPBPを満喫したほうが良いだろう。お金も掛からないし。
少し悩んだが、ふぃりっぷさんの案に乗ることにした。
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急ぐ必要もなくなったので、グルメポタリングモードに突入。道中の店や、私設エイドには積極的に立ち寄っていく。
こちらの方々はご家族で私設エイドを出してくれていた。カメラを構えると、揃ってポーズを取ってくれる。良い家族だ。そして父親らしき方とこんなことを話した。
「日本から来たのかい?
神戸?東京?」
東京より先に神戸が来るとは意外だった。多分、知人が住んでいるとか、神戸に縁がある方なのだろう。とりあえず「東京から」と答えておいた(本当は神奈川だけど)。
次に寄ったレストラン。店先でアイスクリームを食べている人が居たので、羨ましくなって停車。
チーズケーキ&ピスタチオ。値段は3ユーロくらいだった気がする。とても濃厚で美味しい。やはりフランスの乳製品に間違いは無い。
更に食後にトイレを貸してもらえないかを聞いてみると、タオルを貸してくれた。恰幅の良い女将さんが、「顔を洗ってこれで拭きな!」というジェスチャーを取る。なんと有難いのか。トイレも、BRESTのホテルと負けないくらいに清潔。アイスクリームだけではなく、普通に食事をしていけば良かったと後悔。次にPBPに出ることがあれば、また寄ろう。
しばらく進むと、990km地点で大きな私設エイドに遭遇。というより、ここは露店と言ったほうが正しいかもしれない。メニューが置いてあって、いろいろな食べ物が売っている。さらには仮眠所まで設けられている。オフィシャルのバイクの人たちも、ここで休んでいた。
定番のサンドイッチと、コーラを購入してしばし休憩。具は焼きたてのソーセージ。美味しかったけれども、食べ切れなかったので半分は背中に刺して走ることに。
このエイドでは、LAPIERRE乗りの人としばし話し込む。フランス人だが英語の話せるお方。アジア人が何故か同じLAPIERREに乗っていたので興味を持ったらしい。LAPIERREは、日本で言うとANCHORのようなメーカーらしく、国内で乗っている人は多くても国外で乗っている人を見るのは珍しいようだ。確かに、フランス人がANCHORに乗っていたら思わず話しかけてしまうと思う。
彼が乗っていたのはコンフォートモデルのPULSIUM。
「32Cタイヤまで入るんだぜ!超快適だ!」
と、自らの愛車を評していた。国も言葉も違っても、同じ趣味同士の話は盛り上がるものである。
私設エイドを出て間もなく、走行距離が1000kmを超えた。他のレポートで書いたことがあるが、1000kmというのは厄介な身体的トラブルが出始める距離。微細なポジションのズレや、振動等が積み重なり、容易には修復不可能な故障が顕在化するのだ。今回も、今まで遭遇したことの無いトラブルに見舞われた。
足の裏が痛い。
拇指球付近が痛み、指先が痺れてきている。前のPCから違和感はあったが、ここに来て痛みが強くなってきた。
恐らく原因はシューズにある。今回使ったシューズは、SHIMANOのSH-XC70。MTBのクロスカントリー競技や、シクロクロス競技に使われるレース用シューズである。SHIMANOのラインナップするSPDシューズの中で、二番目に剛性の高いモデルとされている。
従来、私がロングライドで使っていたのは、SHIMANOのMTB用シューズの中でも一番低いクラスのもの。ソールの剛性は低く、歩きやすいというのが理由。TOT(1075km)も、本州一周(2140km)も、それで特に足裏のトラブルに見舞われることは無かった。
SH-XC70を買ったのは、2015年のFleche攻略のため。「クロスバイクで大阪→東京を24時間以内に走る」という無茶な目標を達成するには、少しでも効率的にパワーを路面に伝えることが求められる。そこで、剛性の高いレース用シューズを購入したのだった。
大阪→東京(523km)では特に問題は無かったし、600kmブルベでも問題は出なかったので、今回のPBPはSH-XC70で行くことにしたのだが……まさか1000kmでトラブルが出るとは。1000kmで初めて出るトラブルなんて、事前にテストしようがない。チャリモさんの「ロングライドは1000kmから」という言葉が脳裏に浮かんだ。結局、エクストリームライドのシミュレーションは、エクストリームライドでしか出来ないのである。
これ以上悪化すると、完走すら危ういかもしれない。ダンシングで足裏に体重を掛けると痛むので、坂でもダンシングを封印。シッティングメインで、次のPC・Villaines-la-Juhelを目指したのだった。