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PBP2019: 本編① START~Mortagne-au-perche (118km)
Rambouilletのスタートゲートを出ると、道は左に折れ、進路は西に変わる。早速、これから何百回と繰り返すPBP名物「丘超え」の一発目が始まった。
今回もいつもと同じく、妻と行動は別々。仮眠予定のPCのみを合わせ、そこからしばらく行動を共にし、また分かれて走る……名付けて「前待ち作戦」である。昨年のCH1200も、ビワイチ1000も同様の作戦で走って、完走に繋げることができた。今回は、果たしてどうだろうか。
いくつかの丘を越えた辺りで、後ろから声が掛かった。
「ずいぶん飛ばしますね~」
R東京スタッフのきむけんさんだった。きむけんさんは一人で1000㎞ブルベの試走も行うほどの健脚(普通、一人で1000㎞は途中で嫌になる)。今回もしっかり完走をすることだろう。
しばらく一緒の集団で走っていたが、きむけんさんはそこから飛び出して先に行ってしまった。追いかけようと思ったが、どうにも足が回らない。単純に練習不足か、とこの時は思っていた。
18㎞地点のConde-Sur-Vesgreの街から、前回と同じルートに入る。確か、前回はふぃりっぷさんがMグループを抜け出して、前のLグループに追いついてしまった街だ。今回はHグループから抜け出すことも無く走っていた。
街を抜けると、開けた場所に出る。この先、嫌と言うほど見ることになる畑の中の道。路肩の芝生、広い空。4年ぶりにここへ帰ってきたという実感が湧いてくる。私にとってのフランスの風景は、凱旋門でもエッフェル塔でもなく、この田園風景なのだ。
50㎞ほど走行したところで、15分後ろのIグループに追い抜かれることが増えてきた。明らかに自分のペースが落ちている。前回は前のグループに追いつくことはあっても、後ろのグループに追いつかれることは無かった。走力は多少落ちているだろうが、ちょっとこれはおかしい。
ここでようやく、「腹が減っている」という事実に気が付いた。スタートのテンションで忘れていたが、昼飯もそこそこにホテルを出た上に、ウェルカムミールを食べ逃している。どう計算してもエネルギーが足りない。フロントバッグにそれなりに食べ物は入れていたが、
・クッキー: 200kcal
・グミ2袋: 300kcal
・飴1袋: 250kcal
・干し梅: 50kcal
・スポーツようかん×3: 450kcal
といった構成。合計1250kcalでは精々持っても4時間程度。最初の補給ポイントであるMortagne-au-percheまでの距離は120km。このペースで行くと、スタートからの所要時間は約5時間。手持ちの補給すべてを食べたとしても、これではカロリーが足りない。スタート前の補給に失敗している上に、持っている補給も足りないという事実に、間抜けにも数時間走ってから気づくことになった。
トレインに乗ってはいたものの、この事実に気づいた直後の私設エイドで離脱。有難いことにパンが置かれていたので、2-3個口に突っ込む。「水はいるか?」と聞かれたので、Yesと答える。小さい子供がボトルに水を入れてくれ、やはりこの国はいいな、と思ったのだった。
一時的にスピードは回復したものの、やはり高速巡航をするにはカロリーが足りない。トレインに乗っても、登りで置いて行かれることが多くなった。
21:30を過ぎると、徐々に周囲は暗くなってきた。ここで反射ベストを纏い、前後のライトを点灯する。日本国内のブルベと違い、PBPでは夜間のみ反射ベストを着ればよいことになっている。昼間は暑くなるので反射ベストは着ず、一気に気温が落ちる夜間は防寒具として反射ベストを着るという人は多いと思う。
PBPにおいて、最初の楽しみはこの夕暮れの時間帯にある。スタート数時間では集団もまだばらけておらず、前後には多くの人がいる。周囲が開けた丘陵地形では、前走者のテールライトが地平線まで続く光景が現れるのだ。これはPBPでしか見られない光景ではないだろうか。
100km地点の街、Longny-au-percheに立つ「Église Saint-Martin de Longny-au-Perche」。荘厳な姿に思わず足を止めた。調べてみると、15世紀後半に建てられた教会らしい。建築物もPBPの楽しみの一つである。
日が完全に暮れ切る前に、Mortagne-au-percheの街の入口までたどり着いた。他の街もそうだが、基本的にフランスの街は丘、または山の上にある。防衛的な理由と言われるが、このMortagne-au-percheという街はまさにそんな理由で山の上にある街だった。ここまでの丘陵地帯よりも急な坂を登り、街中に入る。
スタートからちょうど5時間経過した頃、最初のWP(Welcome Point)、Mortagne-au-percheの入口に辿り着いたのであった。