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PBP2019: 本編⑥ Loudéac~St-Nicolas-du-Pélem(488km)
18:15、PC4: Loudeac(445km地点)に到着。ようやくここで本格的な睡眠を取ることが出来る。
スタートが1時間遅かった前回が16:00には着いていたことを考えると随分ゆっくりペースである。計画に比べると1時間半も遅い。しかし、PC内の勝手を知っている分、今回の方が眠るまでは早いはずだ。
駐輪場に自転車を止め、その前にあるドロップバッグ置き場へ急ぐ。今回も前回と全く同じ場所にバッグが置かれていたが、密度が大きく違う。やはり日本人参加者が倍増した影響は大きいようだ。とはいえ、ちゃんと番号ごとに並べてくれているのですぐにバッグは見つかった。
バッグから入浴セットと着替えとモバイルバッテリーを取り出し、そそくさとシャワーへ。「Douche」がフランス語でシャワーの意である。入り口で4ユーロを払うと紙タオルが渡さ……
え、まさかの布タオル! 前回はトイレットペーパーのような紙タオルを渡されて困ったのでタオルを持参したが、まさかのサービス向上が測られていた。ただ、このタオルは吸水性が悪かったので、やはり持参するのが正解と言えそうだ。
脱衣所にいたのは日本人二人。どちらも知り合いではなかったが、他愛のない話をしながらシャワーへ。ここのシャワーは天井近くに着けられたシャワーから水が落ちてくる、いわゆる学校のプールのようなシャワーだ。割と暖かいのが救いだが、石鹸などがなくて前回は悩まされた。なので、今回は全身シャンプーとスポンジを抜かりなく持参した。
これが二回目の余裕よ……と思ったら、なんと今回はシャワーの下に全身シャンプーが置かれているではないか!! タオルだけではなく全身シャンプーまで用意してくるとは、Loudeacのサービス向上ぶりに驚いた。
シャワーを浴び終わり、新しいウェアに着替える。皮膚保護クリーム・プロテクトJ1も忘れずに臀部に塗布。こういったシャモアクリームも、清潔な場所に塗らないと本来の効力を発揮しない。シャワーを浴びた今のタイミングで塗るのが適切と思われる。
流れるように今度は仮眠所へ。受付で4ユーロを支払い、起きる時間を指定する。「00:05に起こしてほしい」と要望したが、「指定できるのは15分ごとだ」と言われて、しぶしぶ00:00ちょうどに変更した。
一応、今回のライドは妻とは別々に走る予定ではあったものの、仮眠明けからしばらくは合流し、ペース作りのために一緒に走る予定であった。最初の合流地点はここLoudeacだ。
係の人に案内され、懐かしい仮眠所へと通される。この仮眠所は恐らく中学校の体育館であり、屋根が一部ガラス張りになっている。時刻はまだ18時で、フランスは真昼間。これを覚えていたので、今回はアイマスクを持参した。一つ驚いたのは、厚いマットの仮眠スペースがあったこと。前回は全てコットと呼ばれる担架のような簡易ベッドだったが、今回は2割ほどが厚マットに変わっていた。絶対マットの方が睡眠の質は高いのだが、残念ながら私に割り当てられたのはコットの方だった。ちなみに、二つ隣には先着したきむけんさんが寝ていた。
妻からのメッセージを確認。特に新しいメッセージは来ていない。LoudeacのPC内の構造と合流時間を伝えて、寝る体制に入る。
時刻はまだ19:00前。5時間は睡眠時間を確保出来た。スマホをモバイルバッテリーに繋いでタイマーを00:00にセット。アイマスクを付け、アミノバイタルを飲み、いざ睡眠!
…
……
………
……あっ、まだブルべカードにチェック貰ってなくないか……!?
さっさと寝たさのあまり、Controlに行かずにシャワーを浴びていたことに気づく。Loudeacのクローズ時間は00:04。このまま寝ていたら間抜けにもタイムアウトする所であった。
コットから飛び起きてControlへ行き、ブルべカードにチェックを貰う。これで一安心。
—–
再び仮眠所に戻り、自分のコットへ寝転ぶ。今度こそ睡眠!!
…
……シ゛ャーン!……
……ト゛コト゛コト゛コト゛コト゛コ……
……うるさくて眠れねぇ!!
地面から伝わる轟音。PBPにおけるPCは地元のお祭り会場のような扱いらしく、PCによってはステージが設けられ、ゲストによるトークショーなども行われている。今回のLoudeacは、最悪なことに仮眠所の隣にステージが設けられ、そこで大音量のライブ演奏が行われていた。設営時に睡眠妨害になることに気付かなかったんだろうか? 疲れていればそりゃ寝ることは寝られるが、眠りが浅くなる気がする。恐らく応援のためのライブなのだろうが、完全に逆効果となっているのは明白であった。
結局、1時間近く「ウトウト→轟音で起こされる」という不毛なプロセスを繰り返した。
仕方なく、とっておきの耳栓をバッグから取り出して装着。さすがにこの轟音では耳栓も大して用を成さないだろうな……と思ったら、効果は抜群だった。最初から耳栓を付けておくべきだったかもしれない。
耳栓の効果もあって、間もなく眠りに落ちた。
—–
体を揺さぶられて目を覚ます。どうやら時間のようだ。起こしてくれたスタッフの方にお礼を言う。野外ライブは流石にもう終わっているようだったが、代わりに大音量のいびきが響いていた。
目を覚ますと同時に、強烈な寒気で身体が震えだした。床の冷気が直に伝わってきている。コットは、布一枚を隔てた先が床。更にLoudeacの仮眠所には暖房も無い。Loudeacの仮眠所で寝る際には、毛布を体に巻きつけるか、レスキューシートを一枚挟むべきであった。
前回のPBPでもLoudeacの仮眠所を利用したが、このような寒さは全く感じなかった。それもそのはず、前回と今回では寝た時間帯が違う。前回は16-20時の利用だったが、その時間のフランスはまだ日が出ていて暖かい。これに対して、今回は19-24時の利用。22時に日が落ちてからは、急速に気温が低下する。夜間のLoudeacの仮眠所がここまで寒いとは、全く予想していなかった。
寒さで眠りが若干浅かったようだが、4時間は眠ることが出来た。とりあえずこれで1日は持たせることが出来るだろう。
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待ち合わせ地点であったドロップバッグ置き場の前に行くと、妻は既にそこにいた。眠気が勝り、身体だけをデオドラントシートで吹いてそのまま眠ったらしい。Loudeac到着時刻を聞くと、予定よりやはり1時間半ほど遅れたようだ。自分も同じだけ遅れたわけで、見積もりの甘さが見て取れる。「PBPに向かい風はない」という思い込みが楽観的な計画表を作ってしまったことになる。余談だが、今回のPBPの完走率は前回よりも数%下がっているようだ。往路の向かい風と低温が影響したと考えられるが、それもまたPBPである。
もう一つ不味かったのは、自分の到着が1時間半も遅れたにも関わらず、Loudeacのスタート時間を変えなかったことである。後から考えれば、ここでもう1時間長く睡眠時間を取っておくべきだったと思う。計画が遅れたからと言って、睡眠時間を削るのは愚策であった。
妻はまだ着替えていないということだったので、着替えを待つ。そしてその後、出る前にトイレに行くことになったが、こんな時間でもトイレは大行列。ここで10分以上の時間を使うことになってしまった。後から知ったことだが、少し離れた所にもう一箇所トイレはあったらしい。2周目だというのに、そういった重要な情報を知らなかったのは痛恨の極みである。
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日付変わって8/20 0:50、Loudeacを出発。
Loudeacの街を出ると、すぐに山らしい山に突入する。寝起きで冷えきった身体にこの登りはなかなかキツイ。そして、ここで後ろからAJ反射ベストの二人に抜かれる。壱平さんと、高ハレさんだ。声をかけてしばし談笑。その後、彼らは良いペースで坂を登っていった。前回も同様だったが、この辺りになると対向車線を走るランドヌールがちらほらと出てくる。既にBRESTを折り返してきた80時間部門の超人集団である。既に800km近くを走ってきているはずなのに、実に力強い走りだった。
(前回はこの辺りで事故を見かけたっけ……)
なんてことを思い出す。PBPはかなり安全管理がしっかりしており、一日中巡回のバイクがコース上を走っている。それでも毎回事故で死者が出るらしい。幸い、今回はここに至るまでに一回も事故は見かけていないが、この先自分がそうならないとも限らない。そして今回は自分だけではなく、二人共無事にゴールをしなければならない。気が引き締まった。
470km地点のSaint-Martin-des-Presの街で大きな私設エイドを見かけて立ち寄り。この街の名前、どこかで聞いたな……と思ったら、2003年のシークレットPCに指定された街であった。冷えた身体にホットコーヒーが嬉しい。
そこから10kmほど走ると、WPのあるSaint-Nicolas-du-Pélemの街に入る。ここまでの道のりはかなり暗かっただけに街の明るさが眩しい。そして恐らく、ここまでシークレットPCが無いということは、恐らくここがシークレットなのだろう。