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PBP2019: 本編⑦ St-Nicolas-du-Pélem~Carhaix-Plouguer(521km)
8/20 3:43、WP3: Saint-Nicolas-du-Pélemに到着。ポイントの入り口に着くと、
「Secret Control!」
というスタッフからの案内があった。前回と同じく、往路のシークレットPCはここだった。「WPはシークレットPCに指定されやすい」という通説は今回も正しかった。そして、やはりというか何というか、立ち寄る私達を尻目にそのまま素通りしてしまった人も何人かいた。彼らは認定されたのだろうか。
カフェ脇のControlでチェックを済ませると、妻がよろよろとベンチにへたり込む。「眠い……」とのこと。Loudeacで2時間程度しか眠れなかったのはやはり短すぎたようだ。かといってこのカフェは半分野外のようなもの。かなり寒い。ここで寝るのは得策ではない。確かこのWPは奥に暖かいレストランがあったはず……
記憶通り、レストランはあった。カフェはほぼ満席だったのに、随分空いている。結構奥まった場所にあるせいか、Villenesの南エリア同様、往路でここに気づく人は少ないのかもしれない。そして、ここにいる人は大体寝ている。
レストランでパンとスープを買い、一番暖気が溜まっていそうな隅の席を選んだ。妻はさっさと眠りたそうであったが、ここまででカロリーもかなり使っているはず。先に食べてから寝るように言った。
食後は二人揃って仮眠。到着時点で既に予定から37分遅れており、このWPには20分しか滞在せずに出る予定だったが、眠気を残したまま進むのは危険と判断した。
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目を覚ますと、20分程が経っていた。妻はまだ寝ている。もう少し寝ていてもらうとして、ここからの方針を少し考える。
既に現時点で予定からは1時間以上遅れている。ただ、BRESTでの仮眠を見込んでいたので、その分をここで前借りしたと思えば、1時間は取り返すことが可能だ。本来はこのWPあたりで再び別行動とする予定だった。しかし、現状の妻の疲労状態を見ると、深夜の外国でソロ走行をさせるのは不安が大きい。少なくとも夜が明けるまでは一緒に行動することを決めた。
妻を起こし、出発の準備を進める。時刻は4:55。予定からは1時間50分遅れてのスタート。ここから巻き返せるか。
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深夜のSt-Nicholasを出発。夜明けまではあと2時間程度といった所だろう。
この区間はとにかく霧が凄かった。一日目の早朝は霧が出なかったので忘れていたが、フランスの朝は霧が凄い。その中でも、今回のSt-NicholasからCarhaixの区間の霧は特に強烈。視界は50m程度は確保出来ているが、水の粒が大きく、雨天走行をしたかのようにウェアが濡れていく。防寒具としてレインウェアを着ていなかったら、すぐにびしょ濡れの状態になってしまっていただろう。
最初は順調に着いて来ていた妻だったが、徐々に遅れることが増えてきた。なかなか来ないので引き返して話を聞いてみると、
「眠い……その辺で良いから寝たい……」
と言う。つまり、PBP名物「行き倒れ」になるつもりらしい。
PBPのコース上の田園地帯はほぼ全線に渡って路肩に2mほどの芝生が設けられている。夜になると多くの参加者がこの空間でレスキューシートに包まって寝ているのを見かけることになる。ただ、寝方にも暗黙のルールがあり、仰向けでなければならない。うつ伏せで寝ていると巡回のバイクに事故と思われて起こされるので注意されたい。
ただ、現時点で芝生で寝るのは不味い。霧で芝生が濡れてしまっている。ここで寝たら、ウェアが濡れる。現在の気温は7度。その環境下で身体が濡れてしまうのは非常にリスキーである。かといって、眠い時に寝ないのは危険である。
そこで提案したのが、芝生の上で自転車に跨ってハンドルに突っ伏す方法。これでも何とか眠気を飛ばすことは出来る。ただ、それだと本気で寝てしまった場合に倒れてしまうので、私がサドルを持って支えることにした。寝たのか寝てないのかは私からは分からなかったが、この状態はさすがに不味いと思い始める。
フランスに来てからは、毎日8時間以上の睡眠を取っていた。スタート当日にも4時間は昼寝をしている。それでも、国内のブルベよりは眠気が来るのが随分早い。やはり遠征の疲れと、時差ボケが影響を及ぼしているのかもしれない。私は何とかLoudeacで4時間以上の睡眠を取ることが出来たが、妻はそれより更に少ない睡眠時間で動いている。……この状態で継続して果たして大丈夫だろうか?
徐々に「DNF」の3文字が頭にちらつき始めた。
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5分経ったので妻を起こし、リスタート。霧はまだ晴れないが、空はだんだんと白み始めている。そして、次のPCであるCarhaixは既に目と鼻の先だった。