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PBP2019: 本編⑮ Fougères~Villaines-la-Juhel(1012km)
8/21 14:56、PC: Fougeres(923km地点)に到着。いよいよ残り300kmを切った。
PCの奥にあるControlに向かい、ブルべカードにチェックを貰う。この建物にはトイレもあったので、一応用を足しておく。
Titeniacを出るあたりは絶好調だったのだが、途中から手の痺れと共にダルさが出てきている。空腹感もかなりある。少し飛ばしすぎただろうか。
時間を見ると、15時を少し回った所。タイムリミットまでは20時間45分。残り距離は295km。300kmブルベの制限時間は20時間なので、それより少しだけ余裕があることになる。既に900㎞走ってきているので、ここからそのペースで走れるのかは不明ではあるが。
普段ならば、「15km/hペースで走れば間に合う!」と考える所なのだが、何故だかこの時点では思考がかなりネガティブになっていた。計画から4時間程度遅れていることで、「もうダメなのでは」という考えが頭を過る。そんな心境が現れた結果が以下のツイートであった。
フジェール着。正直しんどい。
— ばる (@barubaru24) 2019年8月21日
ここしばらくはPCの間が50㎞程度と狭かったが、次のPCであるVillainesまでは約89㎞と距離が空く。しっかり食べておかないと持たないだろう。これまでは時短のために避けてきたレストランを利用することにした。
レストランでは、ヨーグルト・オレンジジュース、そしてマッシュポテトのパスタを注文した。すると妻が、
「肉食べなよ。
どこかのPCで肉を食べたらやたら美味しかったんだよね。」
そう言うと、数枚ある肉のうちから1枚をこちらの皿に寄越した。PCのレストランにおける肉は、ウインナー以外は正直臭みが強くて避けていたのだが、そういえばしばらく肉を口にしていないことに気づく。800km地点のIllifautの街でウインナーを一本食べたが、ちゃんとした食事で肉を食べたのは521km地点のCarhaixが最後。ここ2日、ほとんど肉を食べていないことになる。
妻からもらった肉は、薄味の煮豚だった。場末のラーメン屋のチャーシューみたいな味で正直美味しくないのだが、「体が求めている」感覚がある。夢中でかぶりついた。
後から分かったことだが、タンパク質が不足すると人は情緒不安定になるらしい。精神の安定に影響するセロトニンはタンパク質から作られるからである。フランスパンはパンとしては多くタンパク質を含むものの、絶対量は多くない。時短のために売店でエナジーバーやグミ系の補給食を買っていたが、これも主成分は炭水化物。ここ1日の食事の内容を振り返ると、タンパク質が足りていないのは明らかだった。
残念ながら肉を食べてすぐにネガティブさが解消されたわけでは無かったが、とりあえず「肉が足りていない」ことだけは良く分かった。人は炭水化物のみによって動くに非ず。時短も大事ではあるが、きちんとした食事を食べないと、行き詰まるということをここに来て思い知ることになった。
腹は満たされたものの、今度はここで眠気が出てくる。妻はもう行けるということだったので、先に出てもらうことにした。
レストラン前の芝生に移動し、寝転ぶ。この時間帯はかなり強い日差しだったが、この芝生には大きな木があり、その木陰は格好の仮眠スポットになっている。眠気を飛ばせれば十分なので、10分後にタイマーをセットして仮眠を開始した。
—–
タイマーが鳴り、目を覚ます。眠気は飛んでくれた。起き上がり、準備を開始する。手の痺れを悪化させたくなかったので、ここでグローブの上から軍手を装着した。雨が降った際にテムレスの下に仕込むために持ってきていたが、もはや降りそうにも無い。軍手は適度に厚みがあるので、クッション代わりに使う作戦に出たのだった。
15:56、PCを出発。相変わらず日差しはキツいが、温度を見ると25度程度と決して高くは無い。湿気が無いためか、ダイレクトに日差しが突き刺さる感触があり、日本とは異質な暑さである。
PCを出てから10kmほどの登りで妻に追いつく。二度目の「これはこれはお久しぶり」。一緒に走ろうかと思ったが、割と手の痺れがキツかったので、先行させてもらうことにした。
Fougeres~Villainesまでの区間は、細かい丘ではなく、かなり長めでなだらかな丘の繰り返しとなる。疲れた足でもアウターで登れる程度の斜度が続く。尻も痛いので、立ち漕ぎを多めに混ぜながら登っていく。すると、いくつめかの丘で今度は足裏が痛くなってきた。どこかの箇所が痛くなると、その影響で他の箇所にも負荷が掛かり、今度はその箇所が痛みだす。まずいループに入り始めた。
少しでもそのループを断ち切るため、丘の頂上でストップ。座れそうな段差を見つけて靴を脱いでしばし足裏をマッサージ。すると、妻が目の前を駆け抜けていった。私がストップしていた時間はせいぜい3分ほど。そこまではそれなりのペースで走行していたはずで、妻とは結構距離が離れていると思っていたが……。もしかすると、今になって妻は調子が出てきたのかもしれない。このまま続いてくれればよいのだが。
何度目かの丘を越えた街で、懐かしい店を見つけて足を止めた。前回も立ち寄ってトイレを借りたアイスクリーム屋だ。今回選んだ味は、ココナッツとチョコレート。相変わらず美味しい。
座ってゆっくりアイスを食べていると、妻が通りかかる。
「なにそれ美味しそう!」
やはり妻は5分と離れずに着いてきている。何度か足裏のマッサージのために停止したものの、それを差し引いても良いペースだ。Fougeresからのペースはグロス時速18km/hを超えている。ここに来て、予想外のペース回復だ。妻は登りが苦手なはずだが、PBPのコースで何度もアップダウンを繰り返すうちに、何らかのコツを掴んだのかもしれない。
この調子の良さだと、しばらくマイペースで走ったほうが良いだろう。とりあえず暗くなるまでは別行動で走ることになった。
途中見かけたキリストの像。多くの街にこの手の像は立っているが、何故かここだけ「干」の時になっていたので思わず撮影。キリストが干されている……と、変にツボにハマってしまった。撮影していたら妻に追い抜かれたので、この後はPCまで一緒に走ることに。
次のPC: Villainesの手前には、標高300mほどの(コース中では)高い山がある。確か前回も足裏がかなり痛く、この山は引き足のみで登った。今回はマッサージの効果か、そこまでの痛みは無し。ただ、相変わらず手の痺れは気になる状態であった。
Villainesの街に入った。記憶によれば、復路のこの街はツール・ド・フランスのゴール地点のような盛大な出迎えをしてくれるはず。妻にも「ここの出迎えは凄いよ!」と告げ、PC入り口へのコーナーを曲がった。