PBP2023: 完走のための戦略

この記事は約 9分で読めます。

前の記事
PBP2023: プロローグ 4年に1度だけ開催される特別なブルベ、「PBP(Paris-Brest-Paris)」。 プロローグ 2023年はPBPの開催年です。 コロナ禍を挟みましたが、幸いにも影響を受けること無く予...

前回は認定完走を逃しているということもあり、今回はかなり綿密に走行戦略を練りました。

走行レポートに入る前に、どんな作戦でPBPに臨んだのかを書いていきます。

目次

優先した事項

今回、私達は「時間内に完走する」ことを最優先事項としていました。

その他のこと(観光や写真を撮ることなど)は「やらない」「出来たらする」程度に優先度を下げてています。

完走のための戦略(スタート前)

PBPはスタートに着いた時点である程度の結果は決まっていると思っています。スタートしてからも大切ですが、スタートに着くまでの過ごし方はもっと大切なのです。

今回の第一目標は、「スタートに、普段の国内ブルベの80%の体調で立つ」ことでした。

全体

フランス入り後は、観光は最小限にし、休息を優先することを心がけようと思っていました。

長時間のフライト・時差ボケ・海外の環境(言葉/文化/食べ物)の違いにより、心身はかなりのストレスを受けています。

スタートに立つまでに、これらのストレスを取り除けるだけ取り除いてやることが大切だと考えました。

せっかくの海外、観光したいのは山々ではあるのですが、それらは今回の渡航の主目的ではありません。スリや自転車盗難に遭遇するトラブルも上がりますしね。

「観光より完走」を心のスローガンに、スタート前は休息を最優先にするつもりで渡航しました。

ただし、時差ボケの解消や、現地の雰囲気に体を慣らすためには外に出る(=日光を浴びる)ことも必要なので、観光も最低限はすることにしていました。自転車には乗らず、公共交通機関でパリに行って帰るだけ程度のものです。

旅程面

フランスまではANA直行便を抑えました。ロストバゲージや、乗り継ぎによる自転車の破損を防ぐためです。あと、前回は乗り継ぎで起こされるのが結構ストレスだったこともあります。

また、フランス入りも従来より1日早くしました。

前回はスタート3日前の夕方にフランス入りしましたが、今回は4日前にフランス入りする旅程としました。

少しでも時差ボケを減らし、現地の環境に慣れることが目的です。本当は一週間前から入りたいところですが、そこまでの休暇力は私にはありません……。

早くフランス入りする代わりに、ゴール後は翌日の夜のフライトで帰るちょっと忙しいスケジュールになっています。

食事面

フランス入り後は、なるべくバランスの良い食事を取ることを心がけました。

フランスでは気がつくとパンばかり食べている状況になっており、肉や野菜が不足しがちです。同時に塩分も不足します。

栄養バランスの乱れは、数日後の体調となって帰ってきます。

PBPのリタイヤ理由の多くが「睡魔」「胃腸トラブル」であることを考えると、食べ物に気をつけるのは決して無駄ではないはずです。

スタート日の体調を万全にすべく、フランス入り後から意識して肉と野菜と果物を食べるようにしていました。

created by Rinker
DHC(ディー・エイチ・シー)
¥609 (2024/11/06 08:33:29時点 Amazon調べ-詳細)

どうしても野菜が取れないときは、こちらのサプリメントを飲んで補う予定でした。

睡眠面

よく寝る。これに尽きます。

1日最低7~8時間は寝ることを心がけました。

21時のCDG空港

フランスの空が暗くなるのは遅く、この時期だと22時頃まで薄っすらと明るさが残ります。日本の感覚だと「そろそろ19時かな」が、「そろそろ21時かな」くらいになるわけです。

油断すると夜遅くまで遊び歩いてしまうので、22時には風呂に入って23時前には寝る生活をしていました。

また、スタート当日も1泊分余計にホテルを押さえ、スタート直前まで昼寝をして「寝溜め」しました。

完走のための戦略(スタート後)

スタートしてからの戦略の紹介です。

全体

スタート後は、90時間を目一杯使っての安全勝ちを目指そうと思っていました。

現実的にはもう少し早くゴールすることは十分可能なのですが、それには睡眠不足のリスクが伴います。睡眠不足による落車は一発でそれまでの努力を無駄にするので、何としても避けるべき事態です。

なるべくPC内ではロスタイムを減らし、PC外では効率の良い走りを心がける。

そこで出来たマージンは先に進むために使うのではなく、なるべく睡眠のために使うのが今回の基本戦略でした。

このため、ゴールタイムはどんなに早くても88時間は切らない想定でいました。それだけ余裕があるなら、その分だけ寝ようと思っていたからです。

走行スケジュール

88時間台後半でのゴールを想定して、自作のツールを使ってスケジュールを立てました。

ただし、スケジュールは絶対的なものではなく、あくまで基準と考えていました。

状況の変化によってスケジュールも柔軟に組み替える想定でしたが、そのためにはベースとなる計画が必要です。

作成した計画は印刷してラミネート加工し、いつでも見られる場所に入れておきます。

そのベースとなる計画が以下でした。

スケジュール(baru)

スケジュール(サメハル)

ポイントは以下の通り。

  1. 全PC、クローズ時間に間に合うようにスケジュールを作る。
  2. 夜が4回あるため、各夜で1回ずつまとまった睡眠を取る。
  3. 区間平均時速は右肩下がりで見積もる。

①クローズに間に合うスケジュール

ブルベでは各PCのクローズ時刻に間に合わないと失格になるのが普通なんですが、PBPでは慣例としてゴール時刻が間に合っていれば不問とされていました。

今回も恐らくそうなるのでしょうが、そうならない可能性もあると考えて、クローズ時刻に間に合うようにスケジュールを組み立てました。

今回のPCクローズ時刻計算は従来とはかなり変わっていまして、「往路は約15km/h」「復路は約12km/h」でクローズ時刻が計算されています。

2019年までは、最初は15km/h計算で、徐々に時速が14km/h、13km/h……と落ちていくようになっていました。

下記は、折り返し地点であるブレストのクローズ時刻です。

  • 2019年
    610km / 42時間06分
  • 2023年
    606km / 40時間17分

なんと、クローズ時刻が1時間49分も早まっています。逆に言えば、折り返し後に充てられる時間は1時間49分増えているということでもあるんですが。

このため、「往路は頑張る」「復路はなるべく睡眠を増やしてユルく走る」という作戦に自然となりました。

各大休憩は妻と一緒の場所で取ることとし、起床後はお互いに寝坊をしないように監視をしつつ、次のPCまでは一緒に走る計画でした。

②各夜に1回ずつの睡眠

朝スタートの1200kmブルベの場合、走行中に夜は3回訪れます。

一方、夕方スタートであるPBPの場合、走行中に夜は4回訪れます

人間、夜は眠くなるように出来ているものです。そして、ある程度まとまった長さで睡眠を取らないと、本当の意味で身体は休まりません。短い睡眠を繰り返すと、すぐにまた眠くなって非効率です。

それに、細切れに睡眠を取る場合、1回毎に「入眠までの時間」「起床後のボーッとした時間」が必要になります。のび太くんのように2秒で寝られる人でなければ、一度にまとまった睡眠時間を取ったほうがロスも少ないはず。

ということで、今回は4回(大)+1回(中)の睡眠休憩を取る想定でいました。

  1. VILLAINES-LA-JUHEL (大休憩・202km地点)
    夜スタートで200km走った後に、ヴィレンヌの仮眠所で最初の睡眠を取ります。
  2. Saint-Nicolas-du-Pélem (大休憩・483km地点)
    ルデアックはまだ明るい時間に通過する想定(そして混雑する)ので、その次のサン・ニコラまで行ってから仮眠所で睡眠休憩を取ります。
  3. Brest (中休憩・606km地点)
    往路が終わって制限時間が緩むため、PC内の芝生でクローズ時刻まで寝ます。
  4. Quédillac (大休憩・845km地点)
    混雑するルデアックを避けて、ケディヤックの仮眠所で睡眠休憩を取ります。
  5. Mortagne-au-Perche (大休憩・1101km地点)
    最後の夜は、モルターニュの仮眠所で睡眠休憩を取ります。

実は④については、もう1プランを用意していました。

Tonyさんから情報をもらい、復路のルデアックにホテルを予約していたのです。

今年7月にできたばかりの「ibis budget Loudeac Velodrome」というホテル。ルデアック周辺のホテルはPBPの1年前には大体埋まってしまうんですが、このホテルは出来たばかりということで奇跡的に予約が出来ました。

ダブルルームで、妻も宿泊可能。「ベロドローム」という名前からもわかるように、自転車競技場の観戦客向けの宿であり、自転車もそのまま部屋に持ち込めるのが特徴。更に24時間チェックインが可能というのも嬉しいポイントでした。

ただ、ホテルはルートから片道1.5kmほど離れており、実際に使うかは復路の進捗状況次第。いざという時は利用せずにお金だけ払うつもりでした。

③平均時速は右肩下がりに

人間は疲れるものなので、徐々に平均時速が落ちるように見積もります。

ただし、PBPの場合はグロス15km/hを切ってしまうと途端に厳しくなるので、切らないように調整しています。

前回の私の実績を見ると、以下のことが分かりました。

  • 最初の200kmはグロス22-23km/hは出る
  • 往路の残り400kmは18km/hくらいは出る
  • 復路は17-16km/hくらいまで落ちる

これらの情報を元に、各区間の時速を見積もりました。

食事面

今回は、なるべくPC内での食事を減らそうと考えていました。その分、PCの外での食事を増やす作戦です。

PC内での食事はレストランかカフェで行うわけですが、どちらも待ち時間が発生します。そして、出てくる料理は(申し訳ないけど)あまり口に合いません。

そこで、今回はなるべくPC外での食事を増やす想定でした。

PBPの時期はフランスのバカンスと重なりますが、PBPを応援する意味でわざわざ店を開けてくれる所も多いのです。そういった店舗にお世話になります。

具体的にはマクドナルドやパン屋、ケバブ屋などをリストアップしておき、そういった所で食事を済まします。

もちろんここでも、肉と野菜を含んだ塩気のあるものを食べます。パンだけでは走れませんので。

また、PCのトイレは行列になる上にかなり汚いことが多いので、私には結構なストレス。その点、飲食店のトイレは大抵綺麗で待つこともありません。

睡眠面

「走行スケジュール」の所で書いたように、各夜に1回ずつの大休憩を取り、そこでまとまった睡眠を取る想定でした。

制限時間の緩む復路において予定よりも早くPCに着いた場合は、クローズ時刻まで寝ようとも考えていました。

また、なるべく野外や食堂での睡眠は避けようと思っていました。寒い場所や変な姿勢で寝ると、身体に要らぬストレスが掛かるからです。

ちゃんと屋根があり、横になれる場所で質の高い睡眠を取る。つまり、仮眠所やホテルで寝ることを念頭に置いていました。

これにより、時間あたりの回復効率を高める狙いです。

 

次の記事
PBP2023: フランス入り~観光編 羽田空港から直行便で14時間半。 フランスの玄関口であるシャルル・ド・ゴール空港に到着しました。 8/16(水) フランス1日目 前回のPBPでは安さに釣られてアエロフロー...
記事のシェアはこちらから
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

ロングライド系自転車乗り。昔はキャノンボール等のファストラン中心、最近は主にブルベを走っています。PBPには2015・2019・2023年の3回参加。R5000表彰・R10000表彰を受賞。

趣味は自転車屋巡り・東京大阪TTの歴史研究・携帯ポンプ収集。

【長距離ファストラン履歴】
・大阪→東京: 23時間02分 (548km)
・東京→大阪: 23時間18分 (551km)
・TOT: 67時間38分 (1075km)
・青森→東京: 36時間05分 (724km)

目次