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自転車用電子機器の防水等級について
自転車用の電子機器(ライト・サイコン)の防水等級の読み方の紹介です。
まえがき
先日、ツイッターのトレンドに上がっていた「iPhoneシャワー」という話題に対する反応を見て、この記事を書くことを決めました。
声優の小泉萌香さんという方のこのツイートが「iPhoneシャワー」の元ネタです。
なんでやろ…
iPhoneシャワーで洗ってるからかな…— 小泉萌香◯◇𝒉𝒂𝒓𝕞𝕠𝕖 (@k_moeka_) February 7, 2021
「iPhoneをシャワーで洗ってしまい、浸水してしまった」という話。
なんとなくドジっ子エピソードみたいに捉えている反応が多いのですが、この話は自転車乗りにも関係がある教訓を含んでいるんですよね。
えでもだってほら防水って聞いてたから…
— 小泉萌香◯◇𝒉𝒂𝒓𝕞𝕠𝕖 (@k_moeka_) February 7, 2021
そう、最近のiPhoneは防水なのです。しかし浸水してしまった。
何故かと言えば、iPhoneの防水等級は「IPX7 or IPX8」だからです。
防水等級
一口に「防水」と言っても、その程度は様々。その程度を記号化したものが防水等級です。
防水等級は、電子機器に対して「どのくらいの防水レベルなのか」を表すものです。防水等級は、
IPX○
という風に表記します。○の部分には、0~8までの数字が入ります。
防水等級は、大抵メーカーの製品ページに行けば記載があります。記載がなければその製品は防水ではない……ということかもしれません。
防水等級ごとに定められた保護内容とテスト方法があり、以下のように定められています。
等級 | 内容 | テスト方法 |
IPX0 | 特に保護がされていない | テストなし |
IPX1 | 鉛直から落ちてくる水滴による有害な影響がない(防滴I形) | 0.2mの高さから真下に3~5mm/分の水滴 10分間 |
IPX2 | 鉛直から15度の範囲で落ちてくる水滴による有害な影響がない(防滴II形) | 0.2mの高さから15°の範囲で3~5mm/分の水滴 10分間 |
IPX3 | 鉛直から60度の範囲で落ちてくる水滴による有害な影響がない(防雨形) | 0.2mの高さから60°の範囲で10L/分の放水 10分間 |
IPX4 | あらゆる方向からの飛まつによる有害な影響がない(防沫形) | 0.3~0.5mの高さから全方向に10L/分の放水 10分間 |
IPX5 | あらゆる方向からの噴流水による有害な影響がない(防噴流形) | 3mの距離から全方向に12.5L/分・30kPaの噴流水 3分間 |
IPX6 | あらゆる方向からの強い噴流水による有害な影響がない(耐水形) | 3mの距離から全方向に100L/分・100kPaの噴流水 3分間 |
IPX7 | 一時的に一定水圧の条件に水没しても内部に浸水することがない(防浸形) | 水面下・15cm~1mに沈める 30分間 |
IPX8 | 継続的に水没しても内部に浸水することがない(水中形) | メーカーと使用者間の取り決めによる |
参考: 防水・防塵の等級『IPX』とは? スマホを例に注意事項や保護基準を紹介
これらのテストを行った後に電子機器が正常動作すれば、その機器は晴れて「IPX○」という防水等級をスペック表に書くことが出来るわけです。
各テストがどんな内容なのかは、こちらの動画が分かりやすいと思います。
こうしたテストは認証を取得した機関が行うのが普通ですが、自主検査なのか「IPX6相当」のように書かれている電子機器も多く存在します。
なぜiPhoneは浸水したのか
さて、ここまで防水等級の知識を付けた所で、「iPhoneシャワー」の話に戻ります。
浸水したiPhoneの防水等級は、恐らく「IPX7」です。
IPX7は「水深1mまでの深さの水に沈んでも浸水しない」というもの。シャワーのように、高圧で水が掛けられることは想定されていません。だからiPhoneは浸水してしまったのです。
あくまでもiPhoneは「お風呂で使った時に、あやまって湯船に落としてしまっても助かる」くらいの想定で防水設計をしているんだと思います。シャワーを掛けて洗う人がいれば……今回のようになってしまうわけです。
防水等級は上位互換ではない
さて、ここまで読んだ所でこのように思う方もいるかもしれません。
「IPX7であるなら、IPX6も満たしているはず。
それなら、”噴流水の保護”もされてるんじゃないの?」
これが非常によくある勘違いです。防水等級は数字が大きくても上位互換というわけではないのです。
強いて言うなら「IPX7」=「防水等級 7類」のようなイメージ。あくまで類別を示すもの。数字が大きくても偉いわけではありません。なので、IPX7はIPX6を兼ねないということです。
ただ、テストの方法を見ると、IPX6の製品はIPX5のテストも通るはずですし、IPX4の製品はIPX3のテストも通るはずです。一部の等級は上位互換であるというのも、ややこしさに拍車をかけています。
複数の防水等級を備える場合
では、「水に沈めても大丈夫(IPX7)」「強い噴流水を浴びても大丈夫(IPX6)」を兼ね備えた電子機器はどのように防水等級を表記するのか?
その場合、
IPX6 / IPX7
のように、併記します。
こちらの画像はkakaku.comのスクリーンショットです。
「耐水・防水」列には、「IPX5/IPX7」のように併記されたスマホが最近は増えています。IPX7ならばお風呂で誤って沈めてしまっても助かるはず。そして、IPX5のスマホであれば多少の水流は問題ないはずです。
しかし、iPhoneはというと……
「IPX8」という、水に沈めた場合の保護具合では最強の等級を持っていますが、噴流水に関しての保護は明言されていません。
このことからも、「iPhoneシャワーは浸水する可能性がある」ということが分かります。
自転車系の電子機器
さて、ここからはスマホではなく自転車に取り付ける電子機器に話を移します。
自転車に取り付ける電子機器は色々ありますが、多くの人が取り付けているのは2種類。
「ライト」「サイクルコンピューター」です。
求められる防水等級
ライトやサイクルコンピューターは、自転車に取り付けられた状態で走行します。
ここで雨が降ると時速2~30km/hで雨が吹き付けてくる状況に晒されます。圧力を持った水を掛けられている、つまり「シャワーを掛けられている」のに近い状況になります。
仮に「IPX7」の防水等級しか持たない機器の場合、この状況では浸水する可能性があるということです。「特に動きのない水の中に沈んでいる」よりも「水を常に掛けられている」状況の方がパッキンを突破する確率は高いと私は思います。
以上から、雨天ライドで使う製品ならば、「IPX4」「IPX5」「IPX6」と書かれている製品を選ぶべきでしょう。
これはとある年のサイクルモードの展示を撮影したものです。
防水性能をアピールするために、水槽にライトを沈めて点灯させているわけですが……ここまで読んだ皆様ならば、このデモがあまり意味のないデモであることがご理解頂けるでしょう。
お風呂で使うスマホならまだしも、自転車用ライトをお風呂に落とすシーンはなかなか考えられません。自転車用ライトで防水性をアピールするならば、「水槽に沈める」のではなく、「常にシャワーを掛け続ける」展示のほうが適切なはずです。
代表的なライトの防水等級
ここで代表的なライトの防水等級を確認しておきましょう。
メーカー | 製品名 | 防水等級 |
CATEYE | Volt1700 | IPX4 |
CATEYE | Volt800 | IPX4 |
CATEYE | GVolt70 | IPX4 |
CATEYE | URBAN2 | IPX7 |
LEZYNE | MEGA DRIVE 1800i | IPX7 |
LEZYNE | SUPER DRIVE 1600XXL | IPX7 |
MOON | METEOR STORM DUAL | IPX5 |
MOON | METEOR VORTEX PRO | IPX5 |
OLIGHT | RN1500 | IPX7 |
OLIGHT | RN800 | IPX6 |
OLIGHT | RN400 | IPX7 |
CATEYE
CATEYEは大体のライトがIPX4。
「あらゆる方向からの飛まつによる有害な影響がない」なので、普通の雨天走行なら十分な防水性能を持っていると言えます。ただ、ゲリラ豪雨などの強い雨には不安が残りますね。私は800/1200kmが雨だった「クローバー1200」というブルベでVolt800を使っていましたが、特に浸水による不具合はありませんでした。
URBAN2のみ、何故か「IPX7」。お風呂で使うわけでもないのに、IPX7。沢遊びとかで使うことを意識してるんでしょうか?
LEZYNE
LEZYNEはIPX7ばかり。
先程掲載した水槽にライトを沈めている写真はLEZYNEブースのものでしたが、防水等級に即したデモをやっていたわけですね。
ただ、肝心の雨天走行でどうなるかはこの防水等級からは読み取れません。私も実際に使ったことがないので実際の防水具合は不明。
MOON
充電ライトの老舗であるMOONはIPX5のライトが多くなっています。
「あらゆる方向からの噴流水による有害な影響がない」ということで、ゲリラ豪雨でも安心して使えそうな防水等級であると言えます。実際、パッキンなどがしっかりしていてMOONのライトは安心感があるんですよね。ただ、雨の中ではまだ使ったことがありません。
OLIGHT
最近勢いのあるOLIGHTは、IPX7が多めのLEZYNEと同じパターン。
RN1500もIPX7ですが、雨天走行でも私は問題が起きていません。ただ、スイッチのパッキンが若干弱いという話も聞き、周囲で浸水した人の話は聞きました。
不思議なのは、RN800のみIPX6であること。IPX6って相当キツい条件のはずなんですが、本当にテストをしたんでしょうかね……。
代表的なサイコンの防水等級
次に、代表的なサイクルコンピューターの防水等級です。
メーカー | 製品名 | 防水等級 |
Garmin | Edge1030 | IPX7 |
Garmin | Edge530 | IPX7 |
Garmin | eTrex32x | IPX7 |
Wahoo | ELEMENT BOLT | IPX7 |
Wahoo | ELEMENT ROAM | IPX7 |
LEZYNE | MEGA XL GPS | IPX7 |
LEZYNE | SUPER PRO GPS | IPX7 |
CATEYE | AVVENTURA | IPX7 |
bryton | Rider 750 | IPX7 |
bryton | Rider 860 | IPX7 |
iGPSPORT | iGS520 | IPX7 |
Pioneer | SGX-CA600 | IPX6/IPX8 |
Polar | V650 | IPX7 |
……調べてみて驚きました。パイオニア以外のメーカーは揃いも揃って「IPX7」です。サイコンをお風呂で使うことでも想定してるんですかね?
好意的に考えればグラベルライド中に川なりに落とすケースくらいでしょうか。そんなことよりIPX4かIPX5の防水等級を持たせて雨天走行に対応して欲しいものですが。
ただ、実際に使ってみてどうだったかと言うと、Garminに関してはeTrexシリーズもEdgeシリーズも買って2~3年のうちは浸水は無かったです。それを過ぎるとパッキンが傷むのか、浸水することはありました。Edge500は雨天走行で液晶側からの浸水で寿命を終えました。
心配な方は、こうしたシリコンケースを付けておくと多少はマシになるはずです。
そんな中、存在感を示しているのが今は撤退してしまったパイオニア。なんとIPX6とIPX8を併記。強噴流も、水に落としても大丈夫。最強のヘビーデューティーサイコンですね。
我が家での防水テスト
ここまで読んでもらっても分かるように、割と自転車用の電子機器の防水等級はいい加減です。
かといって、ブルベで走行中に電子機器が壊れたら大変。ならば、事前に自分で確認しておけばよいのです。
ということで、我が家に来た「防水」を名乗る機器たちはこのように「水攻め」テストを受けることになります。ただし、10分間水を掛けるテストをやると水道代が馬鹿にならないので、1分間でテストすることにしています。
雨天走行をする可能性がある方は、そこで使う電子機器の防水性能を事前に確認しておくのも一つの対策です。
……ただ、それで壊れてしまっても責任は持てません。私は何度か買ったばかりのライトを浸水させて壊したことがあります。走行中に壊れるよりは良いんですけどね。
まとめ
勘違いされやすい、防水等級の話でした。
「防水等級は上位互換ではない」「自転車用の電子機器はIPX7よりもIPX4~6を選ぶべき」ということを覚えて帰って頂ければ幸いです。
しかし驚いたのはサイクルコンピューターの防水等級です。揃いも揃ってIPX7。
まさかサイコンの開発部門の人たちも防水等級が上位互換だと勘違いしているんじゃないでしょうね……そうでないのなら、ちゃんと自転車の使用環境に即した防水等級でテストを行ってほしいものです。
著者情報
年齢: 37歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: BIANCHI OLTRE XR4(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)
# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせて頂きました。