この記事は約 9分で読めます。
ビンディングシューズのスタックハイト測定
ビンディングシューズのスタックハイト(靴底の厚み)を測定しました。
測定の経緯

ビンディングシューズのアンケート記事の冒頭にも書いた通り、PBPで足裏の痺れが出たことが本記事の測定の発端です。
試しに、それまで使っていたSHIMANO「XC1(SPD)」から、SHIMANO「RC7(SPD-SL)」へと変更した所、サドルが異様に低く感じられました。ちなみにペダルの厚みはXTR→Duraで0.1mmほどしか変化していません。
以上のことから、「シューズの底が厚くなったのではないか」と推測しました。
この靴底の厚みを、「スタックハイト」と呼んだりもします。ヘッドパーツの厚みや、ペダルの厚みでも出てくる言葉ですが、シューズでも使われます。
我が家には、シューズのスタックハイトを測れる測定器具「キャリパーゲージ」があります。
普通のノギスではクリート部分の厚みを測ることは難しいのですが、これならなんとか測れます。以前、ウインターシューズを買った時にもサドルの高さの調整を余儀なくされたため、その調査用に購入したものです。ちなみに、キャリパーブレーキの語源となった測定器具なので、かなり歴史のあるものです。
スタックハイトの定義は2通りあります。「インソール(中敷き)を外した状態」と、「インソールを付けたままの状態」です。一般的には前者を指すことが多いですが、今回は両方とも計測してみました。
その結果、インソール無しの状態で1.9mm、インソール有りの状態で4.0mmもRC7の方が厚いということが分かりました。1mm以下の差であれば気にならないかもしれませんが、さすがに4mmも違うとサドル高の調整が必要になるレベルです。逆に言えば、XC1は足裏とペダルの距離が非常に近く、衝撃を受けやすかったとも言えます。PBPで足裏が痺れたのはこの点が深く関わっていそうです。
シューズのインソールは、一般に高グレードのシューズほど良いものが入っており、良いものほど厚くなる傾向があります(アーチサポートなどの機能を持たせるため)。
RC7はミドルグレードなので、多少グレードが高くて厚みのある「カップインソール」が入っています。方やXC1はエントリーグレードということもあり、一番ペラペラな「フラットインソール」が入っていたことも、厚みの差が大きくなった要因と言えます。
以上の体験から「シューズのスタックハイトが変化するとサドル高の調整が必要になる」ということが分かったため、家にあるシューズを片っ端から計測してみることにしました。
測定方法
キャリパーゲージを用いて、以下の2種類の長さの測定を行います。
- スタックハイト(インソールを外した状態)
- スタックハイト(インソールを付けた状態)
測定する箇所は、クリート取付部です。
インソールは、シューズに最初から付属してくるものを付けて計測しました。
測定結果
測定結果です。
シマノに関しては、一部のシューズでスタックハイト(インソールを外した状態)を公開しているので、その値を公称値として掲載しています。
ブランド | モデル | タイプ | ソール素材 | 公称 スタックハイト (インソール抜) | 実測 スタックハイト (インソール抜) | 実測 スタックハイト (インソール含) | インソール |
---|---|---|---|---|---|---|---|
SHIMANO | XC9(SH-XC902) | MTB | カーボン | 4.7 | 8.4 | 14.9 | カスタムフィット |
SHIMANO | XC1(SH-XC100) | MTB | ナイロン | 5.9 | 8.4 | 12.4 | フラット |
SHIMANO | RT5(SH-RT500) | MTB | ナイロン | - | 8.4 | 14.2 | カップ |
SHIMANO | RX8(SH-RX800) | MTB | カーボン | - | 11.0 | 16.2 | カスタムフィット |
SHIMANO | MW81(SH-MW81) | MTB | ナイロン | - | 16.0 | 21.5 | 起毛 |
SHIMANO | RC7(SH-RC701) | ROAD | カーボン | 8.8 | 10.3 | 16.4 | カップ |
FLR | F-70 Knit | MTB | ナイロン | - | 11.3 | 15.4 | フラット |
FLR | F-11 Knit | ROAD | ナイロン | - | 9.6 | 14.0 | フラット |
Northwave | CELSIUS XC GTX | MTB | ナイロン | - | 15.2 | 20.5 | 起毛 |
Garneau | HRS-400 | ROAD | カーボン | - | 9.3 | 14.5 | 3Dインソール |
SPECIALIZED | S-WORKS 7 | ROAD | カーボン | - | 8.4 | 14.9 | BGインソール |
考察
測定結果から気がついたことについて考えてみます。家にあるシューズの大半がシマノなので、シマノに関する話が多くなっています。
シマノシューズの「シームレスミッドソール構造」
表を眺めてみると、我が家にある中ではシマノのシューズの一部のスタックハイトがかなり小さいことが分かります。数字的には、スペシャのフラグシップシューズであるS-WORKS 7と同じくらい薄いわけです。
シマノはこれを意識的にやっています。「シームレスミッドソール構造」というもので、2018年頃から導入され始めました。
シマノの「ミッドソールテクノロジー」の解説ページには、以下の画像と説明があります。
シマノのエンジニアと研究チームによる調査の結果、スタックハイト(ソールとペダル軸の距離)を低くすることでペダルストロークが安定し、パワー伝達効率が向上されることが分かりました。スタックハイトを低くすることは、ペダルを踏み込む時に特に重要です。
シマノは、通常のシューズには存在していた「ラスティングボード」というパーツを廃止し、スタックハイトを小さくしています。狙いはペダルストロークの安定とパワー伝達効率の向上だそうです。MTBシューズの説明には「バイクコントロールを向上」させるとも書かれています。
以下に、インソールを外したシューズの写真を示します。
シームレスミッドソール構造の場合はアウトソールがそのままインソールの下まで来ているようなイメージですね。これによって、2~3mmスタックハイトが低くなっています。
当初は上位モデルシューズのみに取り入れられていましたが、現在では入門SPDシューズであるXC100にまでシームレスミッドソール構造が採用されています。
なぜかグラベル用シリーズである「RX」型番の製品だけは未だに従来構造を踏襲しているようでスタックハイトが高めになっています。
シマノとスタックハイトの歴史
シマノがスタックハイトを下げようとしたのは今回が最初ではなく、なんと40年前に一度類似の対策を取ったことがあります。それが「DDペダル」です。
1982年前後のDuraAce(7200~7300)にラインナップされていた製品です。まだこの頃はビンディングペダルは登場しておらず、クリップでシューズを固定していました。
DDペダルには「ペダル踏み面が、ペダル回転軸と同じ高さになっている」という特徴がありました。
当時のシマノは「足裏とペダル回転軸の距離を近づけることで、伝達効率が向上する」という理論でこのペダルを開発し、一部には熱狂的な愛用者もいたようです。そのうちの一人が日本人として初めてジロ・デ・イタリアに出場した市川雅敏さん。市川さんのお店のサイトにはその辺りを熱く語ったページもあります。
私がDDペダルの存在を知ったのは市川さんのお店に行った時で、スタックハイトが低いペダルの良さについて長時間の講義を受けました。
DDペダルは理論としては面白かったと思うのですが、市場にはあまり受け入れられずにわずか3年ほどで姿を消しています。
シームレスミッドソール構造の採用は、40年越しのシマノのリベンジなのかもしれません。
インソールの厚み
もう一つ、スタックハイトを語る上で考慮しなければいけないのはインソールの厚みです。
前述の通り、安価なシューズにはペラペラなインソールが入っており、グレードが上がると厚みがあってアーチサポートのしっかりしたインソールが入るようになります。
シマノの場合、グレードによって大体3種類のインソールに分かれています。
こちらが最も低グレードなシューズに付属する「フラットインソール」。クリート部分の厚みは3mmほど。ペラペラです。
こちらがミドルグレードのシューズに付いてくる「カップインソール」。クリート部分の厚みは5mmほど。少し厚くなりますが、アーチサポートはそこまで強くありません。
こちらがトップグレードのシューズについてくる「カスタムフィットインソール」。クリート部分の厚みは5.5mmほど。土踏まずの部分に交換可能なアーチサポートパーツが付いてきます。
インソールは体重がかかって潰れるので、この状態で計測した厚みがそのまま実使用でも適用されるわけではありません。ただ、ここでも2~3mmの厚みの差が出るので考慮が必要です。
ウインターシューズはスタックハイト激高
今回の測定でぶっちぎりに高いスタックハイトを記録しているのが、ウインターシューズである「MW81」と「CELCIUS XC GTX」です。
他のシューズに比べて7~8mmスタックハイトが高いことが分かります。おそらく、断熱と防水のためにソール自体が分厚くなっていることに加え、これまた断熱のために起毛させたインソールを採用していることが理由ではないかと思います。
ウインターシューズを履く場合、他のシューズを履く場合よりも5mm以上サドルを上げなければならないことがあるので注意が必要です。
まとめ
ビンディングシューズのスタックハイトについて調査しました。
シューズにはスタックハイトという概念があり、それは靴底の厚みとインソールの厚みで変化するということです。当たり前のことを文字列化しただけですが、結構ポジションへの影響が大きいので悩ましいですね。
あまりにもスタックハイトが小さいと足裏へのダメージが増えることも考慮する必要もあります。
私がPBPに履いていったXC1というシューズですが。
スタックハイトが小さい「シームレスミッドソール構造」を採用し、薄い「フラットインソール」を使っているということで、組み合わせの上ではもっとも足裏とペダルが近づくシューズだったことになります。それは足裏も痺れるわけだ……。
XC1は「軽量・安価・歩きやすい」と個人的には好きなシューズなのですが、1000km以上のライドという限られた条件下では問題が出てしまうことが分かりました。
今後は、「靴底の厚いシューズに変える」 or 「厚めのインソールを入れる」で、足裏への衝撃を和らげる方法を考えようと思っています。その場合にはサドルを少し上げなければならないのでポジション調整が沼にハマりそうですが。
手始めに、現在はFLRのニットシューズをテスト中です。
余談ですが、シューズのスタックハイトを測る装置を自作している方を教えて頂きました。
ここまでの情熱は私にはなかったので脱帽です。
「わざわざこんな装置を作っているこの人は何者なんだ?」と思って調べたんですが、フィッティングサービスをやっている方なんですね。確かにそれならばシューズのスタックハイトは重要です。サドル高に関わる数字ですからね。こちらのお店に一度行ってみたくなりました。
著者情報
年齢: 39歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: BIANCHI OLTRE XR4(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)
# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。