ロードバイクにおける設計前提タイヤサイズの変化

この記事は約 22分で読めます。

「ロードバイクのフレームが設計された年代によって、最適なタイヤサイズは変わってきているのではないか」ということを考えてみた記事です。

目次

このテーマに興味を持った理由

先日、エンデュランスロード「GE-110」を購入しました。2023年発売、最新世代と言って良いロードバイクです。

しかし、このフレームをそれまで使っていた26Cタイヤで乗ってみた所、どうにも違和感がありました。

GE-110×26Cタイヤの違和感

GE-110には、それまで乗っていたBianchi「INFINITO CV」のコンポやタイヤをほぼそのまま載せ替えました。

載せ替え後のGE-110

ホイールはSHIMANO「WH-R8170」で、タイヤはVittoria「CORSA N.EXT 26C(クリンチャー)」です。INFINITOで乗っていた時には何の違和感もなかったこの組み合わせ。しかし、GE-110に入れてみると何か違和感がある。

その違和感は言葉にはしにくいのですが、何となく「忙しい」感じ。ハンドルが落ち着かない。特に顕著なのが7%以上の登りで、まっすぐ登りたいのにハンドルが予想より動きすぎてしまって上手く登ることが出来ませんでした。「フレーム特性なのかな?」とその時は思っていたのですが。

GE-110×30Cタイヤの相性の良さ

ある日、何の気無しにホイールを入れ替えてみることにしました。30Cのチューブレスタイヤです。

この時に買ったタイヤですね。MAVIC「KSYRIUM SL」と、Panaracer「AGILEST DURO TLR」の組み合わせ。

GE-110の試乗車に付いていた30Cのチューブレスタイヤの印象が良かったので、載せ替え前のINFINITOに合わせてみたらどうなるのかを実験したのですが……

INFINITO×30Cタイヤの組み合わせは「モッサリしている」「コーナーを曲がらない」という印象で、正直全然良くありませんでした。GE-110ではあんなに良いと感じられた30Cタイヤが、ただの鈍重なタイヤに感じられたのです。結局、すぐに使うのをやめてしまいました。

それから2ヶ月ほど。GE-110が納車になった今、もう一度30CタイヤをGE-110に合わせたらどう感じるのかを確かめてみたくなったのです。

すると、この組み合わせが予想以上に良いと感じられたのです。

狐につままれたような気分でした。ホイールとタイヤの組み合わせは変えておらず、空気圧も同じ。違うのはフレームだけ。フレームが違うだけでタイヤの印象がここまで変わるのか?と。

表に整理すると以下のようになります。

WH-R8170
CORSA N.EXT CL 26C
KSYRIUM SL
AGILEST DURO TLR 30C
Bianchi INFINITO CV・ハンドリングはナチュラル
・登りが軽快、まっすぐ登れる
・ハンドリングがダル
・登りが重い
GHISALLO GE-110・ハンドリングがクイック
・登りでハンドルが不安定
・ハンドリングはナチュラル
・登りが軽快、まっすぐ登れる

同じホイールとタイヤの組み合わせなのに、受ける印象がまるで逆だったということになります。

有識者からのアドバイス

なぜそのように感じたのか? 自分では結論が出なかったので、有識者に話を聞いてみることにしました。行きつけの店であるサイクルキューブの店長に経緯を話した所、帰ってきたのはこんな答えでした。

店長

それは多分、トレールの差じゃないでしょうか?

ばる

トレールの差……ですか?

店長

はい。タイヤサイズが変わると、タイヤの外径が変わります。そうなると、ハンドリングに影響を及ぼすトレールも変化するんですよ。
恐らくですが、INFINITOは26Cタイヤで適切なハンドリングになるように設計されていて、GE-110は30Cタイヤで適切なハンドリングになるように設計されていたんじゃないでしょうか。設計の前提と異なるタイヤを入れたからハンドリングに違和感が出た可能性があります。

この答えが即座に出てくる所が凄い。ChatGPTに聞いてもこんなにピンポイントな回答は出せないでしょう。これぞプロショップのスタッフ。

トレールについては後段で詳しく書いていきますが、ハンドリングに影響を及ぼすジオメトリ上の数値です。そしてタイヤのサイズが変わると、この数値は変化します。つまり、タイヤサイズが変わるとハンドリングに影響を及ぼすということになります。

計算してみた所、26Cタイヤと30Cタイヤでのトレールの変化は約2mm。それだけでこんなに感触に差が出るものなのかと驚きました。

店長によると、グラベルロードの世界ではこの辺りを織り込んだ設計思想のブランドも増えてきているらしく、CerveloのASPEROを例に説明してくれました。

CerveloのASPEROはフォーク先端のエンド金具の向きを前後反転することが可能になっており、これによってトレールを5mm変更することが可能になるとのこと。

ASPEROは700Cホイールと650Bホイールに対応していますが、700Cホイールに適したトレールを持つフレームを650Bのタイヤにそのまま差し替えるとハンドリングがクイックになりすぎるようです。

そこで、エンド金具の向きを前後反転することによって5mmの調整幅を設け、タイヤ外径の違いを吸収するための工夫を施してあるというわけですね。

タイヤサイズのメインストリーム変遷

確かに、この10数年でロードバイクのタイヤのサイズは大きな変化を遂げました。

私がロードバイクを始めた2009年頃と言えば、ロードバイクのタイヤと言えば23Cの時代。恐らく、フレームも23Cタイヤを入れることを前提に設計されていたはずです。

その後、2010年代中盤には「ちょっと太いタイヤ」ブームが起きます。タイヤサイズのメインは23Cから25Cへと移り変わりました。この頃は25Cタイヤで乗ることを前提に設計されていたでしょう。

2020年代になると、ディスクブレーキのロードバイクが登場。それまではブレーキキャリパーの制約で最大28Cまでという縛りがありましたが、ディスクブレーキの登場によりその制約は消滅。32C程度まで履けるフレームが増えました。

恐らく、「ロードバイク等のスポーツ自転車には、設計前提のタイヤサイズがある」はず。そして、現在のロードバイクは「28~30Cのタイヤサイズで乗った時に最適なハンドリングになる」ように設計されているはずです。

この仮説について、ここから考えていきたいと思います。

トレールについて

まずはこの話の中心となるトレールについて説明します。

トレールの定義

ちょうど今月号のサイスポに「ジオメトリTIPS」という特集があり、その中にトレールの説明がありますので、以下に引用します。

ヘッド軸の延長線が地面と交わる点と、前輪中心との水平距離。

「トレールが長いとまっすぐ進もうとする力が働くので、直進安定性が高まります。ロードバイクであれば、トレールは50~60mm程度が多いですね」(BRIDGESTONE・入野氏)

フォークオフセットが増えると直進安定性が高まるような気がするが、実際は逆。オフセットが小さくなるとトレールは大きくなる。よって、他の条件一定とすれば、オフセットを増やせば直進安定性は低下する。

サイクルスポーツ2024年5月号より

文章だけでは何のことだか分からないので図で示します。

トレールの計算

トレールは、実測しなくても三角関数を使った以下の計算式で導出することが出来ます。

φ: タイヤ周長[mm]
α: ヘッド角[rad]
d: フォークオフセット[mm]

トレールをジオメトリ表に書いているブランドはごく一部。大抵のブランドにはそこまで書かれていませんが、上記の3つのパラメータが分かればトレールを導出することが出来ます。

トレールとハンドリング特性の関係

トレールの大小はハンドリング特性に大きく関わっていると言われており、一般に以下の特性があると言われています。

トレールが小さい・ハンドリングがクイックになる。
・直進安定性が下がる。
トレールが大きい・ハンドリングがダルになる。
・直進安定性が上がる。
トレールとハンドリングの傾向

文献やメーカーによって言っていることが違いますが、概ねロードバイクのトレールは「50~60mm」が適切であると言われています。この間が、ハンドリングが重くも軽くもなく、直進安定性のバランスも取れるようで。

車種によっても適切なトレールは異なり、クイックな動きを要求されるレーシング系ロードフレームなら55mm前後が多く、安定して真っ直ぐ走るシーンの多いエンデュランス系ロードは60mm前後が多くなるようです。

タイヤサイズによるハンドリング特性の変化

ここで注目してほしいのは、トレールを算出するパラメータに「タイヤ周長」が含まれることです。

サイクルコンピューターを手掛けるキャットアイのサイトには、「タイヤ周長ガイド」があります。ここを見ると分かりますが、一般に「タイヤサイズが大きくなると、タイヤ周長も増える」ことが分かります。そして、タイヤ周長が増えると、トレールも増えます。トレールが増えると、「ハンドリングがダルになり、直進安定性が上がる」ことになります。「風が吹けば桶屋が儲かる」ではないですが、タイヤサイズの変化が最終的にハンドリングに結びつくわけです。

整理すると、「タイヤサイズが大きくなると、ハンドリングがダルになり、直進安定性が上がる」ということになります。

最適タイヤサイズの時代変化

さて、ここからは時代とともに変わってきたであろうフレーム設計とタイヤサイズの関係について考えていきます。

INFINITOとGE-110の違い

まずはこの話の起点となった、INFINITOとGE-110の特性の違いについて考えてみようと思います。

トレールを導出する

まずは、2つのフレームのトレールを、タイヤサイズ別に算出してみました。

フレームINFINITO CV(53)GE-110(M)
ヘッド角71.572.5
オフセット4345
トレール(23C)66.658.3
トレール(25C)67.058.7
トレール(28C)68.760.3
トレール(30C)69.260.8
トレール(32C)69.761.2

INFINITOの特徴

まず目を引くのが、INFINITOのトレールの大きさ。66~69mmというのは、ロードバイクというよりはグラベルロードの値です。Bianchiの他の車種も見てみましたが、基本的にトレールは大きめで直進安定性重視という傾向があるようでした。

これだけトレールが大きいと「曲がりにくい」といった弊害が起きそうなものですが、26Cタイヤで乗っている時にはそういった感触はありませんでした。恐らく他の部分でバランスを取っているのでしょう。

ただ、そこに30Cのタイヤを入れてしまうと、トレールは69mm。さすがにハンドリングの重ったるさが目立つようになります。それが今回、30CタイヤをINFINITOに入れた時に感じたイマイチさの正体だと思われます。

INFINITOは2019年発売のフレームであり、設計自体はもっと前に行われていたはず。時代的には25Cタイヤ時代の終盤であり、恐らく設計も25Cタイヤを前提としていたと推測します。だから「26Cの印象が良く、30Cの印象が悪い」ということになったのでしょう。

INFINITOは32Cのタイヤまで履くことが可能ですが、ロードバイクとして舗装路で使う場合に適しているのは25Cタイヤと±1サイズ(28C/23C)程度までになりそうです。

GE-110の特徴

GE-110のトレールは58~61mmと、エンデュランスロードにしては標準的な値です。

ただ、26Cタイヤで乗るよりは30Cタイヤで乗ったほうが明らかにバランスが取れていると感じました。

後から気づきましたが、GE-110については、メーカーがTwitter上で設計前提のタイヤサイズを発表しています。

「28~32Cタイヤ外径を装着した想定で設計しております」と、わざわざ「タイヤ外径」と書かれている辺り、トレールとハンドリングを意識している証左と言ってよいでしょう。

2023年に発売されたGE-110は、2021年のETRTO改定以後に設計されています。「ロードバイクに28C以上を履かせる」という思想が一般化して以後の設計なので、こうなっているはず。

恐らくですが、GE-110は30Cタイヤが一番設計者の意図した挙動になり、±1サイズ(32C/28C)は適正範囲内ということなのだと思われます。-2サイズである26Cタイヤは、適正の範囲から外れていたため、「イマイチ」と感じられたのだと納得しました。

GE-110の試乗車に30Cのタイヤが付いていたのも、「このフレームはこのタイヤサイズが一番本領を発揮するから、それを味わってほしい」からなのでしょう。

「とりあえず25Cくらいのタイヤを入れて様子を見る」のは少し前までの定跡でしたが、それも今は通用しないようです。

ハンドリングを重視するブランド

トレールはハンドリングを左右する要素です。フレームサイズが変わっても統一されていることが望ましいですが、それが出来ているブランドはあまり多くありません。

トレールの統一が難しい理由

前述の通り、トレールを決めるパラメータは「ヘッド角」「フォークオフセット」「タイヤ周長」です。

例えばMサイズでトレールが56mmのフレームを設計したとします。Sサイズでも56mmのトレールを保ちたいわけですが、ヘッド角そのままにトップチューブを短くすると、タイヤが足に近づきます。ハンドルを切った時につま先が足に当たる危険性があるため、ヘッド角を少し寝かせて(小さくして)、タイヤを前に移動させてやる必要があります。

ヘッド角を小さくすると、トレールも小さくなるため、フォークオフセットを変えて補正してやる必要があります。しかし、フォークオフセットを変えるにはフォークの金型をもう一つ作る必要があります。こうなるとコストがかさむため、ブランド的にはあまりやりたくない訳です。

多くのブランドはフォークオフセットを1種類か2種類しか用意していません。そうなると、フレームサイズごとにトレールの差が生じることは避けられませんが、そこを妥協しているわけですね。

なお、私の乗っているBianchiもGHISALLOもフォークオフセットはフレームに付き1種類のみです。私はMサイズという、通常基準にされるフレームサイズなので恐らく設計どおりのハンドリングとなるトレールになっているはずですが、極端に小さい・大きいフレームではハンドリングにしわ寄せが行っている可能性はあります。

ハンドリング至上主義のブランド

「コストがかかってもハンドリングは統一する」というブランドも少ないですが存在します。

BRIDGESTONE(ANCHOR)

代表的なブランドがBRIDGESTONE(ANCHOR)です。

フレームサイズ390420450480510540
ヘッド角70.3070.3071.3071.4572.1572.15
オフセット55555047.54545
トレール(25C)61.8261.8260.8962.6060.8960.89
ANCHOR「RL8D」のジオメトリ

エンデュランスロード「RL8D」は6サイズ展開ですが、3種類のフォークオフセットを用意。各サイズのトレールを計算すると(25Cタイヤ周長を設定)、小さい範囲に全て収まっていることが分かります。エンデュランスロードであるためか、60mm前後と少々大きめのトレールではあります。

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名著「自転車道 vol.1」のジオメトリ特集の記事でもインタビュー先のBRIDGESTONEの設計者の方が、ハンドリングを重視して設計していることを明言しています。

Cervelo

昨年はグランツール完全制覇を果たし、名実ともに世界一のロードブランドとなったCervelo。Cerveloもハンドリングを揃えることに心血を注ぐブランドです。

フレームサイズ48515456
ヘッド角71.072.073.073.5
オフセット58524643
トレール(25C)54.3054.4654.6054.67
トレール(28C)56.0056.0756.1256.14
トレール(30C)56.5556.5856.6056.61
Cervelo「S5」のジオメトリ

凄いのは、全サイズでフォークオフセットを変えている点。そして、Cerveloはトレール56mmを理想としているようですが、全サイズでの差を±0.2mmに留めています。凄い。

S5はエアロヒンジのフォークを採用しているので、フレームサイズごとに必ず専用の金型は必要になることも理由でしょうが、それにしても凄いハンドリングへのこだわりです。

なお、通常のフォークを採用するCaledoniaも4種類のフォークオフセットを用意しており、やはりブランドとしてハンドリングの統一にこだわっていることが分かります。こういうブランドが世界一になっているのは良いですね。

その他のブランド

FELT・FACTORといったブランドも、上位モデルにフォークオフセットを3種類以上用意してハンドリングの統一を図っています。

BRIDGESTONEの設計起点はタイヤサイズから

前述の通り、今月のサイスポにはジオメトリ特集が掲載されています。

この特集ではBRIDGESTONEの設計者の方がインタビューに答えているのですが、その中に興味深い一説がありました。

設計するときはどこからスタートしている?

「タイヤです。想定するタイヤサイズが決まれば、レーシーでクイックなのか、ゆったりとしたバイクにしたいのか、車種に合わせてヘッド角とオフセットを調整してハンドリング特性を決めます。タイヤサイズが決まらないと、そこが決まりません。」

サイクルスポーツ 2024年5月号より

少なくともBRIDGESTONEはタイヤサイズ起点で設計をスタートしていることが確認できました。そして、どうやら車種によって前提のタイヤサイズを変えていることも伺えます。レーシングロードはトレールを短めに、エンデュランスロードは長めに……という具合のはず。

あと、GE-110もタイヤサイズを想定して設計していることが確認できています。

サンプル数は2ではありますが、一応「ロードバイクには最適なタイヤサイズが設計段階で決まっている」という仮説の裏付けが取れました。

その他にも、この特集には非常に示唆に富んだ内容が含まれているので、ここまでこの記事を読んだ方はぜひ読んでみてください。

トレールから前提タイヤサイズを逆算する

「**Cのタイヤを前提にフレームを設計しています」のように宣言しているブランドは稀です。私の知る限りは、GE-110くらい。

ただ、トレールをジオメトリ表で公開しているブランドはあるので、そこから「何Cのタイヤを前提に設計しているか(正確にはタイヤ周長が何mmを想定しているか)」を逆算することは可能です。

TREKの場合

TREKは車種ごとに設計前提のタイヤサイズを変えているようです。

2024年モデルのエンデュランスロード・Domaneは32Cタイヤを前提にトレールが計算されています。完成車付属のタイヤも32Cですが、恐らくこのフレームはそのくらいの太さのタイヤが本領を発揮するのでしょう。

一方、レーシングロード・Madoneは28Cタイヤを前提としていました。ただ、完成車付属のタイヤは25Cです。

SPECIALIZEDの場合

同様にトレールをジオメトリで公開しているSPECIALIZEDについても確認します。

エンデュランスロード・Roubaixは32Cタイヤを前提にトレールが算出されていました。TREK同様、太めの前提ですね。完成車にも32Cタイヤが付属します。

一方、レーシングロード・Tarmacは28Cタイヤを前提としてトレールが算出されていましたが、完成車付属のタイヤは26Cとやや細めです。TREKと同じ傾向ですね。

判明したこと

サンプル数は2ですが、やはり「昨今のロードバイクの設計前提タイヤサイズは28~32Cと太め」であることが分かりました。

それに加えて、「エンデュランスロードとレーシングロードでは設計前提のタイヤサイズが異なる」ことも分かりました。

製造年代による前提タイヤサイズの変化

TREKとSPECIALIZEDは、10年以上に渡ってトレールをジオメトリ表に載せ続けている稀有なブランドです。TREKに至っては、2004年から現在に至るまでトレールを掲載。凄い。

……ということは、「設計前提のタイヤサイズの年次変化が分かる」ということになります。これは今回の記事でもっとも確かめたかったことです。

TREKの場合

TREKのレーシングロードであるMadoneについて、5年ごとにジオメトリを確認して設計前提のタイヤサイズを確認しました。

モデルブレーキ年式逆算した前提タイヤサイズ
TREK Madone SLR 7 Gen 7Disc2024700x28C
TREK Madone SLR 7 DISCDisc2019700x25C
TREK Madone 5.2 H2 CompactRim2014700x25C
TREK Madone 5.2 H2 CompactRim2009700x25C
TREK 5200Rim2004700x20C

見事に、年を経るごとに前提タイヤサイズが太くなっていったことが分かります。

ちょっと不思議なのは、2009年段階で25C相当のタイヤ周長でトレールを算出していることです。逆算したタイヤ周長は2109mmとなりましたが、この数値は25Cのタイヤ周長(2105mm)に近似しています。当時の世相はまだまだ23C全盛期だった気はするのですが。

SPECIALIZEDの場合

SPECIALIZEDも2009年以降のロードについてトレールを含んだジオメトリを公開しています。Tarmacについて、設計前提のタイヤサイズを確認しました。

モデルブレーキ年式逆算した前提タイヤサイズ
SPECIALIZED Tarmac SL8Disc2024700x28C
SPECIALIZED Tarmac Pro discDisc2019700x28C
SPECIALIZED Tarmac SL4 ProRim2014700x28C
SPECIALIZED Tarmac ProRim2009700x28C

驚いたことに、計算上では2009年段階から28C相当のタイヤ周長でトレールを算出していました。逆算したタイヤ周長は2132mmで、これは28Cのタイヤ周長(2136mm)に近似しています。シマノのブレーキキャリパーが28Cタイヤに対応したのは2016年のR9100世代からのはずなので、ちょっと意外ではあります。

これについては24Cのスペシャ製チューブラータイヤを持っていたbistaraiさんが周長を実測してくれましたが、2125mmと随分長めではありました。もしかすると、当時のSPECIALIZEDは「幅は23Cだけど、周長は28Cクラス」のチューブラータイヤを作っており、それを基準にしていたのかもしれません。

今でこそクリンチャーやチューブレスがレースの世界でも使われるようになりましたが、つい数年前まではチューブラーが主流でした。かつての設計の基準にはチューブラーの周長を用いていたと考えるほうが自然です。

設計前提のタイヤサイズを公開してほしい

ここまでの話で、分かったことを整理すると以下のようになります。

・ロードバイクには設計前提のタイヤサイズがあり、そのタイヤサイズで想定した性能が出るようになっている。
・ロードバイクの前提タイヤサイズは年々太くなっており、昨今は28~32Cと太めである。
・エンデュランスロードとレーシングロードでは設計前提のタイヤサイズが異なり、エンデュランスロードの方が太いサイズを前提としている。

ディスクブレーキ化したロードバイクが飲み込めるタイヤの太さの上限はどんどん上がり、40Cタイヤまで履けるロードバイクなんてものも出てきています。

25Cまでしか履けないフレームしかなかった当時と比べて選択肢は増えたわけですが、恐らくそのフレームにとっての(設計者の考える)ベストなタイヤサイズは1つしかなく、そこから大きく外れると変な走りになる可能性があります。

この表は「前提タイヤサイズ」と「取付タイヤサイズ」の相性を表したイメージ図です。私が適当にでっち上げたものなので合っている保証は全く無いですが、たぶんこうなるだろうとは思っています。

設計者が意図したハンドリングで走ろうと考えると「フレームの前提タイヤサイズ」を知る必要があるのですが、現状それを公開しているブランドは多くありません。どのタイヤサイズが適正なのか、現状はユーザー側が知る術がないのです。一応、完成車の履いているタイヤサイズを見れば大体分かりますが、前述の通りズレているブランドもあります。

フレームを販売しているブランド側には、「このような前提タイヤサイズで設計しています」という情報を公開するようになっていってほしいですね。

とはいえ、前提タイヤサイズはあくまで「シェフのオススメの食べ方」みたいなもので、絶対の正解というわけではなく目安です。とはいえ、それを大きく外すと不自然になることも避けられない。そうなると、ユーザー側はまずはオススメを試してみて、違和感があるならタイヤサイズを±1の範囲で変えてみる……というのが良いんじゃないかと思います。

タイヤメーカーに目をやると、新ETRTOの制定以降は設計基準のリム内幅を明らかにすることが当たり前になりつつあります。「この組み合わせを基準に作っているよ」とタイヤメーカーがちゃんと公開するようになったわけですね。フレームメーカー側もそうするのが普通になってほしいものです。

まとめ

トレールを中心に、フレームが前提とするタイヤサイズの年次変化について述べました。

私は23C全盛の時代にロードバイクを始め、その後は25C全盛の時代を長く過ごしました。当時も28Cタイヤや30Cタイヤを試してはいましたが、走りが重くなってしまってすぐに使うのを辞めてしまった記憶があります。今考えると、これは単に重量が重かったことに加えて、「フレームの前提タイヤサイズより大幅に太かった」ことが原因ではないかと思います。

しかし、そのフレームの前提タイヤサイズがここ数年で28~30Cにシフトしてきたわけです。昨今のフレームに25Cタイヤを付けてしまうと、前提タイヤサイズに対して細すぎて挙動が不自然になる……というのが今回の事案でした。

少し前にこんな記事を書きました。アンケート結果を見ても、実際に28Cタイヤを使用する人の割合が増えています。メーカーが完成車に28C以上のタイヤを付けるようになったこともあるでしょうが、ユーザー側も最近のフレームと28C以上のタイヤの相性を感じ取っていたのかもしれません。

もし、ここ数年(2022年以降)くらいのフレームを買って、それまでの習慣で25C以下のタイヤで乗っている方がいたら、28~30Cタイヤでも乗ってみてください。少し違う世界が見えるかもしれません。


これはハンドル周りのマウント選びの時に良く言うことなんですが、「付けられる」と「付けて問題がないか」は全く別の話です。同様のことが、フレームとタイヤにも言うことができそうです。

例えば最近のディスクロードにも当然23Cタイヤは「付けられる」んですが、多分付けた時の走りは不自然になるはずです。それは、最近のディスクロードの設計は、28~30Cというちょっと太いタイヤに最適化されているから。逆に36C等のかなり太いタイヤが入ったとしても、ハンドリングがおかしくなる可能性があるということです。

こういった事態を防ぐには、フレームの設計前提となったタイヤサイズを使うことが大事であると感じました。そのためには、フレームメーカー側が「○Cのタイヤを前提に設計しています」という情報を公開することが必要です。

とりあえず、GE-110のタイヤは「AGILEST 28C クリンチャー」へと変更しましたが、随分とハンドリングが自然になりました。やはりこのフレームには26Cタイヤは細すぎたようです。でも、30Cタイヤのほうがより相応しいはずなので、今後そちらに変更する可能性もあります。

追記

この記事を読んだ方がトレールに関するものとして貼ってくれた記事が興味深かったのでリンクしておきます。

ケルビムのビルダー、今野さんの記事です。フレームビルダーの方はこのあたりの数値についてかなり考えているはずですが、その一端が読み取れます。中でも、下記の部分で目が止まりました。

現実的な所で言えば、25Cから23Cに変更しただけでフィーリングはかなり軽くなる。タイヤ幅だけの性能差ではなくトレール自体が変わっている。
最近主流の25〜28Cのタイヤではトレール値は増える傾向にあるので覚えておいて欲しい。
タイヤ幅の変更ではトレール値の差も出てくる、実は23Cと25Cでは異なる設計が必要とされるのだ。
僅かだがライダーは確実にその差を感じている。

今野真一「自転車を操る正体?」より

この記事で色々検証したことが既に言及されていました。

著者情報

年齢: 39歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: GHISALLO GE-110(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)

# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。

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この記事を書いた人

ロングライド系自転車乗り。昔はキャノンボール等のファストラン中心、最近は主にブルベを走っています。PBPには2015・2019・2023年の3回参加。R5000表彰・R10000表彰を受賞。

趣味は自転車屋巡り・東京大阪TTの歴史研究・携帯ポンプ収集。

【長距離ファストラン履歴】
・大阪→東京: 23時間02分 (548km)
・東京→大阪: 23時間18分 (551km)
・TOT: 67時間38分 (1075km)
・青森→東京: 36時間05分 (724km)

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