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TPUチューブの特徴と現状
最近、使う人が増えているTPUチューブについて、現状の良い点や注意すべき点を紹介しています。
はじめに
この記事を書いた理由と、この記事の概要についてまずは書いていきます。
この記事を書いた理由
現在、TPUチューブはロードバイク乗りの間で一般化しつつあります。
5年ほど前はキワモノ扱いで一部の好事家が手を出すものでしたが、現在では10以上のブランドがTPUチューブを販売。最初は高価格がネックだったものの、最近ではブチルチューブ同等の価格の製品も出てきています。
確かに製品としては一般化しましたが、TPUチューブはやっぱりクセのある製品であることには変わりがありません。知らないと思わぬトラブルに見舞われることがあります。
とりあえずtubolitoを付けて90kmほど乗ってみた。
・ホイール: Racing3 c17
・タイヤ: パナD evo4 25c
・空気圧: 前後7気圧 pic.twitter.com/LCujdSB3jo— ばる (@barubaru24) May 18, 2019
私(baru)は、2019年5月からTPUチューブを使い始めました。Tubolitoの日本上陸が2018年なので、使い始めたのはかなり早い方だったはずです。
それからの5年間でほぼメインのチューブといって良いほどにTPUチューブを使ってきましたが、色々な失敗もしてきました。そういった事例を紹介し、TPUチューブのクセと安全な取り扱い方について紹介できればと思ってこの記事を書くことにしました。
この記事の構成
本記事では、クリンチャータイヤで一般的に多く使われているブチルチューブと比較する形でTPUチューブの特徴を紹介します。
比較の観点は大きく4つに分けました。
- 販売面
- スペック面
- 性能面
- 運用面
それぞれの観点について、ブチルチューブと詳しく比較していきます。
販売面
まずは販売面でのブチルチューブとの違い・注意点についてです。
数年前までは数えるほどしか無かったTPUチューブのブランドですが、現在は10以上のブランドから販売されています。価格帯も様々です。
ブランド
5年くらい前は、国内で手に入るTPUチューブは「Tubolito」一択だったと思います。
それから数年でTPUチューブをラインナップするブランドは爆発的に増えました。現在国内で手に入るブランドは以下の記事をご参照ください。
この他にも、AmazonやAliexpressでは、いわゆる「中華ブランド」の格安TPUチューブが手に入ります。
価格帯
前述の通り、5年ほど前のTPUチューブと言えばTubolito一択でした。
Tubolitoは1本4000円以上とかなり高価です。ブチルチューブの相場が1本1000~1500円程度なので、2-3倍の価格帯ということになります。
その後、安価なTPUチューブも出てきました。1本1000~1500円程度と、ブチルチューブとほぼ同じ価格帯のブランドもあります。
この記事を執筆した時点では、4000円以上の高価格帯の製品と、2000円未満の低価格帯の製品に2極化しています。2000~3000円台の製品はあまり多くありません。
個人的には価格差なりの性能差はあると考えています。理由は後述。
スペック面
スペック面でのブチルチューブとの違い・注意点についてです。
一番の特徴はその軽さです。注意が必要なのは、多くのTPUチューブで採用されている樹脂バルブはそれなりに扱いが難しいという点です。
重量
TPUチューブは、ブチルチューブに比べると大幅に軽いことが最大の特徴です。
TPUチューブには、大抵のブランドで厚みが普通(0.3-0.4mm)の「標準モデル」と、厚みが薄い(0.15-0.2mm)「軽量モデル」が用意されています。かなり厚い「高耐久モデル」もありますが、出しているブランドはバルビエリしかありません。
ブチルチューブとの差を比較してみます。いずれもロード用(700-25~28C)のチューブの場合とお考えください。
チューブ素材 | 標準モデル | 軽量モデル |
ブチル | 80-120g程度 (厚み: 0.6-0.9mm) |
50-80g程度 (厚み: 0.45-0.6mm) |
TPU | 30-40g程度 (厚み: 0.3-0.4mm) |
20-30g程度 (厚み: 0.15-0.3mm) |
「標準モデルのブチルチューブ」→「標準モデルのTPUチューブ」に乗り換えた場合、チューブの重量は1/2~1/3程度になります。前後2本分で100g以上の削減となることもあるので、軽量化には非常に有効であると言えます。
チューブ素材
TPUチューブのチューブ部分の素材は「Thermoplastic PolyUrethane」の略です。
日本語でいうと「熱可塑性ポリウレタン」。名前の通り、熱で変形するポリウレタンということになります。
ディスクブレーキであればチューブの近くで熱が発生しないので問題ありませんが、リムブレーキの場合はブレーキ面とチューブが近く、熱でチューブ本体が溶けて破損する可能性はあります。
TPUは、グリップ類・スマホケース・シューズのアッパーなど、我々の身の回りで良く使われています。特別な素材というわけではありません(メーカーごとに多少の配合の違いはあるでしょうが)。
バルブ素材
TPUチューブのバルブは、基本的に樹脂製です。
「なぜ金属製にしないのか?」については明確なソースが見つかりませんでしたが、一般に「金属とTPUの接着が難しいため」と言われています。
一部のブランド(ECLIPSEやCYCLAMI)は金属製バルブを採用しており、こうした課題を解決しているようです。
バルブの途中までを樹脂とし、途中から金属になっているTPUチューブも存在します。
バルブコア
TPUチューブでも、バルブコアは通常のブチルチューブと同じく金属製のものが使われます。
ただし、樹脂バルブの場合はネジを切っても完全に気密をすることが難しいためなのか、バルブコアが接着剤で固定されていることが多いです。
金属バルブであればバルブコアが外せますが、樹脂バルブはバルブコアを外すことができません。このため、バルブエクステンダーは使用不可です。ディープリムに取り付ける際には、あらかじめバルブの長いモデルを買う必要があります。
例外的に、Revoloopは樹脂バルブながらバルブコアが外せます。
バルブの太さ
金属バルブであれば特に注意点はありませんが、樹脂バルブの場合には径が太いケースが多いので購入時には気をつける必要があります。特に2000円以下の格安チューブは太いケースが(今のところ)多いです。
バルブが太いと、リムのバルブ穴を通らないことも。そうなるとホイールへの取り付けができないことになります。パンク時の予備として持っていたTPUチューブが太すぎるバルブだった場合、その場で立ち尽くすことになるでしょう。
樹脂バルブのTPUチューブを購入したら、必ず径をノギス等で計測するか、自分の持っているリムに通るかを確認したほうが良いです。径が6.2mmを超えているケースではリムのバルブ穴を通らない可能性が高いはず。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
対応するブレーキシステム
前述の通り、TPUは熱で変形する素材です。
このため、リムブレーキでの使用は禁止(または推奨されない)製品もあります。
「アルミリムならOKだがカーボンリムはNG」や、同じブランドのチューブでも「標準モデルならリムブレーキで使ってもよいが軽量モデルは禁止」みたいな少しややこしいケースもあります。
使用前に説明書をよく読みましょう。
ヒルクライム大会では注意が必要
「リムブレーキ+カーボンリム」の組み合わせでTPUチューブを使う場合は特に注意してください。
その軽量さから「ヒルクライム決戦用」として使おうという方も多いはずですが、ヒルクライム大会でありがちな「集団下山」においてリムブレーキのリムは恐ろしく熱を持ちます。多分、大抵のTPUチューブはその熱に耐えられません。集団下山があるならば、トランポサービスを使って下山用ホイールを用意したほうが良いです。
対応するタイヤの太さ
TPUチューブは、ブチルチューブに比べると対応するタイヤの太さ範囲が少し広めであることが多いです。
ブチルチューブの場合、18-25Cくらいまでの範囲であることが多いです。TPUチューブの場合、18-32Cや23-32Cの範囲が指定されており、若干ですがブチルチューブよりも対応範囲が広く設定されていることが多くなっています。
ただ、こちらも製品によってまちまちなので、説明書を読んで範囲内で使うようにしてください。
性能面
性能面でのブチルチューブとの違い・注意点についてです。
軽さに起因する漕ぎ出しの軽さ・転がり抵抗の低さがメリット。空気圧の下がり具合はブチルと同等です。乗り心地は同じ空気圧であればブチル比で硬くなる傾向があります。
転がり抵抗
「重量」の項目でサラッと書きましたが、TPUチューブはかなり薄く作られています。
- ブチルチューブ(標準モデル)
厚み: 0.6-0.9mm- TPUチューブ(標準モデル)
厚み: 0.3-0.4mm
何故こんなに薄く出来るかというと、同じ厚みの場合にTPUの方がゴムに比べてガスバリア性が高いからだそうです。
転がり抵抗は、タイヤとチューブの変形量が大きいほど大きくなります。薄いぶんだけ変形する素材の量が少ないTPUチューブは転がり抵抗も小さいはずです。
実際、テストしてみると大抵のTPUチューブはブチルチューブよりも転がり抵抗が減っているようです。しかし、転がり抵抗の低さではすべてのTPUチューブの上を行くラテックスチューブ。転がり抵抗だけ見たらラテックスチューブを選ぶのが正解のようです。
漕ぎ出し
重量がブチルチューブの半分以下になり、ホイールの外周部が軽くなるので漕ぎ出しはかなり軽くなります。実感できるレベルで変わると思います。
常に加速を続けるのに等しいヒルクライムでも有効性は高いと思います。
乗り心地
TPUチューブの乗り心地について、世間的には以下のように語られることが多いです。
- TPUチューブとブチルチューブを同じ空気圧で乗ったら、TPUチューブの方が硬く感じる(衝撃や振動が増える)。
- なので、TPUチューブを使う際には、ブチルチューブよりも少し気圧を下げて乗ると良い。
(Revoloopの説明書には、ブチルよりも0.1-0.3気圧を下げることを推奨している)
私はTPUの軽量モデルは買ったことがなく、標準モデルのみしか使ったことがありませんが、概ね上記には同意です。総じて、ブチルチューブよりも硬質というか。
付け加えるならば、高圧にした際にブチルよりも跳ねやすい印象があります。伸び縮みの度合いが少ない素材であるため、そう感じるのかもしれないと考えています。
空気圧の下がり具合
Revoloop(標準モデル)で一度実験しましたが、24時間で0.2気圧程度低下します。これは、ブチルチューブと大差ありません。前述の通り、薄いながらにガスバリア性は高いということのようです。
ラテックスチューブは24時間で1気圧近く落ちてしまいますが、それに比べると空気の継ぎ足し頻度は少なくて済みます。
何kmくらい使えるのか
これは何とも言えません。チューブの寿命はイマイチ判断しにくいので。
個人的な実績を書いておくと、Revoloop(標準モデル)は別のチューブを使うために1年ほど使って外しました。その間の走行距離は8000kmくらいでしたが、特に問題は起きていません。
運用面
運用面でのブチルチューブとの違い・注意点についてです。
こと運用に関しては、ブチルチューブと比べて面倒な点が多いです。このあたりのクセを知った上で使う必要があります。
良い点は、軽量かつ体積が小さいので持ち運びがしやすい所と、突き刺しパンクには比較的強い点です。
取り付け時の注意点
TPUチューブはかなり薄いため、取り付け時にタイヤとリムの間にチューブを挟みやすく、取り付け時の噛み込みによるパンクリスクが高くなります。
ブチルチューブでもやっている人は多いと思いますが、多少空気を入れて筒状の形を保ったまま取り付けを行うと噛み込みのリスクが減ります。
ECLIPSEのTPUチューブには、「取り付け前に0.5気圧以下で空気を入れるように」との注意書きがあります。
ただし、TPUチューブの多くは注意書きに「タイヤ装着前に0.5気圧以上は入れないこと」と書かれています。これは、破裂したり局所的に伸びてしまう可能性があるからです。
私は0.2気圧程度まで空気を入れた状態でタイヤに取り付けを行っています。
一度膨らますと縮まない
ブチルチューブと異なり、TPUチューブは一度膨らますと縮みません。伸びたままです。
このため、28Cタイヤに一度取り付けたTPUチューブを、25Cタイヤに取り付けるということは出来ません。28Cのタイヤに合わせて伸びてしまっているので、25Cのタイヤには入り切らないのです。
また、25Cタイヤに取り付けたTPUチューブを、再度25Cタイヤに取り付けるのも難易度が高いです。最初に付けた時よりも伸びてしまっているので、噛み込みのリスクが上がるのです。
こちらはTubolitoの取付前と、25Cタイヤに一度付けて取り外した後の比較写真です。7-8mmほど幅が増えています。これだけ伸びると、再度タイヤに収めることは困難。
極端なことを言えば、「TPUチューブは一度タイヤから取り出したらもう使えない」くらいに考えておいたほうが良いです。後述しますが、パンク修理も現実的ではありません。
突き刺しパンクには強い
TPUチューブは、突き刺し方向のパンクには強いようです。試したことはありませんが。
Tubolitoの製品説明には「通常のラバー製インナーチューブと比較して約2倍の耐突き刺し強度/耐パンク性を実現しています」と謳われています。一部サイトでは「12倍」と書かれていることがありますが、2倍の誤植だと思われます。
Mageneの説明ページにも以下の記載があります。
実施した耐パンクテストでは、ブチルゴムの耐パンク性能は800N/mmですが、TPUの耐パンク性能は1200N/mmです。
これだと1.5倍強いということになりますね。
リム打ちパンクしやすい?
この項目に関してはあまり世間一般に言われている話ではなく、私の感想です。
リム打ちパンクというのは、段差などに乗り上げた際にビードフックと地面の間にチューブが挟まれてチューブに穴が開く現象を指します(参考: 自転車のリム打ちパンクに注意)。ビードフックの両端の2箇所がチューブにめりこむので2か所の穴が開くことが特徴で、その蛇に噛まれたような見た目から「スネークバイト」と呼ばれたりします。
私はロードバイクに乗り始めてからブチルチューブでリム打ちパンクは経験がなかったんですが、TPUチューブでは既に2度経験しています。
偶然が重なったのかもしれませんが、TPUチューブで段差を超える際には一層注意をするようになりました(段差は避ける・抜重をしっかりする等)。
熱に弱い
何度も書いていますが、TPUチューブは熱に弱いです。
ディスクブレーキであれば特に気にする必要はありませんが、チューブのすぐ近くのブレーキ面が摩擦熱を持つリムブレーキの場合は温度上昇に注意する必要があります。
Mageneの国内代理店を務めるグロータックのサイトには、TPUチューブの熱に関する実験のデータが掲載されています。
【試験条件】
・カーボンリムを使用して、ブレーキを掛けながら12.5km/hで回転させる
・ブレーキ面の温度が240℃になるまで監視し、この温度で10秒間保持する
・その後ブレーキを解除し、リムの温度が60℃以下になったら、再度ブレーキをかけ、同様のテストを合計3回行う
・その後24時間放置し、空気を入れて気密性をテストする【試験結果】
・EXAR TPUチューブは、本テストをクリアした
・競合の他社製TPUチューブは、本テストをクリアできなかった
この実験はリムブレーキで行われていますが、多くのTPUチューブはこのテストをクリアできなかったとされています。特にカーボンリムはアルミリムより放熱が遅いため、高温の時間が長く続くことになります。熱に弱いTPUチューブにはかなり悪い条件と言えるでしょう。
また、チューブ自体が溶けなくても、チューブとバルブを接着している接着剤が溶けてしまうケースもあります。
先日、私が箱根を走りに行った時の話です。その日はリムブレーキ車に乗っており、カーボンリムでRevoloopのTPUチューブを使っていました。Revoloopは(推奨はしないが)カーボンリムのリムブレーキでも使用出来るとされています。
しかし、箱根旧道を下りきった所で前輪がスローパンクしてしまいました。
先日の箱根旧道下りでパンクしたレボループを確認したところ、チューブ本体に穴は無し。バルブの付け根の接着部分が剥がれて空気が漏れてました。なるほど、リムが熱を持つとここの接着剤が剥がれるのは納得。 pic.twitter.com/nlrUkpGs8k
— ばる (@barubaru24) January 4, 2024
帰ってきてから確認してみた所、バルブの付け根の接着部分が剥がれて空気が漏れていることが分かりました。ここはリムと接する部分なので、接着剤が溶けてしまうのも納得できます。
ブチルチューブにはない「継ぎ目」がある
TPUチューブは製造上の理由から、必ず「継ぎ目」が存在します。
ここだけは二重になるため、膨らみ方に偏りが生じます。乗った状態でこの部分での振動を感じるようなことはありませんが、この位置がパンクする例も多いようです。私も一度ここがパンクしました。
対応するポンプやリムが限定される
TPUチューブは、2つの理由によって対応するポンプやリムが限定されます。
樹脂バルブの太さによるもの
バルブの太さやリムの穴にも「規格」というものがあります。日本ではJIS規格で定められていますが、現在世に出回っているTPUチューブには規格の上限をオーバーする太さのものが数多く存在しています。
金属バルブであればまず心配はありませんが、樹脂バルブの場合は太い物が多いので要注意です。
「リムのバルブホールに通らない」という話は既に書きましたが、「ポンプヘッドに通らない」というケースも出てきます。ポンプの穴の大きさも規格を参考にしているはずですからね。実際、一部のTPUチューブのバルブはHIRAMEのポンプヘッドで空気を入れることが出来ませんでした。
お手持ちの携帯ポンプでちゃんと空気が入れられるかどうかも確認しておいたほうが良いと思います。出先でパンクした時にリムのバルブホールは通っても、携帯ポンプのポンプヘッドに通らずに空気が入れられない……というケースでも詰んでしまいますので。
実際、太い樹脂バルブに携帯ポンプで空気が入れられるかを試してみましたが、TOPEAKの携帯ポンプのヘッドには通らないケースがありました。
熱への弱さによるもの
最近にわかに流行り始めている電動携帯ポンプですが、TPUチューブには(そのままでは)使うことが出来ません。
電動携帯ポンプの本体は相当の熱を持ちます。チューブに直接取り付けて使う場合、その熱がバルブやチューブ本体に及び、変形したり破損する可能性があります。
延長ホースを使えば熱が直接伝わらないので、樹脂バルブのTPUチューブでも電動携帯ポンプを使うことは可能です。
空気の通りにくい個体がある
時折ですが、安価なTPUチューブの中には上手く空気が入らない個体があります。不良個体だと思われますが、樹脂バルブの製法を考えるとそれなりに高い確率で起こる不良である気がしています。
これまで書いてきたように、TPUチューブ(中でも2000円以下の安価なもの)は、樹脂バルブが太いものが多いです。ただ、バルブ全体が均一に太いわけではなく、バルブコアを差し込んだ部分が膨らんだ結果太くなっています。
この写真でも膨らんでいることがお分かりになると思います。
差し込まれたバルブ筒が膨らんでいるということは、差し込んだバルブコア側にも外から潰すような力が掛かることになります。この力によってバルブコアに不具合が生じ、空気が通りにくい個体が発生するわけです。
実際、私が手にした1650円のTPUチューブはポンプで空気を入れる時に抵抗感があり、空気を抜く時もかなり遅かったです。全数検査をしていれば見つけられる不具合だとは思いますが、そうでなければそれなりの頻度で発生しうる不具合だと思われます。
バルブコアが交換できるタイプなら良いのですが、バルブ筒が膨らむような構造のものは接着剤でバルブコアが固定されていることがほとんどです。つまり、対応は不可能ということになります。
体積が小さく持ち運びしやすい
運用面で唯一の「良い話」が、サイズが小さくて持ち運びに便利という点です。
左がEclipseのTPUチューブ(35g)、右がSchwalbeのノーマルブチルチューブ(107g)です。体積の差は歴然ですね。
TPUチューブはこれだけコンパクトなので、ツール缶に入れておく予備チューブに適任です。しかし、前述の通り「バルブが太くてリムを通らない」というケースがあり得るので、予備チューブにするTPUチューブのバルブがリムを通るかは確認しておいたほうが良いでしょう。
また、ツール缶に入れた際の劣化(加水分解等)についてはまだデータが出揃っていない気がします。念のため、ビニール袋などに入れて養生したほうが良いでしょう。
パンク修理
TPUチューブは、専用のパッチを使用することでパンク修理をすることが可能です。
……が、あくまで一時的な修理であり、ゴムのりによるブチルチューブの補修のように恒久的な効果は得られないと思ったほうが良いです。
一度、Revoloopをパッチで修理してみたのですが、10日後に空気が抜けてしまいました。
これが取り出したチューブです。粘菌のような模様が出現していてびっくりしましたが、接着剤の隙間から空気が抜けようとした結果出現した模様のようですね。最終的にパッチの端に辿り着いて空気が抜けてしまいました。ブチルチューブと違ってパッチとチューブが同化するわけではないので、いつかは空気が抜けてしまうようです。
あくまでパッチによる修理は応急処置と考えたほうが良いです。予備チューブがあるなら、迷わずそちらを使いましょう。
ローラー台で静電気?
これもまだ理論的な説明が付いた話ではないのですが、「TPUチューブでローラー台に乗ると静電気が起きやすくなった」という話を周囲で良く聞きます。
合成でないです。
ローラーしててパチパチパチ言うからなんやろ思ったら静電気でした。
TPUなの忘れてた。 pic.twitter.com/DNNRjmzpxg
— サイクルショップカンザキ上新庄店 (@1stbike) January 30, 2024
特に3本ローラーでの発生例が多いようですね。
導体を回転させるとそれはコイルと同じわけで電気が発生するのも分からなくはないのですが……TPUチューブだと発生しやすくなるという理由は良く分かりません。
まとめ
TPUチューブの特徴と注意点の紹介でした。
重量・サイズが小さく、走行抵抗の下がるTPUチューブではありますが、それなりにクセのあるチューブであることがお分かり頂けたのではないかと思います。
特に、樹脂バルブの製品(中でも2000円以下の安価なもの)を使う前には、必ず「バルブ径が自分の環境に合うか」を現物確認してください。
ここで言う「自分の環境」とは、使おうとしている「①リムのバルブホール」「②フロアポンプのヘッド」「③携帯ポンプのヘッド」です。パンク修理用の予備チューブとして持ち運ぶ場合、①と③が通らないと修理が出来ず、そこで詰みます。そんな不本意な形でライドが終わるのは悲しいので、事前確認をおすすめします。
個人的には、TPUチューブのバルブ周りの作りは値段なりの差が出ている気がします。バルブにコストを掛けているブランドを選んだほうが失敗は少ないはずです(価格は上がりますが)。
今の所、値段と性能のバランスが優れていると思うのが、Revoloopの標準モデル「RACE」です。
樹脂バルブですが精緻に削り出されており、先端はかなり細くなっています。バルブコア周辺での問題も起きたことがありません。価格は3000円ほどと、TPUチューブの中では中間層に位置する価格ですが、そのクオリティからすると納得感があります。
樹脂バルブ周りは最近少しずつ改善は進んでいるようです。990円という価格で登場したCYDYのTPUチューブも最初は径が太かったんですが、それを指摘した所たった一ヶ月で細く改善されました。少しずつでも良い方向には向かっている気がします。
特徴を捉え、運用面のクセを把握した上でTPUチューブの乗り味を楽しんでください。走りが軽くなるのは間違いないです。
著者情報
年齢: 39歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: BIANCHI OLTRE XR4(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)
# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。