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ディスクロードにおける互換スルーアクスルの選び方
以下の記事の続きの内容です。
ディスクロードに起こった異音の原因は、フレームに付属していたスルーアクスルでした。
リムブレーキのロードバイクならば、クイックリリースに不具合があれば、代わりのクイックリリースを買ってくれば良いことです。だいたい、どこのメーカーのものを買っても、固定力の差こそあれ、使えないことはないはずです。
しかし、スルーアクスルの場合は、「代わりのスルーアクスル」を探すのがかなり難しいのです。その辺りの話を書いてみます。
クイックリリースとスルーアクスル
リムブレーキのホイールを買うと、大抵はクイックリリースが付属します。クイックリリースはホイールの付属品であるとも言えます。
しかし、ディスクブレーキのホイールを買っても、スルーアクスルは付属しません。なぜなら、スルーアクスルの仕様はフレームによって決まるからです。スルーアクスルはフレームの付属品なんですよね。
だいたいのスルーアクスルの規格は共通しているのですが、細かい部分で違いがあります。たとえ同じメーカーのフレームであっても、モデルごとにスルーアクスルの仕様が違うこともあります。
こんな具合なので、市販のスルーアクスルを買ってきても微妙に不具合が出ることがほとんど。フレームにぴったりなスルーアクスルを探すのは、ガラスの靴の持ち主を探すようなものであると言えましょう。
基本的には、フレームに付属してくる専用のスルーアクスルを使うしか無いのです。
スルーアクスルのパラメータ
まずはスルーアクスルの各種パラメータを説明します。
※ ここでは一般的なネジ切りのスルーアクスルであることを前提に話を進めます。
※ CerveloやMERIDAの採用しているRATなどの特殊なスルーアクスルは対象外です。
ここで示すパラメータの数値が一致していれば、互換品のスルーアクスルでも使うことが出来ます。
なお、こうしたスルーアクスルの太さや長さなどのパラメータは、軸に書かれていることが一般的です。この写真だと「M12×P1.5×120mm」と軸に書かれていますが、
・P1.5: ネジピッチが1.5mm
・120mm: 軸長が120mm
太さ
スルーアクスルの軸の太さです。
ディスクロードの場合は、前後ともに太さが12mmであることが普通です。最初期のディスクロードだと、前のみ15mmだったりすることがありました。少なくとも2017年以降に販売されたフレームならば、グラベルロードも含めて前後12mmで統一されていると思います。
OLD(エンド長)
オーバーロックナット長を「OLD」と略して書きます。つまりはエンド長のことで、ホイールのハブの幅に相当します。
ディスクロードの場合は、前100mm/後142mmであることが普通です。ただ、SHIMANOが12速になった時にこの幅が維持されるかどうかは謎です。もう少し太くなるかもしれません。
軸長
スルーアクスルのネジ頭の部分を除いた軸の長さです。つまり、「OLD+フレームの厚み」にあたる長さとなります。
この軸長が互換性の上では大変厄介なのです。
正しい軸長のスルーアクスルを使うと、上記画像のようになります。では、本来の軸長よりも長いスルーアクスルを使うとどうなるでしょうか?
こうなります。ネジ山の先端が飛び出てしまうわけですね。機能的には問題ないのですが、大変格好悪いです。
逆に、短い場合は格好悪いだけではなく、締結力不足等の問題が出ます。
純正のスルーアクスルの±1mmまでの軸長のスルーアクスルを選べば使用可能であると思われます。
スレッド長
ネジ山が切ってある長さのことです。
スレッド長が純正のスルーアクスルより長い分には問題ありません。しかし、短いとホイールが固定出来ないことになります。
ネジピッチ
ネジ山の間隔のことです。軸長と並んで、これまた厄介なパラメータです。
ネジピッチは大きく以下の3種類が存在しています。
・1.5mm
・1.75mm
フレーム側の受け形状
画像には無いパラメータですが、「フレーム側の受け形状」も無視できないパラメータです。
具体的には、ネジ山の下部の形状なのですが、普通は平らになっています。
しかし、SPECIALIZEDなど一部のメーカーは、ここがテーパー形状(山)になっています。テーパー状のスペーサーを入れて対応することも可能ですが、軸長のズレが発生するので悩ましい所です。
レバー形状
スルーアクスルには、回すためのレバーが付いたタイプと、レバーがなく六角レンチで回すタイプがあります。INFINITO CVのスルーアクスルは、レバー内蔵というちょっと変わったタイプです。
ここはあまりフレームとの相性が問題にはならないことが多いですが、レバーがフレームと干渉することもあるので注意が必要です。
INFINITO CVのスルーアクスル
このように大変パラメータの多いスルーアクスル。素直に純正を使っておくのが一番ラクなのですが、残念ながら現在は「異音が発生する」という問題が起きています。この異音を何とかするために、あえて茨の道を行きます。
INFINITO CVの純正スルーアクスルについて、前の章で上げたパラメータを表に示します。
パラメータ | 前輪 | 後輪 |
太さ | 12mm | 12mm |
OLD(エンド長) | 100mm | 142mm |
軸長 | 120mm | 165mm |
スレッド長 | 13mm | 13mm |
ネジピッチ | 1.5mm | 1.5mm |
フレーム側の受け形状 | 平ら | 平ら |
レバー形状 | レバーあり(内蔵) | レバーあり(内蔵) |
この条件にあうスルーアクスルを探す必要があります。
なお、BIANCHIのディスクロードの場合、基本的にはSHIMANOの「E-Thru」という規格に沿って作られています。「E-Thru互換」と書かれているスルーアクスルであれば、「軸長」以外のパラメータはその時点で合うはずです。ただ、この軸長だけはフレームの厚みが関係してくるので、フレームごとにバラバラな上に、丁度よい長さのスルーアクスルはなかなか見つからないのです。
互換スルーアクスルの入手先
互換スルーアクスルの入手先は色々あります。ここでは3種類を紹介します。
同メーカーの別モデルのスルーアクスルを使う
同じメーカーのフレームであれば、スルーアクスル自体は共通であることが多いものです(もちろん違う場合もあります)。
私の買ったBIANCHI INFINITO CVは、完成車のグレードによって別のスルーアクスルが付属します。
私の買ったアルテグラ完成車に付属するスルーアクスルは、レバーを軸の中に収納できるモデルでした。このレバーが異音の元だったのですが。
一方、105で組まれた完成車には、RWSのようなレバーが付いたスルーアクスルが付属します。フレームは同じはずなので、この105完成車に付いてくるスルーアクスルを購入すれば、ピッタリな上に異音は出なくなるはず!
……しかし、Covid-19の影響もあり、国内にこちらのスルーアクスルの補修部品は無し。入荷予定も未定とのことでした。
こうなると、社外品を購入するしかありません。
社外品のスルーアクスルを使う
現在、色々なメーカーからスルーアクスルが単体で販売されています。例えば、以下のようなものです。
現在、主に互換スルーアクスルを販売しているメーカーは以下のとおりです。
・KCNC
・DAVOS
・Onebyesu
・Brand-X
しかし、闇雲に買えば良いわけではなく、前述のようにパラメータがすべて純正スルーアクスルと同じものを探す必要があります。
海外のスルーアクスル専門サイトを使う
これだけ様々なパラメータがあるスルーアクスル。商売になると踏んだのか海外にはスルーアクスル専門のメーカーがあったりします。有名なのは以下のメーカーです。
The Robert Axle Project
ありとあらゆる種類のスルーアクスルを取り揃えており、必要ならばオーダーメイドもしてくれるスルーアクスル専門サイト。お値段は高め。
「アクスルファインダー」というサービスを使うと、メーカー名やモデル名を選ぶだけで適切なスルーアクスルをサジェストしてくれます。
Shift-Up
スルーアクスル以外の製品も扱っていますが、多種多様なスルーアクスルを揃えているサイト。どれも軽量なのが特徴。
普通、スルーアクスルは黒ばかりですが、赤も選べるのが個人的には嬉しい。
今回選んだスルーアクスル
色々悩みましたが、今回は「Brand-X」というブランドのスルーアクスルを購入しました。
WiggleやCRCで主に扱われているブランドですが、公式サイトが見つかりません。もしかしたら、dhbやlifelineと同様、Wiggleのプライベートブランド? ハンドルやヘッドパーツなど、シンプルで目立たないけれど様々な規格のスモールパーツを出しています。言うなれば、「イギリスにおける東京サンエス」みたいなブランドです。
Onebyesuのスルーアクスルも良さそうだったのですが、リヤの軸長が2mm短く、購入を断念しました。
購入した製品
Brand-Xのスルーアクスルには、レバーなしタイプとレバーありタイプがありますが、今回はレバーなしタイプを購入しました。
レバーありのほうが便利ではあるのですが、パーツ点数が多いとまた異音が起きないとも限りません。今回はシンプルを追求することに。
様々なバリエーションがありますが、その中でフロント用に「Type1」を、リヤ用に「Type2」を購入しました。
パラメータ比較
スルーアクスルのパラメータを純正品と比較してみます。
パラメータ | 前輪 | 後輪 |
太さ | 12mm (純正と同じ) | 12mm (純正と同じ) |
OLD(エンド長) | 100mm (純正と同じ) | 142mm (純正と同じ) |
軸長 | 125mm (純正+5mm) | 166mm (純正+1mm) |
スレッド長 | 17mm (純正+4mm) | 17mm (純正+4mm) |
ネジピッチ | 1.5mm (純正と同じ) | 1.5mm (純正と同じ) |
フレーム側の受け形状 | 平ら (純正と同じ) | 平ら (純正と同じ) |
レバー形状 | レバーなし(M6/六角) | レバーなし(M6六角) |
ほとんどのパラメータは純正と一致、または問題のない範囲に収まっています。
ただ、前輪の軸長だけが「+5mm」と、許容範囲よりかなり長めでした。このままだと、ネジ山の先端が5mmほど飛び出してしまうことになります。これは避けたい。
ワッシャーで補正
ということで、ワッシャーで補正してやることにしました。
過去に様々な規格で悩んだMTBerの方が「ワッシャーで困ったら、モノタロウを探せ」という格言を残しておられたので、早速検索。ちょうど良さそうなワッシャーを見つけました。
内径12mm、外径20mm。これならばピッタリのはず。そして、潰れると嫌なので多少重めでもステンレス製のものを選びました。厚みは2mmを2枚。1mm足りませんが、このくらいなら誤差の範囲のはずです。
互換スルーアクスルを装着
Covid-19の影響で、通常は一週間以内に届くWiggleなのに、16日ほど掛かって荷物が到着しました。
早速、Brand-Xの互換スルーアクスルをINFINITO CVに装着。
互換性
前輪は4mmのワッシャーを入れ、後輪はそのままスルーアクスルを装着。
前後輪ともに、ネジ山・長さ・etc、全く問題なく取り付けることが出来ました。慎重に吟味した甲斐がありました。
走行
さて、肝心の走行。異音はちゃんと消えているか……?
結果、ずっと悩んでいた異音が解消しました! やはり原因はスルーアクスル。
スルーアクスルの締結力に不足があると、ダンシング時にローターとパッドが擦れて異音が出る原因となりますが、これも無し。締結力は十分です。
6mmの六角ビットをツール缶に入れる必要は出来てしまいましたが、レバーが消えたことで25gほどの軽量化にもなりました。多少は空力的にも良くなっているかもしれません。
まとめ
ディスクロードで、互換品のスルーアクスルを購入する場合の注意事項と、実例を紹介しました。
スルーアクスルのディスクロードが本格的に登場して6年あまり。もうすっかりスルーアクスルの規格は統一されたものだとばかり思っていましたが、実はこんなに細かい違いが残っています。今回は異音での交換でしたが、輪行時に紛失したり、破損した場合のことを考えると中々面倒な問題ではあります。
クイックリリースは簡単に差し替えが出来て、軽量化・締結力の向上・ドレスアップなどを行うことが出来ました。スルーアクスルも近い将来、そうなってくれることを願います。
著者情報
年齢: 35歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: QUARK ロードバイク(スチール), GIANT ESCAPE RX(アルミ)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)
# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせて頂きました。