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デンマークの自転車ライトに関するルール
北欧の国・デンマークの自転車ライトに関するルールの話です。
自転車ライトに厳格な国
先日、La routeさんの企画でキャットアイのライト開発者の方々にインタビューをさせて頂く機会がありました(記事は近日公開予定)。
そこで気になったのが「デンマークのライトに関するルール」の話です。
世界で一番厳しいドイツの自転車ライトルール
自転車ライトに関するルールは、各国の道路交通法によって定められています。
当然、各国ともに規制の度合いは違います。その国で自転車ライトを売ろうと思ったら、法律に準拠したライトを用意する必要があります。
現在の自転車ライトは、LED技術の進歩もあって各国の法律に準拠することは難しいことではありません。
しかし、自転車ライトに格段に厳しい規制を敷いている国もあります。その代表格がドイツです。
こちらの記事で詳しく内容を書いていますが、ドイツでは自転車ライトについて「配光」「点滅の禁止」などについて厳格な規定があります。他国で普通に使えるライトであっても、ドイツでは違反となってしまうわけです。
このため、大手ライトメーカーはドイツ向けにだけ特別仕様のライトを製造しているケースが多くなっています。
CATEYEだと、製品名に「G」が付くシリーズがドイツ仕様のライトになっています。
デンマークのルールも厳しい?
そして、CATEYEの方へのインタビューの中で、「ドイツ以外にルールが厳しい国」について聞いてみました。
その時に返ってきたのが「デンマーク」という答えです。
デンマークはドイツの北に位置する北欧の国。そんな厳しいルールがあるとは聞いたことがありませんでした。
なんでも、「ドイツほど厳しくはないけれど配光や点灯時間についての規制がある」とのこと。
インタビューの場ではその話について詳しく聞いている時間がなかったので、家に帰って自分で調べてみることにしました。
今回の記事では、デンマークの自転車ライトに関するルールについて述べていきます。
デンマークの自転車ライトに関するルール
デンマークの自転車ライトに関するルールについて、調べた結果をかいつまんで書いていきます。
日本語の資料は見つからなかったので、現地のサイトをツールで翻訳して調べました。間違いがあったらスミマセン。
参考にしたサイトは、こちらです。詳しい規制が書かれた法律条文はこちらで、ライトに関する規制は第6条です。
ルールの概要
今回紹介するルールは2012年に大統領令として発布されたものです。2012年11月から施行されました。
このルールの変更の背景について、参考にしたサイトでは「dinglende diodelygterが原因の一つ」と書いています。
どんなものか分からなかったので検索してみましたが、どうやらこういう豆電球のようなライトがデンマーク国内で自転車用として流行し、これを問題視した結果として厳しい規制が生まれたようです。
あまりにもグレーゾーンを攻め過ぎると、かえって規制が厳しくなるという分かりやすい例ですね。
罰金
違反した場合、700DKK(デンマーク・クローネ)の罰金となります。
日本円にして、およそ14000円ほどです。
特徴的な規制内容
今回は前照灯に限って、特徴的なルールを列挙します。全てを網羅してはいません。
前照灯の被視認性
前照灯にもかかわらず「被視認性」の話が最初に書かれています。
自転車には、少なくとも 300 メートルの距離から正面からはっきりと見える白色または黄色がかった光を放つ少なくとも 1 つのフロントライトが装備されている必要がある。
「見られる」ことが重要なテールライトにおいては、「XXm離れても見える明るさであること」と規定される事が多いのですが、「見る」ことが第一任務である前照灯について被視認性を定めているのは特徴的です。ただ、事故を防ぐには前照灯の被視認性も大切なので、この規定には納得感があります。
ちなみに、日本の法律では「XXm先の路上の障害物を視認可能であること」という規定はありますが、被視認性に関する規定はありません。
点滅速度
デンマークでは前照灯の点滅が公式に認められていますが、点滅速度についても規定があります。
ヨーロッパの多くの国では夜間のライト点滅が禁じられていることが多く、異例な規定とも言えます。
自転車およびそのトレーラーまたはサイドカーの白色光を発するヘッドランプおよびリアランプは、点滅しても良い。
ただし、点滅速度は1 分間に 120 回以上であること。
1分間に120回なので、1秒に2回は点滅する必要があります。
明るさ・配光
明るさについて、カンデラ単位で明確な規定があります。
前照灯および尾灯の光度は、
-前方および後方からそれぞれ測定して4カンデラ以上
-両側20度の位置で測定して0.4カンデラ以上
-両側80度の位置で測定して0.05カンデラ以上でなければならない。
珍しいのは、「両側80度」の位置での明るさの規定があることです。
正面方向と、数度だけ正面から外れた場所の明るさについてはISOやJISでも規定があります。しかし、80度はかなりワイド。照射範囲の規定だけで言えばドイツ以上ですね。
ただ、ここで指定されている明るさの絶対値はかなり緩いと言えます。
日本のJISでも正面の明るさは800カンデラが要求されます。ドイツの場合は1000カンデラ相当が必要です。
デンマークの法律で定められた4カンデラは相当暗いので、正直これが満たせても「300m離れて見える」を満たせるかは微妙だと思います。
おそらくこの規定の狙いは、レーザーのように照射範囲を絞ったライトを除外することなのでしょう。日本で手に入る自転車ライトの配光ならばおそらく問題は起きないと思います。
最低使用時間
もっともユニークだと感じたのは、最低使用時間の規定があることです。
世界広しと言えども、点灯時間についての規定があるのはデンマークくらいじゃないでしょうか? ドイツですら点灯時間の規定はありません。
電池式ランプの場合、走行中に充電されるランプを除き、使用可能時間は5時間以上であるものとする。
使用可能時間とは、バッテリーの交換または充電が必要になる前に、ライトが少なくとも必要な明るさで輝くことができる時間を指す。
なんと最低5時間。
昨今は自転車ライトの「最大の明るさ」の数値ばかりが大きくなり、点灯時間は軽視されています。点灯時間の長さを求める規定は個人的には歓迎です。
最初は「一番点灯時間が短いモードで5時間以上」という規定だったようですが、さすがに厳しすぎたのか「異なる明るさで点灯できるライトは、少なくとも 1 つのモードが使用可能時間の要件を満たしている必要がある」と言った内容に変更されました。
ライトの設置方法
「ライトを自転車にどう取り付けるか」についての規定があるのもユニークです。
自転車ライト攻略本でも書きましたが、ライトを支える土台となるライトマウントは非常に重要です。それについての規定があるのは素晴らしいですね。
自転車およびそのトレーラー、サイドカーの前照灯・尾灯は、他の交通を眩惑させてはならない。
自転車およびそのトレーラーまたはサイドカーの前照灯および後照灯は、車両の走行中にライトの位置が変わらないように車両に取り付けられ、その中心光がそれぞれ正面および後正面を向くように取り付けられなければならない。
無灯火の道路で使用することを目的としたヘッドランプは、斜め下向きに取り付けられなければならない。
振動等でライトの角度が変わらないことを規定しています。恐らく、前に挙げた「dinglende diodelygter」を規制する目的の文章です。しっかりとしたライトマウントが要求されます。
そして、ライトについては「防眩加工をされているライトは水平に取り付ける」「防眩加工がされていないライトは、斜め下向きに取り付ける」という規定もあります。ライトの取付角度について法律で指定があるのも珍しいです。
ちなみに、日本においては「斜め下向きに取り付けるように説明書に記載をすること」という内容が2021年にJIS規格に追加されました。法律ではなく、あくまで工業規格です。
規制に適合するライト
デンマークの自転車通販サイトで売られている、法律適合ライトの例をあげます。
CATEYE「HL-EL135」
日本でもよく見かける、CATEYEの電池式ライトも、どうやらデンマークの法律には適合しているようです。
このライトは150カンデラしかなく、現在の日本のJIS規格では前照灯には認められない明るさです。
一方、デンマークの法律では4カンデラ以上であれば良いので、明るさの面は余裕でクリアしています。
点滅モードで320時間も使えますし、点滅速度も1分で120回以上あるのでOKということですね。
CATEYE「AMPP500」
CATEYEが最近力を入れている充電式のAMPPシリーズもデンマークの法律に適合しています。
点灯モードでは最長4時間しか使えませんが、点滅モードでは最大60時間使える……ということのようです。
Magicshine「Allty400」
当サイトではおなじみのMagicshineのライトもデンマークの法律には適合しているようです。
点灯では最大で6時間半使えます。点滅でも7時間使えるので、規格は満たせている模様。
まとめ
ユニークなデンマークの自転車ライトに関する規定について紹介しました。
要件を見てみると、確かに色々と注文は多いのですが、その条件は緩いなーという印象です。
夜間の点滅モードでの使用を認めている上に、必要な明るさの水準がかなり低い(4カンデラ)なので、それなりのライトマウントを備えたLEDライトであれば、ほぼ全てのライトが要件を満たせるんじゃないでしょうか。「dinglende diodelygter」を狙い撃ちにした規制のように見えますね。
その割に、左右80度の明るさを求めているあたり、「周囲の人や車が自転車を視認することが出来る(被視認性)」の方を重要視しているのでしょう。乗り手が地面を照らすことは重視していないように見えます。
最低点灯時間を定めた点は評価したいですが、「どれか1つのモードが満たせばOK」という規定に変えてしまったのは残念ですね。「どれか1つ」でOKなら、点滅モードが大体条件(5時間以上)を満たせてしまうので、点灯モードの使用可能時間は短いままで良いことになるからです。
「全てのモードが5時間以上」と規定した最初の内容を残しておいてくれたら、自転車ライトの「点灯」時間を伸ばす一つのキッカケになったかもしれないので残念です。
「自転車ライトの法律もお国柄がある」というのは面白い発見でした。
ドイツ・デンマーク以外にもユニークな規定を持つ国があるか、また調べてみる予定です。
著者情報
年齢: 38歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: BIANCHI OLTRE XR4(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)
# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。