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夜間走行におけるウェア色の「見えやすさ」の違い
ナイトライドの際、周囲の人たちに存在を気づいてもらうのは、安全性を高める上で大事なことです。
この記事では、「夜間に良く見えるウェアの色はどれか」という点について記載しています。結構、意外に思われる方が多い内容だと思います。
その場合はコメント記事にてご指摘頂けると幸いです。
導入
この記事を書こうと思ったきっかけは、バイシクルクラブ2021年10月号の特集「後方からの被視認性」です。
バイシクルクラブの特集
その後、バイシクルクラブのサイトにも掲載されています。

この特集は、「テールライトの点灯」「反射ベスト」「ウェアの色」について、夜間の被視認性がどうなのかを実地検証する内容でした。
なかなか興味深くはあったのですが、あくまで主観としての見えやすさの話しか書かれていませんでした。そこで、「なぜそれを見えやすいと感じるのか」の話を書いてみようと思ったのです。
本記事の構成
本記事では、主に「ウェアの色」にスポットを当てて、
「夜間はどの色の被視認性が高いのか」
「なぜ、その色が被視認性が高いと言えるのか」
という内容で書いていこうと思います。
結論を先に書いておくと、反射ベストの色は総合的に考えて「蛍光イエロー」がベターだと思われます。
視認性の高い色
まずは「夜間の視認性の高い色」について考えていきます。
「見えやすい色」は視細胞で決まる
「見えやすい色」は、言い換えれば「網膜の中の視細胞がより認識しやすい色」ということになります。
人種などによって多少の違いは出るようですが、概ね人間の視細胞の特性は均一であり、誰であっても「見えやすい色」というのは共通であるようです。
建設電気技術協会のサイトにある基礎講座の中の「照明基礎講座 光とは」のドキュメントには以下の記載があります。
人間の眼の網膜には、錐体と桿体の2種類の視細胞があります。
視対象が2cd/m2以上の明るい環境では、主として錐体が働きます。この状態を明所視といい、この状態の特性を明所視における標準比視感度V(λ)といいます。
また、0.01cd/m2以下の暗い環境では、桿体が主として働きます。これを暗所視といい、この場合の特性を暗所視における標準比視感度V’(λ)といいます。
こちらに書いてあるように、明るい場所と暗い場所では、主役となる細胞が異なるわけですね。
明るい場所では波長555nm(黄色がかった緑色)の光が一番よく見え、暗い場所では波長507nm(青色がかった緑色)の光が一番良く見えると言われています。

このように、暗い場所では短波長の光が良く見えるようになる現象を「プルキンエ現象(プルキンエシフト)」と呼びます。
夜間に見えやすいウェアの色
視細胞の感度から判断すると、「夜間に見えやすいウェアの色」は自ずと決まってきます。
先程資料として示したページで使用されているグラフを引用します。
このグラフの「暗所視の視感効率」という斜線で示された部分を見てください。
一番値が大きくなっているのは先に示した波長507nm付近です。色で言えば、青と緑の中間あたりです。
標識や青看板で青が多様されるのは、「夜間に認識しやすい」ことが理由であるとされています。また、映画館等で非常口の位置を示す緑のランプが目立って見えるのもこれが理由だそうです。
このグラフを見ると、以下の順番で色への感度が下がっていくことが分かります。
青→緑→黄色→オレンジ→赤→黒
昔から存在する有名な画像として以下があります。
青の位置だけが良く分かりませんが、その他は暗所での視細胞の感度と一致しています。
この画像ではグリーンが一番良く見えるとなっていますが、それは「自転車がいると分かっている」場合の話であることに注意が必要です。
バイシクルクラブの記事を確認
ここでバイシクルクラブの記事に一度立ち戻ってみます。
この記事には以下の記載がありました。
オレンジは意外に暗闇に紛れる印象
反射ベストの反射材以外の色による見え方の違いも検証。
写真では下の蛍光イエローよりもネオンオレンジのほうが目立っているようにも見えるが、実際の現場では赤っぽい色味は闇に紛れて見えにくかった。
これまでの話を踏まえると、この意味が分かりますね。
暗所において人間の目はオレンジ色に対する感度はかなり低いため、実際の現場では「赤っぽい色は闇に紛れる」と感じられたのでしょう。
高視認性衣服の規格における生地色
さて、世の中にはなんでも規格が存在していますが、反射ベストを含む「高視認性衣服」の国際規格も存在します。
このブログでは何度か出てきた「EN1150」とその上位規格である「EN20471」が高視認性衣服の国際規格となります。
※つい最近、EN17353という規格も出てきましたが、まだ情報が少ないため今回は割愛します。
この規格では、反射ベストに使用可能な生地の色を以下のように定めています。
規格 | 使用可能な蛍光生地の色 |
EN20471 | 蛍光イエロー |
蛍光オレンジ | |
蛍光レッド | |
EN1150 | 蛍光イエロー |
蛍光オレンジ | |
蛍光レッド | |
蛍光ピンク | |
蛍光グリーン | |
蛍光イエローグリーン | |
蛍光オレンジレッド | |
蛍光イエローオレンジ |
EN20471のほうが厳しい規格なので、使える色の数はわずか3色となっています。
ピンクやグリーンの反射ベストも世には存在していますが、それらはEN1150に適合することが多いです(規格に適合しない反射ベストも存在します)。
ここで気になるのは、夜間に一番良く見えるはずの「青緑」がEN20471でもEN1150でも生地に使うことが不可能な色であるということです。
それには、次の章で説明する「誘目性(Concspicuty)」が関わってきています。
視認性(Visibility)と誘目性(Concspicuity)
視認性と並んで大事な「誘目性」について見ていきます。
見え方に関する2つの定義
色彩検定の問題では頻出のようですが、一口に「見え方」といっても2つのワードに分けられるようです。
- 視認性(Visibility)
探している人にとっての、見つけやすさ。- 誘目性(Concspicuity)
探していない人にとっての、見つけやすさ。
反射ベストなどの高視認性衣服は、「存在を知らせる」ためのものです。
その知らせる対象は、「気づいていない」「探していない」ことがほとんど。ブルベで夜の山の中を走るシチュエーションはまさにそれで、車のドライバーの人は夜中に自転車が走っていると考えている人は多くないでしょう。そんな人に気づいてもらうためには、誘目性が大切になってきます。
高視認性衣服の要件
高視認性衣服の規格であるEN20471のAbstractには以下の記載があります。
ISO 20471:2013 specifies requirements for high visibility clothing which is capable of visually signalling the user’s presence.
(ISO 20471:2013 では、ユーザーの存在を視覚的に知らせることができる視認性の高い衣服の要件を指定しています。)
The high visibility clothing is intended to provide conspicuity of the wearer in any light condition when viewed by operators of vehicles or other mechanized equipment during daylight conditions and under illumination of headlights in the dark.
(高視認性衣類は、日中は車両やその他の機械設備のオペレーターが見たとき、また暗闇ではヘッドライトの照明下で見たときに、いかなる光条件でも着用者の目立ちやすさを提供することを目的としています。)Performance requirements are included for colour and retroreflection as well as for the minimum areas and for the placement of the materials in protective clothing.
(性能要件には、色と再帰反射、最小面積、防護服内の材料の配置が含まれます。)
VisibilityとConspicuityという単語が使い分けられていることが分かります。そして、どちらも高視認性衣服には大事であるということも分かります。
これに加えて、高視認性衣服は使用を夜間に限定していません。昼間でも目立つ必要があるのです。
誘目性の高い色
では、誘目性が高い色というのはどういう色なのか。

一般的に赤・黄などの暖色系の誘目性が高いと言われています。
この記事で注目して欲しい場所に赤線を引いているのも誘目性を高めるためです。
道路標識でも規制を表す標識は赤、警戒を表す標識は黄色が使われています。これは意識をしていない人に存在を知らせ、警戒させる狙いがあります。
また、視覚障害者用の点字ブロックは一般に黄色が使われていますが、これは「アスファルトとの対比で目立つ色」という理由で選ばれているようです。
つまり、路上においては黄色というのは「目を引く」「目立つ」色であるということです。小学生の通学カバンや帽子が黄色なのもこういった理由からなのでしょう。
高視認性衣服に暖色が用いられる理由
ここまで調べると、「なぜ高視認性衣服の生地がイエロー・オレンジ・レッドなのか」の理由が見えてきます。
基本的にはより目立ちやすい誘目性を意識して色を決定しているのだと思われます。これに加えて、夜間の視認性がそれなりに高い色を選んだ結果が今なのでしょう。高視認性衣服では反射材の取り付けも義務化されているので、夜間の視認性はそちらで確保するのがメインなのかもしれません。
それでも、薄暗い光でも「何かいるな」と認識できる夜間の視認性(Visibility)の高い色を選んだほうがより安全ではあると思われます。
また、緑が選ばれないのは「安全」的なイメージの色というのもあるでしょう。赤や黄色のように注意や警戒を喚起する色を選んでいるはずです。
恐らく生地色は蛍光イエローが最適
以上から、自転車での舗装路における夜間走行というシチュエーションを考えると、「蛍光イエローが最適」ということになりそうです。やや緑寄りのイエローだと完璧かもしれません。
昼間はアスファルトとのコントラストで目立ち、また警戒を喚起する色でもあります。夜間もグリーンほどではありませんが、視認しやすい色です。
私はPBPでは左の「ろんぐらいだぁすとーりーず! サイクル反射ベスト」を使いましたが、これを選んだ理由の一つがその色味です。
PBPオフィシャルベストはThe黄色という感じの色ですが、ろんぐらいだぁすとーりーず!のベストは緑がかった蛍光イエロー。この方が夜間走行では若干目立つはずです。

ちなみにPBPベストの元になっているのはL2SのVisioplusという製品なのですが、カラーには「Yellow」「Fluorescent Yellow(蛍光イエロー)」が別にあります。PBPベストは「Yellow」をベースに作られています。
国内ブルベではデファクトスタンダードとも言えるオダックス埼玉の反射ベストには蛍光オレンジと蛍光イエローの2色が存在します。
人気があるのはオレンジだそうですが、反射ベストとしての総合性能が高いのはイエローの方だと思われます。
かつては私も「イエローは工事現場みたいなので、なんとなくスポーティーなオレンジにしよう」という理由でオレンジを使っていましたが、夜間視認性・誘目性の話を知ってからはイエローの出番がかなり増えました。

自転車ではなくバイクの話ですが、「バイク王」が実験したデータでも蛍光イエローが一番遠くから視認できたそうです。
まとめ
夜間走行におけるウェア色の「見えやすさ」の違いについて書きました。
今回は反射ベストのみにフォーカスした記事になりましたが、ジャージの色で視認性を高めるということも出来るでしょう。
昼間の視認性を高めたいなら「赤いジャージ+黄色の反射ベスト」という組み合わせが良いでしょうし、夜間に発見されやすくするのであれば「緑のジャケット+黄色の反射ベスト」というのも良い組み合わせだと思います。
ブルベの定番である、モンベル「サイクルレインジャケット」に「黄色い反射ベスト」という組み合わせは、実はナイトライドにおいて最強の組み合わせかもしれません。
ジャケットやベストに限らず、ヘルメットやシューズで目立つというのも良いと思います。
著者情報
年齢: 39歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: BIANCHI OLTRE XR4(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)
# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。