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ブルベとキャノンボールの相違点
ブルベ(BRM)とキャノボ(東京大阪キャノンボール)の違いについての解説記事です。
まえがき
当サイトは「東京大阪キャノンボール」の攻略について研究することをメインとしたサイトですが、ブルベのレポートも掲載しています。
私はまず2010年にキャノンボールに挑戦し、ブルベに参加したのは2012年からです。キャノンボールは2011年まで、その後の10年間は時折ファストランをやりつつもメインはブルベでした。
そんな経歴なので割りとよく「ブルベとキャノボはどんな所が違うんですか?」と質問を頂くので、よい機会と思いアウトプットしてみることにしました。
相違点
ブルベとキャノボの相違点を見ていきます。
ブルベは「認定」という意味であって、認定する機関によっていろいろな形式があります(オダックスやディアゴナールなど)。ただ、日本でブルベと言えば一般的にBRMのため、ここではブルベはACPの認定するBRMを指すものとします。
ブルベに対して、キャノボ(東京大阪キャノンボール)には認定機関がありません。そのため、ここで書くルールは挑戦者の間で共通認識となっているだけのものです。今後変化していく可能性はあります。なお、キャノボルートには内陸を通る中山道ルートもありますが、ここで取り上げるのは海沿いを通る東海道ベースのルートです。
比較表
まずは表形式で比較します。
ブルベ(BRM) | 東京大阪キャノンボール | |
主催団体 | 各ブルベ主催団体 | なし |
認定団体 | ACP (Audax Club Parisen) |
なし |
達成基準 | ・200km/13時間半以内 ・300km/20時間以内 ・400km/27時間以内 ・600km/40時間以内 ・1000km/75時間以内 |
510-550km/24時間以内 |
基準を達成した場合に 獲得出来るもの |
・完走認定 ・完走メダルを買う権利 |
なし |
エントリー方法 | 各ブルベ主催団体に申し込む | スタート前に公開の場(Twitter等)で挑戦を宣言する |
参加費 | 有料、コースによって異なる | なし |
スタート/ゴール | コースによって異なる | 東京・日本橋/大阪・梅田新道 |
ルート | ・キューシートに従い、主催者指定のルートを必ず辿る ・スタートとゴールの入れ替え(逆ルート)は不可 |
・自転車通行可能な道であれば道中のルートは自由 ・東京/大阪どちらがスタートでも可 |
チェックポイント | ・キューシートに従い、主催者指定のPC(チェックポイント)で証跡を取得する | なし |
コース形状 | 周回コースが大半(ワンウェイコースもたまにある) | ワンウェイ |
スタート時刻 | 主催者指定の日時にスタートする (N2BRMの場合を除く) |
自由 |
獲得標高 | コースによって異なる | 約2500m |
要求時速 | 600km以下: 15km/h 1000km: 13.3km/h |
21.5~23.0km/h |
開催頻度 | 原則、1つのコースは年に1回の開催 | いつでも何度でも挑戦可能 |
参加人数 | イベントの募集定員 (50~100名程度が多い) |
1名 |
集団走行 | 可 (全員が参加者の場合に限る) |
不可 |
第三者サポート | チェックポイントのみ可 | 不可 |
以下、それぞれの項目について詳しく見ていきます。
主催団体
ブルベ(BRM)は、ACPから委託を受けた各国の代表機関(日本の場合Audax Japan)傘下の各団体(オダックス埼玉・R東京など)が主催しています。
キャノボには主催団体はありません。
認定団体
ブルベ(BRM)の主催をするのは各主催団体ですが、「完走したことを認定する」業務はACPが担当しています。なお、1200km以上のブルベはRandonneurs Mondiauxという団体が認定する「RM」という別カテゴリになります。
キャノボには認定団体はありません。
達成基準
ブルベ(BRM)には200/300/400/600/1000kmのカテゴリがあり、600kmまでは「平均時速15km以上」で制限時間が設けられています。1000kmブルベの場合は少し時速が緩み、「平均時速13.3km以上」となります(ただし600km地点までは40時間以内に到達する必要あり)。この制限時間内に、指定のチェックポイントで証跡を獲得してゴールすれば「認定完走」です。
注意が必要なのは、スタートからゴールまで「ブルベカード」という紙を携帯する必要があることです。紛失すると失格になります。
キャノボの場合、コース全長は挑戦者が選択したルートによりますが、約510-550kmを24時間以内に走りきれば「達成」となります。
基準を達成した場合に獲得出来るもの
ブルベ(BRM)は、完走すると「完走認定」が貰えます。ACPのデータベースに「Aさんは200kmのブルベを完走した」という事実が記録されます。複数の完走認定を得ると、SRやR5000と言った表彰を受けることも出来ます。
また、ブルベを完走すると「完走メダルを買う権利」を貰えます。メダルは完走しても無料で貰えるわけではなく、自分で購入する必要があります。
キャノボは達成しても何も獲得出来ません。
エントリー方法
ブルベ(BRM)は、あらかじめ各主催団体の指定する手段で参加申し込みを行う必要があります。申込み締め切りは団体によりますが、大体一ヶ月前までとなっています。
キャノボは主催団体がないので、参加申し込みの手続きはありません。しかし、「挑戦します」ということをスタート前までに表明する必要があります。表明場所は、かつては2chがメインであり、現在はTwitterがメインとなっています。
参加費
ブルベ(BRM)は、参加費が必要です。ACPとの認定作業にかかる手数料や、キューシートを作成するための試走経費などを参加者が負担する形式です。主催団体やコースの長さによって変動しますが、1000-2500円が参加費の相場です。
キャノボに参加費はありません。
スタート/ゴール
ブルベ(BRM)は、各コースごとにスタート/ゴール地点が違います。
キャノボは、国道1号線の両端(東京・日本橋/大阪・梅田新道)をスタート/ゴール地点とするのが一般的です。
ルート
ブルベ(BRM)は、主催者が提供するキューシートで指定されたルートを必ず通る必要があります。勝手にショートカットをしてはいけません。
キャノボは、国道1号線の両端をスタート/ゴールとしていれば、途中のルートは挑戦者が自由に決められます。ショートカットも回り道もOKです。ただし、自転車が通行できない場所を通ってはいけません。
チェックポイント
ブルベ(BRM)は、主催者が提供するキューシートで指定されたチェックポイントで「立ち寄った」証跡を取得する必要があります。チェックポイントはコンビニであることが多いので、証跡はレシートになることが多いです。写真の撮影や、現地でスタッフが待機していて通過したことを確認される場合もあります。
キャノボにはチェックポイントはありません。ただ、途中にあるボウリング場「岩屋キャノンボウル」で記念撮影する人はすごく多いです(姫街道ルートでは通過しません)。
コース形状
ブルベ(BRM)は、スタート/ゴール地点が同じか、近くにあることが一般的です。そのため、周回コースか往復コースになるのが普通。風向きは追い風の時もあれば向かい風の時もあり、大体コース全体では収支ゼロになります。たまにワンウェイコースのブルベもあります。
キャノボは東京→大阪、大阪→東京のワンウェイコースになります。例外はありますが、終始追い風か、終始向かい風になります。追い風の時は達成に必要なパワーは減ります。
スタート時刻
ブルベ(BRM)は、主催者の指定した時刻に一斉にスタートします。人数をバラけさせるためにグループを分けて出走させる場合もありますが、大体1~2時間程度の幅しか選択肢はありません。条件(天候や風向き)が悪くても、その条件で走る必要があります。
キャノボはいつスタートしてもOKです。挑戦者の裁量で選べます。条件(天候や風向き)の良い日・良い時間帯を選択可能です。
獲得標高
ブルベ(BRM)は、コースによって獲得標高が大きく異なります。一般的と言われるのは「100kmあたり獲得標高1000m」くらい。これより下だと「平坦コース」、これより上だと「山岳コース」と呼ばれたりします。
キャノボは選ぶルートにもよりますが、東海道ベースならば獲得標高2500m前後に落ち着きます。520kmで2500mなので、100kmあたりの獲得標高は500m弱と、ブルベの基準で言えば「平坦コース」です。
要求時速
ブルベ(BRM)は、「達成基準」の項目でも述べた通り、基本的に「平均時速15km」で制限時間を計算します。例外は1000kmブルベで、600kmを超えるとそこからの制限時間は少し緩和されます。
キャノボは選ぶルートにもよりますが、平均時速21.5km~23.0kmで走らないと24時間以内に走り切ることは出来ません。ブルベの約1.4~1.5倍の速度が求められます。
開催頻度
ブルベ(BRM)は、1コースあたり1年に1回の開催が普通です。人気のあるコースの場合、年に2回以上開催されることもあります。一度完走を逃すと、最低でも来年になるまで挑戦できません。二度と再開催されないコースもあります。
キャノボは、いつでも挑戦できますし、年に何度挑戦してもOKです。
参加人数
ブルベ(BRM)は、1コースあたり50~100人程度の人数制限で実施されることが多いです。北海道のコースだと、参加人数無制限ということもあります。
キャノボは1人で挑戦するのが普通です。
集団走行
ブルベ(BRM)は、参加者同士であればグループでの走行が認められています。参加者以外の人と同じグループで走るのは規定違反となります。
キャノボは1人で挑戦するのが普通とされているので、集団走行はありません。
第三者サポート
ブルベ(BRM)は、チェックポイントに限って第三者からのサポートを受けることが出来ます。補給を受け取ったり、サポートカーの中で仮眠することも可能なはず。
キャノボはノーサポートが普通とされているので、道中の第三者サポートは不可です。
私の失敗談
少し脱線しますが、キャノボを先にやって、後からブルベに参加した私の失敗談を書いておきます。読み飛ばしOK。
1度目の600kmブルベ: DNF
200/300/400kmのブルベは順調に一発で認定完走を取れたのですが、600kmブルベの認定完走を取るまでに2度失敗しています。
1度目は、2013年の「安房峠600」。初の600kmブルベです。
仮眠もしっかり取れて560km地点のチェックポイントまで来た所でブルベカードの紛失に気づきました。前述の通り、ゴール時点でブルベカード不所持は問答無用で失格です。
結局見つけることは出来ず、そのまま40kmを走りきってゴール。しかし、認定外完走でした。
キャノボと違って「最後まで紛失してはいけない物(ブルベカードとレシート)がある」というのはカルチャーショックでした。
2度目の600kmブルベ: DNF
2度目は、2014年の「木崎湖600」です。
今度こそは!という思いで臨んだものの、スタートから間もなく雨が降り出し、次第に本降りに。全く止む気配が見えず、100kmで心が折れてリタイヤしました。
キャノボでは出発日時を選べば雨天は避けられましたが、ブルベでは雨天走行を避けては通れません。当時の私は雨天走行の装備や走り方の知識が全くありませんでした。
このリタイヤが悔しくて雨天走行の独自研究を始めました。その成果をまとめたのが「雨天ライド攻略本」です。
3度目の600kmブルベ: 認定完走
3度目は、2014年の「天城越え600」です。
ブルベカードの紛失に備え、首から下げる防水ケースを装備。雨天走行に備え、モンベルで上下レインウェアとレイングローブを購入。泥除けもしっかり装備。
やはりこの600kmブルベも後半は雨に見舞われましたが、雨天装備のおかげで走行に支障なし。ブルベカードも最後まで紛失することなくゴール!
3度目の正直で、ようやく600kmブルべの認定が取れました。この段階でようやく「ランドヌール」の仲間入りを果たせた気がします。
失敗からの学び
正直、「24時間で550kmを走れたのだから、40時間で600kmを走ることは普通に出来るだろう」と、600kmブルベを走る前には思っていました。
が、その自惚れは2回の失敗で粉々に打ち砕かれました。キャノボとブルベは似ているようで違うものだったと、そこでようやく気付いたわけです。
様々な困難を受け止めて対処する能力を試されるのがブルベ。困難をなるべく避けられる分、1.5倍早く走る必要があるのがキャノボ。
「求められるスキルセットが違っていた」ということに気づいたのが、この時の学びでした。
チャレンジに際しての注意点
ブルベとキャノボ、どちらか一方を先に挑戦して、後から一方に挑戦する場合の注意点をまとめます。
ブルベ→キャノボの場合
ブルベを先に経験していて、後からキャノボに挑戦する人向けの注意点です。
ルート
ブルベでは主催者が作成したルートが提示されますが、キャノボでは提示されません。自分でルートを引く必要があります。
人の走ったルートをそのままコピーするのではなく、自分の走り方に合わせた「ルートを作り上げる」という意識が必要だと思います。
特にキャノボでは1度のミスコースで失った時間を取り戻すのがかなりキツいので、正確にルートをトレースする能力も必要です。
スタート日
キャノボではスタート日が自由です。
なるべく追い風になる時間が多く、雨に降られない日を選びましょう。気温も高すぎたり低すぎたりしない日が良いです。
ブルベの感覚で1ヶ月前からスタート日を予告しないようにしましょう。その日は雨で向かい風かもしれません。
コンビニで休みすぎない
ブルベではコンビニでの他参加者との交流も魅力の一つ。ついつい30分くらい滞在してしまうこともあるでしょう。
しかし、キャノボではコンビニで悠長に休んでいる時間はありません。
荷物の持ちすぎに注意
ブルベではあらゆる天候に対処するため、雨天装備を持って走るのが普通です。
しかし、キャノボではスタート日と時間を自由に選べるので、雨の降らない日を選べば雨具は不要になります。泥除けも要りません。その他、持つ必要のない荷物は持たないようにしたほうが達成に近づきます。
いつものクセで大型サドルバッグに荷物を満載してしまわないように注意しましょう。キャノボに大型サドルバッグは不要です。
キャノボ→ブルベの場合
(あまりいないかもしれませんが)キャノボを先に経験していて、後からブルベに挑戦する人向けの注意点です。
ブルベカードを紛失しない
ブルベではブルベカードを紛失すると失格です。途中のチェックポイントでもらったレシートを紛失しても失格です。
両者は無くさないように、首から下げられる防水スマホケースに入れると良いでしょう。
あらゆる天候を考慮する
キャノボと違って、ブルベは主催者の指定した時間にスタートする必要があります。雨が避けられないこともあるでしょう。
その時に備えて、レインウェアや泥除けと言った雨天対策装備を持つ必要があります。ただ持っただけではダメで、運用方法についても習得する必要があります。先人のブログを読んだり、ブルベ経験者の人に話を聞くと良いでしょう。そういった人が周りにいなければ、拙著の「雨天ライド攻略本」をご参照ください。
ブルベでは、こうした荷物を納めるために大型サドルバッグは(必須とは言わないまでも)必要です。
仮眠対策
道中では仮眠をしないことが多いキャノボと異なり、400km以上のブルベでは仮眠をとるのが普通です。よく仮眠場所となるのが、健康ランドやスーパー銭湯の仮眠室です。
「ライドの途中で寝る」というのは中々難しいことなので、経験を積まないと難しいかもしれません。健康ランドやスーパー銭湯の仮眠室(いびきがうるさい)のような環境で寝る練習をすると良いでしょう。
まとめ
ブルベとキャノボの違い、片方を経験してから片方に挑戦する際の注意点を紹介しました。
ブルベとキャノボはどちらも「長距離を自転車で走る」という点では共通していますが、細かく見ていくとかなり違うものであることがご理解頂けたと思います。
どちらが簡単という話ではなく、達成に必要なスキルセットには違いがあるということです。片方で得たスキルが片方で使えることはよくありますが、片方でしか使えないスキルもあります。
挑戦する際には、そこを意識しないと、思わぬ落とし穴にハマることがあります(経験者・談)。ご注意ください。
著者情報
年齢: 38歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: BIANCHI OLTRE XR4(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)
# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。