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「前輪のハブが264g重くなるとどうなるのか」実験
ロードバイクの前輪ハブに264g分のおもりを付けて、どう挙動が変化するのかを確かめた実験結果をレポートします。
実験の動機
先日、ディスクロードをハブダイナモ化しました。
ハブダイナモ化を実施

ライトの性能は素晴らしいの一言。
そして、漕ぎ出しの軽さを重視してローハイト(30mm)のカーボンリムで組んだホイールの効果も狙い通りで、ハブダイナモにしては軽い漕ぎ出しを実現することが出来ました。
ハンドルの突き上げが強くなった?
……だがしかし。乗り心地があまり宜しくない。
前に使っていた前輪(WH-R8170-C36)に比べて、ハンドルの突き上げが強くなったように感じたのです。
タイヤやチューブは前のホイールからそっくり移植したにも関わらず、段差を越えた際に手に伝わる衝撃が鋭くて大きい。なお、振動面に関しては悪化した印象はありませんでした。
ブルベに投入しようにも、このままでは100kmもしないうちに手がしびれてしまいそう。
原因の切り分けを実施
ということで、何が原因で突き上げが強くなったのかをハッキリさせる必要があります。
ホイールの構成要素は大きく分けて以下の3つです。
- リム (素材・内幅・外幅)
- スポーク (太さ・テンション・パターン)
- ハブ (重量・フランジ幅・フランジ径)
カッコ内は乗り心地に寄与しそうなパラメーターを挙げました。
これらのどれかに原因がある、またはいくつかの組み合わせで生じている可能性があります。
今回は「ハブ」、中でもその重量面に着目してみることにしました。
一般的なディスクロード用のハブだと、重量は大体100-150gくらい。130gくらいが相場のはず。
これに対し、今回使ったSON DELUXのダイナモハブの重量は400g。普通のハブよりも270gほど重いことになります。言い換えると、3倍の重量。他の要素から見て明らかに異質です。
今回は、標準的なハブにダイナモ相当のおもり(270g分)を追加して、その前後の乗り心地の差を比較してみることにしました。
実験
ダイナモハブの重量を270g軽くすることは出来ないので、普通のハブを270g重くして擬似的にダイナモハブの重量を再現して実験します。
おもり
ハブみたいな狭い場所を狙って270gも重量化させるのはかなり難しかったりします。
そして、ホイールの回転に影響を与えないように、なるべく薄くて均等である必要があります。
今回用意したのは、こちらのゴルフ用の鉛ウェイトシールです。1枚50g。
こちらを5枚、合計250g分用意しました。
鉛製ですが、手で折り曲げられるようになっています。
裏はシールになっています。これを丸めてハブに5枚貼り付けます。
対象ホイール
今回、ハブダイナモ化したのはディスクロード。本来であれば、ディスクロード用の別のホイールを重量化して比較すべきなのですが……今回はリムブレーキのホイールで差分を見ることにしました。
理由は、ディスクロードのホイールはフランジ幅が狭すぎておもりを上手く貼れなかったからです。
ディスクローターが増えたのにエンド幅が100mmのままなので、フランジ幅がその分だけ狭くなってるんですよね、ディスクロードのハブって。
今回は「前輪ハブが重くなったことによる乗り心地の差分」が見たかったので、とりあえずリムブレーキでやってみることに。

TOKENのKONAX PROを使うことにしました。
ダイナモにする前のホイール/ダイナモホイール/実験用ホイールのスペック差について以下に示しておきます。
ダイナモの前のホイール (WH-R8170-C36) |
ダイナモホイール (EQUALカーボンリム) |
実験用ホイール (TOKEN KONAX PRO) |
|
ブレーキシステム | ディスクブレーキ | ディスクブレーキ | リムブレーキ |
リム素材 | カーボン | カーボン | カーボン |
リムハイト | 36mm | 30mm | 52mm |
リム内幅 | 21mm | 22mm | 20mm |
リム外幅 | 28mm | 29mm | 28mm |
スポーク | 不明 (24本/左右クロス) |
CX-RAY (24本/左右クロス) |
CX-RAY (18本/ラジアル) |
ホイール実測重量 | 682g | 870g | 654g |
おもりの取り付け
ハブに養生テープを巻き、その上から鉛シールを貼りました。
巻き終わった図。大体1枚でハブ一周なので、5周してます。
鉛シール取り付け前の重量(タイヤ含む)は901g。
鉛シール取り付け後の重量は1165g。264g増量しました。大体目標の重量になりました。
実験手順
下記の手順で実施します。
- 「鉛シールあり」の状態のホイールで周回コース(6km/市街地)を走行。
- その後、鉛シールを剥がして同じコースをもう一度走行。
①と②を同日中に行い、その際の乗り心地の差を比較します。
本当は何らか乗り心地を数値化して比較したかったんですが、方法が思いつかなかったので「感触」の比較です。
結果
風のない平日の夜にテストしました。
突き上げの変化
今回の主題である「ハブが重くなると突き上げが強くなるのではないか」ついては、「多少突き上げは強くなるが、大きく変わらない」という結果でした。
もう少し顕著に差が出るものと予想していましたが、どうやらハブの重さが突き上げ悪化の主要因ではなかったようです。複合要因の1つである可能性はありますが。
鉛テープだけで2000円ほど掛かっただけに、それほど差が出なかったことはちょっとショック。
その他の変化
突き上げ以外にも、鉛テープの有無で感じた差分があったので書いておきます。
左右への振りの重さ
自転車を左右に振るような動き(立ち漕ぎやスプリント)では鉛テープがあると顕著に重さを感じました。
左右の振りには地上からの高さがあるもの(サドルやSTIなど)の重量が効くと言われていますが、地上からの高さが低いハブでも264gも増えるとハンドリングに影響が出るようです。
コーナーリング
これもハンドリングの話ではりますが、鉛テープがついている方が「カーブを曲がり始めた時に車体が付いてくるのが遅い」と感じます。
自転車がそのまま直進しようとするというか、ジャイロ効果なんですかね? カーブが曲がりにくくなるように感じました。
あと、自転車の重心位置が前よりになるのも影響しているかもしれません。
坂
坂を登る際には、鉛テープが付いている方が重さを感じます。実際264g重いわけで、ヒルクライムだと差は出ますね。
平地をシッティングで走っている分には、特に差を感じませんでした。
考察
結果を見ると、どうやら突き上げが強くなった原因は「ハブの重量」以外にありそうです。
他にどんな要因があるか、可能性を考えてみました。
なお、私はホイールを自分で組んだことはないので、理論的な所についての知識はあまり持っていません。
リムの場合
リムに原因がある場合を考えてみます。
リムハイト
一般に、リムハイトが高いほど乗り心地は悪く、低いほど乗り心地が良くなると言われています。確か、リムが高くなるとスポークが短くなり、クッションが効きにくくなるからだったと思いますが。
今回はハブダイナモにする前が36mmハイト、ハブダイナモにした後は30mmハイトです。
リムハイトは低くなっており、この理屈通りなら乗り心地はむしろ良くなるはず。ハイトはあまり関係無さそうです。
内幅・外幅
リム幅が太くなるほど、乗り心地は悪くなる傾向にあると言われています。理由は忘れました。
今回のEQUALカーボンリムは、変更前に比べて内幅・外幅ともに1mm太くなっています。これによって乗り心地が悪くなる可能性はあります。
スポークの場合
Twitterで書いた時に多くの方に指摘されたのが、スポークの違いについてです。
太さ
スポークの太さで乗り心地が変わるのかは分かりませんが、一応計測してみました。
変更前のアルテホイールのスポーク長は1.95mm、変更後のCX-RAYは2.10mmでした。
テンション
乗り心地といえば真っ先に頭に浮かぶのがテンションです。
当然私もそこは思い当たって、組んでもらったショップの店長には聞いてみましたが、特別高いテンションで組んだわけではないそうです。
パターン
ディスクブレーキ用ホイールとしては一般的な4本組の左右クロス。
これで乗り心地が悪化するということも無さそうです。
ハブの場合
ハブには重さ以外にも色々とパラメータがあります。
フランジ径
多くの人からご指摘を頂いたのが、「ハブダイナモはフランジ径が大きいからではないか」というものです。
今回使ったSON DELUXハブは、ダイナモ装置がある分だけフランジが大きく、スポーク穴とハブ軸中心の距離が離れているのです。普通のホイールよりも、12mmほど遠くなります。
「スポークがハブ軸中心から遠いということは、スポークが短くなる。これによって乗り心地が悪化したのではないか?」というのは、確かに納得できそうな理由です。
だがしかし。ホイールを組んでくれた店長に聞いてみると、その説は否定されました。
ホイールを組む際にはスポーク長を計算する必要があるわけですが、今回使ったダイナモハブのスポーク長は、普通のハブより2mm短いだけだそうです。
店長曰く、以下が理由です。
ラージフランジになると、リム~ハブ距離が近くなるのでスポークが短くなるような印象があります。
しかし、「フランジ周長も長くなる=スポーク穴間が広くなる=タンジェントの底辺も長くなる」ので、計算してみるとあまり変わらない場合が多いです。
確かにフランジの径が大きくなると、周長が増えてスポークの進入角度は浅くなるため、今回の組み方だとスポーク長は大きく変わらないことになります。
どうやら、フランジの径は乗り心地に特に影響は無さそうであることが分かりました。
フランジ幅
店長から指摘されたのは、「フランジ径よりフランジ幅の方が怪しい」という点でした。
ディスクブレーキでそもそも左フランジ位置が内にある上に、SONはコネクターがあるため右フランジもかなり内側なので通常のハブよりはかなり左右が狭い寸法になっています。
フランジ幅が狭いと、今度はスポークテンションが縦方向へ大きく振り分けられることになります。
リムブレーキだと例えばDT240リム用でフランジの左右間が約70mmなのに対して、DT350のディスク用だと約58mmです。
それに対してSONは約48mmしかないので結構差があります。
確かに、ハブダイナモ用のハブというのはフランジ幅が異様に狭いんですよね。
普通のディスクロードのハブが↓。
そして、ダイナモハブが↓。
ハブダイナモですから、作った電力を外に出すためのコネクタが必要です。そして、ディスクブレーキなのでディスクローターを付けるスペースも必要。しかし、ディスクロードになってもリムブレーキ時代と変わらず、前輪のエンド幅は100mmのままです。
これによってフランジ幅はかなり狭くなり、48mm。そうなるとスポークがリムに対して立った状態で入ることになるため、乗り心地が悪化する可能性があるとのことでした。
なるほど、これは一番ありそうな理由です。
しかし、この問題を解決するにはハブを交換するしか無いわけで、正直対処できない所が理由ということになるわけですが……。
まとめ
今回の実験の結論は以下です。
- 前輪ハブの重量が増えても、突き上げにはそれほど影響がない(多少は悪化する)。
- 前輪ハブの重量が増えると、自転車の左右への振りや、コーナーリングの挙動に影響がある。
- 今回の乗り心地悪化の主因は恐らくダイナモハブのフランジ幅の狭さによるものだが、ホイール側での対処は難しい。
リムブレーキ用であれば、SONからはフランジ幅を広げた「WIDE」版が販売されています。
コネクタの占める幅を出来る限り減らして、フランジ幅を大きくしています(68mm幅あるらしい)。

しかし、今のところディスクブレーキ用にはワイド版がありません。ディスク用にこそ必要な気がしますが……。
ホイール側での対処が不可能っぽいので、次は前輪タイヤを太くする方向での対処を考えています。今は25Cなので、28Cに変えたら多少は突き上げが緩和されるかもしれません。
使うとしたらAGILESTの28Cになると思います。
著者情報
年齢: 38歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: BIANCHI OLTRE XR4(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)
# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。