Panaracer「AGILEST(アジリスト)」ファーストインプレッション

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発表になったばかりのPanaracerの新作タイヤ「AGILEST(アジリスト)」。一足早く試させて頂けることになりました。

しばらく使い込んでレビューを書く予定ですが、この記事では製品の概要紹介とファーストインプレッションを書いていきます。

目次

まえがき

まずは先行試用させていただくことになった経緯から書いていきます。

AGILEST、発表

2022年2月22日、Panaracerの新フラグシップロードタイヤ「AGILEST」が発表となりました。

「AGILEST」とは、「機敏」を意味するAGILE(アジャイル)の最上級。直訳すれば「超機敏」。

これまでPanaracerは「RACE」シリーズをフラグシップに据えていましたが、そのポジションがAGILESTに入れ替わることになります。

店頭に並ぶのは3月頃とのこと。今回、それに先駆けてAGILESTの先行試用をさせて頂けることになりました。

私とパナレーサー

実は私、過去に出た1000km以上のブルベは全てPanaracerのタイヤをチョイスしています

2015年PBPは、「GRAVELKING 26C」。

2018年クローバー1200は「RACE C Evo3 26C」。

2019年PBPは、再び「GRAVELKING 26C」。

どのライドもパンクは無し。耐パンク性や雨天時のグリップなど、ブルベに求められる性能をバランス良く備えているPanaracerのタイヤは、私にとってのブルベ用決戦タイヤであり続けてきました。

PBP2019での縁

単なる1ユーザーだった私ですが、2019年のPBPでPanaracerとの縁が出来ます。

「PBP走行後のタイヤが欲しい」

とのご依頼をPanaracerより頂いたのでした。「フランスの路面で1200kmを走行したタイヤがどのような状態になるのかを調べたい」というのがその理由。お役に立てるのであれば、と快諾しました。

2019年のPBPはご提供頂いたGRAVELKING 26Cで参加。惜しくも時間外完走という結果ではありましたが、ノルマの1200km走行は達成。帰国後、Panaracerさんにタイヤを提出しました。

このお話があったことで、Panaracerという会社はレースだけではなくブルベのようなロングライドも考慮してタイヤを作ってくれていることを知りました。なかなか無いんですよね、そういったメーカー。

AGILESTのモニターの話を頂く

時は流れて2022年。

2019年PBPの際にご担当頂いたPanaracerの方から、関係者向けの「AGILEST体験キャンペーン」のお話を頂きました。

私は特にPanaracerのアンバサダーというわけではないのでそういった話を頂くのは恐縮でしたが、それ以上に「Panaracerの完全新作タイヤ」への興味が勝りました。

「是非キャンペーンに参加したい」とお返事をさせて頂き、先行試用モニターを務めさせて頂くことになりました。

ご提供頂いたタイヤ

AGILESTは後述するように「クリンチャー(3種類)」「チューブラー」「チューブレスレディ」と多彩な展開がありますが、今回はもっともオーソドックスな、

AGILEST(無印)/クリンチャー/25C/ブラックサイド

という仕様のものを希望しました。

希望したのは、LIGHTでもDUROでもなく、オールラウンドタイプの無印AGILEST。ラーメン屋でもまずはその店の基本メニューを注文する主義なので、まずは一番オーソドックスなものを。

タイヤ仕様はクリンチャー。やはりブルベ用途を考えると、クリンチャーがまだまだ便利なもので。

28Cでも210gと十分な軽さでしたが、今使っている他の25Cタイヤとの比較もしたかったため、25Cを選択。

カラーは、ブラック・スキン・レッドとありましたが、「タイヤは黒が一番性能がいい」という信念に基づき、ブラックサイドにしました。

製品紹介

AGILESTのインプレッションに入る前に、まずは製品について軽紹介させて頂きます。

開発テーマ

公式のコンセプトムービーは内容がフワッとしている感はありますが、「多様化したロードバイクの楽しみ方に対応する」ということを念頭において開発されたように見えます。

ロードレースやヒルクライムだけではなく、ロングライドやツーリング、その他の楽しみ方を視野に入れているようですね。

FUNQ [ ファンク ]
ロード日本代表・増田成幸の理想を形にした新ロードタイヤ「AGILEST」|Panaracer | Bicycle Club, 新製品... そのタイヤは、東京オリンピックに出場し、全日本TTのタイトルを掴んだ宇都宮ブリッツェンの増田成幸選手の足元を支えていた。創業70周年を迎えた日本のタイヤブランド

東京五輪代表・増田成幸選手のフィードバックを何度も受けながら開発が進められたようです。

特徴

AGILESTの主な特徴を紹介します。

転がり抵抗の低減

AGILESTのコンパウンド(タイヤの接地面のゴム素材のこと)に、新開発の「ZSG AGILE Compound」を採用。

前作「RACE EVO4」のコンパウンドに比べて、グリップを維持しつつ転がり抵抗を12%も低減しているとのこと。

耐パンクベルトの改良

AGILESTシリーズでは耐パンクベルトが改良されています。

「AGILEST」「AGILEST LIGHT」「AGILEST TU」には、新開発の「Tough & Flex Super Belt」を採用。前作で使われていた耐パンクベルト「Pro Tile Belt」に比べ、耐パンク性を高めた上でベルト自体の柔軟性を上げているそうです。

高耐久モデルである「AGILEST DURO」には、「Tough & Flex Super Shield」+「Pro Tite Belt」の二枚重ね仕様を採用。サイドを含めたパンクまでも防止するタフな構造となっています。

新ETRTO規格への対応

最新のタイヤ国際規格「ETRTO 2020 Standards」に準拠してタイヤが設計されています。

トレッドがラウンド形状に

前作「RACE EVO4」シリーズまでは、「オールコンタクト トレッドシェイプ」という先端が少し尖った三角形の断面形状が採用されていました(RACE Cを除く)。

直進時に接地面積を減らし、コーナーリングでは接地面積を増やしてグリップを稼ぐ……というコンセプトでしたが、挙動が独特で賛否両論があったのも事実です。

AGILESTは全ラインナップで一般的なラウンドシェイプ断面が採用されることとなりました。

ラインナップ

AGILESTのラインナップは、以下の5種類です。

タイプ モデル名 サイズ・重量 カラー 税込価格
クリンチャー AGILEST
(万能モデル)
700×23C (180g)
700×25C (190g)
700×28C (210g)
黒、赤、青、スキン 6270円
AGILEST LIGHT
(軽量モデル)
700×23C (160g)
700×25C (170g)
6820円
AGILEST DURO
(高耐久モデル)
700×23C (210g)
700×25C (220g)
700×28C (250g)
6820円
チューブラー AGILEST TU 700×25C (260g) 10780円
チューブレスレディ AGILEST TLR 700×25C (220g)
700×28C (250g)
700×30C (270g)
7370円

クリンチャータイプについて、1代前(Evo4)&2代前(Evo3)との対応を図にすると以下のような感じになるはずです。

ファーストインプレッション

AGILEST(クリンチャー/25C/ブラックカラー)を160kmほど使用した現時点の感想を書いていきます。

ホイールは、内幅20mmの、「HUNT AERODYNAMICIST」。チューブは、「Revoloop RACEチューブ」を合わせています。

比較対象は、AGILESTの前に使っていた「Continental GP5000 CL(25C)」です。

製品の位置付け

AGILESTはモデルごとにキャッチフレーズのようなものが付いていまして、以下のようになっています。

モデル名 キャッチフレーズ 意味
AGILEST TOUGH & SUPPLE タフ&しなやか
AGILEST LIGHT LIGHT 軽量
AGILEST DURO ULTRA TOUGH ものすごくタフ

今回使うAGILEST(無印)は「タフ&しなやか」とされています。

パッケージ

Panaracerとは思えないほど派手なパッケージ。タイヤのテーマカラーである紫と赤を大胆にあしらい、ホログラムまで付いています。

個人的に素晴らしいと思ったのは、パッケージに印刷された「リムサイズ-タイヤサイズ」の対応表。「ETRTO 2020 Standards」という最新の国際規格に沿った表になっています。

タイヤが設計通りの性能を発揮するためには、「そのタイヤが内幅何mmのリムに取り付ける前提で設計されたか」を知る必要があります。これまでのタイヤではそういった情報が公開されていませんでした。

私は今回25Cのタイヤを提供頂きましたが、表を見る限りC19(内幅19mm)のリムを前提に設計されている様子。今回使うホイール(HUNT AERODYNAMICIST)はC20のリムなので、25Cのタイヤを取り付けた時には太さが25~26mmになることが表から読み取れます。

この表がパッケージに書かれていることで、自分のホイールに適した太さのタイヤを選びやすくなりました。

重量

AGILEST(無印)のクリンチャー/25C/ブラックサイドで、実測重量は190gと196gでした。

「25Cで190gは軽すぎない? 寿命や耐パンク性が不安……」

と思う方も多いと思いますが、実はそれほど攻めた重量というわけではありません

その理由は、このタイヤがC19(内幅19mm)のリムを前提とした設計になっているからです。

VittoriaやGoodyearなど一部のメーカーを除いて、25Cタイヤの多くはC17(内幅17mm)のリムを前提とした設計のものがまだまだ多くなっています。

一般に、設計前提のリム内幅が大きくなるとタイヤは軽く出来ます。私見ですが、ロードバイクのタイヤならばC17前提のタイヤをC19用に設計変更した場合、耐久性などは犠牲にせずに大体20gは軽量化出来るはず。

逆に言うと、C19前提の190gのタイヤは、C17前提の210gのタイヤと同等であるということです。

耐久性に定評のあるContinentalのGP5000は、恐らくC17前提の設計で、25Cタイヤの重量は215g。210gという重量はそれより少し軽いだけ。

まだ大して乗っていないので断言できませんが、「AGILESTの寿命や耐パンク性能は他社のレーシングタイヤとそこまで変わらないのではないか」と私は見ています。

太さ

C20(内幅20mm)のリムに取り付けて、実測26.8mmでした。25.5mmくらいと予想していましたが、結構太かったです。

形状・パターン

トレッドはスリックで、これといったパターンはありません。チューブラーのみ、杉目パターンが入るようです。

前述の通り、RACEシリーズのアイコンであった△形状の断面を捨て、一般的なラウンド形状の断面になりました。

私はどうもあの△形状の挙動に馴染めず、Panaracerのラインナップでは例外的にラウンド形状の断面である「RACE C」「GRAVELKING」ばかりを使っていました。

今回の「全タイヤの断面をラウンド形状に変更」というのは私にとって嬉しい変化です。

組み付け

特に「ゆるい」とか「キツい」とかはなく、クリンチャータイヤの相場通りの組み付け難易度といった所でしょうか。リムにもよるとは思いますが、組付けに特別苦労するタイヤではないと思います。

乗った印象

強度高めの夜練を40km、様々な地形のロングライドを120kmほど走ってきての感想を述べます。空気圧は前後7気圧にセット。

まず、漕ぎ出しの軽さが鮮烈です。「機敏」と名付けられるだけのことはあります。

190gという軽さもあるのでしょうが、それだけではない気がします。グリップの高さがそう感じさせるのか、タイヤの構造がそう感じさせるのかは分かりませんが。

私は信号などでは立ち漕ぎで走り出すんですが、その際に腰砕け感が無いのも良かったです。

最近のロードタイヤは「サイドをしなやかにする」傾向があり、私の体重で立ち漕ぎをすると「グニャリ」と潰れる感触を持つことが多いのです。Panaracerの前作「RACE C」もそのタイプ。一方、AGILESTにはその感触がありませんでした。

そう聞くと「乗り心地が悪いのでは?」と思われるかもしれませんが、そんなこともありません。このタイヤ、妙に「跳ねにくい」のです。

荒れた路面を走っても、タイヤが跳ねず、自転車の挙動が乱れにくいんですよね。空気圧は7気圧と割と高めにしているのにも関わらず。GP5000では抜重をきちんとしないと走れないような路面でもそのまま通過できてしまい、ちょっと驚きました。

担当者の方にその理由を尋ねてみると、「耐パンクベルトがしなやかになっているからだと思います」とのことでした。新採用の耐パンクベルト「Tough & Flex Super Belt」の効果ということですね。

コーナーリングの挙動もRACEシリーズに比べると自然になった印象です。やはりラウンド形状が好き。

ダウンヒルも安定。特有の「跳ねにくさ」もあって、不安を感じることがありません。

なお、タイヤを取り付けてすぐに夜練に行きましたが、550回以上走っている区間でいきなりパーソナルベストが出ました。Oltre XR4+GP5000S TRの時よりも早くてびっくり。

見た目

紫のロゴということで、「結構浮いちゃうかな……」と危惧していたのですが。

フレームに取り付けてみると、特にそんなこともなく。シックな色合いの紫なので、タイヤの黒地に馴染んでそこまで目立たないのでしょうね。

逆サイドはPanaracerロゴになっています。

価格

驚くのが、AGILESTの価格の安さ。税込6270円です。

昨今の海外メーカーのロードタイヤの国内価格は上がる一方で、メーカーによっては1万円を超えている場合もあります。そんな中で、ここまで手に取りやすい価格なのはありがたいですね。

未知数な部分

まだ160kmしか乗っていないので、耐パンク性能・寿命(何km走れるか)といった部分に付いては分かりません。後輪で3000km持ってくれれば個人的には満足です。

雨天でも使っていないので、ウェットグリップも未知数。

この辺りは、タイヤを使い切った段階で詳しくレビューしようと思っています。

まとめ

身も蓋もない言い方をすれば、「安い」「速い」「美味い」タイヤ。

現時点では特に悪いと感じる点がありません。気になるのは耐パンク性と寿命ですが……そこが問題なければ全面移行を考えるレベルの完成度です。


前述の通り、私はブルベ決戦用タイヤとして「GRAVELKING」「RACE C」を使ってきました。ただ、どちらのタイヤにも少しずつ不満がありました。

GRAVELKINGは剛性が高く、立ち漕ぎでも腰砕けせず反応が良いタイヤです。耐パンクベルトもサイド含めて入っており、トラブルが少ないのも美点。一方、その耐パンクベルトの影響で乗り心地はそれほど良くありません。重量も26Cにしては軽いものの、やはりちょっと重い。

RACE Cは非常にしなやかなケーシングを採用しており、乗り心地は抜群。重量も軽く、転がりも軽い。しかし、サイドがしなやかすぎて腰砕け感がある。

AGILESTは2つのタイヤの短所を見事に消しており、長所は残っているように思えます。私の中での次期ブルベ用決戦タイヤの筆頭候補に躍り出ました。

耐パンクベルトがサイドに入っていないという差はありますが、それは他メーカーのレースタイヤも同じこと。重要なのは「実使用でどれだけパンクしないか」なので、そこは今後使っていく中で判断しようと思っています。まずは200・300kmブルベに投入予定。

 

著者情報

年齢: 37歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: BIANCHI OLTRE XR4(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)

# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせて頂きました。

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この記事を書いた人

ロングライド系自転車乗り。昔はキャノンボール等のファストラン中心、最近は主にブルベを走っています。PBPには2015・2019・2023年の3回参加。R5000表彰・R10000表彰を受賞。

趣味は自転車屋巡り・東京大阪TTの歴史研究・携帯ポンプ収集。

【長距離ファストラン履歴】
・大阪→東京: 23時間02分 (548km)
・東京→大阪: 23時間18分 (551km)
・TOT: 67時間38分 (1075km)
・青森→東京: 36時間05分 (724km)

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