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フレームオーダーの記録 (1本目/2017年 細山製作所 QUARK)
構想が固まったら、次はいよいよ工房に赴き、オーダーです。
フレームどころか、自分専用のオーダーメイド品を注文するのは生まれて初めて。ドキドキしながら訪問の予約を入れました。
オーダー
対面でオーダーを行う工房の場合、オーダーには非常に時間が掛かります。用途のヒアリング・ジオメトリ決定・工作の有無・カラーリング等々、決めることが沢山ありますからね。ビルダーさんはそのための時間を確保する必要があるわけです。昼間はフレーム製作に集中していることもあるので、飛び込みで行っても工房が開いていないこともあります。
このため、フレームをオーダーする場合には予約をするのが普通です。今回は3日前にメールで予約を行いました。
2016年12月25日。指定時間に相模原市の東林間にある「細山製作所」の工房に到着。いよいよオーダーです。
持参物
当日は以下のものを持参しました。
② ロードバイクに乗れる装備
③ 設計書
・要件一覧メモ
・LAPIERRE XELIUSのジオメトリ表
・カラーデザイン
要件説明
まずは、こちら側の希望をフレームビルダーである細山さんに説明しました。
私はレースというよりはロングライド党。そしてロングライド党の中でもファストラン派。私と同じく「糸魚川」を好む細山さんに、その方向性でフレームを作りたいことを伝えました。
「糸魚川」の名を聞くと少し顔つきの変わった細山さん。かつては参加者の中で最速タイムを出したことがあるお方。やはりイベントへの思い入れは今も強いようです。
ファストランだけではなく、ブルベにも使いたいことも伝えました。基本的な方向性としては、ロングライド向けということになります。
また、「クロモリと言えばホリゾンタル」とイメージする人が多いとは思うのですが、今回はスローピングでお願いすることに。
私が自転車を始めたのは2008年で、その頃にはスローピングが当たり前だったので見慣れているのです。そこで、軽量(パイプの使用量が減るため)かつ高剛性になるスローピングを選択しました。
ブルベやツーリングで使うことも考えると、大型サドルバッグを付けるためと言う理由もあります。ホリゾンタルにしてしまうと、シートステーが邪魔で大型サドルバッグが付けにくくなるんですよね。シートステーの位置が下がるスローピングフレームの方が、より大きなサドルバッグを付けやすくなるわけです。
フレーム採寸
一通り要件を説明したら、次は採寸という運びになりました。体の採寸ではなく、持参したロードバイク(LAPIERRE XELIUS)の採寸です。
身体を採寸して最適なジオメトリを割り出すビルダーさんも多いですが、細山製作所ではその車種を初オーダーする人にしかそういったことは行わないようです。
基本的には慣れている愛車合わせ。ただし、変なポジションなら修正が入るようです。
持参したロードをメジャーで計測。すると、ホームページ上のジオメトリと現物とでは、トップチューブ長が異なることが分かりました。ホリゾンタル換算で550mmの設計(上の表の52サイズ)のはずが、現物は560mm。10mmの差がありました。「よくあることです」と細山さん。
こういうことが有り得るからこそ、ジオメトリ表だけではなく現物を持参する必要があったわけですね。そこまで読んでおられたとは。
他にも、フロントセンター、リアセンター、シートチューブ長を計測。
割りと細山さんの設計思想に近いジオメトリだということが分かり、基本的にはXELIUSのジオメトリをそのまま引き継ぐことになりました。ヘッド角、シート角、リアセンター、フロントセンターは同じ値です。BB下がりは70㎜。ヘッドセットの厚みを考慮して、ヘッド長はXELIUSから15mmほど短くしています。
ポジション確認
続いて、乗車姿勢もチェック。骨盤の角度と揺れを見ている様子。「綺麗に回せていますね」とのご講評。特に現在のポジションで問題がないとのご判断です。
ということで、ジオメトリもポジションもほぼそのままとなりました。今まで乗っていたXELIUS、非常に私に合っていたようです。
パイプ選択
細山製作所で作れるフレームの材質はスチールのみ。スチールフレームは、使用するパイプによって性質が大きく変わります。
細山製作所ではKAISEIという日本メーカーのパイプをメインで使っているそうです。基本のパイプは「KAISEI 019」というもの。その他に選べるメーカーは、TANGEとCOLUMBUSでした。
「こんなのもありますよ」と見せてもらったのは、COLUMBUSのオーバーサイズの軽量パイプ。太いパイプの方が好みなので使いたいなーと思ったのですが。「レース用ではないんでしょう? クロモリらしい乗り味を求めるならば、ノーマルサイズのほうがオススメです」という達人のお言葉。
その際に聞いたのが、こんなお話。
昔ね、短距離タイムトライアル用にかなり太いパイプを使って、ガチガチのフレームを作ったんですよ。
走り終わったときに、”これは速い!”と思ったのに、タイムはあまり良くなかった。
多少しなりが合ったほうが、最終的には速いんですよ。
この話は雑誌などでもされていたので、細山さんの哲学なのかもしれません。
最終的には、軽量チューブである「KAISEI 8630R」のノーマルサイズに決定しました。それでも8630Rはクロモリの中では硬い乗り味だとか。
「ノーマルサイズ」「オーバーサイズ」というのは、パイプの太さを表します。
ノーマルサイズ: ダウンチューブΦ28.6mm / トップチューブΦ25.4mm
オーバーサイズ: ダウンチューブΦ31.8mm / トップチューブΦ28.6mm
ラグ
スチールフレームは、ラグ(上の写真のような金属パーツ)でパイプ同士を繋ぐ「ラグフレーム」と、ラグを使わずにパイプ同士を溶接する「ラグレスフレーム」に大別できます。
今回は「ラグ有り」を選択。
細山さん的には、ラグが有っても無くても性能的には大きく変わらないとのことだったので、ラグを差し色に使いたいという理由で「ラグ有り」を選択しました。
小物
ワイヤー受け等の取り付け方について、まずは「ブレーキはどちらが前か?」ということを聞かれました。左が前ブレーキなのか、右が前ブレーキなのかでワイヤーガイドの位置が変わるそうです。
私は右前ブレーキなので、ヘッドチューブ側のワイヤーガイドはトップチューブの右下に、シートチューブ側のワイヤーガイドはトップチューブの左下に付けることになりました。こうすることでヘッドチューブとアウターワイヤーが擦れることがなくなるそうです。
基本的に売っているフレームは左前ブレーキで組むことを前提にワイヤーガイドが設置されており、だから右前ブレーキで組むと不都合が出るということを今回初めて知りました。
リヤエンドは、定番のリッチー製のものを勧められるままに選択。その他、チェーンステーのワイヤーガイドと、ダウンチューブのワイヤーガイドについても決定。
ラグは、カラビンカのイタリアンショート。特に意匠などの工作は依頼していません。ステー形状は、半集合ステーでお願いしました。
特殊工作
オーダーフレームなので、その気になれば様々な特殊工作が可能ですが、今回お願いしたのは、ダウンチューブ下にボトルケージを付けるためのダボ穴のみです。
その他、キャリア用のダボ穴などは一切無し。あとの積載物は現代的なバイクパッキンググッズでなんとかするつもりでした。
フォーク仕様
一番紛糾したのがフォーク。私の当初の要件は以下でした。
②コラム径1-1/8のオーバーサイズ
③アヘッド式
①については、細山さん的にはストレートフォークは出来れば作りたくない様子。
「ベンドフォークが好きな細山さん VS ストレートフォークが好きな私」という構図です。ただ、私は先の方だけ曲がったクラシカルなベンドフォークが好みではないだけなので、クラウン近くから緩やかに曲げたベンドフォークにするということで落ち着きました。
②については、「強度的には1インチで十分」「1-1/8インチはフォークとヘッドチューブでかなり重くなる」「1-1/8のヘッドだとラグの選択肢が減る」という理由から、今回は1インチで作ってもらうことにしました。
元々は手持ちの1-1/8インチのカーボンフォークとの差し替えという目論見もあったのですが、それは一旦置いておくことにしました。
③についても、「スレッド派の細山さん VS アヘッド派の私」という構図に。ただ、今回はアヘッド派の私の意見で押し切りました。今まで集めたステムを使いたいので。
スレッド式は無段階でハンドルの高さを設定できるという利点は知っているんですが、現状スレッドステムの選択肢は少ないのでアヘッド式にこだわりました。
フォーククラウンの形状は、「なで肩(写真左)」「いかり肩(写真右)」とありましたが、なで肩を選択しました。こちらの方が重量はあるみたいですが、見た目が好みだったので。
フォークのクリアランスについては、ブルベで使用することも考えて、少し太めの26Cタイヤが入るクリアランスをリクエストしました。
カラーリング
塗装屋さんの用意したカラーチャートを元に各部の色を指定します。
今回、ラグはメタリックレッド、その他のパイプはパールブラックで依頼しました。メタリックレッドは色サンプルが合ったのですが、パールブラックはサンプル無し。という事で、過去の塗装屋さんの作例からイメージに近いものを指定してお願いしました。
ロゴは通常、ヘッドチューブ・ダウンチューブ・シートチューブの3箇所に入れられるのですが、今回はダウンチューブとヘッドチューブにロゴを入れてもらうことにしました。
揉めたのはロゴの色。てっきり塗装で作っているのだと思っていたんですが、デカールを埋め込んでいるとのこと。デカールのパターンは3種類です(白字に金縁、赤字に銀縁、黄字に黒縁)。当初は赤い文字でロゴを入れたかったのですが、白字を金縁取りしたロゴでお願いすることにしました。
修正後の完成イメージ(ロゴの色を変更)。
ヘッドパーツ
想定から完全に漏れていたのはヘッドパーツです。
ヘッドパーツの規格がITAかJISかによって、ヘッドチューブ径が微妙に変わるとのこと。
また、スチールの場合はヘッドチューブの下にもヘッドパーツが入ってくるので、ヘッドパーツの厚みでポジションが微妙に変わってしまうことも知りました。そのため、ヘッドパーツは予め用意し、それを織り込んだ設計にする必要があります。
後日、CHRISKINGのヘッドパーツを購入し、細山製作所宛に送付しました。
発注
こちらが出来上がったオーダーシートです。
内金を納め(今回は4万円)、住所や電話番号などを記入し、発注完了。合計料金は塗装の値段で変わるので、残りの支払いはフレームの納品時となります(最終的にはフレーム+フォークで15万円になった)。納期は3ヶ月が目安とのこと。
「糸魚川ファストランまでには間に合わせます。」
と言って頂きました。糸魚川まであと半年。組付けの時間を考えると、4月にはフレームを受け取る必要があります。
13時半に工房に入ったはずですが、発注を終えて外に出ると、既に真っ暗になっていました。こんなに時間が掛かる客も珍しいとのこと……失礼致しました。長く付き合うことになるはずの一台、やはり隅々までこだわりたかったのです。
オーダーの感想
これにて、一旦はオーダーが完了。あとは完成を待つばかり……なのですが、今回は塗装に出す前に、一旦無垢のフレームを見せてもらうお願いをしました。塗装前しか見られないものですので。
今回は初めてのフレームオーダーでしたが、オーダー時には決めるべきことが多くて驚きました。事前に書籍や経験者に話を聞いて、決めることは決めてからオーダーに赴いたつもりでしたが、それでも考慮から漏れていることが多かったです。
何事も、初めてやることには新鮮な驚きがありますね。