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フックレスリムのロードホイールを購入
フックレスリムのカーボンホイールを購入しました。「COG’S」というショップのオリジナル手組ホイールです。
購入まで
まずは購入までの経緯を書いていきます。
GE-110の設計前提
今年1月にGHISALLO「GE-110」を購入しました。
納車当初は26Cのクリンチャータイヤで乗っていたのですが、どうにも乗り味に違和感が。試乗した時の安定感と推進力が失われているように感じられたのです。
その顛末はこちらの記事に書いた通り。要約すると以下のような理由からでした。
- ロードバイクのフレームは設計時に「xxCのタイヤで乗る」ことを織り込んでいる。
- 10年前は23-25Cを前提に設計していたが、現在は28-30Cを前提に設計することが主流。
前提より細いタイヤではハンドリングが不安定になりやすい。 - GE-110の設計者曰く、「30Cのチューブレスを履くことを前提に設計している」
この話を聞いた後で試乗車の写真を確認すると……
確かに「30Cのチューブレスタイヤ」が装着されていました。
その後は設計前提に近い28Cのクリンチャータイヤを使用。若干ながらコーナーリングが内側に切れ込む感じは残るものの、かなりハンドリングは自然になりました。
最適な組み合わせの感触が気になる
ここで気になったのは、「設計者の考える最適な組合せで乗ったらどう感じるか」という点。
試乗時のGE-110の感触は素晴らしいものでした。30Cというタイヤの太さを感じさせない漕ぎの軽さ。それでいて失速感が少なく、コーナーリングの安定感も素晴らしかったのです。
28Cクリンチャーでもそれに近い状態に持ってはいけたものの、30Cチューブレスに変えたらどうなるのかが気になってきました。
どうせならフックレス
さて、GE-110の件とは別に少し前から気になっていた技術が「フックレス」です。
2020年頃に突如登場した「ロード用フックレス」という概念。その名の通り、タイヤを引っ掛けるフックが存在しないリムを指します。
フックレスの利点は以下の通り。
・軽い
→ フックが無い分軽量化でき、フックありに比べて前後で100g程度軽い。
・値段が安い
→ 不良品率が低くなるため、製造コストが下がり、売値も下がる。
・転がり抵抗が低い
→ タイヤの変形量が減るため、転がり抵抗が減る。
・乗り心地が良い
→ 低圧かつエアボリュームが増えるため、乗り心地が良くなる。
色々利点はあるのですが、「(基本的に)チューブレスタイヤのみしか使えない」という制限があります。
その年のうちに試乗した際は好感触でしたが、導入までには至っていませんでした。
それから数年、プロレースの現場でもフックレスリムのホイールが使われるようになってきました。色々と問題は起こっているものの。タイヤメーカー側もフックレス運用を意識したタイヤを発売してきました。
経験則ではありますが、同じ「30Cのチューブレス」でもフックドリムとフックレスリムで比べた場合、後者のほうが走りが軽い印象があります。
以前からフックレスリムに興味があったこともあり、「どうせ30Cのチューブレスを導入するのならばフックレスリムを使ってみよう」と思い立ちました。
安価なフックレスホイールを探す
とはいえ、フックレスリムを選ぶということは、実質「チューブレスしか使えない」ということです(iRCのフックレス対応クリンチャータイヤという逃げ道は一応ある)。
私は過去に何度もチューブレスに挑戦しては挫折してきた人間なので、今回もそうなる確率が7割くらいはありそう。「やっぱダメだ」となっても何とか耐えられるくらいの値段にしておく必要があります。
フックレスを出す大手ブランド
フックレスリムのロード用ホイールを出している大手ブランドは「GIANT(CADEX)」「ENVE」「ZIPP」が挙げられます。
ENVE・ZIPP・CADEXは高級ホイールです。今回はどう考えても予算対象外。
庶民の味方のはずだったZIPP 303S。発売当初は141800円だったのに、現在は223800円まで値上がっています。「フックレスにすれば製造コストが抑えられる」って話はどこ行った?
残るはGIANTですが、GIANTのフックレスリムはどれも内幅が22.4mmです。昨今はクリンチャーでも内幅23mmなんてのが登場しており、22.4mmというのはフックレスにしてはちょっと狭い印象です。
ショップの手組ホイールに目を向けてみる
大手ブランドには、私の求めるスペックと値段を満たすものはなさそうでした。そこで、比較的安価に購入することが出来る手組ホイールに目を向けてみることに。
国内にも手組ホイールを得意にしているショップがあり、自社サイトでオリジナルスペックの手組ホイールを販売している場合があります。有名な所ではPAX CYCLEや、OVERWHEELなど。
ただ、ロード用フックレスというのはまだまだマニアックな選択肢であり、レディメイドのホイールとしてラインナップしているショップは多くありません。
COG’Sの手組ホイール
そんな中で、フックレスリムのホイールをラインナップしているショップが、今回ホイールを購入した「COG’S」です。狛江に実店舗があるショップですが、通販がメインの様子。
Twitterの自転車界隈でも、やくもさんやつむりさんが利用しており、ホイールの品質は良さそう。
ラインナップは豊富。そして何より安い。ボリュームゾーンは10万円台前半で、今回の予算にもマッチしていました。
ポイントが高いのは、基本的に「ホールレス」のリムを採用している点。
「ホールレス」とは、リムにニップルホールが無くチューブレステープが不要であることを指します。カンパ/フルクラムやMAVICの高級ラインで採用されていますが、ホールレスのリムを採用しているメーカーは多くありません。
チューブレス運用をする上でホールレスはメリットが大きいです。チューブレスでよくあるトラブルが「チューブレステープの貼り付けミスや劣化による空気漏れ」ですが、ホールレスのリムではこれが起きません。
個人的にはホールレスのリム以外ではチューブレス運用をやりたくないと思っていたので、COG’Sが「フックレス」かつ「ホールレス」のリムを採用していたのは渡りに船でした。
……というより、「フックレス」かつ「ホールレス」のリムって、多分ZIPPやENVEにも無いんですよね(アルミリムならMAVICが出している)。なかなか攻めたことをやっているショップです。
心を決めて、ホイールを注文。40mmハイトのフックレス仕様としました。
本来こちらのホイールは後輪が45mmハイトなのですが、リムの内幅が前輪と異なっている点が気になりました(前輪24mm/後輪22mm)。今回は内幅を広めにしたかったので、後輪も前輪と同じリムで組んでもらうように仕様変更をお願いしています。こうした仕様変更に柔軟に応じて頂けるのも手組の良い点ですね。
ホイール完成
納期は「1ヶ月前後」とのことでしたが、注文から配達まで1ヶ月と2週間ほどでした。
宅配便で届きました。
COG’S「DR40HL-DB Aero-SP」
フックレスリムのカーボンホイール、COG’S「DR40HL-DB Aero-SP」のファーストインプレッションです。
ホイール各部
まずはホイールの各部を見ていきます。
リム面
無地です。デカールなしの無国籍仕様。
角度によってはUDカーボンっぽい繊維の筋が見えます。
ハブ
オーソドックスなセンターロックハブ。後述するホイールの重量から考えると、ハブの前後重量は330g前後になりそうです。
スポーク
スポークはCX-RAY。Jベンドではなくストレートプルスポークです。
リムベッド
フックレス・ホールレスのリムです。最大気圧は5barまで。
確かにフックはありません。
リムの断面図はこちら。フックはありませんが、脱落防止のハンプ(突起)が付いています。
重量
前輪が617g、後輪が721g。合計で1338gです。
40mmハイトのカーボンホイールとしては中々軽めに仕上がっています。
組み合わせるパーツ
ホイールに組み合わせるパーツの紹介です。
チューブレスレディというシステムは「組み合わせるパーツの相性」が非常に大事。これがダメだと空気が漏れたりトラブルの原因となるため、相性を考慮して慎重に吟味する必要があります。
COG’Sのホイールはホールレスなので、チューブレステープを考えなくてよいのがありがたいです。一つトラブルの原因が消せますからね。
バルブ
チューブレスバルブは、COG’Sが推奨しているDT SWISSの53mmバルブです。
バルブの底面形状とリムの断面形状がマッチしていないとバルブの根本から空気漏れをすることがあるので、ここはかなり相性が出る部分。販売側が相性を検証して指定してくれてるのはありがたいですね。
タイヤ
タイヤは、先日発売となったばかりのHutchinsonの新作タイヤ「BLACKBIRD TLR」の30Cを選択しました。
ロード用チューブレスの始祖たるHutchinsonが4年ぶりに出した新作タイヤ。かなり評判も良さそうでしたし、新機軸も色々と盛り込まれているのでこちらを試すことにしました。もちろんフックレスにも対応が明言されています。
実測重量は、308g/312g(公称310g)。
シーラント
当初はマクハルを採用予定でしたが、施工に失敗。そこで、imeziのシーラントを使うことにしました。以前、AGILEST DURO TLRを組み付ける時に採用して良い感じだったので。
シーラントと言うと、「パンクした時に穴を自動的に塞いでくれる」という役目が最初に思い浮かびますが、本来の役割は「最初の組付け時にバルブやビードとリムの間の微小な隙間を埋める(シールする)」ためのもの。
imeziのシーラントは後者の性能が非常に高いです。シーラントを入れた状態で10kmも走行すれば、微小な隙間は埋まり、ブチルチューブ運用のクリンチャーより空気圧の低下が遅くなります。
このシーラントはOKOという、イギリスのシーラント専業会社が作っているようです。元々は重機や農機具用のシーラントが専門のようですが、自転車用のシーラントもプロチームに供給しているとのこと。
組付け
初めてのフックレスリムへのチューブレスタイヤ取り付けです。
タイヤをリムに取り付け
リムとタイヤの相性は悪くないようで、9割は手ではめることができました。最後の1割はタイヤレバーを使って取り付け完了。特に苦労することはなかったです。
ビード上げ
フロアポンプではビードは上がらず。
ここで電動携帯ポンプの存在を思い出し、せっかくなので使ってみることにしました。
ダメ元でやってみましたが、普通にビードが上がりました。
一瞬で送り込む空気量はフロアポンプの方が多そうですが、途切れることなく空気を送り込める電動携帯ポンプはビード上げに向いてるのかもしれません。
シーラント注入
空気を抜いてバルブコアを外し、imeziのシーラントを注入。今回は前後ともに50ml入れました。
実走で馴染み出し
10kmほど実走し、シーラントの馴染みを出しました。
翌日の気圧は前後ともに0.1-0.2気圧程度しか落ちていませんでした。やはりimeziシーラントの組み付け時シール能力は高いですね。
実測タイヤ幅は31mm。リム幅は30.7mmだったので、ほぼタイヤとリムがツライチに。
実走の感想
まだ走行距離は30kmほどですが、今のところの感想を書いておきます。
SRAMの空気圧計算サイトで今回の条件を入れると、前:3.8気圧、後輪:4.1気圧が適正と出ました。通常のフックドリムのチューブレス30Cよりも更に1気圧ほど低いですね。
ZIPP303Sの試乗でも体感しましたが、この低圧でも腰砕け感が無いのは不思議です。サイドのコシは十分に感じられます。
乗り心地は非常に良く、転がりも軽い。多少の段差であれば何事もなかったかのように失速せずに転がっていく感触があります。漕ぎ出しはちょっと重いですが、スピードに乗ってしまうと維持は楽。
ただ、これらの感想が「タイヤの影響」「ホイールの影響」「フックレスリムの影響」のどれによるものなのかはまだ判別できていません。今回はタイヤもホイールもシステムも変更してしまったので差分の検知が難しいですね。
あ、コーナーリングの際の挙動も28Cクリンチャーよりも自然になりました。これはタイヤ幅が30Cになった影響だと思われます。
今のところ、ホイールの左右差のようなものは感じませんし、触れらしきものも皆無です。
まとめ
フックレスリムを導入してみたファーストインプレッションでした。
「世界が変わった!」みたいな変化はありませんが、感触は良かったです。
今度こそはブルベにも投入したいと思っていますが、そのためには「チューブレスでパンクしたときの行動フロー」を確立しなければならないなーと思っています。
サイクルキューブの店長に聞いてみた所、こんな回答でした。
私なら、シーラントで塞がらなかった時点でビードを落としてチューブを入れちゃいますね。
imeziのシーラントは固まりにくく、ウェスがあれば綺麗に拭き取れるので、ウェスを持参します。タイヤの裏を拭いたらタイヤブートを貼り、チューブを入れて普通にクリンチャー運用に切り替えます。
突き刺し系の修理用具(ダートツール等)はオフロードタイヤくらい幅があれば役立つそうですが、ロードタイヤくらい細いと中々修理が難しいそうで。それなら落としやすいシーラントを使い、パンクしたら割り切ってチューブをいれるほうが良いだろう……とのことでした。
とりあえずその運用でしばらく試してみようと思います。
著者情報
年齢: 39歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: GHISALLO GE-110(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)
# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。