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MICHELIN POWER CUPは新ETRTO準拠ではない?
ミシュランの新ロードタイヤ「POWER CUP」のデリバリーが始まりました。
ただ、買った人の話を聞くと、どうも新ETRTOに対応していない様子だったので、その内容を纏めてみました。
POWER CUP発売
ミシュランのロードタイヤの最新版「POWER CUP」が発売となりました。
2月、発表
こちらのタイヤは、今年2月にひっそりと公式サイトで発表されました。

その際に書いたのがこちらの記事です。まだプレスリリースも出ておらず、公式サイトにアップされた情報のみをもとに書いた記事なので多分に推測が含まれています。
4月、現物とご対面
4月のサイクルモードでは、代理店の日直商会のブースにPOWER CUPの現物が出展されていました。
出展されていたのは23Cのクリンチャーと、チューブラーのみでした。ブースの方の話によると、当日の朝になって来たとか。
6月、デリバリー開始
当初の報道では5月にデリバリー開始とのことでしたが、結局6月にデリバリーが開始されたたようです。
ミシュラン、パワーカップ着弾。
交渉重量215gに対し、実測は216.9g、216.8g。お値段7700円なり。#michelinpowercup #michelintyre https://t.co/Mzj9o91uGG pic.twitter.com/aBcW9hlhTW
— ラルート (@laroutejapan) June 28, 2022
Twitterのフォロワーさんのもとにも次々と着弾しているようで、ここ数日は毎日のようにパッケージ写真を見ています。
ケーシング幅に違和感
さて、そんなPOWER CUPですが、どうにも妙な点がありまして。
具体的には、他社の2022年発売のロードタイヤが「新ETRTO(ETRTO Standards 2021)」準拠のタイヤを出してきているのに対し、POWER CUPは「旧ETRTO」準拠っぽいプロファイルとなっているのです。
つまり、ワイドリム用というよりはナローリム用の設計に見えるということになります。
発端
それに気づいたのは、La route公式アカウントのツイートを見た時です。
パワーカップがこちらです😁 pic.twitter.com/fOTg3vWYoA
— ラルート (@laroutejapan) June 28, 2022
POWER CUPクリンチャーの25Cのケーシング幅を計測して頂いたのですが、その幅がなんと68mmもあったんです。
「なんのこっちゃ」と思われる方も多いと思うので、この後詳しく説明します。
リムのワイド化とタイヤの変化
まずはこちらの表を見てください。
こちらは私が長年個人的に記録している、タイヤのケーシング幅の記録です。
ケーシング幅は、このようにタイヤを裏返した時の全幅を指す言葉です。
まず1つ知っていただきたいのは、「自転車用タイヤには、設計前提のリム内幅がある」ということです。「内幅がXXmmのリムに取り付けたときに、想定通りのタイヤ形状になる」と言い換えることも出来ます。
2010年後、ロードタイヤの設計前提のリム内幅は15mmでした。それは、当時販売されていた多くのロードホイール(レーゼロとかシャマルとか)のリム内幅が15mmだったからです。

しかし、2014-5年頃に突如「ワイドリム」ブームが起こります。15mmが当たり前だった内幅は、17mmに拡大されていきました。
それに伴い、タイヤの設計前提のリム内幅も17mmに切り替わりました。2014~2021年までに発売されたロードタイヤの多くは、内幅17mmを前提として設計されている(はず)です。

そして2021年、1つ大きな出来事が起こります。「ETRTO Standards 2021」が制定されました。
ETRTOはヨーロッパの標準化規格ですが、自転車の文化的な中心地がヨーロッパであることから、事実上の世界標準規格となっています。
その新ETRTOでは、「25-28Cのクリンチャータイヤは内幅19mmのリムを前提として作ること」と制定されました。17→19mmと、更に2mm拡大されたわけです。
2021年に制定された新ETRTOが反映されたタイヤが発売されるようになったのは、2022年から。AGILESTやASPITE PROという新しいクリンチャータイヤは新ETRTOに対応しています。
リム内幅とケーシング幅の関係
さて、設計前提のリム内幅とケーシング幅には、以下の相関関係があります。
「設計前提のリム内幅が広くなると、タイヤのケーシング幅は狭くなる」
目安として、設計前提のリム内幅が2mm広くなると、タイヤのケーシング幅は4mmほど減ります。
具体例をあげると、内幅17mm前提の25Cタイヤのケーシング幅は65mm前後でしたが、内幅が19mmの25Cタイヤのケーシング幅は61mm前後になります。上で示した表でもその通りになっていることが確認出来るはずです。
10年前の25Cタイヤといえば240-250gあるものが普通でしたが、現在は190-210g程度まで軽くなっています。これは、設計前提のリム内幅が太くなったことによって、ケーシング幅が狭くなったことが大きく影響しています。ケーシング幅が減れば使う材料が減るわけで、当然軽量化されるわけですね。
POWER CUPのケーシング幅
ここで改めて、POWER CUP 25Cのケーシング幅を振り返ってみましょう。68mmです。相場よりも7mmくらい幅広なんですよ。
更に、POWER CUP 23Cを買った知人にケーシング幅を測定してもらいました。
60mm。これも現代の23Cタイヤとしてはかなり幅広です。新ETRTOでは「23Cタイヤは、内幅17mmを前提とすること」とされていますが、その場合のケーシング幅は57mm前後になるはずです。

自転車タイヤの転がり抵抗測定で有名な「BRR」には、クリンチャーではなくチューブレスレディ版のPOWER CUP 25Cの測定データが掲載されています。
こちらのサイトもケーシング幅を計測しているのですが、71mmもあったようです。クリンチャーよりさらに幅広。
更に、タイヤをリム(内幅17.8mm)に取り付けた時のタイヤ幅は28mmもあったようです。25mmタイヤが28mmタイヤになっちゃうわけですね。これは明らかにおかしい。
Road.ccのレビューでも、POWER CUP 28Cをリム(内幅19.5mm)に取り付けた時のタイヤ幅は30.4mmとの記載があります。+2.4mm。
これ、新ETRTO対応じゃないのでは……?
さて、改めて先程の表を見てみましょう。
POWER CUP 25Cとケーシング幅が近いタイヤを探してみると、「内幅15mm時代の25Cタイヤ」と「内幅17mm時代の26Cタイヤ」が該当することが分かります。
このことから推測されるのは、「POWER CUPは旧ETRTO準拠に設計されたタイヤかもしれない」ということ。つまり、内幅15mmや17mmの、ナローリムに取り付けた時に最適な形状となる可能性が高いということです。
先程のBRRの実験で「POWER CUP 25Cを内幅17.8mmのリムに付けたときのタイヤ幅が28mmになった」という結果からも、このタイヤの設計前提のリム内幅は17.8mmより小さいことが示唆されています。
内幅17mm前提か、下手をすると内幅15mm前提で設計されている可能性もあるでしょう。
何が問題か
新ETRTOに対応してないと何が問題か?
それは、昨今メジャーとなっている内幅19mmや内幅21mmのリムに取り付けた際に、表記のタイヤ幅よりかなり太くなってしまうということです。
実際に試したわけではありませんが、恐らく内幅19mmのリムに取り付けた時、POWER CUP 25Cの幅は27-8mm程度になると推測されます。前述のBRRやRoad.ccの記事で表記幅よりも2-3mm太くなっているのを見ると、そうなる可能性は高いはず。25mm幅を期待して購入したのに、28mm。それでは話が違うということです。
あと、幅が28mmになるのにトレッド幅は25mm相当なわけで、カーブ等でサイド部分が接地しないかが気になるところです。
空気圧も問題になりますね。28C相当の太さになるわけですから、ある空気圧に達するために必要な空気量は当然増えます。タイヤ幅が25Cのタイヤに比べて、6気圧に持っていくのに必要なポンピング回数は相当増えるでしょう。
逆に、今姿を消しつつある内幅17mmや15mmのリムを使っている人にとっては吉報となる可能性もあります。どんどんとナローリム前提のタイヤが消えている中、選択肢が増えることになります。
ただ、ナローリム前提で設計された25Cタイヤの重量が215gというのは、ちょっと軽すぎて怖いですが……。
その他追加情報
昨今のタイヤには大抵入っている摩耗インジケーター(スリップサイン)ですが、POWER CUP 25Cには入ってないそうです。
インジケーター(スリップサイン)はありませんね👀 pic.twitter.com/GW8xFLNxeH
— ラルート (@laroutejapan) June 28, 2022
一方で、POWER CUP 23Cにはインジケーターが付いています(写真提供: GUTTIさん)。
前作「POWER ROAD」は25Cにもインジケーターが付いていたはずなんですが、それを省いた理由が良く分かりません。
まとめ
「POWER CUPは新ETRTOには対応していないのではないか?」という多分に妄想の入った記事をお送りしました。
「2022年発売」ということで、当然「新ETRTO準拠」と思いこんでいたのですが、ミシュランのサイトを見てもそんなことは一言も触れられていませんでした。
新ETRTO準拠のタイヤを発売したメーカー(Panaracer, iRC, Vittoriaなど)はパッケージにわざわざ「2020 ETRTO STANDARDS」のような記載をして、新ETRTOへの準拠をアピールしています。しかし、ミシュランはそうではない。
パッケージもかなり簡素。「新ETRTO対応」や、「リム内幅**mmに付けた時に、幅が**mmになります」といった記載もありません。
邪推ではありますが、新ETRTOの発表前に設計を始めてしまい、泣く泣く旧ETRTO準拠で販売した……なんてこともありそうですね。世界で3指に入るタイヤメーカーであるミシュランが新ETRTOを無視するってのも不自然な話なので。
海外サイトの計測によればPOWER CUPの転がり抵抗の数値はかなり良いらしいので、小さな話かもしれません。ただ、内幅にこだわってきた私としては捨て置けなかったので記事にさせて頂きました。
著者情報
年齢: 37歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: BIANCHI OLTRE XR4(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)
# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせて頂きました。
コメント
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