まずは、フレームとドライブトレイン周りから。
基本的には流行った時期が古い順に紹介していきます。
フレーム周り
フレーム関連の技術を挙げていきます。フレームはブレーキと切っても切り離せないため、ブレーキ周りの話もこちらに含みます。
カムテール形状
2021年現在も続くエアロ化の流れの始まりは、SCOTTの初代FOIL(2011年発売)だったと思います。
カーボンロードバイクのトレンドを作り出してきたSCOTT(スコット)が、また新しい観点からロードバイクを作り出した。次な…
FOILは「カムテール」という独特のフレーム形状を引っさげて登場。翌年から他メーカーもこぞって真似をし、カムテールはロードバイクフレームのエアロ化手法として最も一般的なものになりました。
それまでの「エアロロード」の形状といえば、Cerveloのソロイストカーボンに代表される「平べったい」ものが主流でした。
確かにこれはこれで空力的には良かったのですが、平べったい形状は「横に柔らかく、縦に硬い」「重くなりがち」という弱点がありました。
そこを克服すべく用いられた技術がカムテール(リンク先写真の一番右)です。
涙滴形状の後ろ半分を切り落としたような断面形状を持ち、剛性を犠牲にせずに空力性能の向上を実現しました。
初代FOILは私も長いことレース用として愛用した一台です。
乗り心地はそこまで良く無かったですが、巡航・加速ともに高性能でした。重量も900gほどと軽量で、ヒルクライム大会でも好成績を挙げることが出来ました。
また、カムテールと「リヤ三角のコンパクト化(シートステーとシートチューブの接合部を下げる)」を併用したフレームも流行りましたね。これもエアロ的な理由だったはず。
同じくエアロ化を狙った「臼式シートクランプ」も現在進行系で流行っていますが、どうもこれはクロモリフレーム時代にもあった仕組みのようですね。
ダイレクトマウントブレーキ
カムテールからのエアロ化の流れの中で登場したパーツが「ダイレクトマウントブレーキ」です。
「シートポストの後ろの位置にブレーキキャリパーがあると空気の流れを乱す」という理由で、チェーンステー下(BBの横)にブレーキを付けたフレームが一時的(2014~2017年くらい)に流行しました。
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元々はシマノとトレックが共同開発したもので、当初は「インテグレーテッドブレーキ」と呼ばれていたようです。
写真の中で矢印で示した場所にリヤブレーキが付いています。
「空力性能がいい」「シートステーを強化しなくて良いので乗り心地が良くなる」「重心が下がって安定する」などのメリットが謳われていましたが……
それ以上に、「メンテナンスがしにくい」「制動力が弱い」「クランク型パワーメーターと干渉する」という大きすぎる弱点を抱えていたため、徐々に姿を消していきました。
私もBOTTECCHIAのT1 Tourmaletという、このシステムが導入されたフレームを持っていましたが、ホントに使いにくかったです。
その後、リヤブレーキの位置は何事もなかったかのようにシートステーの上部に戻りました。
ただ、2本のボルトでフレームにブレーキキャリパーを固定する「ダイレクトマウント」という方式は残りました。それまでのボルト1本式のブレーキキャリパーに比べ、片効きになることが少なく、安定した制動力を出せることが理由だと思われます。
フォーク内蔵ブレーキ
ダイレクトマウントブレーキと同時期に流行ったのが、フォーク内蔵ブレーキです。これも狙いは空力性能でした。
自転車大国・ベルギーに根ざすリドレーの新たなるチャレンジが、エアロプロジェクト"FAST"。多くのテストを重ねて生み出さ…
先鞭をつけたのはRIDLEYの「NOAH FAST」だったと思います。フォークの後ろ側にオリジナルのブレーキを取り付け、空力性能を高めたと胸を張っていました。ブレーキとしての出来がアレだったようですが……
その後、TREK「MADONE」、GIANT「PROPEL」、LOOK「795 AEROLIGHT」など、オリジナルのブレーキをフォークに内蔵したエアロロードが多数リリース。
しかし、その後すぐに訪れたディスクブレーキ化の波に飲まれ、今ではほぼ消滅しています。
RIDE LIFE. RIDE GIANT. わたしたちGIANTは、魅力的で幅広い製品ラインナップを通じて、世界中の人…
かろうじて、GIANTのPROPELは現在でも買えるようですが……。
ディスクブレーキ化
ここ10年どころか、ここ100年で最大の変化が「ディスクブレーキ化」です。
スルーアクスル化、センターロックのローター、フラットマウント等々、様々な新規格がロードバイクに投入されました。
ディスクロードの登場から現在までの歴史を纏めました。 導入 2021年現在、ほぼ全てのロードバイクメーカーのトップモデルはディスクロードに置き換わりました。 私がロードバイクを始めた2009年時点では、ディスクロードは影も形もあり[…]
その辺りの歴史的な経緯は↑の記事に書いたので、ここでは詳しく書きません。
2021年にはついにグランツールの総合優勝もディスクブレーキが手にし、事実上のブレーキシステムの移行は完了してしまった感があります。
今年は新型デュラエース・アルテグラの発表もありましたが、事実上のディスクブレーキ特化でした。リムブレーキ用は前世代からのマイナーチェンジのみ。最大の売りである無線変速もリムブレーキ用には導入されませんでした。
私も昨年から2度目のディスクロード投入にトライ中。
2015年の1度目の投入時と同様またしても不満が色々出てきましたが、EQUALブレーキの登場によって随分と乗りやすくなり、最近は使用機会が増えています。
ケーブル完全内装
ディスクブレーキ化+エアロ化の2つの流れを受けて、現在進行系で流行しているのが「ケーブル類の完全内装」。
ハンドルとステム内にシフト用・ブレーキ用のケーブルを通すことで、ハンドル周辺の空気抵抗の低減を狙ったわけです。
ハンドルとステム内にケーブルを通すと、ケーブルは内部で大きく屈曲します。ワイヤー引きのシステムでは、屈曲によって引きが重くなってしまうため実用的ではありませんでした。
しかし、油圧ディスクブレーキと電動変速(無線変速)の一般化により、多少のケーブル屈曲は許容出来るようになり、完全内装が進められていったわけです。
「空気抵抗が減る」「見た目がスッキリする」という利点がある一方、「メンテしにくい」「ハンドルの上げ下げが気軽にできない」等の弱点もあります。
ケーブル完全内装でよく使われるのが、この手の「ステム一体型ハンドル」です。
完全内装にステム一体型ハンドルが必須ではないのですが、ケーブルをハンドル内に通す上では都合が良いためか、ほぼ完全内装とセットで流行。
ハンドルとステムを別々に取り付ける方式よりも軽量・高剛性に仕上がりやすいですが、当然ながら「ハンドルがちょっと遠いな(近いな)」と思っても交換出来ませんし、ハンドルの送り・しゃくりも不可です。
ドライブトレイン周り
次はドライブトレイン周りの新技術です。
電動変速については2011年段階で既にグランツールで一般化していたため、今回の記事では対象外としています。
無線変速
2009年に登場したシマノのDi2は瞬く間に広がりました。2011年にはCampagnoloも電動変速システム「EPS」を発表。グランツールのプロトンでは電動変速が当たり前になりました。
Di2・EPSは変速のための電気信号をケーブルによって伝達していましたが、電気信号ならば無線での伝達も可能。
ドイツ・フリードリフィスハーフェンにて開幕した世界最大のバイクショー「ユーロバイク」。その初日にあたる8月27日、スラム…
大手メーカーで最初に無線変速を発表したのはSRAM。2015年に発表された「eTap」は衝撃を持って迎えられました。
FSAより、自分の思い通りの設定が簡単にでき、正確かつスムーズに変速する革命的なコンポーネント「K-FORCE WE」が…
2018年にはFSAがセミワイヤレス変速の「K-FORCE WE」を発表。
フルモデルチェンジが噂されていたシマノ・デュラエースが、ついにそのベールを脱いだ。ロードレーシングコンポとして通算10代…
業界の盟主・シマノも2021年にはデュラエースとアルテグラのセミワイヤレス化を発表。今後、無線変速が一般化するのは間違いないでしょう。
(追記)
ホイールを中心に自転車機材に革命をもたらしてきたマヴィックは今年、創業125年を迎えた。ここでは歴史を振り返りながら、マ…
1999年段階でMAVICが無線変速システムを発表してはいますが、一般化はしませんでした。品質に色々と問題が会ったようで。
今でもたまに老舗の自転車屋に在庫が残っていたりします。
楕円チェーンリング
2012~15年頃まで大流行したのが、O.symetricやROTORに代表される楕円チェーンリングです。
1983年にシマノが「バイオペース」なる楕円チェーンリングを発売しましたが、そこから30年経ってリバイバルブームが訪れました。
キッカケは、前述のウィギンスのツール・ド・フランス優勝だったと思います。
チームメイトで翌年からツール・ド・フランスを4度制覇するクリス・フルームもO.symetricの楕円チェーンリングを愛用していました。ちなみに彼は2021年現在も楕円チェーンリングの愛用者です。
現在はフルームの支配力も薄れ、楕円チェーンリングは下火模様。しかし、一定期間ごとに流行することから、また流行るかもしれません。
フロントシングル
フロントのディレイラーを使わない「フロントシングル」スタイルもこの10年で流行った技術の一つです。
1961年にイタリア・トリノで創業。世界のトップレーサー達も信頼するスポーツサイクルパーツブランド 3T Cycling…
フロントシングルのアイコンと言えるのが、2018年に発表された3Tの「STRADA」だったと思います。
SRAMのフロントシングル用コンポーネント「1X」を搭載し、「フロントディレイラーを省き、空力性能を改善」「軽量化を実現」という利点を打ち出していました。
プロレースの現場にも投入され、「Aqua Blue Sport」というチームが使用していましたが……
Former national champion cites 1x bike as chief reason behin…
どうも選手には不評だったようです。「ギヤが足りない」「チェーン落ちしやすい」などなど中々の罵声が飛び交っています。
結局ロードレース界では3Tを追いかけるメーカーは現れませんでした。その一方でグラベルロード界においてはフロントシングルのフレームは増えてきています。再度、ロードレースの舞台にフロントシングルが登場する機会もあるかもしれませんね。