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PBP 2023 走行計画の立て方
PBPの走行計画の立て方について解説します。
なお、本記事では「90時間部門」に参加される方を前提にお話しています。
はじめに
ブルベの走り方は人それぞれだと思いますが、PBPにおいてはある程度の走行計画は立てておいたほうが良いと思います。
走行計画について
私個人の話をすると、走行計画をガチガチに立てて、それを守るように走るタイプです。
こちらの記事に書いたように、独自の計画用のExcelシートを使って、走行計画を立てています。
私の場合、24時間で終わる東京大阪キャノンボールや、400kmのブルベまでは大体計画を守って行動出来ます。
しかし、それ以上の時間になると、大抵計画通りには行きません。走行時間が24時間を越えると仮眠が挟まってきますし、想定外のトラブルも起きがちです。キャノボと違ってブルベは天気が選べないので、向かい風や雨による遅れも出るでしょう。
PBPは90時間。約4日間です。そうそう計画通りに行くことはありません。
ただ、行き当たりばったりに走っても「果たして自分は完走できるのか」というのが道中全くわからない状態に陥る可能性が高いです。圧倒的な走力(国内600kmブルベで30時間を切るくらい)があれば別ですが。
一般的なランドヌールの方は、
「折り返しのブレストには○○時間で着きたい」
「ゴールまで残り200kmのヴィレンヌでは△△時間残しておきたい」
と言った「ある程度の目安」を自分の中に持っておくことをオススメします。
目安より先行していれば仮眠の時間を増やせますし、目安より遅れていれば少し急ぐ必要があると分かります。
その目安を定めるために「走行計画」が必要なのです。
走行計画の基準
PBPの走行計画の基準になるものは何かと言えば、公式から参加者向けに提供されている資料の中にある「Control Timetables」です。
こちらの記事の「2023-GB-J | Control Timetables」で紹介している資料で、各PC(チェックポイント)のクローズタイムが書かれています。
各PCには、このクローズタイム(Closingと書かれている列)より前に到着する必要があります。
通過時刻はどのタイミングで取得されるのか
日本のブルベであればレシートの刻印時刻がPC通過時刻に使われます。
一方、PBPでは「PC入り口に設置されたセンサーを自転車が通過した時刻」が使われます。
こちらのフレームバッジに埋め込まれたタグ(B-TAGと書かれている部分)を、PC入り口のセンサーで読み取った時刻が自動的に記録される仕組みになっています。
ポイントは、このタグを読み取るセンサーは「PCとなる施設の敷地入口」付近に設置されているということです。
こちらの記事に書いている通り、PBPのPCに指定されるのは夏休み中の学校が多く、非常に敷地が広いです。ブルベカードにスタッフによるサインをもらう「Controle」という場所に行くのにも、敷地に入ってから5~10分程度は掛かります。
「早くブルベカードにサインを貰わなければタイムアウトになる!」と慌ててControleに向かう人も多いのですが、焦ることはありません。PCの敷地に入った時点で既にあなたは到着時刻を記録されているからです。
PBPのルールでは明言されていませんが、「クローズタイムに間に合っているか」の判定に使われるのは、ブルベカードにスタッフが記入した時刻ではなく、センサーの通過時刻になっています。これは、スタート時も、ゴール時も同じです。すべてセンサー通過時刻が基準です。
もちろん、スタッフによるブルベカードへのサインが無いと認定はされないはずですが、そこに書かれている時刻は特に使われてはいないということです。気にすべきは、センサーの通過時刻です。
こちらのセンサー通過時刻は自動的にネットにアップロードされ、トラッキングシステム(現時点では非公開)にアクセスすることで確認可能です。
ちなみに、2015年大会では、計測するためのタグは「自転車」ではなく「人」に付けられていました。足首に巻くバンドにタグが埋め込まれていたのです。
タグを読み取るセンサーはPC入り口ではなく、建物内のControleの入り口に設置されていました。つまり、さっさとControleに行かないとセンサーを読み込んで貰えなかった(=PCに到着したとみなされなかった)わけですね。
計画の立て方
これらを踏まえて、どのように計画を立てればよいか?
一言で言ってしまえば、「クローズタイムより前に各PCに到着できるように計画を立てれば良い」のですが、それが案外面倒くさい。
ということで、出来る限り簡単に計画を立てるためのツール「PBP2023_計画シート」を作成しました。
- スタート時刻
- 目標区間時速
- PC滞在時間
の3項目を入力することで、計画が妥当であるかを確認できるツールです。使い方はファイル内に書いてあるので、そちらを参照してください。
1日で作ったツールなので、バグ等が残っている可能性があります。何かあっても責任は取れませんので、自己責任でご利用をお願いします。
こちらのグラフも自動的に作成されます。
3本の線がありますが、一番右にある点線が各PCの「クローズ時刻」を表しています。いわば「足切り線」ですね。
真ん中の緑の太線が、「計画値」です。この線が、足切り線より右に来たらタイムオーバーしているということになります。
また、網掛け部分は夜の時間になっていて、「どの辺りで日没を迎えるか」「仮眠時刻は妥当か」などの検討を行うことも可能です。特にフランスは日没も日の出も日本より2時間くらい遅いので、数字だけ見てると感覚が狂うんですよね。
なお、このツールは私のオリジナルではなく、アメリカのブルベ団体「Randonneurs USA」の提供しているツール「PBP Planner」の真似です。
2019年大会までは提供されていたのですが(私も2019年の計画時に使用しました)、今大会は提供されていないので真似して自作しました。
また、アメリカのツールなのでマイル単位だったこともあり、なかなか日本人には理解しにくかった点も自作した理由です。
RUSAのツールではPC間の走行中の停止時間(恐らく私設エイドでの停止を想定したもの)が入力できるようになっていますが、私のツールではこの機能は省きました。目標区間時速で調整して頂きます。
計画表の運用
作成した走行計画表ですが、実際の走行中にも常に確認できるようにしておくと便利です。
私は印刷したものをラミネートし、フロントバッグに入れていました。表は往路分、裏は復路分の情報が書かれています。
これを見て、リアルタイムに計画との差を確認つつ走っていました。今回も同様に実施する予定です。
走行計画作成のヒント
PBPは通常の国内ブルベと違い、計画を立てる上でいくつか知っておくべき「クセ」があります。
これを踏まえて走行計画を作成してください。
夜が4回ある
PBPの制限時間は90時間。約4日間です。
朝スタートの1200kmならば夜は3回しかありません。しかし、PBPは夜が4回あります。
PBPは夕方スタートなので、スタート直後に1度目の夜を迎えるわけですね。
その後、3度の夜を越え、4度目の夜明けを迎えたあとの昼間のゴールになる人がほとんどでしょう。
人間、一晩に一睡もしないと後にシワ寄せが来るものです。
たかが睡眠不足と侮るなかれ。睡眠不足は体調不良も引き起こしますし、スピードも低下します。そして、落車による事故の原因ともなります。睡眠不足は意識して避けるべき事象です。
目安としては、1回の夜に付き、睡眠休憩を1度は入れたほうが良いでしょう。
それを踏まえて計画をしたのが、こちらのグラフです。平均的な脚力のランドヌールによるモデルケースです。
下記の地点で睡眠休憩を入れる計画としてみました。
- 往路のVillaines-la-Juhel (203km地点): 短めの睡眠休憩
スタート前に十分睡眠が取れていれば短めの仮眠で済みます。
ここを寝ないで進む人もいますが、昼間に眠くなるので仮眠を計画しておいたほうが良いでしょう。- 往路のLoudeac (435km地点): 長めの睡眠休憩
ガッツリ寝て、次の日に350km走行する体力を蓄えます。- 復路のLoudeac (782km地点): 長めの睡眠休憩
ガッツリ寝て、次の日に300km走行する体力を蓄えます。- 復路のMortagne-au-Perche (1099km地点): 中程度の睡眠休憩
少し長めに寝て、最後の120kmを走り切る体力を充填してからゴールします。
ただ、計画どおりに行った場合、往路も復路もLoudeacの到着時にはまだ日没前であることがグラフから判断できます。
Loudeacの仮眠所は天井の一部がガラス張りなので、日没前に仰向けに寝ると光が目に刺さります。別にアイマスクを持っていけば問題はないですが。
人間、周囲が暗くなってからのほうが寝付きやすくなるので、もう少し進んだ先の仮眠所を狙うという手もあるでしょう。そういった判断をするためのグラフでもあります。
PCは短時間で離脱できない
なんども書いていることですが、PBPにおけるPCは恐ろしく広いです。そして、時間泥棒です。
時間差があるとは言え、7000人の参加者(と自転車)を捌く必要のある施設です。それくらい広い施設でなければいけないのですが、これだけ広いとPC内を移動するだけで時間がどんどん過ぎていきます。
今回用意した「PBP2023 計画シート」の入力項目に「PC滞在時間」があるのも、PC滞在時間がPBPクリアの鍵となるからです。ここを意識せずにPBP攻略は難しいでしょう。
PBPでは主催者がサービスを提供するポイントには2種類があります。「PC」と「WP」です。
- PC (Point de Controle)
ブルベカードにチェックが必要となるポイント。必ず立ち寄る必要がある。
敷地は広い。- WP (Welcome Point)
ブルベカードにチェックが必要なく、サービスのみが提供されるポイント。スルーしても良い。
ただし、シークレットPCに指定されることが多い。
敷地は狭い。
ブルベカードにチェックが必要な「PC」では、最低でも30分は消費すると考えたほうが良いでしょう。油断すると、1時間位はすぐに過ぎ去ります。
効率よく動けば20分くらいで離脱できるかもしれませんが、5分10分での離脱はどうやっても無理です。サポート付きなら別ですが。
WPの場合は敷地も狭いので、トイレを済ませて補給食を買うくらいであれば手短に済ませることができるでしょう。15分程度で離脱できると思います。
むしろ、立ち寄らずにスルーしても問題はないので、「0分」にすることも可能です。
ところが、WPは高確率でシークレットPCに指定されています。
シークレットPC不通過は認定が貰えません。スルーする前に、「シークレットPCではないか?」は確認するクセを付けてください。入り口のスタッフの方が叫んでいたり、ボードを掲げていたりするはずです。
また、WP以外がシークレットPCに指定された場合(2015年はそうだった)、計画表に出てこない場所で停止時間が発生することになります。その分の停止時間をあらかじめ見積もる意味で、WPには15分程度の停止時間を見積もっておいたほうが良いでしょう。
2019年のPBPにおける、各PCの敷地内マップはこちらに用意してあります。
今回も同じ配置になるとは限りませんが、頭に入れておくと役立つかもしれません。
折り返しまでの足切りタイム設定が厳しい
↓の記事に書いた話ですが、2023年のPBPは各PCのクローズタイムが大幅に見直されています。
一言で言えば、「往路は厳しく、復路は緩く」なりました。
こちらのグラフは、2015年と2019年のクローズタイムを比較したものです。
2019年は、300km地点を過ぎた辺りからクローズタイムの時速が緩やかに落ちていくパターンでした。
2023年は、折り返しの600km地点まではグロス時速15kmをキープすることが要求されます。
数値だけ見れば通常の600kmブルベと一緒なんですが、PBPは夕方スタートである点を思い出してください。朝スタートの600kmブルベであればゴールまでの睡眠休憩は1度で済みますが、夕方スタートの600kmブルベは睡眠休憩が2度必要です。
……ということは、寝ている時間が長くなるので、それ以外の時間はより頑張って走らないといけないわけですね。
恐らくこれまでのPBPはそういった点を考慮してルールを曲げてまで(通常のブルベとは明らかに違う設定です)往路のクローズタイムを緩くしていたのだと思われますが、今回の大会からは急に厳しくなった印象です。
ここで、折り返し地点であるブレストまでの距離と、クローズ時刻を比べてみましょう。
- 2019年
610km / 42時間06分- 2023年
604km / 40時間17分
距離は6km短くなっていますが、クローズ時刻が1時間49分も前倒しになっています。
こうなると、少なくとも折り返しまでは睡眠休憩と走行速度をかなり計画的に入れた上で頑張る必要があることが分かって頂けると思います。
そうしたタイトな計画を立てる場合に、「PBP2023 計画シート」はかなり役に立つはずです。グラフでタイムアウトが分かりますからね。
なお、復路に入ると一気にクローズタイムが緩くなります。復路は少し余裕を持って走れるはずです。
実際のスタート時刻はズレる
前述の通り、PBPの「通過時刻」はセンサーで管理されています。
これはスタート地点の通過時刻も例外ではありません。
PBPでは15分ごとに300人ずつのウェーブに分かれてスタートします。しかし、そんな大人数が一気にスタートできる訳もなく。先頭に並んでいる人と、最後尾の人とでは、実際のスタートラインを切る時間に数分の差が出てしまいます。
こうした不公平さを避けるため、PBPのスタート地点のセンサーは、スタートゲートを出発して少し走った場所に設置されています。そのセンサーが本当のスタートラインです。センサーまでは短いパレード区間といったところでしょうか。
2019年大会では、私は17:45スタートのH組。しかし、実際にスタート地点のセンサーを通過したのは4分後の17:49でした。
この場合は、17:49がスタート時刻となるので、その後のPCクローズ時刻やゴールクローズ時刻も4分ずつ後ろにズレます。
私は計画表を印刷していつでも見られるようにしておいたのですが、計画表は17:45スタート前提で作成しました。各PCのクローズタイムを4分後ろになるように読み替える必要が生じました。
実際のスタート時間は当日になってみないと分からないので、計画表のクローズタイムは後ろ倒しになる可能性が高いことを覚えておいてください。
あと、スタート時刻が予定より遅れても焦る必要はありません。センサーを通過するまでカウントは始まりませんからご安心を。
徐々に速度は落ちていくもの
人間は徐々に疲れるものです。
最初から最後まで同じ速度を保てるのが理想ですが、残念ながらそれができる人は稀です(たまに可能な人はいます)。
多くの人は、スタート直後が一番早く、時間が経つにつれて速度が落ちていきます。そのような前提で、「目標区間時速」を設定したほうが良いでしょう。
なお、PBPの最終区間(ドルー~ランブイエ)は割と平坦かつ、もう力を残す必要もないので、ラストスパート的にスピードアップする人が多いです。
信号・渋滞はほぼ無い
私が国内のブルベで計画を立てる際、都心部を通過する区間については、区間時速を少し低めに見積もります。
その理由は信号と渋滞によってスピードが低下するからですが、PBPでは両方ともほぼ心配する必要がありません。
PBPルートの交差点はほぼ全てがラウンドアバウト化されており、待ち時間なく通過することが出来ます。
信号と渋滞があるとすれば、折り返しのブレストの街中くらいでしょう。それでも、日本における地方都市のレベルです。東京のような恐ろしい信号峠はありません。
ラウンドアバウトで稼いだ貴重な時間は、PC滞在時間で消費されてしまうんですけどね。
距離あたりの獲得標高に注目
信号・渋滞がほとんどないPBPですが、それでも「スピードが出る区間」と「スピードが出ない区間」があります。
その差はどこで出るかといえば、「距離あたりの獲得標高」です。
PBPルートに信号はほとんどありませんが、その代わりにアップダウンは無数にあります。
距離あたりの獲得標高が多いほど、当然ながら速度は乗りにくい区間ということになります。
今回の「PBP2023 計画シート」には「平均斜度」という列を付けました。単純に、獲得標高を距離で割ったものです。数値が大きいほどキツい区間ということですね。
1%を超えている区間は要注意です。具体的には、下記の区間は他の区間よりも登りが厳しいと思われます。
- 往路の「ルデアック→サン・ニコラ」間
- 復路の「ブレスト→カレプルゲール」間
- 復路の「グアレック→ルデアック」間
これらの区間は、他の区間よりも気持ちスピードを低めに見積もっておいたほうが良いでしょう。
正確なゴール制限時間
PBPの制限時間は90時間です。
ただ、過去の記録を確認する限りでは、スタート地点のセンサーを通過してから、ゴール地点のセンサーを通過するまでの経過時間が「90:00:59」までは認定されています。
ここから1秒でも遅れると認定外となります。
センサーが導入される前は30分までのタイムオーバーでのゴールは「温情」で認定された例もあったようですが、センサー導入後はバッサリ切られるようになりました。
とは言え、59秒のロスタイムが実は存在しています。最後ギリギリになった人は諦めないようにしてください。
ゴールに間に合えば認定される?
PBPに関する都市伝説として有名なのが、下記の話です。
「途中のPCのクローズ時刻に間に合わなくても、ゴールのクローズ時刻(90時間)に間に合えば認定される。」
これは本当です。
ただし、前回大会まではそうだったというだけで、今回もそうである保証はありません。各PCのクローズタイムを厳格に判定するように運用が変更される可能性もあります。
少なくとも計画段階では、各PCのクローズ時刻に間に合って到着するように計画表を作成しておいたほうが良いでしょう。
とはいえ、恐らく今回も「終わり良ければ全て良し」になりそうな気はしますが。
まとめ
PBPの走行計画の立て方について説明しました。
日本国内のブルベとは大きく異なるPBPの時間感覚について、少しでも想像をしていただければと思ってこちらの記事を書きました。
PC間の走行ももちろん大事なのですが、PBPにおいてはPC内の無駄な動きを減らすことが時短に繋がり、ひいては完走に繋がります。
是非、PCの滞在時間を想像しつつ、計画を立ててみてください。その際に、「PBP2023 計画シート」をご活用いただければ嬉しく思います。
最後に一つ。
渡仏からスタート前までの睡眠は十分に取ってください。スタートして最初の夜はあまり睡眠時間が取れません。スタート前にしっかり「寝溜め」する必要があると思います。
著者情報
年齢: 38歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: BIANCHI OLTRE XR4(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)
# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。