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PBP 2023 走行時のウェア
私がPBPで着る予定のウェア構成と、その理由を紹介します。
はじめに
PBP2023で着る予定のウェアについて説明します。
前回参加の経験を踏まえて、アップデートを加えたものになります。これから1ヶ月半で少し修正を加えるかも知れませんが、概ねこの通りになると思います。
以下のものは別記事で紹介します。
基本的な考え方
まずはフランスの気候について説明します。
パリは意外と北にある
パリの緯度がどれくらいかご存知でしょうか?
答えは北緯48度。日本最北端の宗谷岬が北緯45度なので、更に北です。
緯度をそのままに、日本を横に移動させると位置関係はこんな感じ。パリもブレストも宗谷岬より更に北海道1つ分くらい北にあります。
実際には宗谷岬の方が寒流や寒気団の影響を受けることもあり、緯度以上に寒いのですが、それでもパリは関東あたりと比べると夏場の平均気温はかなり低くなります。そして、夏であっても湿度が低いです。
大体、北海道と気候は似ていると考えてください。
熱波と気温
フランスにはたまに熱波が襲来しますが、今年はそういった話はまだ聞こえてきません。
昨年は40℃を超えたこともあったようです。
年間気温で言うとパリが一番暑いのは8月初旬。PBPは8月下旬なので、一番暑い時期からは外れています。
PBPコースの気温グラフ
PBPは「パリ・ブレスト・パリ」と言いつつ、実際にはパリ郊外のランブイエをスタートし、ひたすら田舎道を走ります。ブレストはそれなりに都会ですが、ルート上には信号すらほとんどありません。
そして、PBPで走る田舎道は、深夜~早朝にかけてかなり冷え込みます。暑さよりも心配すべきは寒さなのです。
それでは、実際に私が走った際のサイクルコンピューターのログから、過去二回のコース上の気温変化を見てみましょう。
測定条件は以下です。
- Garmin eTrex30 + Tempe(気温センサ)で取得。
- センサはサドルバッグ裏に設置し、直射日光の影響なし。
- スタート時刻は以下。
2015年: 18:45
2019年: 17:45- 仮眠中はサイコンをOFFにしていたので、そこの気温は未計測。
2019年はスタートからしばらく気温センサが接続できていなかった。
2015年
最高気温は26℃、最低気温は8℃でした。1日の気温差は18℃です。
最高気温は、8/18 15:50(720km/サン・ニコラ・デュ・ペルム付近)と、8/19 15:00(1050km/スジェ・ル・ガヌロン付近)にて記録しています。
最低気温は、8/18 4:17(580km/ラ・フイエ付近)にて記録しています。
最低気温を記録したのは、ブレストの40kmほど手前の丘の上でした。ブレストはフランスでも寒い地域の一つで、8月の平均最高気温は21℃、平均最低気温は13℃。これは大体、宗谷岬の8月の平均気温と一致します。
最終日の朝は15℃までしか下がりませんでしたが、これは雨が降ったためだと思われます。
フランスの朝の冷え込みは放射冷却によるものだと思われるので、雲が広がる雨の日は意外と冷えないようですね。
2019年
最高気温は30℃、最低気温は6℃でした。1日の気温差はなんと24℃です。暑さも寒さも厳しかったことになります。
最高気温は、8/19 13:28(306km/タンテニアック付近)にて記録しています。
最低気温は、8/20 5:15(500km/プルネヴェ=カンタン付近)にて記録しています。
最低気温を記録下のは、往路でサン・ニコラ・デュ・ペルムから10kmほど進んだ先の街の中でした。やはり、往路のブレスト手前の区間で記録しています。
2015年と比べてみると、10℃を切っている時間がかなり長かったことが分かります。
PBPコースの気温傾向
私の手元にある気温データは過去2回のものだけですが、これらのデータから読み取れるコース上の気温傾向は以下です。
最高気温はそれほど高くない
2019年も一時的に30℃を超えている時間はありましたが、ごく短い時間です。また、湿度も低いので、蒸し暑い日本の気候と比べると数字よりは過ごしやすく感じるはず。
日中の気温は晴れていれば25℃前後の気温になることが多いことが分かります。正直、昼間は暑くも寒くもなく、丁度よい気温であった記憶があります。
明け方は非常に寒い
この時期のフランス北部の日没は21時頃です。
気温が下がり始めるのは19~20時頃で、割と急激に気温が落ちていきます。19時頃には20℃以上あった気温が、0時前後には10℃を切ってきます。
この時期のフランス北部の日の出は7時頃です。
走っているのが山間部か街中かによっても変わってきますが、最低気温になるのは日の出前の4-6時の時間帯になります。この時間帯は確実に一桁気温だと考えたほうが良いでしょう。
気温が上がってくるのは、8時を過ぎてからです。明るくなってからもしばらくは寒さに耐える必要があるということです。9時を過ぎると急激に気温が上がります。
あと、基本的にはブレストに近づくほどに気温は下がる傾向にあります。西に行くほど寒いです。
多くの参加者が最低気温を体感するのは、スタートから3日目の夜明け前の時間になるでしょう。往路ラストのPCである、カレ・プルゲールとブレストの間で夜明けを迎える人が多いと思われますが、ここが一番寒い可能性が高いです。
往路のルデアックでドロップバッグから多めに防寒具を確保しておき、復路のルデアックでパージするのも良い戦略かもしれません。
一桁気温に対応できるウェアを
前置きが長くなりましたが、とりあえず一桁気温に対応できる装備は用意しておきましょう。
5℃~30℃くらいまで対応できるようにしておけば安心です。
高い山が含まれると氷点下も覚悟しなくてはなりませんが、PBPの最高標高は僅か350m。氷点下を心配する必要はないはずです。
気温に合わせた専用のウェアを用意していたら、サドルバッグは溢れてしまいます。このため、薄い服を重ね着し、外気温に応じて脱ぎ着しながら走ることになります。
これを「レイヤリング」と呼びます。この後の詳細解説では、レイヤリングを前提としてお話します。
私の場合、大きく3つのシチュエーションに分けて以下のように切り替えます。
- 基本モード
→ 昼間かつ、雨も降っていない場合(10~30℃)- 夜間/早朝モード
→ 気温が低くて暗い、夜間と早朝の場合(5~10℃)- 雨天モード
→ 雨が降っている場合
私は持ち歩く荷物を少しでも減らすため、レインウェアを防寒具としても使っています。
基本モード
まずは基本となるウェアから。昼間かつ、雨も降っていない場合(10~30℃)のウェアです。
こちらは2015年の参加時の格好です。2019年もほぼ同じ格好を踏襲。今回も似た感じになるはず。
PBPでは、昼間に反射ベストを着る義務はありませんので、このときは着ていません。今大会から昼間に着ることが「推奨」にはなりました。
なお、左足首に巻いているのはセンサーです。2015年は足首センサーでしたが、2019年からはフレームバッジにRFIDが埋め込まれた形式に変更されています。
頭
こちらは特別な工夫をしていません。
ヘルメットの着用はPBPにおいては必須ではありません(!)が、私は被ります。
※ 2023年8月10日のルール改正により、PBPでもヘルメット着用が義務化されました。ハードシェルヘルメットのみが認められ、ソフトシェルヘルメット(カスク)は不可のようです。
ヘルメットはIZANAGIで行くか、ZENARDで行くかちょっと迷っています。IZANAGIはBit Visor(後述)が付かないんですよね……。
日本では8月にエアロヘルメットは地獄を見ますが、フランスは湿度が低いのでエアロヘルメットでも大丈夫でしょう。むしろ夜は暖かくて良いかも?
PBPのルールでは尾灯の点滅は全て禁止となります。ヘルメット尾灯であっても同様です。
日本ではヘルメット尾灯をローカルルールで義務化している団体もありますが、PBPではヘルメット尾灯の使用は任意です。
ヘルメット尾灯を使用したい方は、点滅ではなく「点灯」で使用してください。
ヘルメットの下にはメッシュ生地のスカルキャップを被ります。
汗垂れの防止用です。そんなに汗かきませんが。
アイウェアは度付きサングラスを使用。
ポイントはレンズの色で、薄いピンクにしています。この色は地面の凹凸を強調する効果があります。御徒町のオードビーで作成しました。
上半身
重要なのが上半身のウェアです。私は長袖のインナーに長袖の薄手ジャージの構成で走る予定です。
理由は、冷え込んだときに長袖なら調整が効くこと、レインウェアを着たときに肌にレインウェアが接触しないようにするためです。
インナーは、mont-bellの「ジオライン L.W. ラウンドネックシャツ」を予定しています。
理想的には保温性と防臭性の高いウール性インナーが良いのですが、私はウールのチクチク感が気になって使えません。そのため、保温性には劣るものの速乾性の高いジオラインを選択。
長袖インナーの上には、夏用の薄手長袖ジャージを合わせます。
Santicの長袖ジャージがいい具合に薄い上に安いので、既に3着買い込みました。多分これで行きますが、時々海外のランドヌールと交換したジャージでも走ろうかと思っています。
長袖ジャージは日焼け止めを塗る手間が省けますし、薄手の生地ならば上限30℃くらいまでは耐えられます。フランスの夏は日本よりも湿度が低いので、長袖でも不快感が少ないんですよね。
私はアームカバーの締付けが苦手&シリコンで肌がかぶれるのでこの構成にしていますが、半袖インナー+半袖ジャージ+アームカバーの組み合わせもアリでしょう。
手
指切りグローブの下にインナーグローブを付けます。
最近は手のしびれが出やすいので、何も考えずにINTROのSTINGERです。
インナーグローブを入れる理由は、防寒・手荒れ防止・衝撃の緩和。一枚入ると意外と快適性が上がるものです。
イチーナのピタクロタッチは、タッチパネルにも対応しています。スマホ操作も安心。
下半身
こちらも上半身とほぼ同じ考え方です。
ただし、私は自転車用タイツの下にはインナーウェアやパンツは履きません。足首までの丈がある自転車用タイツのみを履く予定です。また、ビブ形式でないものを使います。
具体的には、パールイズミ「プリザーブバイクタイツ」を使います。
なかなか薄手&パッド付&非ビブの条件を満たすものは多くなく、他に選択肢がないのでコレを選んでいます。
足首までの丈のタイツにするのは、上半身と同じく、レインウェアを肌に触れさせない&日焼け対策です。もちろん、膝上までのレーパン+レッグウォーマーの組み合わせでも良いでしょう。
非ビブにするのは、トイレでジャージや反射ベストを脱がなくて済むのが理由です。ビブだと一度脱がなくてはなりませんからね。
フランスのトイレ、脱いだジャージや反射ベストを置いておく場所が無いんですよね……。日本だと物置スペースやフックがありますが、そういったモノがないのです。
ビブ派の人は、レジ袋をポケットに忍ばせておくと良いかもしれません。「脱いだジャージをビニール袋に入れて床に置き、ビニール袋は事後に捨てる」という使い方ができます。
足
足先は、普通にソックスとシューズのみです。
ソックスは、通称「黒澤ソックス」の予定。ブルベ界におけるレジェンドが開発に携わった一品です。
シューズは、SHIMANO「XC1」。PC内を歩き回ることを考慮して、歩きやすいSPDシューズです。
夜間/早朝モード
気温が低く(5~10℃)て暗い夜間と早朝は、基本モードの上に何枚か着込むことになります。
頭・首
ネックウォーマーを着用します。首から入ってくる冷気をシャットアウトすれば、体感気温は上がります。
薄手のものなら重量は20g程度ですし、荷物にもならないでしょう。100円ショップに売っている日焼け止め用の薄いネックウォーマーでもそれなりに暖かいです。
それでも耐えられないほどの寒さの場合は、レインジャケットのフードを被ります。
上半身
レインジャケットと反射ベストを着用します。
PBPでは昼間の反射ベスト着用は義務ではありませんが、夜間は着ないと法律違反となります。
参加の記念品としてもらえるPBPの公式ベストは体幹部を覆うので、夜間は心強い防寒具ともなるでしょう。
あと、今回はスポーツ用腹巻きを持っていく予定です。
夜間・早朝の冷えによって、お腹の調子が悪くなることが多かったので、その対策用。モンベルは自転車用の腹巻きなんてニッチなものを出してるのが良いですね。
腹巻きは体温維持にも効果的です。昼間は暑くなりそうなので、多分サドルバッグに入れます。
変更しない部分
「手」「下半身」「足」は基本モードから変更しません。
どうしても寒ければ、雨具として持ち歩くレインウェア(グローブ・レインパンツ・シューズカバー)を付けます。
ただ、レインパンツは空気抵抗が顕著に増えるので、雨が降っていなければあまり履きたくはないですね。
雨天モード
気温に関わらず、雨天時はレインウェアを身に着けます。
基本的な考え方
気温がそこまで低くなければ、基本モード+レインウェア。気温が低ければ、夜間/早朝モード+レインウェアの構成になります。
ウェアを一度濡らしてしまうと、乾くのに非常に時間が掛かります。また、雨天時には放射冷却が起きないので気温自体はそこまで下がらないはずですが、気化熱で体温が奪われて低体温になる可能性があります。
そういった事態を避けるため、雨が降ってきたらすぐにレインウェアを着るようにしてください。
レインウェア着用時のポイント
レインウェアは肌に接触しないよう、何か布を一枚挟んでください。
ちゃんとしたレインウェアには湿気を通す特性があるため、比較的蒸れにくくなっています。
こうしたレインウェアは気体となった水(水蒸気)は通しますが、液体の水は通しません。汗を一旦水蒸気に変えるための層が必要なのです。
また、レインウェアの裏地に肌が触れてしまうと、皮脂などで湿気が通らなくなってしまいます。このため、一枚布を挟みます。
そして、雨が止んでも、すぐにレインウェアを脱いではいけません。
濡れた状態でバッグにしまうと乾かず、次に使う時に不快です。15分くらいは着たまま走行風で乾かしてからバッグにしまうようにしましょう。
詳しいレインウェアの着用・運用法は、拙著の「雨天ライド攻略本」をご覧頂けると幸いです。
頭
ヘルメットにバイザーを後付けするKABUTOの「BitVisor」を取り付けます。
これはアイウェアに付着する水滴を減らすためです。たった数cmのツバであっても、アイウェアに付着する雨粒は相当減ります。
サイクルキャップでも同様の効果があります。
大雨の場合は、レインジャケットのフードを被ります。
上半身
レインジャケットを着用します。
ネックウォーマーは、そこを通じて浸水するので、脱いでしまったほうが良いです。
手
指抜きグローブを脱ぎ、レイングローブを着用します。
私は、透湿性のあるゴム手袋「テムレス」を持っていきます。
完全防水を実現しつつ透湿性があるグローブは、私が知る限りでこれだけ。他のグローブはハンドルに体重を掛けると浸水します。
足
レインシューズカバーを着用します。
ビニールシューズカバーは蒸れて酷いことになったので、夏場は封印予定。普通のシューズカバーオンリーで行きます。
着替えについて
PBPは4日間です。道中、最低でも2回は着替えることをオススメします。
着替えないと、以下のような事態になります。
- 雑菌が繁殖し、股擦れを起こしやすくなる。
- 臭う。
ウェアの中でも、レーパンのパッドは出来る限り清潔にしないと、後半に股擦れに悩まされることになります。
着替えを持って走るのも手ですが、大荷物になってしまいます。ここはドロップバッグサービスを活用しましょう。
何通りかのシチュエーションを想定して着替えを入れておけば、天候に合わせてウェアを選ぶことも可能になります。レインウェアが水没した時のために、予備のレインウェアを入れておくのも手です。
まとめ
使用予定のウェアと、天候に合わせたレイヤリングについて紹介しました。
ポイントは以下です。
- PBPの気温レンジはかなり広い。深夜・早朝はかなり冷え込む。寒さに対応できる装備が必要。
- 幅広い気温レンジに対応できる長袖ウェア、またはアーム・レッグカバー運用を推奨。
- レインウェアを防寒具として使うことで荷物を減らせる。
- 夜間は反射ベストを必ず着ること!
- ドロップバッグに入れたウェアに必ず着替える。
当日の気温・天気は、現地に行ってみないと分かりません。
異常に冷える予報の場合は、厚手のインナーを着ていくことにもなるでしょうし、熱波が到来したらより薄手のウェアを選ぶ事になると思います。
スタート前の選択肢を絞らないよう、インナーウェアとジャージは何種類かの厚みのものをフランスまで持っていくことをオススメします。
著者情報
年齢: 38歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: BIANCHI OLTRE XR4(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)
# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。