この記事は約 12分で読めます。
カラーによる性能差の話
メーカーも型番も同じ製品でも、カラーが違うと見た目だけではなく性能にまで差が出ることがあるのでは?という考察記事です。
本記事では、色によって生じる「見た目以外の性能差」について書いていきます。
まえがき
自転車パーツに限らず、製品にはカラーバリエーションのあるものが存在します。
カラーパーツの意味
フレームカラーと同じ色のカラータイヤを入れたり、差し色としてアクセントとなるカラーのバーテープを使ったり…と言う使い方をされることが多いでしょうか。
カラーに統一感のある自転車は客観的に見ても格好良いものです。また、自分の好きな色が常に目に入るとテンションが上がるという主観的な効果もあります。
見た目以外の差はないのか?
こうしたカラーパーツによるドレスアップをする場合、多くの方は暗黙的に「違いは見た目だけで、カラーによる性能差は無い」と考えていると思います。
しかし、本当にそうなんでしょうか?
私はカラーが違えば性能に差が生じる製品もあると思っています。もちろん、生じない製品もあるはずですが。
本記事では、「カラーによって性能差があるのではないか?」と私が考える製品について紹介します。
タイヤの場合
カラーによる性能差で一番言われることが多いのはタイヤではないでしょうか。
私自身はブラックカラーのタイヤのみしか使いません。性能的にもっとも安定しているはずだからです。
タイヤが黒い理由
タイヤが基本的にブラックである理由はブリヂストンのサイトを読んで頂けると分かりやすいと思います。
タイヤの強度を高めるためにカーボンブラックという補強材を入れるから黒くなる…と言うわけですね。強度の他にも、耐摩耗性が上がり、紫外線で劣化しにくくなる効果もあるそうです(参考: ゴム技術の発展について―自動車タイヤはなぜ黒いのか??― )。
カラータイヤはカーボンブラックの代わりにシリカと呼ばれる補強材を加えます。化粧で使われるファンデーションがシリカ製なので、アレをイメージしてください。シリカは白色なので、それを着色することでカラータイヤになるわけです。
ただ、シリカを使ったタイヤの場合、「紫外線で劣化しやすい」「グリップが不足する」などの弱点がある……と言われていました。過去形です。私もそう思っていたのですが、最近はどうも違うようなのです。
カラータイヤの進歩
先日のサイクルモードでiRCのタイヤ開発担当者の方に話を聞いた所、私のカラータイヤに関する知識はかなり古くなっていることが分かりました。
こちらの記事のiRCブースの項目で書いた内容を再掲します。
・タイヤが黒くなるのはカーボンブラックというものを混ぜるから。これはタイヤの補強が目的。
・しかし、カーボンブラックは低温での転がり抵抗があまり良くない(シリカの方が転がり抵抗では優秀)。
・そこで代わりにシリカを使うことがエコランの世界では増えてきている。シリカは白いので、何色にでも出来る。
・以前はシリカを使ったタイヤの性能はカーボンブラックに敵わなかったが、シリカとゴムの仲立ちをするカップリング剤の研究が進み、現在ではシリカの方が性能を出せるようになった。
この10年でかなりシリカを使ったタイヤの性能は上がっている。
・iRCのタイヤもシリカがメイン。カーボンブラックは少量しか入っていない。なので、自転車用でも同等の性能のカラータイヤを作ることは難しくはない。
・カラータイヤを作らないのは、自転車ジャンルではあまり売れなかったから。
という事で、現在ではカラータイヤで黒のタイヤと同等の性能を出すことは全く難しくないそうです。
シリカを最初に使ったのは、あのミシュラン。1992年に発売された「グリーンタイヤ」という製品です。写真を見る限り、「うっすら緑がかった黒」と言った感じで鮮やかな緑ではありませんが、シリカをメインに使ったエポックメイキングなタイヤでした。
その後、ミシュランはシクロクロス用で鮮やかなグリーンのタイヤを発売。2018年の世界選手権でワウト・ファンアールトが優勝した際に使っていたことで話題を呼びましたね。
ちなみに、車椅子スポーツの世界ではカラータイヤが当たり前だそうです。
理由は、「黒いタイヤだと床に跡が残ってしまうから」。それなので、跡が付いても目立ちにくい色のカラータイヤを使うんだそうです。黄色やピンクなど、体育館の床に近い色のものが採用されるとのこと。
iRCの方いわく、「体育館シューズのアウトソールの色は体育館の床に近い色をしてますよね。それと同じ理由です」。納得です。
更にカラータイヤとシリカについて詳しく知りたい方は、旭化成のこちらの資料がオススメです。
紫外線による劣化
このように走行性能の面では弱点を克服したカラータイヤですが、紫外線による劣化(ひび割れ等)という観点ではまだまだ黒が優位だそうです。
黒いタイヤは紫外線で劣化しにくいのですが、カラータイヤは劣化が早まる可能性があるとか。材料がどうのというよりは、単純に色による特性だそうです。
今の自転車用タイヤはわざわざ黒く色付けをしているものが多いようですが、それは紫外線対策が理由なのかもしれません。外で使うものですし。
ビードの硬さ
このように、今やカラータイヤでも黒いタイヤとの差は出ないはず……なのですが。
以前、Panaracerのグラベルキングのブラウンカラーを買った所、やたらビードが硬かったことがありました。あらゆる手段を尽くしても駄目で、タイヤレバーも折れたため、取り付けを諦めてしまいました。2本買って2本ともこの状態。
このタイヤはサイド~ビード部分がブラウンカラーとなっているタイプのカラータイヤでした。Amazonのレビューを見てもそういった話を書いている人はいないので、たまたま組付けがキツいロットに当たっただけかもしれませんが。
この件があってから、ビードに着色されたカラータイヤの購入には慎重になっています。
ウェアの場合
ウェアにも色による差があると思っています。顕著なのは、肌に直接触れるインナーウェアです。
手持ちのインナーウェアで一番差があったのが、モンベルの「ジオライン L.W. ラウンドネックシャツ」でした。
ライトシルバーとブラックの2色を同時に購入したのですが、明らかな差があったのです。
伸び
まず感じたのは伸び方の差。ライトシルバーの方が伸びが悪いのです。
全色所持ですがグレーは伸びないから着にくい🥲
表面もざらざら https://t.co/BNFcF8FYlj— ZTTOも (@ZTTO_mo) January 7, 2022
そのように感じているのは私だけではないようで。グレー(ライトシルバー)だけ妙に伸びないんですよね。特に横方向のストレッチ製に違いがあります。
拡大してみると、その理由が何となく見えてきました。
ブラックの方は1種類の黒い糸で編まれているように見えますが、ライトシルバーは白と銀の2色の糸で編まれています。
金や銀の糸は、通常の糸にラミネート加工をするため、伸びにくくなるようです。
ジオラインのライトシルバーに使われている糸が、いわゆる銀糸なのかは不明ですが、この横糸が「伸びなさ」の正体な気がします。
肌触り
ジオラインのブラックとライトシルバーですが、肌触りも違います。
ブラックは特に何も感じないんですが、ライトシルバーは何かゾワゾワするというか。ちょっと不快な肌触りがあります。
色から受ける印象でそう感じている可能性を考え、目をつぶってランダムで妻にブラック or ライトシルバーのシャツを差し出してもらい、着て確かめるブラインドテストを実施しました。
4回テストし、全問正解。見た目の印象だけではなく、やはり物理的な違いがありそうです。どちらのカラーも「ポリエステル100%」のはずなんですけど。銀糸のせいだったりするんでしょうか。
暖かさ
これはインナーというよりはアウターの話。
日中の活動に限ると、黒のほうが暖かく、白のほうが涼しくなります。どうしても黒い色は熱を集めますので。
夏場は白いウェアを選び、冬場は黒いウェアを選んだほうが快適ではあるはずです。
チェーンの場合
チェーンと言えば普通は銀色ですが、一部のメーカーが金色のチェーンや黒いチェーンを発売しています。
カラーチェーンで有名なのは「KMC」。写真のチェーンは「ダイヤモンドライクカーボン(DLC)」でコーティングされた黒いチェーンです。
コーティングの違い
単純に塗料で色を変えているメーカーもあるのですが、KMCの高グレードチェーンに関しては、「コーティングの違い」が「色の違い」となっています。
例えば、「X11SL」というKMCにおけるセカンドグレードのチェーンは、「シルバー」と「ゴールド」の2色があります。
製品名は同じなのですが、実はゴールドのほうが少しだけ定価が上です(本国では5ドル高い)。
差分は、「ゴールドのほうが1層コーティングが多い」のです。一番外側に、窒化チタンのコーティングが施されています。中空ピンの採用等、他のテクノロジーは全て同じですが、一番外側のコーティングにのみ違いがあるわけです。
窒化チタンは非常に高い硬度と耐食性が特徴で、KMCは「表面が非常に滑らかで、非常に耐久性がある」と主張しています。
単なる色の違いかと思いきや、性能にも違いが出ている好例と言えます。
ちなみにKMCは「X11 Vivid」というチェーンも出していますが、こちらは普通に塗料で塗っていると思われます。
スポークの場合
ホイールのスポークにも色付きのものがあります。
赤いスポークのRACING ZEROなどが有名ですね。
ただ、このスポークも色が変わることで特性が変わることがあるようなのです。
テンション
以前、手組みホイールを注文する機会がありました。
その際に、少しだけ遊び心を出そうと思い、「1本だけ赤で、残りは黒いスポーク」という仕様でお願いすることにしました。かつて存在した「KSYRIUM SL」というホイールがそのカラーリングで格好良かったので、真似てみようと思ったのです。
しかし、その仕様は断られてしまいました。理由は、「あるテンションを掛けたときの伸び具合が色によって変わるから」とのこと。
その時はステンレススポークで赤と黒を混ぜようと思っていたのですが、どうも着色をすることで伸び具合が変わってしまうんだそうです。同じ色で揃えれば問題ないものの、1本だけ混ぜるのは問題があるということでした。
その方は国内では1・2を争う本数を組んだホイール組み職人ということで、ここは素直に従うべきだと判断。結局すべて黒いスポークで組みました。
ちなみに、こちらはSPINERGYというメーカーのホイールですが、複数色のスポークを混ぜた仕様での注文を受け付けています。
SPINERGYのスポークは「ザイロン」と呼ばれる超高強度繊維を数百本束ねたものをプラスチックの筒で巻いた構造。単純に外側の筒の色が違うだけなのでテンション特性の違いは出ず、このようなオーダーを受けることが可能になるのだと思います。
フレームの場合
フレームも色で性能差が出る場合があります。主に塗装の重量です。
重量
ロードバイクのフレームにおいて、塗装の重量は結構な割合を占めています。
こちらの記事によると、フレーム重量の6.4%が塗装によるものだったそうです。結構大きいですね。
特に白いフレームやメタリックカラーのフレームは塗装を数回に分けて行う必要があるため、比較的重量が重くなる傾向があります。
このため、少しでも軽くしたいメーカーは、カーボンそのものに最低限の保護をしただけの塗装を施したりします。
例えば、FACTORの「O2 V.A.M」がその一例。ヌードカーボン仕上げとなっています。
とは言え、「黒」=「軽い」というわけでもありません。深みのある黒にしようと思うと重ね塗りが必要で、結局塗装が重くなります。
暖まりやすさ
ウェアと同じく、黒いフレームは太陽の下ではかなり熱くなります。
特に真夏の炎天下に黒いスチールフレームを置いておくと……危険な温度まで上昇します。
私のフレームはだいたいトップチューブが黒いので、夏場に信号待ちで火傷しそうになることもしばしば……。
クリートの場合
わざわざここに書く話でもないかもしれませんが、シマノのSPD-SLはクリートの色によって可動域が違います。
違いは、シマノのディーラーズマニュアルに書かれています。
青と黄の違いは可動する角度だけと思われがちですが、実は可動の中心が異なります。
LOOKもクリートの色によって可動する角度が異なります。色で可動する角度を分類するのはクリートでは定番のやり方のようですね。
まとめ
「実はカラーによって性能が異なる場合がある」という話の紹介でした。
今回上げたものの他にも、「白いサドルは硬い」とか「バーテープの色によってグリップ感が違う」とかいう話も聞きます。これらは検証出来なかったので載せてはいませんが、恐らく探せば他にも「カラーによる性能差がある」製品はあるでしょう。
とは言え、好きなカラーを身に纏う・常に目に入る位置に置くことで気分が良いのも事実。「オシャレは我慢」とも言いますし、あえて性能差に目を瞑り、好きなカラーを選ぶのもまた正義です。
ただ、少しでも性能を追求しようと思った時に、カラーの差が効いてくることを覚えておくと役に立つかもしれません。
ちなみに、私は「迷ったら黒」を基本方針にしています。だいたい自転車のパーツは黒が基本カラーであることが多く、ハズレがないので。紫外線に対しても強いことは間違いないですからね。
一方、黒は温まりやすいので夏場のウェアとフレームにだけは用心が必要です。
著者情報
年齢: 37歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: BIANCHI OLTRE XR4(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)
# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせて頂きました。