東京自転車歴史フォーラムで研究発表を行った話

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本記事は、ロードバイク Advent Calendar 2022の7日目記事となります。


12月4日、高輪の物流博物館で開催された「第1回 東京自転車歴史フォーラム」で、自転車に関する歴史研究の発表を行いました。

研究テーマは「自転車による東京大阪間ノンストップチャレンジの歴史と考察」です。

目次

東京自転車歴史フォーラム

まずは「東京自転車歴史フォーラム」とはなんぞや、という点について。

フォーラム概要

「自転車歴史フォーラム」は、自転車のモノづくり・競争・自転車遊び全般における歴史研究会です。

主宰は、伝説のフレーム職人と言われる梶原利夫氏。ツール・ド・フランスで区間優勝した日本産で初のフレームを作った人です。

数多くのフレームビルダーを育てた方としても有名で、下記のブランドの創業者は梶原氏の教えを受けています。

・KALAVINKA
・FUTABA/QUARK
・LEVANT
・ELAN
・LEVEL
・VOGUE
・YANAGISAWA

私の今乗っている「QUARK」のフレームを作った細山さんも、梶原さんの教えを受けています。

梶原氏は現在、産業遺産学会の評議員としても活躍されています。その梶原氏が、元サイクルスポーツ編集部員の松本敦氏と共に今年から始めた研究会が「自転車歴史フォーラム」となります。

イベント概要

自転車歴史フォーラムの初イベントが「第1回 東京自転車歴史フォーラム」です。下記の次第で実施されました。

開催日:2022年12月4日(日曜)
場所:物流博物館会議室(東京都港区高輪 4-7-15)
時間:13時〜17時(予定)

募集リアル聴講:10人(参加費500円)

二部構成となっており、スケジュールは以下でした。

挨拶(5分)
  東京自転車歴史フォーラム代表 梶原利夫氏
第一部(50分)
  井桜直美さん(日本カメラ博物館学芸員)「日本最初のボーンシェーカー」 
休憩(10分)
第二部(50分)
  baruさん「自転車による東京大阪間ノンストップチャレンジの歴史と考察」 

私の担当は第二部の発表となります。

発表に至る経緯

そもそも何故、歴史フォーラムで私が発表することになったか。

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今年1月に行われた「ハンドメイドバイシクル展」で、東京自転車歴史フォーラムの発足イベントであるトークショーを観覧しました。

イベント後に、フォーラムの事務局を務める松本氏(写真左)と会話をしました。

かつて松本氏はサイスポの読者投稿レポートコーナー「輪な道」の担当者で、私は3回ほどそのコーナーに掲載されたことがあります。メールベースでのやり取りも何度かしたことがありました。

その流れで、「”東京大阪を自転車で走る”個人チャレンジの歴史を研究しています」と話した所、ご興味を持って頂けたようで今回の話に繋がりました。

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私としても、過去数年に渡って当事者へのインタビューを行いつつ調査した「東京大阪タイムトライアルの歴史」を形に残すチャンスだと思ったこともあり、発表についての話をお受けすることになりました。

発表までの準備

前述の通り、今回のフォーラムでの発表テーマは「自転車による東京大阪間ノンストップチャレンジの歴史と考察」です。

当サイトで何度も書いてきた「東京大阪タイムトライアル」記事の総集編的な内容と、現代の「東京大阪キャノンボール」の内容を合わせたものになりますが、今回は学術発表の場です。相応の裏付けを取るための追加調査をした上で、きちんと体裁を整えて纏める必要がありました。

提出を求められたもの

今回のフォーラムでは、2022年7月段階で準備依頼を頂きました。提出を依頼されたのは下記のものです。

① 研究テーマ要旨
1200字以内+図版

② 論文
10000~20000字程度

これに加えて、実際の発表では50分のプレゼンがあるので、それに備えたPowerPoint資料(50ページ程度)が必要となります。

追加調査

7月中は「自転車ライト攻略本」の執筆と「La route」の記事執筆に追われていたので、8月から論文作成のための追加調査に着手しました。

主に実施したのは「古い自転車雑誌の記事調査」と、「再ヒアリング」です。再ヒアリングの結果、当時の道路状況を調査する必要があり、「道路資料の調査」も行いました。

古い自転車雑誌の記事調査

毎週のように目黒の「自転車文化センター」に通い詰めて、過去の自転車関連書籍の中から「東京大阪間の自転車チャレンジ」についての記述を探す作業に没頭しました。

2016-17年の期間にも一度調査を行い、「ニューサイクリング(1962年創刊)」「サイクルスポーツ(1970年創刊)」の創刊号付近の調査は済んでいたのですが。自転車文化センターの蔵書の中には「貴重本」という、書棚に並んでいない本があったことに気づきました。

貴重本の中には1960年以前の自転車雑誌(「サイクル」や「サイクリングツアー」など)があることが判明。そちらの追加調査を行いました。

その中で見つけた記事の一例が、こちらの「東京-大阪タイムトライアル」の記事(参考: 1960年、最古(?)の東京大阪タイムトライアル)。「サイクル」1960年11月号に掲載された記事で、東京・六郷橋から大阪・守口市までのタイムトライアルの様子を綴ったドキュメントです。

この記事の他にも、既存の調査からは漏れていた挑戦に関する記述をいくつか発見しました。

再ヒアリング

2016-17年にかけて、過去の「東京大阪タイムトライアル」の当事者にはヒアリングを実施しました。こちらの記事や、こちらの記事がそうです。

ただ、当時聞き忘れたことや、新たに気になったことが出てきたため、再ヒアリングを実施することにしました。1970年に「東京→大阪」に挑戦した御本人である藤田照夫さんと、1973年に橋本治さんの「東京→大阪」の計画を立てた植原郭さんの元に再度赴き、お話を聞きました。

こちらは川越で自転車店を経営されている藤田さんのところへ話を聞きに行った際のツイートです。

色々お話を聞いたのですが、その中で驚いたのが「1970年当時は日本橋を自転車で渡ることは出来なかった」「日本橋から六郷橋までの第一京浜(国道15号)は自転車通行禁止だったはず」という話です。

現代の東京大阪キャノンボールでは、東京側のスタートは日本橋となっていますが、当時のチャレンジを見ると何故か「東京駅」だったり「皇居前」からスタートしているのです。その理由が実は「自転車通行禁止であったから」というのは驚きました。

道路状況の調査

藤田さんからの「日本橋が自転車通行禁止だった」という話の裏付けをとるべく調査を開始。とはいえ、道路に関する歴史の本は自転車文化センターにもほとんどありません。

毎週通ってすっかり顔なじみになってしまった自転車文化センターの学芸員の方に相談すると、「リファレンスサービスを使ってみてはどうですか?」とのアドバイスを頂きました。

リファレンスサービスは、図書館の主要機能の一つです。「●●について知りたい」と司書の方に相談すると、関係がありそうな本をピックアップしてくれるという嬉しいサービス。大抵の図書館では、なんと無料で実施されています。

リファレンスサービスで見つかった資料を図書館で実際に確認するなどの調査を行った結果、ある事実に辿り着きました。

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その調査を纏めたのがこちらの記事です。

実は、1970年当時は第一京浜の真ん中を都電が通過しており、その影響で自転車通行禁止の規制が敷かれていたのでした。1972年の暮れに現在の都電荒川線を残しての都電全廃が決まった後、国道15号線は自転車で通れるようになったことが判明しました。

この調査によって、「東京大阪」のスタート/ゴール地点に関する歴史の裏付けが取れました。

論文執筆

資料が揃ったところで論文の執筆を開始。

ただ、私は理系の実験中心の論文は書いたことがありますが、人文系の論文は書いたことがありません。過去の自転車に関する歴史論文を参考にしながら、何とか形にしました。

結局、文字数は20000字の上限ギリギリとなりました。

査読

出来上がった論文を事務局に提出後、フォーラム主催の梶原さんによる査読が入りました。

体裁や内容など色々とご指摘を頂き、その内容を訂正して再提出を行いました。

発表資料の作成

今回は発表時間50分ということで、1ページ1分目安の50ページを目標に資料を作成しました。

結局、全然50ページでは収まらず、60ページ超の発表資料となりました。

当日の様子

12月4日、品川区の「物流博物館」2階で「第1回 東京自転車歴史フォーラム」が開催されました。

こちらは、かつてペリカン便をやっていた「日通」が経営する博物館です。実は日本最古の物流会社であり、一時期は国営企業だったこともあります。

特別展の見学

当初のプログラムには書かれていませんでしたが、フォーラム開始の前に物流博物館の特別展示「運ぶのりものでたどる150年のあゆみ」の集団見学が行われました。梶原さんいわく、「博物館で学会発表を行う際には、一緒に展示の見学を行うことが多い」とのこと。

博物館の学芸員の方の解説を聞きながら館内を見学。日本の物流の歴史について、興味深く拝聴しました。

第一部: 日本最初のボーンシェーカー

今回のフォーラムの発表は二本立てで、第一部のテーマは「日本最初のボーンシェーカー」。

カメラ博物館の学芸員である井桜さんが偶然発見した1枚の写真に映った木製の自転車。これが、恐らく日本で最初に作られたボーンシェーカータイプの自転車ではないか?という内容の発表でした。

ちなみに、ボーンシェーカーとは下記のような自転車を指すようです。

1860年にフランスのミショー親子によって発明され、前輪車軸にクランクペダルを取り付けた前輪駆動方式の自転車で、前輪の直径が後輪よりやや大きいのが特徴である。
乗り心地の悪さから「ボーン・シェーカー」とも呼ばれた。
世界初の量産自転車で、日本には幕末に輸入されたといわれ、これをモデルに、各地で鍛冶職人によって国産(和製)ミショー型自転車が作られた。

文化遺産オンラインより

この写真の撮影は、1877年前後と考えられるとのことでした。

第二部: 自転車による東京大阪間ノンストップチャレンジの歴史と考察

第二部は私の発表です。

今回の論文では、1960年頃から行われてきた「自転車による東京大阪間ノンストップチャレンジ」を2つの期間に分けました。

1つ目の期間が「東京大阪タイムトライアル期(1960年頃~1982年)」です。この頃の目的は、「過去の記録よりも短い時間で走る」ことで、主にサポートカー付きのチームで挑戦されていました。

2つ目の期間が「東京大阪キャノンボール期(2006年~)」です。キャノンボールと名前が付いてからは「24時間以内の走破」が目的となり、単独ノーサポートで挑戦されるようになりました。

この2つの期間についてそれぞれの歴史を纏めた上で、相違点を抽出して考察を行ったのが、今回の論文の内容となります。

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発表資料はこちらにアップしましたので、ご興味のある方は御覧ください。

質疑応答でも多数のご質問を頂きまして、充実した発表となりました。ご聴講頂いた皆様、ありがとうございました。

イベント後: キャノボ達成出迎え

フォーラム終了後の打ち上げの後は、日本橋へ。

この日、大阪→東京キャノンボールをやっていた園長さんのゴールを出迎えました。見事、23時間22分で達成です。

私の発表でも「今まさにキャノンボールに挑戦している人がいます」とネタにもさせていただきましたが、良い結果となって良かったです。

それにしても、60年経っても現在進行系で続いているこのチャレンジ。自転車乗りにとって魅力的なチャレンジであり続けているということなのでしょう。

まとめ

東京自転車歴史フォーラムでの発表内容の紹介でした。

大学や会社の中での論文発表は経験がありますが、趣味の場で論文を作って発表することになるとは思っていませんでした。

この論文は、国会図書館・シマノ自転車博物館・自転車文化センターに寄贈・収蔵される予定であるとのことです。

なかなか大変ではありましたが、一応このサイトのメインテーマである「東京大阪」に関して、一つ形となる文章を残せたことは嬉しく思います。

paper_tokyo_osaka_20221204

論文本体もアップしておきます。ご興味のある方はお読み下さい。感想など頂けると嬉しく思います。

著者情報

年齢: 38歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: BIANCHI OLTRE XR4(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)

# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。

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この記事を書いた人

ロングライド系自転車乗り。昔はキャノンボール等のファストラン中心、最近は主にブルベを走っています。PBPには2015・2019・2023年の3回参加。R5000表彰・R10000表彰を受賞。

趣味は自転車屋巡り・東京大阪TTの歴史研究・携帯ポンプ収集。

【長距離ファストラン履歴】
・大阪→東京: 23時間02分 (548km)
・東京→大阪: 23時間18分 (551km)
・TOT: 67時間38分 (1075km)
・青森→東京: 36時間05分 (724km)

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