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【調査】ロードホイール ワイドリム化の進行状況
ロードホイールのワイドリム化が進んでいます。
「ワイドリム」という言葉に明確な定義はありませんが、クリンチャーホイールにおいては、リムの内側のフックの間の幅が17mm以上のものを指すことが多いようです。この記事では、以後「リム内幅17mm(=C17)以上の太さのホイール」をワイドリムと定義します。
すでに店にあるロードバイク用ホイールのほとんどは、ワイドリムになっています。
私の感覚ではかなり早い速度で入れ替えが進んだ気がするのですが、その感覚が実際どうだったのか、調べてみた結果を纏めてみたいと思います。
ワイドリム化の流れ
まずは、ロードバイク界隈におけるワイドリム化の簡単な流れを示します。
2015年頃の様子
前段で述べた通り、ワイドリムとはリム内幅17mm以上のホイールを指します。19mmでも21mmでも、どれもワイドリムです。これ、個人的にはちょっと変な感じがするのですが、そこは一旦置いておきます。
つい5年ほど前までは、ワイドリムというのは珍しい存在でした。その頃、ほとんどのロードバイク用のホイールのリム内幅は15mm(=C15)。しかし、ワイドリムの登場により、リム内幅が15mmよりも細いホイールは、「ナローリム」と呼ばれて区別されるようになりました。またここに自転車業界お得意の「新規格」が登場したわけですね……。
カーボンホイールはいち早くワイドリム化が進んでいましたが、アルミリムはしばらくC15のナローリム路線を突き進んでいました。2015年のPBP、私はカンパニョーロの「EURUS」を使用しましたが、このホイールはC15のナローリムです。
2015年から2020年
しかし、それから数年。新たに発表されるアルミのホイールはことごとくワイドリム化。
カーボンホイールに至ってはC19が普通になり、C21なんてものも出始めました。この場合、リムの外幅は28mmを超えることもあり、25Cのタイヤを付けたらリムよりタイヤの方が細くなります。
2019年のPBP、私はフルクラムの「RACING 3 C17」を使用しました。このホイールは、その名前が示すように、C17のワイドリムです。積極的にワイドリムに移行する気は無かったのですが、もはやナローリムはほとんど選択肢が無くなっていました。
更に、今年購入したフルクラムの「RACING ZERO CARBON DB」はC19です。更に太くなりました。
このペースで行くと、次に買うホイールはC21になりそうです。一体どこまで太くなるんでしょうか?
変化を可視化してみる
本当にここ5年間で、あっさりとナローリムは駆逐され、ワイドリムの支配が完了しました。日本人のマスク装着率の変化ほどではありませんが、ここまで常識が早く変わることも中々無いでしょう。
しかし、実感としては早かったものの、どのくらいの速さでワイドリムに移行したかを具体的に説明するには情報が足りません。
そこで、「どのくらいの速さでワイドリムに移行したのか」を可視化する方法を考えてみることにしました。
可視化の方法
思いついたのは、日本で最もメジャーな自転車雑誌「サイクルスポーツ(以下、サイスポ)」のホイールインプレッション特集の情報を整理する方法でした。
サイスポはほぼ毎年のようにホイールを数十本集めたインプレ特集を組んでいます。そのインプレで取り上げられている各年のホイールのリム内幅の平均値を出せば、一つの目安になるのではないか?と考えました。
具体的な可視化方法を以下に示します。
・各年の取り上げられているホイールからクリンチャーホイールのみを抽出する。
・ホイールのリム内幅を検索する。
・アルミリムとカーボンリムで分けて、リム内幅の平均値を算出する。
・2014~2019年までのリム内幅の平均値の変化をグラフ化する。
集計結果
こちらに詳細な集計結果を置いておきますので、気になる人はどうぞ。
概要は以下のようになりました(カッコ内の数値は対象ホイール数)。
アルミリム 内幅平均[mm] |
カーボンリム 内幅平均[mm] |
|
2014年 | 15.3 (11本) | 15.8 (10本) |
2015年 | 15.3 (20本) | 17.0 (17本) |
2016年 | 16.3 (4本) | 16.8 (5本) |
2017年 | 18.0 (13本) | 17.6 (21本) |
2019年 (リム) |
17.9 (3本) | 18.7 (12本) |
2019年 (ディスク) |
18.2 (4本) | 19.6 (13本) |
2018年はホイールインプレ特集は無し。2019年の特集からは、ディスクブレーキ用ホイールのインプレも加わっています。リムブレーキとディスクブレーキでは、構造上ディスクブレーキの方が太くなりがちなので、別集計としました。
結果グラフ
集計結果をグラフ化しました。
アルミリム、カーボンリムともに増加傾向があることが一目で分かりますね。そして、基本的にはアルミよりカーボンリムの方が太く、リムブレーキよりディスクブレーキの方が太い傾向があります。
2017年にはアルミとカーボンの太さが一時逆転していますが、これはアルミ陣営に2017年モデルから一気にワイドリム化したカンパ・フルクラム陣営のホイールが多く含まれていることが理由だと思われます。2016年にはMAVICのアルミもワイドリム化していますし、ナローリムにこだわり続けたシマノがアルミ陣営に入っていないことも大きいはずです。これに対し、カーボン陣営には最後までワイドリム化に抵抗したLIGHTWEIGHTが含まれています。
アルミリムは2014~2015年時のリム内幅の平均は15.3mmと、ほぼナローリムのみだったことが分かります。これが2019年になると、リムブレーキで17.9mm、ディスクブレーキでは18.2mmとなり、完全にワイドリムが定着しています。より太いタイヤを履けるディスクブレーキのロードバイクが流行したことも後押しとなったのでしょう。
やはり実感通り、この5年間でロードバイク業界はワイドリムに大きく舵を切ったことが確かめられました。
各メーカーのワイドリム対応
上記の2014~2019年の調査をしていく中で、メーカーごとにワイドリムへの対応姿勢が異なることが分かってきました。
積極的にワイドリム化したメーカー
ENVE・BONTRAGER・ZIPPあたりの北米メーカーは、2014年時点で既にワイドリム化しています。同じくアメリカのRolfも2015年頃にはワイドリム化しています。SPECIALIZED傘下のROVALも早かった。
各社カーボンリムが主力ということもあるかもしれませんが、それにしても早かったですね。ワイドリム化の流れはアメリカから始まっているのでしょう。実際、太いリムが活躍するのは荒れた路面でしょうし、そうした需要が多いのもまたアメリカということで納得できます。
遅れてワイドリム化したメーカー
MAVICは2014年まではナローリムオンリー、それも上位モデルほどリム内幅が細くなる「ナローリム大好き」党でしたが、2015年に突如方向転換。ミドルクラスのキシリウムエリートをワイドリム化させました。ただ、2017年まではワイドリムとナローリムを混在しており、上位のSLモデルはナローリムを採用していました。現在では全てのモデルがワイドリム化されています。
CAMPAGNOLO・FULCRUM連合は2016年まではナローリムに拘っていましたが、2017年から「C17」を付けたモデルを発売。NEUTRONとEURUSはナローリムのまま残されましたが、NEUTRONは2019年にカタログ落ち、EURUSは2020年にカタログ落ちしました。
最後までワイドリム化に抵抗したメーカー
LIGHTWEIGHTは2017年まで頑なにナローリムに拘っていましたが、2019年になってワイドリム化しました。究極の回転体と言われたホイール、そのバランスを変えたくなかったのかもしれません。
SHIMANOはディスクブレーキ用のホイールはワイドリム化していますが、リムブレーキ用のアルミホイール(リムハイト40mm以下)は未だにナローリムです。何故かリムハイト50mm以上のホイールだけは、アルミでも9000時代からリム内幅17mmのワイドリムでした。
まとめ
2014~2019年にかけての、ロード用クリンチャーホイールのワイドリム化の流れを確認することが出来ました。
2020年はサイスポのホイールインプレ特集はまだ行われていませんが、行われたら更にワイドリム化は進行していることが予想されます。
これはまた別に記事を書こうと思っているのですが、ワイドリムが普通になると、タイヤ側の設計がワイドリムを基準としたものになります。タイヤをリムに付けた時の幅(23Cや25Cといった太さ)って、リムの内幅によって変化します。太いリムに付ければタイヤは太くなりますし、細いリムに付ければ細くなります。
5年前は恐らくほとんどのメーカーがC15のリムを基準にロード用タイヤを作っていたはずです。しかし、数年前からその基準はC17に代わり、2020年現在ではC19のリムを基準にしているメーカーもあります。C19のリムに取付けた時に25mmの太さになるように設計されたタイヤを、C15のリムに取付けたらどうなるか? 恐らく、22mmくらいのかなり細いタイヤになるはずです。期待した乗り心地は得られず、コーナーでの挙動も変になることが想像されます。
つまり、ワイドリム化が進むと、
タイヤがワイドリムを基準にするようになる → ナローリムに適したタイヤが無くなる
ってことなのです。この5年間の間に、それは進み、ほぼ完了してしまったことが今回の調査でよく分かりました。
2020年、カンパニョーロはナローリムで唯一残っていた「EURUS」をカタログから落としました。これで、カンパニョーロ・フルクラムともに現行品はすべてワイドリムになったということです。他のメーカーを見ても、もはやナローリムをラインナップしているメーカーは一握りになってしまいました。
個人的にはナローリムの踏み出しの軽さやスカっとした加速が好きで、ナローリム時代最後のSHAMALをわざわざ買ってストックしています。山岳ブルベであるSR600の時には、これを投入しました。やはり上りが多いとリム自体が軽いナローリムのほうが楽なんですよね。
合わせたタイヤは、ナローリム基準で設計された(と想像される)GRAVELKING。GRAVELKINGがラインナップされているうちはこの組み合わせを使いたいのですが、今後はナローリム基準で設計されたタイヤが手に入らなくなりそうで悩ましいです。
ナローリム派の人のために、ホイールメーカーは最低1モデルはナローリムを設け、タイヤメーカーも23C以下の細いタイヤはナローリム基準の設計をしてくれると良いなーと思っています。しかし、この業界全体のワイドリム化のゴリ押し傾向を見ると、早晩ナローリムは消滅しそうですね。そしてナローリムに合うタイヤも手に入らなくなると。ワイドリムの売上が落ちたらメーカー側も考えてくれるのかもしれませんが……。
著者情報
年齢: 35歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: QUARK ロードバイク(スチール), GIANT ESCAPE RX(アルミ)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)
# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせて頂きました。
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