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【レビュー】Bianchi「INFINITO CV DISC(2020)」
評価:4
Bianchiのエンデュランスロード。クラシックレース用に開発されたモデルで、アップライトな姿勢とエアロ性能を兼ね備えたフレームです。
購入動機
購入に至るまでの経緯は下記の記事に詳しく書きました。
購入に至るまでの経緯

注文したのは2019年末、納車されたのは2020年3月でした。
当時はまだプロレースでも半分くらいのチームがリムブレーキを選択しており、リム→ディスクの移行期真っ只中という感じ。そんな中、ディスクロードの中で「これは!」と思った一台を購入しました。
エンデュランスロードながら、サスペンションのような機械的なギミックを搭載していなかったことも選定の理由です。機械的なギミックは分かりやすく乗り心地は良くなるものの、破損する可能性も大きくなるのでトラブル回避の観点から避けたかったのです。
私は黒いフレームにこだわりがあるので、これまでチェレステのイメージが強いBianchiは候補に上がらない存在ではありました。INFINITO CVはモデル展開2年目からブラックカラーが加わり、購入の候補となりました。
選定のポイント
今でこそ乗り味に破綻のあるモデルはほぼ無くなりましたが、2019年当時は1~2割ほどはそういったモデルも混じっていました。まだまだディスクロードの設計における定跡が確立されていなかったのでしょう。
2015年にディスクロード黎明期のモデルを買って大失敗をした経緯から、「次のディスクロードでは失敗しないように」と慎重に選定を重ねました。ディスクロードだけで50台は試乗したはずです。
その中からINFINITO CVを選ぶに至ったポイントを挙げます。
- フレーム性能
試乗した中で、乗り心地と加速性能のバランスが一番良かった。- フル内装ではないこと
ケーブル完全内装のフレームが増えていた時期だったが、メンテナンス性を優先して外装のフレームを希望していた。- カラーリング
チェレステばかりのBianchiには珍しく黒系の色があった。- JUMBO VISMAが使っている
ディスクブレーキモデルが実際にプロレースに投入されていた。
試乗の際には「エンデュランスロードであること」は特に意識していませんでしたが、結果的にエンデュランスロードであるINFINITO CVを選ぶことになりました。
世のロードバイクは「ケーブル完全内装」時代が到来。「ケーブル外装である」という条件があった時点で、シリアスなロードレース用モデルは大抵が候補から外れてしまったというのもあります。エンデュランスロードでは空力性能はそこまで重視されない(最近はそうでもないが……)ということもあって、外装のモデルが多かったのです。
INFINITO CVはフレーム形状こそエアロを意識したカムテールを取り入れていましたが、ケーブル自体は外装のフレームでした。
納車
注文からちょうど100日後の2020年3月に納車となりました。コロナ禍にちょうど突入した頃ですね。
ビアンキストア横浜でかっこいい納車写真を撮影してもらいました。

納車時のファーストインプレッション記事はこちら。
製品概要
フレームサイズは53。重量は未実測。カーボンフレームです。
パリ~ルーベ等のクラシックレースをターゲットに制作されたエンデュランスフレームで、Bianchi自慢の振動吸収素材「Countervail」を搭載。モデル名の「CV」はCountervailの略です。
シートポストは専用品ですが、機械的なギミックの搭載はありません。荷物を搭載したりフェンダーを付けるためのアイレット(ダボ穴)も特に用意はされていません。
最大タイヤ幅は32Cまで対応とされていますが、実際はもっと太いタイヤも入ります。
使用感
主に夜練や週末ライド、ディスクブレーキ向け装備の実験機として使用。ブルベでは3回ほど使用しました。最長で400kmブルベまで。
納車からの3年半で走行距離は10000km前後です。
カスタム内容
元々は機械式アルテグラ完成車で購入しましたが、構成は何度か変えています。
カスタムの歴史を以下に示します。
ハンドル | STI | ブレーキ | クランク | ホイール | |
納車時 | 3T Ergonova Team | SHIMANO ST-R8020 (油圧ブレーキ/機械式変速) |
SHIMANO BR-R8070 (油圧) |
FC-R8000 | Fulcrum Racing 5 DB |
クランク変更 | 3T Ergonova Team | SHIMANO ST-R8020 (油圧ブレーキ/機械式変速) |
SHIMANO BR-R8070 (油圧) |
FC-R9100-P | Fulcrum Racing 5 DB |
ホイール変更① | 3T Ergonova Team | SHIMANO ST-R8020 (油圧ブレーキ/機械式変速) |
SHIMANO BR-R8070 (油圧) |
FC-R9100-P | Fulcrum Racing 0 Carbon DB |
ホイール変更② | 3T Ergonova Team | SHIMANO ST-R8020 (油圧ブレーキ/機械式変速) |
SHIMANO BR-R8070 (油圧) |
FC-R9100-P | HUNT 44 AERODYNAMICIST |
ブレーキシステム変更 | CADEX RACE | SHIMANO ST-9001 (機械式ブレーキ/機械式変速) |
GROWTAC EQUAL (メカニカル) |
FC-R9100-P | HUNT 44 AERODYNAMICIST |
ホイール変更③ | CADEX RACE | SHIMANO ST-9001 (機械式ブレーキ/機械式変速) |
GROWTAC EQUAL (メカニカル) |
FC-R9100-P | SHIMANO WH-R8170 |
現在は、メカニカルディスクブレーキで運用しています。

詳しい変更経緯はこちらの記事に。要約すると「油圧ディスクのレバーは重すぎて不快だったので、レバーを軽く出来るメカニカルディスクに変えた」ということです。
試乗の感触が良かったからINFINITOを選んだのですが、いざ手元に来ると走りが重い。
何故かと思って後から試乗時の構成を確認した所「すごく軽い電動デュラのレバーが付いていた」ことが判明。メカニカルディスクにしてレバーが軽くなったことで、ようやく試乗時の感触を取り戻せました。

フレームに付属するスルーアクスルシャフトはレバー内蔵式ですが、走行中にレバーがカタカタ言うのが気に入らず、六角式のものに交換しています。
重量
エンデュランスロードですが、実はかなり軽いフレームセットです。
公称重量は、フレーム重量はフレーム950g(55サイズ)、フロントフォーク390g。55サイズで950gなので、私が乗っているフレームは53サイズなので、930gとかでしょうか。
同世代のレースマシンであるOltre XR4がフレーム単体重量980gとされていたので、実はそれよりも軽く仕上がっています。
納車時はペダル込で7.77kg。現在の構成なら諸々の装備を外せばペダル込で7.3kgくらいのはずです。
2020年時点のエンデュランスロードではかなり軽いフレームセットだったと思います。
フレーム形状
横から見るとエンデュランスロードらしいヘッドの長さがありますが、各部分を切り取るとエアロロードっぽい作りが目に付きます。
ヘッドチューブを正面から見るとエアロロードによくある樽型の形状。これは先んじて発売されていたOltre XR4から継承しているもののように思えます。
Oltreのほうが派手にくびれていますが、形状は良く似ています。フォークやダウンチューブの形状もカムテールを取り入れており、エアロへの意識が感じられます。2023年現在でこそ「エアロの要素を取り入れたエンデュランスロード」は多くありますが、2020年当時としては珍しかったですね。
そして、より珍しいのがこの極太シートステー。
エンデュランスロードと言えば「もうシートステー無くてもいいんじゃない?」というくらいシートステーを細く作って衝撃吸収性を上げるのが普通ですが、INFINITO CVはパワー伝達を優先したためか非常にマッシブな形状になっています。
Bianchiの国内代理店の方の説明によれば、「乗り心地はCountervailで確保し、フレーム形状はパワー伝達に集中」した結果だそうです。
BB周辺もかなりのボリュームがありますが、そこまでガチガチではなく適度な踏みごたえです。
ヘッドは長めですが、長すぎないサイズ。他社のエンデュランスロードに比べて、同サイズ比で15~20mmほどスタックが小さくなっています。
Oltre XR4はスペーサーを2.5cmほど積んでいますが、INFINITO CVは3mmスペーサー1枚で済んでいます。スペーサーをさほど積まなくても適切なポジションが出たのは良かったです。
剛性感
前の項で書いた内容と被りますが、ガチガチすぎない適度な剛性感です。
ただ、比較的剛性が落とされていることが多いエンデュランスロードという枠組みの中ではかなり硬い方だと思います。そこが気に入って買ったんですが。
INFINITO CVの先代に乗ったことはないんですが、かなり乗り味は変化していると想像します。
巡航
エアロを意識したフレーム造形ということもあり、30~35km/hくらいの速度で気持ちよく走れます。
こちらは各社のエンデュランスロードのヘッド角を横軸・シート角を縦軸に取ってプロットしたものです。
INFINITO CVは「シート角はかなり立っていて、ヘッド角は寝ている」という特徴があることが分かりました。設計意図を察すると、「反応性は良く、ハンドリングは穏やかに」という方向性に見えます。やはりクラシックレースを意識した味付けということなのでしょう。
ちなみに、Oltre XR4とシート角・BB下がりは共通です。Oltre XR4の設計思想がかなりINFINITO CVに影響している気がします。
加速性能
ゼロ発進・ある程度の速度からの加速ともに良好です。
やはりマッシブなフレーム形状と、エンデュランスロードとしてはアグレッシブなジオメトリが効いている気がします。
シートステーの間には剛性を高めるためと思われるブリッジが入っており、加速性能へのこだわりが感じられます。
モッサリ感なく加速する点がこのフレームで一番気に入っている点です。
初期のディスクロードはモッサリしているかガッチガチかどちらかだったんですよね……。乗り心地も良くモッサリしていないという点で、このフレームに惚れ込みました。
登坂性能
フレーム重量は軽めであり、ジオメトリ的にもレーサー的であるためか、登りでの重ったるさはありません。
ただ、ダンシングでは少々振りが重く感じます。ヘッド角が寝ているからですかね?
コーナーリング性能
計算上のトレイルが68mmとやや長めであり、直進安定性を重視したフレームということもあって、コーナーリングがスパスパ決まるタイプのフレームではありません。
フレームの剛性の高さもあり、ソロライドでの峠のダウンヒルのようなシチュエーションでは安心してコーナーをこなせる性能を持っています。
快適性
個人的に乗り心地に影響する要素は「衝撃」と「振動」があると思っています。
INFINITO CVは車名にも付いている「Countervail」という振動を抑制するカーボンシートがフレームの中に層として入っているそうです。実際、微振動はかなり抑えられいるので、ある程度荒れた道でも乗り心地は良く感じます。
一方、「衝撃」の方はというと、結構ガツガツ来ます。試乗ではそこまで大きな段差に突っ込むシチュエーションはなかったですが、実際に所有してみると衝撃を素直に伝えてくるフレームであるなと。フレームの作りを見ると衝撃をいなすような形状はしていませんし、当然といえば当然かも知れませんが。
フレーム付属のD型シートポストは後方にしなりやすくなって少しは中和してくれますが、やはり太いシートステーの突き上げは感じます。
この辺りは最大32Cまでの対応を活かして、タイヤを太くして対応してほしいということなのでしょう。元々クラシックレース用ですし、安楽椅子のような快適さまでは考慮されていない気がします。
ちなみに、34Cタイヤを取り付けてもまだまだ余裕はありました。
積載性能
エンデュランスロードと言えば、ツーリング的な用途に備えて各種バッグを付けるためのアイレット(ダボ穴)が設けられている場合があります。
INFINITO CVにはそういった設備は一切ありません。

こちらの記事で書いたように、エンデュランスロードにも大きく分けて「ロングライド用」と「レース用」があり、INFINITO CVは典型的な「レース用」に分類されるエンデュランスロードです。荷物を積んで……というよりは、あくまでレースを速くゴールすることを意識されていますね。
その意図が良く現れているのが、このトップチューブとヘッドの継ぎ目の構造です。

ここはVisionのMetronハンドルを付けた時に、空力的に最適化するための形状だそうです。
ただ、トップチューブの真ん中が盛り上がっているので、トップチューブバッグが付けられないという欠点もあります。積載性能よりもエアロ性能を選んだフレームということですね。
フェンダーへの対応
ブルベでは雨の中でも走らなければならないので、フェンダー(泥除け)を付けたいことがあります。
INFINITO CVの場合、フロント側は問題ないのですが、リヤ側はフェンダーが付けにくい事情があります。
剛性を高めるためのブリッジが、フェンダーを付ける時には非常にじゃまになるのです。
唯一ちゃんと付いたのがASS SAVERのFENDER VENDER4でした。
クラシックレースを走るならフェンダーは不要……ということなのでしょうけども、ここまで加速性能にこだわっているエンデュランスロードも珍しい気がしますね。TREKのDomaneやSPECIALIZEDのRoubaixがフェンダー用のアイレットを用意していることを考えると、かなりの思想の違いを感じます。
見た目
黒とダークシルバーの塗り分け、ロゴには赤色が入っています。
「赤と黒」のカラーにこだわる私としては気に入っています。
トップチューブには、車名(INFINITO=永遠)を表す∞のマーク。
その他
INFINITO CVがクラシックレース用に作られたことを示す画像がこちら。
Spring Classics set up!@WoutvanAert & #InfinitoCV
📸 @olafpix #Bianchi #RideBianchi #BianchiBicycles pic.twitter.com/054BVPBMfq
— Bianchi (@BianchiOfficial) March 3, 2020
INFINITO CVを手に微笑むワウト・ファンアールト。これで春のクラシックレースをワウトが制してフレームの優位性が証明される……はずでした。
しかしこの直後、世界はコロナ禍に突入してしまい、春のクラシックレースは全滅。翌年からはユンボヴィスマのチームバイクはBianchiからCerveloに変わってしまい、結局レースでワウトがINFINITO CVに乗ることはありませんでした。INFINITO CVオーナーとしては悲しい出来事でしたね……。
まとめ
レーサーとしての性格を強く与えられたエンデュランスロードです。
長距離を高速で巡航できる性能を持っています。Bianchiのサイトでも、「Endurance Racing」カテゴリのフレームになっていることからも明らかですね。
Oltre XR4も持っている身からすると、INFINITO CVは「直進安定性を高めて、アップライトなポジションを取れるOltre XR4」という印象があります。実際、ジオメトリや各部の造形はかなりOltre XR4の影響を受けていることが数値上からも分かります。同一メーカーの兄弟マシンというのが乗り心地からも分かりました。
本気でユンボ・ヴィスマにクラシックレースを勝たせるために作ったことが伺えますが、コロナ禍でほとんど使われずに終わってしまった悲運のフレームでもあります。
フレームの動的性能は期待通りで満足しています。2020年当時のフレームとしてはベストなものを選べました。
一方、ブルベ的な用途に向くか?と言われると少々アンマッチだった気はしています。

乗り心地は良い部類であり、スピードもしっかり出ます。ただ、荷物の積載やフェンダーの装着といった要素は全く考慮されていないため、結局ブルベには3年半で3回しか投入しませんでした。その辺りを考慮して作ったリムブレーキのオーダーフレームのほうが便利だったからです。速度としてはINFINITO CVのほうが早いけど、運用の面で困ることが多かったと言うか。
ケーブルが外出しでポジションの調整がしやすい点は良かったですが、現在は夜練マシーン兼ディスクブレーキ用装備のテストマシーンとなっています。
ただ、今回のPBPでもINFINITO CVで時間内に完走された方はいましたし、決してブルベに向かないわけではありません。我が家にもっとブルベ向きのフレームがあったというだけです。
もう少し私もブルベの現場でも使いたいのですが、なかなかフレーム選びとは難しいものです。
評価
対象モデル: Bianchi「INFINITO CV DISC(2020)」
年式: 2020年
定価: 638000円(完成車・税込)
購入価格: 638000円 (完成車・税込)
価格への満足度
機械式アルテグラで63万はちょっと高い気はする。
総合評価
走行性能は素晴らしく快適性も高い。ただ、ロングライド装備への考慮はあまりされていない点に注意。
著者情報
年齢: 39歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: BIANCHI OLTRE XR4(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)
# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。