【レビュー】CYCLAMI「TPUチューブ(18-32C/60mmバルブ)」

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評価:3

中国・CYCLAMIのTPUチューブ。TPUチューブは樹脂バルブを採用するのが普通ですが、金属バルブを採用している点が特徴です。

目次

購入動機

「TPUチューブなのに金属バルブを採用している」という点が気になり、2023年5月にAmazonで1本目を購入しました。

樹脂バルブが採用されるTPUチューブ

TPUチューブ自体は2019年から使っていましたが、基本的には全て樹脂バルブ。

Larouteの記事によれば、「樹脂と金属の接着が技術的に非常に難しい」ことが理由らしく、チューブを樹脂(TPUも樹脂の一種)にするのであれば通常はバルブも樹脂にしなければならないそうです。

ただ、樹脂バルブには色々と問題もあります。

代表的な問題は、こちらの記事に書いたように「バルブ径が太すぎてリムを通らない」ことがある点。バルブコアを挿入する際にバルブ自体が広がってしまうことが原因と思われます。「ポンプヘッドによってはバルブが差し込めず、空気が入れられない」ということも起こります。

また、変形しやすいということは、バルブとバルブコアの間からの空気漏れなども起こりやすいということになります。枯れた技術である金属バルブに対し、樹脂バルブはTPUチューブの懸念材料になっています。

異色の金属バルブ採用

しかし、今回レビューするCYCLAMIのTPUチューブは、通常のブチルチューブと同様の金属バルブを採用しています

「技術的に難しい」から、TPUチューブには樹脂バルブが採用されていたはず。金属バルブを採用したということは、その技術的な課題を解決した……ということになります。それにしては随分値段が安い(実売1500円程度)。

実は金属バルブを採用しているTPUチューブはもう一つあります。ドイツのEclipseです。

こちらはTubolitoやRevoloopより前からTPUチューブをやっているメーカーで、現在TPUチューブを販売しているメーカーの中では最古のはず。そんな老舗メーカーは、「特許技術により金属バルブの採用を可能にした」と明言しています。価格は3300-4000円程度と、CYCLAMIの倍額になります。

世界で最初にTPUチューブを販売したのは日本のPanaracer。ただし、Panaracerは現在TPUチューブを販売していません。
ちなみに、世界最初のTPUチューブは金属バルブだったようです。

CYCLAMIは恐らくEclipseとは別アプローチで金属バルブを接着しているはず(じゃないと特許侵害)。

とりあえず、実際に使い物になるのかを試してみることにしました。

製品概要

実測重量は36g(60mmバルブ)。バルブ長は45mm/60mm/80mmがあります。

素材はTPU(チューブ)、アルミ合金(バルブ)です。対応するタイヤ幅は、700×18-32Cまで。

付属品は以下の通り。

付属品
  • 説明書
  • アルコールパッド(パンク修理時のチューブ拭き用)
  • 修理用パッチ

使用感

リムブレーキのロードバイクに取り付けて、週末のロングライド・ブルベ用途に使用。タイヤは、基本的にGOODYEAR EAGLE F1R(28C)に取り付けています。

重量

公称重量は38±3gで、実測36g。誤差範囲内でした。

TPUチューブはざっくり厚みによって2種類に分かれています。40g前後の「標準」のものと、30g前後の「軽量」のもの。CYCLAMIは「標準」カテゴリに入る重量です。

付属品

パンク修理時に貼るパッチと、パッチを貼り付ける面を綺麗にするためのアルコールパッドが付属します。

こちらの記事で書いた通り、TPUチューブにおけるパッチは暫定対策にしかならないので、私はこのパッチは使っていません。

バルブ

前述の通り、一般的な金属バルブが採用されています。

バルブコアは外れないタイプ。

取付

他のTPUチューブと同様、0.5気圧(本製品は8PSIと表記)以下で少し膨らませた状態で取り付けます。

規格品の金属バルブのようなので、樹脂バルブにありがちな「リムとの相性」を気にする必要がありません。スルッとバルブホールを通ります。

チューブの色はライトグリーン。往年のロードレースファンには「リクイガスっぽい色」といえば通じるでしょうか。

加速

ブチルチューブ(70g前後)からこちらのチューブ(36g)に変えると、漕ぎ出しの軽さは感じられます。ヒルクライムでも僅かながら差があります。

乗り心地

一般的にTPUチューブは「同じ空気圧ならブチルチューブより乗り味が硬い」と言われます。実際、MageneのTPUチューブは非常に硬く感じ、路面のギャップで跳ねやすい感触がありました。

CYCLAMIのTPUチューブは、乗り心地面で言えばこういった硬さは感じられませんでした。ブラインドテストだったら多分見分けられません(漕ぎ出しの軽さで気づくかもしれませんが)。Revoloopと同様、TPUチューブの中では乗り心地の良い部類に入ると思います。

ブルベでも何度か使用していますが、乗り心地の面での不満はありません。

空気の抜け

さて、このチューブの最大の問題はここでした。空気の抜けがどうにも早い気がするのです。

気付いたきっかけ

CYCLAMIのTPUチューブはテスト購入のつもりでしたので、1本だけの購入。乗り心地が硬かったら後輪側に入れようと思っていましたが、思いのほか乗り心地は良かったので前輪側に取り付けました。後輪のチューブはR’Airです。つまり、下記の状態になっていました。

チューブ構成

前輪: CYCLAMI (TPUチューブ)

後輪: R’Air (ブチルチューブ)

私は平日の夜練ではカーボンロードに乗ることが多く、週末のロングライドはクロモリロードに乗ることが多いです。CYCLAMIはクロモリロードに取り付けていました。

前の週のライドから1週間が経ち、クロモリロードに空気を入れようとすると……明らかに前輪のほうが空気圧が低いのです。後輪は1気圧ほどしか抜けていないのに、前輪は2気圧ほど抜けています。

最初は前週に空気を入れる際に空気圧を見間違えたのかと思ったのですが、翌週もその翌週も同じでした。やっぱりCYCLAMIを入れた前輪の空気圧が後輪の2倍の早さで落ちていたのです。

これだけ空気圧の落ちが早いと、ロングライドで使用するのには不安があります。一旦、この個体の使用は中止することにしました。ただ、水に浸けてみても明確に気泡が出るようなことはありませんでした。

別の個体で実験

この空気圧の落ちの早さが「この個体の不良」なのか、「製品の構造」によるものなのか。

それを確かめるために別個体(個体B)を追加購入して、空気圧の低下量を計測することにしました。よく見ると、バルブ根本に魔法陣のようなものが追加されてます。シール接着の方法を変えたんでしょうか?

以下の方法で、個体Bの空気圧を計測しました。

  • 前輪に個体Bを取り付け、6.00気圧まで入れる(Panaracerのエアゲージで測定)。
  • 24時間経過ごとにPanaracerのエアゲージで空気圧を測定する。
  • 5日間に渡って計測を実施する。この間、一切走行はしない。

結果を以下に示します。

経過時間[h]空気圧[bar]
06.00
245.59
485.25
804.87
1104.56

何度か忘れてしまって24時間間隔での計測は出来ませんでしたが、約5日間で1.5気圧が低下しました。最初の24時間の低下は0.4気圧とかなり大きく、ブチルチューブの2-3倍のペースで低下しています

TPUチューブも他社のもの(RevoloopやTubolito)は24時間で0.1-0.2気圧程度しか低下しないものが多く、0.4気圧は明らかに大きな数字です。

グラフにするとこんな感じ。このまま丸一週間放置すると、4気圧まで低下する計算です。「1週間で2気圧落ちていた」という個体Aの事象と一致します。

n=2ではありますが、(たまたま2個連続で不良個体を引いたのでなければ)「製品の構造」に問題がありそうです。

乗車時の空気圧低下を確認

前の実験では全く乗らずに空気圧低下の具合を計測しました。ただ、走行した場合の空気圧の落ち方は変わるはず。ということで、6.00気圧を入れた状態から100kmを走行し、空気圧の低下具合を確認しました。

結果は以下のとおりです。

経過時間[h]空気圧[bar]
06.00
8
(100km走行)
5.71

走行した場合、100km(休憩含め8時間)で0.3気圧も低下していました。走行していない場合に比べてもハイペースです。仮に400kmブルベに出た場合、1.2気圧も低下してしまう計算となります。

なぜ空気の抜けが早いのか?

個体Bも水に浸けてみましたが、明確な穴や気泡などは確認できませんでした。目に見えるほどではない、しかし他社のTPUチューブやブチルチューブよりも早いペースで空気は漏れているということになります。

ここからは私の推測ですが、やはり金属と樹脂の接着に何らか無理があるのではないでしょうか

他社がいろいろなデメリットがあることを承知で樹脂バルブを採用しているのには何らかの理由があるはず。それが、接着の難しさなのではないかな?と。

こちらの記事でCYCLAMIのTPUチューブを開きにして、バルブ周辺の構造をチェックしてみました。

見た目だけの判断ですが、特殊な構造でバルブとチューブを接合していたEclipseに比べて、CYCLAMIの接合方法は至ってシンプルでした。工法としては他の樹脂製バルブ採用のTPUチューブと大差なかったのです。

樹脂×樹脂だと空気の漏れはほぼシャットアウト出来るものの、樹脂×金属だと本当に微妙ながら隙間が生じるのではないか……と推理しています。そのうちこのあたりの話を、TPUチューブの設計をしている人に話を聞いてみたいものです。

大きさ

非常にコンパクトで、ブチルチューブの半分ほどの体積になります。ツール缶などに入れての携行はしやすいです。

金属バルブを採用しているため、リムとの相性を考える必要がなく、予備チューブには適任でしょう。

耐久性

最初に使ったCYCLAMIのTPUチューブは2000km程度使いましたが、パンクはありませんでした。

こちらの記事では「パンクしたTPUチューブを開きにした」と書きましたが、この記事に出てくるCYCLAMIのチューブは明確なパンクをしたわけではありません。前述の空気の抜けの早さが気になり、「どこかの穴からスローパンクしているのかも?」と思って使用を中止したものです。

耐パンク性能は悪くないのではないかと思います。ただ、空気圧の低下が早いため、気づかないうちに低圧状態になってリム打ちパンクをしやすくなる可能性はあります

価格

定価は1780円のようですが、Amazonでは定期的に安売りされています。安売り時は1400円くらいになります。

R’Airと同程度の価格帯で重量は半分という点ではアドバンテージがあると言えます。

別バージョン

この記事を書くにあたってAmazonを検索していたら、CYCLAMIから別バージョンのTPUチューブが販売されているのを見つけました。

明言されていませんが、恐らく「根本が樹脂、途中から金属」のバルブを採用しています。

RideNowからもそういったバルブのTPUチューブが出ているので、恐らく工法は同じではないかと見ています。

私の推測では「樹脂のチューブ」と「金属のバルブ」の接合部が空気圧低下の原因なので、ここが「樹脂のチューブ」と「樹脂のバルブ」の組み合わせになる方法では空気圧低下は緩やかになるはず。

また、リムを通過するバルブ先端は金属なので、リム・ポンプヘッドとの相性を気にする必要はありません。このハイブリッド方式は今後のスタンダードになる可能性はありますね。

CYCLAMIのチューブ自体の品質は悪くないので、ハイブリッド方式のバルブであれば不満点が解消されるかもしれないと思い、1本注文してみました。

まとめ

金属バルブを採用しており、リムやポンプヘッドとの相性を考える必要がないTPUチューブ。乗り心地も硬くありません。

ただし、空気圧の低下が早いです。ラテックスチューブほど早いわけではないですが、ブチルチューブの倍のペースで空気圧が低下しました。

2本しか計測していないので不良個体という可能性はあります。ただし、全然別の時期に買った2本がどちらも不良個体であるとしたら、品質管理にも問題があることになりますし、どちらにしてもちょっとリスクの高いチューブであると感じました。

使用時間の短いヒルクライムや普段の練習に使うのであればリスクは低そうですが、ロングライドで使う場合には空気圧管理にご注意ください。

評価

対象モデル:  CYCLAMI「TPUチューブ(18-32C/60mmバルブ)」
年式: 2023年
定価: 1780円
購入価格: 1422円
公称重量: 38g
実測重量: 36g

価格への満足度

8/10

ブチルチューブ並の価格。

総合評価

6/10

全体的に良く出来ているが、空気圧の低下がかなり早い点だけが気になる。

著者情報

年齢: 39歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: GHISALLO GE-110(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)

# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。

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この記事を書いた人

ロングライド系自転車乗り。昔はキャノンボール等のファストラン中心、最近は主にブルベを走っています。PBPには2015・2019・2023年の3回参加。R5000表彰・R10000表彰を受賞。

趣味は自転車屋巡り・東京大阪TTの歴史研究・携帯ポンプ収集。

【長距離ファストラン履歴】
・大阪→東京: 23時間02分 (548km)
・東京→大阪: 23時間18分 (551km)
・TOT: 67時間38分 (1075km)
・青森→東京: 36時間05分 (724km)

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