【レビュー】DirtBags Bikepacking

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アメリカ・サウスダコタ州のハンドメイド工房。主にバイクパッキング用のバッグを作成しています。今回は、大型サドルバッグをオーダーした際の話を書きます。

目次

利用動機

2019年3月。PBPに向けて、色々と持ち物の見直しを行っていました。

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一つ気がかりだったのは、2014年に購入して主力として使ってきた大型サドルバッグの老朽化。OvejanegraのGearjammerは非常に素晴らしく、この5年間の私のロングライドを支えてくれましたが、5年も経つと流石にいろいろな部分がヘタれてきていました。

非常に気に入っていたのでリピートをしようとOvejanegraに連絡を取ったのですが、

「ごめんなさい、カスタムオーダーはもうやめてしまったの。」

との返事。私が注文したDyneemaという軽量生地を使った特別バージョンはもう生産をしていないというのです。サイズを指定しての完全オーダーメイドもやっていたのですが、そちらも取りやめ。割に合わなかったのかも知れません。

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そんな時、とあるサイトで今回取り上げるDirtBagsというブランドのサドルバッグを使用している人を見かけました。

見た時にまず思ったのは、「このバッグ、Ovejanegraに構造が似ている!」と言うことでした。OvejanegraのGearjammerは他社の大型サドルバッグとは違った以下の特徴があります。

・バッグの口を止める3本目のストラップが付く
・バッグの底部分にコップなどを引っ掛けるためのベルトが付く

DirtBagsの公式サイトを見ても、バッグの構造はGearjammerにそっくりでした。……これ、もしかして職人さんが独立して別ブランドを開いたパターンなのでは? Ovejanegraは少なくとも私がオーダーした2014年より前からやっていましたが、DirtBagsは2015年創業。ありえないとは言い切れません。

興味を持ったので、注文をしてみることにしました。

使用感

今回は、「Minimalist seat bag」を以下のカスタム仕様で注文しました。

・サイズを8割に縮小
・バッグ前部の生地はVX04、バッグの後部の生地はDyneema

見積

DirtBagsのサイトには、「Build your own」なるボタンが用意されており、これを押すとConfiguratorという画面にジャンプします。ここでは、グラフィカルにバッグのカラーをカスタマイズ可能です。

通常の大型サドルバッグの場合、3色も用意されていれば良い方。しかし、DirtBagsはバッグ前方の生地を10色から、バッグ後方の生地を20色から選ぶことが可能。その組み合わせは何と200通り。これだけカラーの選択肢があるブランドを私は他に知りません。更に、バッグのページには以下の文言が書かれていました。

「Not seeing exactly what you want? Want a bag that is uniquely you? Let us know here.」

これはつまり「各種カスタムオーダーを請け負う」ということです。これだけのカラーの選択肢を用意していながら更にカスタム出来るとなると、形を変えるサイズオーダーやDyneema生地による作成も可能な気がしてきます。そこで、以下の問い合わせを行いました。

Q1. 元々の容量の8割の容量に小型化出来ますか?
Q2. Dyneema生地を使った軽量バージョンをお願いできますか?

DirtBagsのMinimalist seat bagの容量は8-12リットルと、私が欲しいサイズより一回り大きいものでした。8割の容量である10リットルあれば十分だと考えての要望です。

翌日には、代表であるHeath氏から回答がありました。

A1. あなたのニーズに合わせてバッグのサイズを変更可能です。
A2. Dyneema生地を使うことはもちろん可能です。

10ドルのアップチャージが必要とのことでしたが、これは相場的には格安。アップチャージ込で115ドルと非常に安かったので、同じ素材・同じ形で、妻の分も色だけ変えて注文することにしました。

しかし、この時点で気づくべきだったのです。たった10ドルでサイズオーダーを請け負うのは、いくらなんでも安すぎるということに……。

会計

2週間ほどすると、「完成したよ」とのメールが届きました。同時にPaypalからの請求メールが届いたので、支払いを行いました。

添付されていた写真。同じ形で頼んだはずなのに、2つのバッグの形が若干違う(サイドパネルの長さが違う)ことが気になりはしましたが、一点物に文句をいうのも悪いと思い、そのまま荷物の到着を待ちました。

最終的な支払いは以下のとおりです。

 (サドルバッグ $105 + カスタムフィー $10) × 2個分 = $230 (約25000円)

配送

今回は会計が100ドルを越えていたので送料は無料でした。配送はUSPSのFirst Class Package。名前は上等ですが、実際には一番安い国際配送手段です。10日ほどで家に届きました。配送は日本郵便です。

届いた荷物を見てびっくり。ビニール袋です。バッグは柔らかいものであるとは言え、普通はダンボール箱に入れて送るものだと思っていました。破損などについて考えてはいないのでしょうか?

ビニール袋を開けると、ぺたんこになったバッグが2つ。とは言え、中に入ってるプラスチック板や、バックルの破損はありませんでした。

こちらが届いたバッグです。バッグ前部の生地がシワシワになっていますが、これは完成時の写真でもこうだったので、そういうものなのでしょう。しかし、それを置いておいても、この左右非対称っぷり。

底についているベルトも、左に片寄っています。Dyneema生地にも何度か縫い直した跡が……。防水生地なのに穴が空いています。取り付ける前から不安でいっぱいです。

取付

早速、中に荷物を入れて自転車に取り付けてみました。

一見、特に問題がないように見えますが……

後ろから見るとこの通り。ものすごく曲がっています。意図的に曲げて付けたのではありません。よく見ると、バッグの前部と後部がねじれて縫製されています。これでは真っ直ぐに付くはずがありません。

ちなみに、妻のバッグはこちら。縫製に雑さは見られるし、各部品は左右非対称であるものの、使えないほどに破綻はしていません。

どうやら、こちらの工房は品質に相当のバラつきがあるようです。完成時に送られてきた写真で感じた違和感は気のせいではなかったのでした。

クレーム

妻のバッグは良いとして、私のバッグはお金を取れるレベルの品物とは言えません。さすがにこれは酷いだろうということで、クレームのメールを写真付きで送付しました。間もなく、返事が届きました。

・私達の品質管理にミスがありました。新しくバッグを作って送ります。
・実はDyneemaは今までほとんど扱ったことがありませんでした。

とのこと。品質管理でどうにかなる問題なのかな……とは思いましたが、今回はカスタムオーダーの上に素材指定という難しいテーマでお願いした事情もあります。

「商売としてバッグを作っている以上、注意を払って作り直しをすれば、ちゃんとしたものは上がってくるだろう」と思い直し、バッグの再作成をお願いすることにしました。恐らく、2個目に作られたと思われる妻のバッグはそれなりの出来だったわけで。ただし、また変なものが送られてきても困るので、以下のお願いをしました。

baru「急ぎませんので、十分に品質管理を行った上で作ってください。お願いします。」
DirtBags「分かりました。我々の最高レベルの品質管理で作成します。」

作り直し

それから音沙汰なく1ヶ月が過ぎました。急かして品質の低いものを作られても嫌なので何も言いませんでしたが、進捗が気になったのでメールを送ってみました。

baru「そろそろ一ヶ月経ちますが、その後いかがですか?」
DirtBags「もうすぐ出来上がります。ただ、Dyneema生地の黒が手に入らないので、白でもいいですか?」
baru「OKです。よろしくおねがいします。完成したら、送付前に写真を見せてください。」

それから3日ほどで、発送したとの連絡が来ました。送付前に写真で変なところがないかチェックをしたかったのですが、無視されてしまいました。

再取付

配送は今回もUSPSのFirst Class Package。そして、やっぱりビニール袋包装で届きました。やはりこれがデフォルトなのね……。

取り出した図。確かに前回と比べると左右対称度は高まっています。Dyneema生地に縫直しの跡もなし。それでも底部のベルトは片寄っているし、完全に左右対称とは言えません。それでも最低限「使用可能な」品であれば満足しようと思っていました。

取り付けて後ろから見た図。今回は曲がりは無し。よしよし……と思ったのですが。

横から見ると、バッグにシートポストが食い込んでいました。先端部分には輪行袋を入れた上で、後ろから十分に圧縮しているにもかかわらず。どうやら、バッグの底部方向に荷物が逃げてしまっているようでした。

バッグを外して底面を見ると理由が明らかになりました。こうした大型サドルバッグには形を保つための骨組みとして、プラ板が入っています。その長さと幅が明らかに足りないのです。この足りない部分から荷物が逃げてしまい、バッグにシートポストが食い込んだわけです。

プラ板を入れ替えるには、一旦縫製を取らねばなりません。妻は裁縫が得意(趣味で小さなバッグや服を作っている)ので、縫製を取ってもらいました。プラ板もバッグに縫い込まれているようだったので、そちらも取ってもらい、プラ板を取り出したのですが……。

えっ、何これ? この写真、斜めから撮影したのではなく、真上から撮影したものです。どこをどうやったらこうなるのか分からないほどに左右非対称……というか、線すら引かずにフリーハンドで切ったとしか思えない歪みようです。しかも、プラ板は片側の2cmだけバッグに縫い込まれていました。一体どこからツッコんだら良いのやら。

仕方ないので、バッグの形状に合わせて家にあったプラ板を切り出して自作することに。左が私が切ったもの、右が元から入っていたもの。幅にして2cm、長さにして4cm足りません。型紙とか作ってないんでしょうか? 自作のプラ板を入れて、妻に縫い直してもらいました。

これでようやくまともに使えるか……と思ったら、また問題が。サドルレールに通すベルトを留めるバックルが、片側だけロックされないのです。引っかかりはするものの、少しでも衝撃を与えるとバックルが外れてしまいます。

左右のバックルを見比べて納得。写真右のバックルはベルトの通し方が本来とは逆なのです。下からベルトを通さなきゃいけないのに、上から通しています。これではロックされるはずがない。

ベルトを通し直そうとしましたが、こちらも縫製を取らないと通し直すことは出来ません。たとえ縫製が取れたとしても、これくらいの厚みのあるベルトは普通のミシンでは縫うことは出来ないのですが。先述の通り、裁縫が趣味である妻は職業用ミシンを持っていたのでした。普通の家庭にはまず無いものです。

かくして、正しくバックルにベルトを通すことが出来ました。ロックもバッチリ出来るようになりました! ……なんで客がこんな不良品対応をやっているのか。

2つの不良を修正し、なんとか使えるレベルになりました。しかし、ここまで色々問題があると、4年に1回のチャンスであるPBPで使おうという気分にはなりません。これなら使い古しのOvejanegraの方がマシです。

なお、不良修正後のバッグの重量は186gと、かなり軽量でした。重量は理想なんですが……ね。

再クレーム

笑顔で終わりたかったのですが、無念の再クレームです。

と言っても、これ以上作り直しても品質が上がることはなさそうですし、かといって既に2つ分のバッグを作る工数と材料を使わせている以上、返金をしろという気もありません。

ただ、私がここのバッグを注文するときに「面白いものを見つけた」とツイートしたのを見て、バッグを購入した人が少なくとも2人いました。後からツイートを見て買う人もいるかもしれません。そういった人が私と同じ目に遭わないように、今回の2点の不良について説明し、再発しないことを求めるつもりでした。

しかし、その返事は……

DirtBags「問題についてお詫び申し上げます。
私達の会社は注文フレームバッグを専門にしており、サドルバッグのサイズオーダーはあまり受けたことがありません。」

って、それならそうと先に言ってもらわないと……。自信満々にサイズオーダーを受けてくれたので、よほど手慣れているのだと思っていました。サイズオーダーがたった10ドルで出来る時点で怪しいと気づくべきでしたが。

DirtBags「プラスチック片は確かに非対称に見えます。
プラスチック板は、バッグを裏返した時に捻れて暴れるので、通常はもう少し厚いものを使います。」

何を言っているのか良く分かりませんが、「非対称なのは仕様です」ということだと受け取りました。もう一つのバックルのベルトの通し方が誤っている点についても、

DirtBags「あなたのバックルの何が問題なのかよく分かりません。バックルが裏返っていましたか?
私達はあなたのバッグに荷物を詰めて、自転車に付けてチェックをしました。」

てっきり取付テストをしていないのかと思いましたが、テストをした上でロックされないことに気づいていないと。余計に問題です。テストをしても問題を見逃しているわけですから。テストの意味がありません。

また、プラ板のサイズについてはサイズオーダーの影響もあると思われますが、バックルは既製サイズのバッグも同様のものが使われています。既製サイズのバッグも、この問題は起きうるわけです。走行中に起こればバッグが脱落し、落車もありうる重大ミスなのに……。

「何が問題なのか」を理解していないようだったので、図を書いてメールに返信しましたが、その後は返事が来ることはありませんでした。面倒なジャパニーズだと思われたのでしょう。私ももう諦めることにしました。

まとめ

カラー展開の豊富さは魅力ですが、ことカスタムオーダーの品質は非常に低い工房です。

ハンドメイド工房にサドルバッグをオーダーするのは今回が3回目ですが、今回は私の中の常識を覆されました。サドルバッグが左右対称であることは当たり前だと思っていました。中に入っているプラ板はちゃんとバッグのサイズに合ったものが入っていると思っていました。バックルがロックされないなんてことは想像もしませんでした。


 

失礼を承知で申し上げますが、こちらの工房のバッグは売り物としてのレベルに達していません。

これまで購入した他社の大型サドルバッグはいずれも「工業製品」としての精度を満たしたものでしたが、こちらのサドルバッグは「工作」レベルの精度です。身内に作ってあげるならこの品質でも許されるでしょうが、売り物でこの品質は許されません。生地のカットも縫製も雑すぎます。

「細心の注意を払う」と言って作り直したものがこのレベルとなると、超絶に不器用であるか、それともいい加減に取り組んでいるかのどちらかです。どちらにしても、また使おうという気にはなりません。これで「Life Time Warranty(生涯保証)」を謳っているのは何かのジョークでしょうか。

今回の出来事で思い知ったのは「直販の怖さ」でしたが、間接的に「代理店のありがたさ」も思い知りました。

日本に入ってきている大型サドルバッグは多数ありますが、ほとんどは日本の代理店を通して輸入されています。代理店もクレーム処理はしたくないでしょうし、品質的にも安定したメーカーでないと契約には至らないでしょう。

私が前回購入したOvejanegraは、「Revelate Designs」や「Apidura」と言った一流ブランドを取り扱うAltenarive Bicyclesさんが国内代理店を務めています。いわば、「目利きの保証がある」ブランドであったわけです。

それに比べると、Dirtbagsは日本代理店もなく、アメリカ国内でも直販のみのようです。外部に品質を保証する人はいません。そして恐らく、内部基準も非常に低いことが伺い知れます。バッグが脱落するレベルの不良を見逃していますし。

サイトが綺麗で良さそうに見えても、そこまでちゃんと調べてから購入すべきでした。今回は良い勉強になりました。


 

一つ弁護をしておくと、既成サイズのバッグの品質はここまで酷くないようです。私のツイートを見てこちらのバッグを購入した二人(いずれも既製サイズを購入)に写真を見せてもらいましたが、生地についてはきちんと左右対称になっているようでした。縫製はやっぱり微妙でしたし、底部のベルトは曲がって付いていましたが……。あと、二人のうち一人は色を間違えられていました。こちらも作り直し対応となったようです。

既製サイズのバッグは、恐らく型紙が用意されているのでしょう。何個も同じサイズで作れば慣れていくはずですし、品質も安定するはずです。一方、サイズオーダーの場合、単純に生地のサイズを等倍に縮小しても上手く行きません。ベルトやバックルなどのサイズは固定だからです。型紙も作り直しですし、再設計と同じくらいの労力が掛かるはずです。これをたった10ドルで請け負うのは、よほど経験値があるか、もしくは大変さを見積もれないほど経験が少ないか。今回の場合は、残念ながら後者でした。

「カスタムオーダーを請け負うなら、もう少し高い金額を設定すべきだ」と言おうとも思っていましたが、返事もないのに追撃するのも躊躇われるので、結局言わずじまいです。

サイトの写真を見ると、とても人の良さそうな夫婦なんですけどね~……なぜこうなってしまったのか。


 

そして、Ovejanegraとバッグの構造が似ていることについては、結局聞かずじまいでした。誰か機会があれば聞いて教えてください。

レビュアー情報

年齢: 34歳 (執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: QUARK ロードバイク(スチール), GIANT ESCAPE RX(アルミ)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)

# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせて頂きました。

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この記事を書いた人

ロングライド系自転車乗り。昔はキャノンボール等のファストラン中心、最近は主にブルベを走っています。PBPには2015・2019・2023年の3回参加。R5000表彰・R10000表彰を受賞。

趣味は自転車屋巡り・東京大阪TTの歴史研究・携帯ポンプ収集。

【長距離ファストラン履歴】
・大阪→東京: 23時間02分 (548km)
・東京→大阪: 23時間18分 (551km)
・TOT: 67時間38分 (1075km)
・青森→東京: 36時間05分 (724km)

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