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【レビュー】GROWTAC「EQUAL 機械式ディスクブレーキキャリパー」
評価:4.5
グロータックのメカニカルディスクブレーキキャリパー。
本体重量もブレーキの引きも非常に軽く、制動力も実用的なディスクブレーキキャリパーです。
購入動機
詳しい経緯は↓の記事に。

ディスクロードの組み換え理由
要約すると、以下の理由です。
① 機械式変速・油圧ディスクブレーキで組んだディスクロードの反応が重ったるい。
② ホイールを変えても改善されないので、ハンドル周りの重さが原因ではないかと推測。
調べてみると、機械式変速・油圧ディスクブレーキ用のSTIレバーは、リムブレーキ用のSTIレバーよりも200g重いことが判明。
③ 軽量なリムブレーキ用のSTIレバーを使ってハンドル周りを軽くすべく、メカニカルディスクブレーキという選択肢を思いつく。
そんな中で選択肢に上がってきたのが、今回レビューする「EQUAL」ブレーキです。
電動化という選択肢
ハンドル周りを軽くする手段として一般的なのは「電動変速化」。油圧ディスクブレーキ用のSTIレバーは、機械式変速と電動変速では重量と大きさがかなり違うのです。
特に重量については差が顕著。機械式変速から電動変速にすることで、同グレードならばSTIレバーだけで約150gの軽量化となります。
ただ、機械式変速から電動変速に変えるとなると、STIレバーの変更だけでは済みません。前後のディレイラーと各種ジャンクション、バッテリー等を買い揃える必要があります。
見積もってみると、旧型アルテグラ(R8000)で約20万円、新型アルテグラ(R8100)で約30万円掛かることが分かりました。さすがにちょっと高すぎる。
また、私が主にディスクロードを使うのはブルベであり、なるべく電源管理対象の製品を増やしたくないのも事実。普通に使えば電動変速のバッテリーの充電頻度は数ヶ月に一度程度(2-3000km程度)となるはずですが、ブルベでは一気にその距離を走ることもあります。
費用と電源管理という2つの問題から、電動化は見送ることにしました。
メカニカルディスクという選択肢
そして候補に上がってきたのが「メカニカルディスク」です。
最初は「メカニカルディスクはありえない」と思っていました。どうしても油圧より劣るものだというイメージが合ったからです。
しかし、EQUALブレーキの試乗をしてみたところ、フィーリングと制動力は良好。ブレーキパッドが自動で調整されない点を除いては何の問題も感じませんでした。
価格的に安く済むのも魅力。ブレーキ本体は33000円、それにSTIレバーと工賃があれば組み換えは可能となります。
幸い、我が家にはデュラエースのSTIレバーのストックがあり、これを使えば10万円以下で移行できそうです。
さらに、行きつけのショップがEQUALブレーキを多数施工しており、ノウハウも持っていることが分かりました。
結論: メカニカルディスク
重量・価格・ノウハウを持った店が行きつけのショップであった点などを考慮し、今回はEQUALブレーキを採用することに。
果たしてハンドル周りを軽くした所で自転車全体の反応が軽くなるのか?
確証は全くありませんでしたが、油圧ディスクからメカニカルディスクへの載せ替えを試すことを決意したのでした。
製品概要
実測重量は、137g/137g(ブレーキパッド含・フラットマウント用)。
ワイヤー引きのメカニカルディスクブレーキです。SHIMANOのSTIレバーの引き代に合わせて設計されているようです。
パッドはSHIMANO互換のものを使用可能。ただし、フィン付きのパッドは使えません。
私が購入したのはフラットマウント用の前後ブレーキセットです。セットには以下のパーツが付属します。
・専用ブレーキケーブル: 2セット
・フラットマウント用アダプター: 1個(フロント用・140mm/160mm)
カラーが複数から選べるのも特徴で、下記のカラー展開があります。
・ブルー
・レッド
・ゴールド
・ピンク(限定)
使用感
私が購入したのは、レッドカラーのフラットマウント用です。Bianchi INFINITO CVに取り付けて使用しています。主な用途はオンロードのロングライド(ブルベ)。
比較対象は、アルテグラの機械式変速/油圧ブレーキ(ST-R8020/BR-R8070)システムです。
使用期間は半年、走行距離は4000km程度です。
組み方
組み換え前のパーツ構成と、組み換え後のパーツ構成の比較表を以下に示します。
組換前 (機械式変速 油圧式ディスクブレーキ) |
組換後 (機械式変速 機械式ディスクブレーキ) |
|
STI (デュアルコントロールレバー) |
SHIMANO ST-R8020 554g |
SHIMANO ST-9001 365g |
ディスクブレーキキャリパー | SHIMANO BR-R8070 276g |
GROWTAC EQUAL 272g |
ハンドル | 3T ERGONOVA TEAM 200g |
CADEX RACE 157g |
ディスクローター(後側) | SHIMANO RT-MT900 (160mm) 109g |
SwissStop Catalyst (140mm) 121g |
合計重量 | 1139g | 915g |
ブルベで使うことを考えて電源管理する機器を増やしたくなかったので、電動化は見送り。機械式変速のSTIで一番軽いものということで、ST-9001(DuraAce)を採用しました。
ハンドルは有名メーカーで最も軽量なCADEXのRACE。これだけで43gの軽量化となっています。
ディスクローターは、安定した制動性と耐久性に定評のある、SwissStopのCatalystを採用。
組換後は、合計で224gの軽量化となりました。
重量
公称重量は136g、実測重量は137gでした。前後とも同じ重量。
詳しく調べたわけではありませんが、グロータックによればメカニカルディスクブレーキキャリパーとしては世界最軽量とのこと。
かなり低い位置にあるのでブレーキ自体の軽量化の効果はあまり実感できませんが、このブレーキを使うことによってSTIレバーが軽くなります。目的はそちら。
組付け
引き
制動力
制動力も必要十分にあります。ローターはCatalyst、パッドはEQUALブレーキ付属のものを使用。

現在はSHIMANOが4月に発売した新型パッド「K05S-RX」を使用しています。
入力(レバーを握る力)に対するストッピングパワーの大きさで言うと油圧の方が上な気はします。やはりメカニカルディスクでロスを減らしてもキッチリ組まれた油圧ディスクの方がロスは少ないということなのでしょう。ただ、EQUALブレーキは体重が80kgを超えている私でも余裕を持って止まれる制動力があります。
EQUALは左側のパッドのみが動き、右側のパッドは動かない「片押し」と呼ばれる構造になっています。これが理由で制動力に不安を持っておられる方も多いと思いますが、半年使った限りでは全く問題に感じません。

リムブレーキの最高傑作はBR-9000だと私は思っているんですが、それに比べても少ない握力で止まることが出来ます。やはりディスクブレーキという仕組みがブレーキとして優秀なのでしょうね。
ブルベでも使ってみましたが、長い峠のダウンヒルで特に効果を実感できます。リムブレーキでも握力を使えば制動力には問題を感じませんが、少ない握力で楽に止まれるという利点は大きいです。
雨天ライドでも使用。制動距離は多少伸びますが、リムブレーキよりも伸び幅は小さいです。
ただ、雨天ライドをすると路面の油を拾ってしまうのか、しばらくブレーキから「プワァァァン」と言った音がするようになりました。これは油圧でもあったことなのでEQUAL特有ではないはずですが。

こちらのケミカルで掃除した所、音は出なくなりました。
フィーリング調整機能
EQUALブレーキには、フィーリング調整機能というものがあります。ブレーキを「カックン」気味にするか、「コントロール性重視」のブレーキにするかの度合いを選べる機能です。
こちらはグロータックの技術資料の引用となります。
私は目盛り1と2の間くらいに調整し、カックン気味にしています。体重のある私にはこれくらいがちょいど良いかなと。
(2025/3/11追記)
調整方法を間違っていて、実は全く調整できていませんでした(一番制動力が低い状態で使っていた)。調整の様子は下記記事をご覧ください。

パッドの調整頻度
EQUALブレーキはメカニカルディスクです。油圧ディスクキャリパーのようにパッドとローターのクリアランスが一定に保たれる機構は入っていません。
そのため、一定距離ごとにパッドクリアランスの調整が必要となります。
ブレーキキャリパーの左右に調整用の穴(PAD INと書かれている部分)が開いており、そこに3mmの六角レンチを入れてパッドクリアランスを調整します。時計回りに回すとパッドがローターに近付き、反時計回りに回すとパッドが遠ざかります。
左側パッドの調整穴にはゴムカバーが付いているんですが、気がつくと無くなっていることがあります。1個110円で買えるんですが、もう少し脱落しにくいものにして欲しさはありますね。
偶然にもRN1500に付いていた六角レンチが3mm&ちょうどいい長さなので、ツール缶に入れて持ち歩いています。
半年ほど使ってみてですが、パッドの調整頻度は以下のような感じでした(ドライ環境・オンロード走行時)。
左側パッド (外側) |
右側パッド (ホイール側) |
|
前ブレーキ | 200km | 400km |
後ブレーキ | 400km | 400km |
人によって「調整が必要」と判断する度合いは違うと思いますが、私は100km程度の使用でもレバーの握りしろ(パッドがローターに当たるまでにのレバーの移動量)が大きくなったことを感知できます。
200kmも走ると握りしろが明らかに大きくなったことが分かるので、六角レンチで調整を入れます。
前述の通りEQUALは片押しなので、「押し付ける」側の左側パッドの方が多く減ります。私は前ブレーキを中心に使うので、前ブレーキの左側パッドの調整が一番高頻度。
400kmブルベでは、200kmほど走行した時点で前ブレーキの左側パッドを調整し、ゴール後にその他のパッドを調整しました。
600km以上のブルベの場合には、全てのパッドの調整が一度ずつは入るはずです。また、雨天ライドの場合はもっと頻繁に調整をする必要はあるでしょう。
なお、この調整をしないとブレーキが効きにくくなるだけではなく、カムが回転し切ってしまい、ブレーキが効かなくなるので注意が必要です。その状態になったことはないですが、グロータック曰く「フィーリングがかなり悪くなるので使えたものじゃない」状態にはなるそうです。
EQUALブレーキのアウターに
ジャグワイヤーJ2 インラインアジャスターを挿入ソフト⇔ハード接続部分はコネクターキャップ使うよりも、インラインアジャスターの方が手元でワイヤー調整できるし良いかな~と思い導入
アウター外径Φ5.7㎜まで対応で、通常より太めのΦ5.5㎜ハードアウターでも使える pic.twitter.com/pOsa2nQMcw
— ゆー@ (@YN_Chinook) January 19, 2022
こちらはEQUALブレーキユーザーの先輩、ゆーさんによるアイデア。アジャスターを挿入することで、六角レンチを使わなくても調整可能にしたそうです。なんだかんだで六角レンチでの調整は面倒なので、私も次のメンテの時に導入を検討しています。
メカニカルディスクのメリット
パッドのクリアランス調整が自動で行われないのがメカニカルディスクの弱点ですが、メリットもあります。
複数のホイールを使い回す時、油圧ディスクキャリパーの場合は、キャリパー自体の左右位置を調整する必要があります。センターが合わないんですよね。
これに対し、メカニカルディスクは左右のパッド位置を独立して調整可能です。キャリパー自体を動かさなくても、パッドの位置調整で対応可能です。
最近、ホイールを2本買いまして、色々付け替えながら試していますが、油圧ディスクだったら結構大変だった気はしています。
あと、メカニカルディスクで良かったと思ったのは、輪行の時。
油圧ディスクの場合、自動でパッド位置を調整する機能がありますが、ローターがない状態でレバーを握ると、パッドとパッドがくっついて離れない状態になります。
これを防ぐために存在するのが「ダミーローター」です。名前の通りの製品で、ローターの代わりに挟み込んでおくだけの道具です。大した手間ではないんですが、輪行の時に手数が増えるのがどうもイヤで、出来れば無くしたい手順ではありました。
メカニカルディスクの場合、レバーを握ってしまってもパッドは勝手に戻るのでダミーローターは必要ありません。
また、油圧では車体を逆さにすると「エア噛み」と呼ばれる症状が起こることがありますが、メカニカルディスクにはそれがありません。逆さにしても大丈夫。
見た目
非常にメカメカしい見た目で、個人的には気に入っています。
赤の発色も良いんですが、どうもロットごとに色味にバラツキはあるようです。今日、ワイズロードで見たレッドカラーのEQUALブレーキは若干紫よりの色味になっていました。
色にこだわる方は、通販よりも現物を見て購入されたほうが良いと思います。
導入の副次的効果
本記事は「EQUALブレーキキャリパー」のレビューなので、ブレーキとしての側面にフォーカスした内容となっています。
ブレーキそのものも大変良いものでしたが、私にとってはEQUALブレーキに組み替えることによって得られた副次的効果の方が大事でした。
② フレームの本当の実力が認識できた。
③ ハンドリングが軽くなった。
④ 快適性が上がった。
⑤ スプリントがしやすくなった。
⑥ 輪行が少し楽になった。
パッドのクリアランス調整を自分でするというデメリットはあったものの、メリットがあまりにも多かったです。
何より、STIレバーが軽くなったことによって、目論見通り「走りの軽さ」が手に入ったのは大きかったです。STIレバーの重さがこれほど走りに影響すると知れたのは良かったですね。
副次的効果の詳しい内容は以下の記事を御覧ください。

用途
EQUALブレーキは万能なブレーキというわけではありません。向く用途、向かない用途があります。
こちらはグロータックの資料に掲載されている、想定用途の表です。
油圧対向2ピストン(ディスクロード用の油圧ブレーキは大抵コレ)と同等の用途に向くとされています。
ただ、気を付けなければならないのは、このブレーキは「一定距離ごとに(停車して)パッドクリアランス調整が必要」という点です。
六角レンチで調整する場合、一度停車する必要があります。前側の左パッドを調整するだけであれば30秒もあれば十分です。ブルベであれば信号待ちの間でも行える程度の作業です。
しかしこれがレースだったらどうでしょうか? 30秒も止まっていたら事実上のレース終了、なんとか追いつけても無駄に脚を使うことになるでしょう。
1-2時間のレースであれば、雨天でも致命的なレベルにパッドが減ることはないはず。しかし、「ツール・ド・おきなわ」のような200kmレースで雨だった場合には結構怪しいのではないかと推測します。最近流行りの長距離グラベルレースでも、天候と距離次第では同様の事態になる可能性はあるでしょう。
ブルベのようにマイペースで走れ、信号停止やコンビニ休憩がある場合には、その際にパッド調整が可能なので全く問題はありません。
書いてから気が付きましたが、サイクルキューブの店長も同様のことを述べていますね。
長時間の雨の中でのロードレース。ディスクブレーキパッドは思ったよりも減ります。
油圧はピストンのでしろをパッドの減りに応じて自動的に調整してくれますが、機械式は自分で調整する必要があります。
ツーリングであれば一旦止まって調整できますしEQUALなら調整も容易ですが、レース中となると例えばアジャスターをケーブル途中に挟み込んでおいて調整しようとしても少しむずかしいかなと思います。シクロクロスのような短時間のレースであればまず問題無いと思いますが。
まとめ
非常に優秀なメカニカルディスクブレーキキャリパー。
半年で4000kmほど乗りましたが、不満らしい不満はなし。メカニカルである以上、パッドクリアランス調整から逃れることは出来ませんが、事前の想像ほど難しくない&頻度も少なかったので大きな欠点だとは感じていません。
EQUALブレーキの導入によってハンドル周りが軽くなり、自転車の挙動が全体的に機敏になりました。これによってディスクロードに乗ることが楽しくなり、ブルベをディスクロードで走る機会も増えました。
色々制約も多いため、万人にオススメできる製品ではありません。ただ、機械式変速・油圧ディスクを使っていて「ディスクロードの走りが重い」と感じておられる方には解決の糸口になりうる製品だと思います。今現在、電動変速・油圧ディスクを使っている方は乗り換えても大きなメリットはないはず。
しつこいようですが、パッドのクリアランス調整はこまめに行いましょう。それが出来ない方は油圧のほうが無難です。
評価
対象モデル: GROWTAC「EQUAL 機械式ディスクブレーキキャリパー」
年式: 2021年
定価: 33220円 (税込)
購入価格: 33220円 (税込)
公称重量: 136g/1個
実測重量: 137g/1個
価格への満足度
高いという声もあるが、この作り込みと性能を考えると安いくらい。
総合評価
メカニカルディスク最高峰。パッド調整が必要な点は仕方ないが、ちょっと面倒ではある。
著者情報
年齢: 37歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: BIANCHI OLTRE XR4(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)
# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせて頂きました。