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【レビュー】HUNT「44 AERODYNAMICIST CARBON DISC」
評価:4.5
HUNTのディスクブレーキ用ミドルハイトホイール。空力の専門家(Aerodynamicist)であるLUISA GRAPPONEさんの設計したリムを採用しています。
購入動機
下の記事に書いたとおりです。
かいつまんで言えば、「レーゼロカーボンDBの感触がイマイチ期待と違っていたから」です。
ゆくゆくはブルベにも使おうと購入したディスクロード「INFINITO CV」。それに合わせたレーゼロカーボンDBは加速性能は良いものの、乗り心地・巡航性能がイマイチ。正直ブルベには投入する気が起きず、代わりとなるホイールを探すことにしました。
そんな時に目をつけたのが、近年支持を伸ばしているイギリスメーカー「HUNT」でした。やたら安いのによく走るとの評判。しかし本当なのか?
するとたまたま近所にHUNTホイールを持っている方がおり、試乗する機会に恵まれました。非常に良い感覚を得たので、早速注文。
……が、紆余曲折ありまして、注文から受け取りまで3ヶ月ほど掛かりました。納期の遅さは「HUNTユーザーあるある」のようです。
とはいえ、届いたので早速使ってみることにしました。
製品概要
実測重量は1512g(リムテープ込・前輪685g 後輪827g)。
リムはフルカーボン製(東レT700 / T800)で、ハイトは前後ともに44mm。チューブレステープを貼ることでチューブレスタイヤにも対応する、「チューブレスレディ」リムです。リム外幅は29mm、リム内幅は20mmと、昨今のロード用リムよりも少し太めなリムを採用しています。
HUNTのハブは爆音で有名ですが、静音ハブへの切替オプションがあり、私は静音ハブを選択しています。
センターロック方式のディスクローターに対応していますが、標準で6穴変換アダプタが付属します。
付属品は以下の通り。
・スペアスポーク・ニップル付き(3本)
・チューブレスバルブ(2本)
・6穴用コンバーター
使用感
普段の夜練、及びブルベで使用。一度に走った最大距離は200kmです。
タイヤはCONTINENTAL GP5000 CL(25C)、チューブはREVOLOOP RACE、ローターはSHIMANO XTR RT-MT900を使用しています。
重量
前述の通り、チューブレステープ付き実測で1512gでした。公称重量は1466gです。
チューブレステープを片側10gと仮定すると、ホイールの重量は1492g。誤差は1.8%ほどなので、まぁまぁでしょうか。公称重量1450gのレーゼロカーボンDB(実測1508g)よりは軽いです。
リム内幅20mm、リム外幅29mmはワイドリム化が進む昨今のロード用リムとしては「少し太い」程度ですが、リム内幅15mmのホイールを使っていた身からするとやたら太く感じますね。この太さでも、44mmハイトで前後1500gを切る重量というのは驚きです。
構造
空力の専門家が設計したとされるリム以外には特別な仕組みは採用されていません。多分、手組みでも似たようなホイールは再現できると思います。
強いて言うならば、フリーボディの一部に鉄のインサートを入れることで、スプロケの食い込みを防止してることくらいでしょうか。これもオリジナルではなく、他のメーカーでやっている所もあります。
HUNTはカーボンスポークのホイールも展開していますが、今回はあえて汎用(Pillar Aero Butted)のスポークを採用したモデルにしました。最悪、組み直しとなった時でも入手性の良いスポークの方が……と思ったのが理由です。一応、「H_CARE」という生涯保証が付いてはいるのですが。
取付
レーゼロカーボンDBに付けていた、RT-MT900を移植。MTB用のXTRグレードのローターですが、プロ選手もレースで使っていることが多い製品です。
タイヤは安定のGP5000、チューブは思い切ってREVOLOOPを入れました。ブルベで使うことを考えて、チューブレスは諦めてクリンチャー運用です。そのため、チューブレスタイヤとの相性は試していません。
REVOLOOPはブチルゴムではなくポリウレタン製のチューブ。高温に弱く、リムが摩擦で熱くなるリムブレーキには向かないのですが、今回はディスクブレーキ。それならばトラブルの心配もなく、ブチルゴムの半分近い重量の恩恵のみを得られるのではないかと思い、採用に至りました。
既に1000kmほどを走っていますが、パンクはありません。
加速性能
アルミスポークのレーゼロカーボンDBに比べると硬さは控えめで、剛性も低いと思います。良く言えばしなやかです。
とは言え、停止からの加速や、40km/hを超えた所からの加速も重さは感じません。レーゼロカーボンDBでは40km/hからの加速で引っかかりを感じていたのですが、HUNTではそういったものはありませんでした。ちゃんとパワーを掛けた分だけ加速します。スプリントでは50km/h以上も出るようになりました。
硬すぎたレーゼロカーボンDBに比べるとフレームとのリズムが合うというか、丁度いい剛性感なのだと思います。同時期に、レーゼロカーボンDB・ZIPP 303S・HUNTを同じフレームで乗りましたが、一番自然な加速をしてくれるのがHUNTでした。
登坂性能
特別「登りが速い!」といった感じはありませんが、違和感無く登りをこなすことが出来ます。
レーゼロカーボンDBの時に感じていた、スタンディングでのギクシャク感もなく、淡々とバイクを左右に振れる感じ。これもフレームとの相性なのでしょうが、ブルベ中の細かい登りも気持ちよくこなすことが出来ました。
ダウンヒル性能
ブルベ中に海沿いのつづら折りの道をダウンヒルするシーンがあったのですが、ここは結構怖かったです。
海沿いということで強い風が吹いていたんですが、どうもホイールが押される感じがありまして。44mmあるリムハイトが問題なのか、それともディスクローターが問題なのかまでの特定は出来ていませんが、レーゼロカーボンDBでも同じ症状はあったので、ディスクローターの問題ではないかと見ています。
つづら折りだと切り返すたびにホイールに当たる風の向きが変わるので、コーナーを抜けた先でどういう挙動をするのかが読めずに怖かったです。せっかく制動力が強くても、強風に弱いのでは困りものですね。
今回は、プロ選手もツール・ド・フランスで使っているRT-MT900というローターを使いました。ロード用のローターに比べるとフィンの面積は小さいのですが、それなりに大きなフィンの面積があります。
フィンの無い他社製のローターを付けてみて、横風耐性の確認を追って行う予定です。
巡航性能
ブルベでは25~30km/h程度、夜練では30~40km/h程度で乗っていますが、レーゼロカーボンDBの時に感じた「35km/h以上での抵抗」は感じませんでした。
これは目論見通り。今回HUNTを選んだ大きな理由は「スポーク本数の少なさ」「空力性能に優れたスポーク」だったからです。
自転車の場合、空気抵抗に大きく寄与すると言われているのが前輪のスポーク本数です。ホイールが一回転する際に、16本のスポークなら16回、24本のスポークならば24回空気を切り裂きます。当然、本数が少ないほうが空気抵抗は小さくなるはずです。古いテストではありますが、こんなデータもあります。
リムブレーキであれば、前輪のスポーク本数は16-18本が普通です。これに対し、ディスクブレーキでは24本が主流となっています。一気に1.5倍に増えたわけですね。
レーゼロカーボンを例に取ると、リムブレーキ版は16本、ディスクブレーキ版は21本です。主流の24本よりは少ないものの、ただでさえ分厚いアルミスポークが、ディスク版では更に厚くなっています(実測しました)。これで空力性能が良いはずはありません。レーゼロカーボンDBが高速域で速度が頭打ちになるのは、スポークが原因じゃないかと私は推測しています。
そこで、今回は「スポーク本数の少なさ」を主軸にホイールを選びました。少なさで言えば最強はCORIMA(3本)ですが、高くて買えません。次いで本数が少ないのは16本のSPINERGY。ただ、こちらはPBOスポークの空力性能が悪そう。
最終的に選ばれたのは、20本のステンレス製エアロスポークを採用した本製品でした。ディスクブレーキで前輪20本は中々攻めている方ですが、かなり厳重なテストを行っているようで安心して購入しました。
リムも、空力専門家が設計したとされる特別なリム。こちらも効果はあるのだと思いますが、スポーク本数・形状との合せ技で現在の性能が出ているのでしょう。
余談ですが、HUNTはリムブレーキのホイールも前輪のスポークは20本です。リムブレーキの相場は16-18本なので、リムブレーキの世界ではHUNTのホイールはスポークがかなり多い方だと言えます。ディスクブレーキでは他社に対してのメリットがありますが、リムブレーキでは空力面でのメリットは無さそうです。
乗り心地
良いです。
「ポリウレタンチューブにGP5000の25Cを7気圧」という硬くなりそうな構成で乗っていますが、ブルベの翌日にも体にダメージが残らない程度の快適さです。
一般に、アルミスポークは「反応性は良いが乗り心地が悪い」と言われ、ステンレススポークは「反応性はイマイチだが乗り心地が良い」と言われます。ステンレススポークを採用した本製品はその通りの乗り心地だと感じました。
まだ200kmブルベまでしか使っていませんが、600kmブルベまでは少なくとも問題無さそうです。
見た目
フレームやコンポはグロスコート、ホイールはマットコートでちょっとミスマッチに感じてはいます。でもサドルもステムも同様にマットな表面なので、もう気にしないことにしました。
最近のカーボンホイールはマットが多いですね。こちらの方が軽量なのでしょうが、見た目的にはグロスでのクリアコートの方が好きです。HUNTは全てマットコートで、グロスコートの選択肢はありません。
静音フリー
HUNTのロード用ホイールに付属するフリーハブは爆音であることで有名です。うるさいと言われるフルクラムのフリーの3倍くらいの音量があります。試乗の際に、その音の大きさには驚きました。
今回は、オーダー時にオプションの「静音フリー」を指定しました。下の動画は、今回届いた静音フリーの空転音を録音したものです。
結構うるさく聞こえますが、実際の音量としてはフルクラムのレーシング3あたりと大差ありません。体感的には音量が1/3程度になった印象です。音量だけではなく、音の高音成分が減った感じがしますね。甲高いノイズが減ったのも静かに感じる要因かもしれません。
納期
↓の記事に詳しく書きましたが、HUNTは納期に対して割とルーズです。
HUNTはいわゆる完組ホイールと違い、ハブやエンド規格を選べる「セミオーダーホイール」。言ってみれば、選択肢の限られた手組みホイールです。
こういったホイールは途中で不良が見つかると最初から作り直しです。私のホイールもそうした不良があったようで、予定よりも納期が遅れることになりました。注文時に納期は提示されますが、あくまで目安であり、それよりは遅くなると思っておいたほうが良いと思います。私の見た中だと、最長納期は5ヶ月でした。
もっとも、こうして在庫を極力持たないスタイル(=売れ残る心配がない)だからこそ、この性能が低価格で手に入るものと推測されますが。
また、2021年からHUNTはワールドツアーチームであるクベカのホイールサプライヤーとなります。しばらくはそちらの製造にパワーを取られるのではないか(=更に納期が伸びる)と私は予想しています。
「待てる」人にしかHUNTのホイールはオススメできません。
価格
参考までに、今回ホイールの購入に掛かった金額を一覧化しておきます。
・送料(DHL): 7100円
・輸入消費税: 7600円
・立替納税手数料(DHL): 1100円
まとめ
万能な優等生ホイール。尖った特徴はありませんが、巡航・加速・乗り心地とバランスの取れたホイールです。
なんというか、「リムブレーキっぽい感触のホイール」でもあります。リムブレーキにずっと乗ってきた私にも違和感無く使える感触という点で、ディスクロードに乗る機会がかなり増えました。HUNTのホイールが届くまでは、リムブレーキとディスクブレーキのロードの使用比率が8:2くらいの感じでしたが、現在は3:7くらいに逆転しています。
ブルベに投入しても大きな違和感は無かったので(横風に対する検討は必要ですが)、今後もディスクロードをブルベに投入していこうと思っています。
HUNTのコストパフォーマンスは非常に良いですが、他社に比べて性能的に圧倒的な有利な所があるものではありません。ワールドツアーチームで採用された以上、一定の水準は満たしているはずですが、現在履いているホイールに不満がなければわざわざ買い換える必要はないと思います。もし現在履いているホイールに不満があるならば、値段的にも(他社と比べれば)低価格なので、試してみる価値はあります。
ただ、納期は遅いです。予定通りの納期に届かないこともしばしば。完組メーカーというよりは、「専用部品のオーダーホイール」なので、何かあると納期が遅れます。そこを許容できる人でなければ他のメーカーにした方が良いでしょう。他にも直販ホイールメーカーは色々ありますし(imeZiとか)、最近はZIPPの303Sなどの廉価ホイールも充実してきています。
HUNTもワールドツアーチームに採用されたことで、これからチーム用のニューモデルが一般にも発売されるのではないかと期待しています。それと同時に会社としても生産体制を確立して、納期の安定化をしてほしいものですね。
評価
対象モデル: HUNT「44 AERODYNAMICIST CARBON DISC」
年式: 2020年
定価: 121500円(税込)
購入価格: 121500円(税込)
公称重量: 1466g
実測重量: 1510g (リムテープ込み)
価格への満足度
この性能がこの価格で手に入るのは凄い(納期は遅い)。
総合評価
優等生ホイール。突出した性能は無いが、様々な局面で挙動が自然。横風の影響は少し気になる。
レビュアー情報
年齢: 36歳 (執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: QUARK ロードバイク(スチール), GIANT ESCAPE RX(アルミ)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)
# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせて頂きました。