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【レビュー】iGPSPORT「iGS320」
評価:3.5
iGPSPORTのミドルグレードのGPSサイクルコンピューター。
公称72時間の稼働時間を誇りながら、実売価格は7000円台です。
購入動機
PBP用のサブサイコン候補として購入しました。
PBP用のサブサイコン探し
詳しい経緯はファーストインプレッション記事の方に書いています。
理由を要約すると下記になります。
- eTrexはシステム安定性の観点からメインのサイコンとしたいがパワー値を表示できない。
- 今回のPBPはパワー値でペースを管理したいと考えていた。
- パワー値を表示するだけの、長時間使えて小型なGPSサイコンが欲しい。
PBPの制限時間は90時間ありますが、走っている時間は大体60時間になります。その行程を、出来れば充電1回で済ませたい。
そうなると30時間以上の稼働時間を持つサイコンが必要なわけですが、残念ながら市場にそういった製品はほとんどありません。
実測で30時間以上動作するサイコン
こうした条件にマッチした数少ない製品の一つが、iGS320でした。
発売当初こそパワーメーターとの接続に対応していませんでしたが、ファームウェアのバージョンアップで対応。一気に価値が高まりました。
代理店を務める日直商会のサイトにも以下の記述があります。
フル充電から72時間のバッテリーライフは、例えて言えばパリ・ブレスト・パリなどのロングライドでも安心して使えます。
まさに私の用途にストライクな説明文です。
公称稼働時間だけ見れば「35時間動く」と書いている上位機種のiGS630も候補になりますが、実測した所21時間しか動きませんでした。公称の6割です。
恐らく公称値は「バックライトを一切使用せずに、あらゆる機能を最小限にした時」の値なんだろうと思います。実際は6割が良い所。
そうなると、iGS320も公称72時間ながら、実際には43時間程度しか動かないことは想定されました。ただ、それだけ動けば今回の用途には足ります。
こうして、iGS320を購入しました。iGS630は提供品でしたが、iGS320は自費購入です。
製品概要
実測重量は71g(本体のみ)。防水等級はIPX7(水に沈めても大丈夫)。
マウント方式はGarmin互換。90度回転して取り外しを行います。
フラグシップであるiGS630とスペックを並べてみました。
iGPSPORT iGS320 | iGPSPORT iGS630 | |
重量 | 65g | 94g |
画面 | 2.4インチ | 2.8インチ |
バッテリー容量 | 1000mAh | 1300mAh |
充電端子 | USB Type-C | USB Type-C |
最大稼働時間 | 72時間 | 35時間 |
防水等級 | IPX7 | IPX7 |
タッチパネル | 非搭載 | 非搭載 |
内蔵地図 | なし | OSM |
ストレージ容量 | 16MB | 8GB |
対応衛星 | GPS GLONASS Galileo みちびき BeiDou |
GPS GLONASS Galileo みちびき BeiDou |
パワーメーター | 対応 (ANT+のみ) |
対応 |
Di2 | 非対応 | 対応 |
リアビューレーダー | 非対応 | 対応 |
機能は絞られており、液晶画面上の表示内容も固定という割り切った作りですが、その分だけ圧倒的な稼働時間を誇ります。
付属品は以下の通り。
・Type-C USBケーブル
・標準マウント
・O-リングバンドX2
・ユーザーマニュアル
iGS630には保護フィルムと落下防止ストラップが付いていましたが、こちらには必要最低限のものだけが付属します。
保護フィルムはサードパーティーから出ているようです。
使用感
2023年2月から4月にかけて、主にブルベで使用しました。長時間使用時の特性を見るため、400kmのブルベ(制限時間27時間)でも実際に使用。
比較対象は、上位機種であるiGPSPORT「iGS630」、業界トップのライバル機種であるGarmin「Edge530」です。ブルベではGarmin「eTrex 32x」とセットで使用して比較を行いました。
本レビューは、ファームウェアバージョンv2.03での内容となります。
パッケージ
やたら手の込んだパッケージだったiGS630よりはシンプルで簡素なパッケージです。裏面に書いてある日本語は若干怪しい。
パッケージ内容はこのような感じ。必要最低限のものしか付いていません。
大きさ
Edge530と大きさを比較してみます。
iGS320のほうが一回り小さいです。ハンドル上でもライトなどと干渉することは少ないはずです。
重量
公称65gで、実測71g。1割ほど公称よりも重かったです。
Edge530は実測77gなので、少しだけ軽いことになります。
ハードウェア
ハードウェアのスペックを見ていきます。
画面
2.4インチのモノクロ液晶です。
地図などの情報が表示できるiGS630やEdge530とは異なり、画面表示は固定。データ項目のカスタマイズも出来ません。
文字はそれぞれ大きいので見やすいのですが、表示したい項目を好きな場所に表示できないというのは今の時代としてはストレスに感じます。
ストレージ
ストレージ容量はわずか16MB。ギガバイトではなくメガバイトです。むしろ今の時代に16MBのメモリーって高いような気もするんですが。
400時間分が記録可能とされていますが、72時間動くことを売りにするならばもう少し長い時間の記録が可能なストレージ容量を確保すべきだと思います。
処理能力
マップ表示もありませんし、基本的にはセンサーの値を表示するだけのシンプルなサイコンです。もたつきは感じません。
バックライト
私が感じている本機種の一番の問題点がバックライトです。
iGS320のバックライトに関する仕様の要点をまとめると以下のようになります。
- 日没時間になると自動的にバックライトが点灯し、日の出時間になると消灯する。
(内部に日の出/日の入りデータを持っていると思われる)- 「常に消灯」「常に点灯」のような設定を選ぶことは出来ない。
- バックライトの明るさは1パターンで、調整できない。
ということで、バックライトに関する設定の自由度が非常に低く設計されています。
マニュアルには下記の記載があります。
バックライトは日没前に点灯し、日の出後自動的に消灯します。
オフの場合は、何れかのボタンを押すことでバックライトが30秒間点灯します。
しかし、これをオフにする設定は本体側にもアプリ側にもありません(Androidのみで確認)。
バックライトの明るさ/点灯時間は、稼働時間に大きく影響します。そして、iGS320のバックライトの明るさは「そんなに明るくなくてもいいのに」という明るさです。GarminのEdge530で言えば40%くらいの明るさ。明るいということは電池を食うということなので、夜間の使用頻度が高いほど稼働時間は減るわけです。
これだけ明るいと、視界にも影響を及ぼします。夜間走行中に顔の方向を向いている画面が妙に明るいわけですから、その分だけ周囲の暗さが強調されることになります。夜間は白黒反転画面になるような機能もないため、ただただ眩しいです。
あと、「昼間でも暗い場所を走る」という用途に対応できません。例えば昼間に暗いトンネルの中を走る場合、サイコンの数値が見えなくなります。
「もう少しバックライトに関して細かく設定可能にして欲しい」とiGPSPORT側に要望は出しましたが、現在に至るまで実現されていません。
表示データ項目
前述の通り、自分では表示項目をカスタマイズできません。定形の表示項目×3ページが用意されるのみです。
パワーメーターとの連携を後から追加したので、パワーに関するデータの表示にチグハグさが目立ちます。パワーメーターを使わない人には影響はないんですが、パワーメーターの表示目当てで購入する方は注意が必要です。NPや平均パワーの表示も現在は出来ませんので。
基本の画面表示はこんな感じです。
最大9項目表示されます。
全画面共通で、「GPS感度」「スマホとの接続の有無」「現在時刻」「気温」「バッテリー残量」は画面の一番上に表示されます。
1ページ(現在値の表示)
主に「現在」のデータが表示されるページです。
表示される情報を以下に示します。
現在向いている方角 [NAV] | 現在の斜度 [GRA] |
現在のスピード [KMH] | |
現在の時刻 | |
経過時間 [TIMER] | 距離 [DST] |
ただし、各種センサーとペアリングすると表示内容が変わります。
パワーメーター・心拍センサー・ケイデンスセンサーを取り付けてみた図。
表示内容が以下のように変更されます。
現在のパワー [PWR] | |
現在のスピード [KMH] | |
現在の心拍数 [HRM] | 現在のケイデンス [CAD] |
経過時間 [TIMER] | 距離 [DST] |
現在時刻が表示されていた領域に、心拍数とケイデンスが表示されるようになります。現在時刻は画面上部に常に表示されるので、非表示になっても特に困りません。
パワーを表示させると、方角と斜度が見えなくなってしまいます。表示させる手段は見つけられず。簡易ナビゲーション(後述)を起動すると、方角と斜度は表示されることまでは確認しましたが、今度はパワーが見えなくなります。
2ページ(平均値の表示)
主に「平均」のデータが表示されるページです。
表示される情報を以下に示します。
現在向いている方角 [NAV] | 平均斜度 [GRA] |
平均スピード [AVG KMH] | |
平均心拍数 [HRM] | 平均ケイデンス [CAD] |
獲得標高 [AST] | 現在の標高 [ALT] |
一部、平均ではない情報も混ざっています。パワーの平均は表示されないようです。データとしては取っているようですが。
3ページ(最大値の表示)
主に「最大値」のデータが表示されるページです。
表示される情報を以下に示します。
現在向いている方角 [NAV] | 最大斜度 [GRA] |
最高スピード [MAX KMH] | |
最大心拍数 [HRM] | 最高ケイデンス [CAD] |
消費カロリー [CAL] | 積算距離 [ODO] |
一部、最大値ではない情報も混ざっています。パワーの最大値は表示できませんでした。
操作性
ボタンが2つしかなく、操作できる内容はほとんどありません。
計測開始
起動後、左ボタンを押すことでライドデータの計測が開始されます。ボタンを押さないと記録は開始されません。
アプリからの設定で、移動検知で自動記録開始も可能です。
左ボタンを再度押すと、記録が一時停止されます。もう一度左ボタンを押すと、記録が再開されます。
計測終了
計測をしている状態で、右ボタンを2秒以上長押しすると、ライドデータが保存されます。
または、左ボタンを2秒以上長押しして電源をオフにしてもライドデータが保存されます。
ラップを切る
計測をしている状態で、左ボタンをダブルクリックするとラップを切ることが出来ます。
ただし、「現在のラップ距離」だとか「現在のラップ経過時間」のようなデータは画面に表示できず、「現在は何ラップ目か」というデータしか表示できません。
ブルベにおける、チェックポイントまでの距離リセットの目的には適さないラップ機能でした。
地図・ナビゲーション
地図はありません。ただ、ルートデータを転送すると簡易ナビは出来る機能があります。
手順は以下の通り。
- iGPSPORTアプリを開く。
- iGS320とアプリを接続する。
- 「マイページ」タブから「マイルート」を開く。
- 転送したいルートを開き、画面下部に表示される「GPS自転車コンピュータにダウンロード」ボタンを押す。
この設定をした状態でiGS320を起動すると、画面左上に「NAV」という領域が出現します。
直進と左右くらいしか表示パターンはなく、複雑な交差点(五差路など)では、ナビゲーションとして不足を感じそうです。
なお、これが出現している間は、パワーメーターのパワー値が表示できません。
上から2行目の領域は「パワー値」を表示するか、「進行方向の方角/ナビ情報」「斜度」を表示するかのどちらかになります。データ項目同士の「場所の取り合い」があるのがこのサイコンの難しい所です。
稼働時間
400kmブルベで22時間(昼15時間・夜7時間)使用しました。
画面右上には電池型のインジケーターが表示されますが、完走後には3目盛りのうち1目盛りが減った状態となりました。
このインジケーターがどこまで信頼できるかは謎ですが、仮に22時間の使用で1/3のバッテリーを使ったとすれば、66時間ほど動作することになります。
72時間のランタイムがあるという、iGPSPORTのiGS320。
50日かけてバッテリーを使い切ってみた。記録されているアクティビティ時間を合計すると約36時間。50日の間に数%の自然放電があるとか、夜間使用時はバックライトが点灯していたことを考慮しても、72時間は理想的な条件でないと無理っぽいな。
— モロ子2.0 (@morou2) December 5, 2022
同じくiGS320ユーザーのmorouさんによれば、細切れで使用した場合は36時間程度の稼働時間だった様子。
とりあえず、72時間はかなりの理想的な条件でないと実現は難しそうでした。
充電性能
Type-C充電ですが、流れる電流を計測すると0.5Aを上限に制限されているようです。
他のサイコンは「最も電池を食う」設定にして一日ほど放置すればバッテリーが放電されますが、設定内容が少ないiGS320ではバッテリーを放電し切るのに数日掛かります。このため、実際に完全放電からの充電実験は行っていません。
騎乗計算だと、5V/0.5Aで充電した場合は280分=4時間40分ほど掛かります。
システムの安定性
非常にシンプルな機能しかないため、システムは安定しています。急にシャットダウンをしたり、再起動したりということはありませんでした。
記録データ
走行終了後、スマホと接続するとアプリに走行データが送信されます。アプリ側で連携設定をしておけば、自動でStrava等にアップロードすることも可能です。
Edge530とデュアルレコードで走行データを取得してみましたが、GPSの軌跡含めて大きな差は見られませんでした。
防水性能
テスト時の400kmブルベではそれなりに強い雨の中を2時間ほど走行しましたが、動作に問題はありませんでした。
充電端子のカバーはしっかりしており、相当の悪天候でも問題はなさそうでした。
センサーとの連携
起動後、右ボタンを2秒間長押しで設定モードに入ります。
こちらはセンサーのペアリング画面。近くにあるセンサー類を自動認識します。
対応するセンサーは以下の通り。
・心拍センサー(ANT+/BLE)
・スピードセンサー(ANT+/BLE)
・ケイデンスセンサー(ANT+/BLE)
・パワーメーター(ANT+のみ)
リアビューレーダーやDi2との接続には非対応です。
まとめ
シンプルで長時間稼働可能なGPSサイコン。単にデータロガーとして使いたい方、シンプルなGPSサイコンをお探しの方には向きそうです。
ただし、「夜中にバックライトが明るすぎるのに、バックライトをOFFに出来ない」という点を気にしない人に限ります。私はこれが気になってダメでした。すごく気が散るので。
せめてバックライトのOFFが選択できればよかったのですが、それが出来ないのは痛い。結局、PBPでは別のサイコン(Edge840 Solar)を使うことになりました。
マニュアルに書かれている、「バックライトを常にOFFにすることは可能。ボタン操作時に30秒だけ点灯する」という動作が可能になれば、サブサイコンとしてはかなり強いですね。ファームウェアアップデートでの対応を期待します。
色々文句は書きましたが、7000円台で買えるサイコンとしては素晴らしい出来です。とりあえずパワーを含めたデータが取れればいいだけなら、これ以上のコストパフォーマンスを持つGPSサイコンは他にないでしょう。
評価
対象モデル: iGPSPORT「iGS320」
年式: 2022年
定価: 8855円(税込)
購入価格: 7400円 (税込)
公称重量: 65g
実測重量: 71g
価格への満足度
この価格でこの機能と性能は凄い。
総合評価
シンプルなGPSサイコン。あとはバックライトの制御が細かく出来るようになれば……
著者情報
年齢: 39歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: BIANCHI OLTRE XR4(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)
# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。