【レビュー】mont-bell「サイクルドライシェル」

この記事は約 8分で読めます。

評価:4

モンベルの自転車用レインジャケット。GORE-TEXの新規格「Shakedry」を採用したモデルです。

目次

購入動機

Shakedry技術には以前から興味があり、GOREのご本尊である「GORE BIKE WEAR」から発売されたジャケットは本気で購入を検討していました。ただ、試着をしたらカットがタイトすぎて(主に腹回りが)私には着られないことが判明。

そんな時、自転車情報サイト「Cyclist」の記事にて「モンベルが製品化を予定」との記載が。モンベルは基本的には「日本人のおじさん向けカッティング」なので着られるはず。

近所のモンベルに入荷したその日に試着。相変わらず腕には異様に余裕がありましたが、胴体のサイズ的には問題が無かったので購入を決めたのでした。

製品概要

実測重量はLサイズで136g(本体)、フード(45g)。計181gです。フードは分離可能。

GORE-TEX Shakedryという独自技術を採用しています。袖口にマジックテープによる絞りあり。胸ポケットやベンチレーションはありません。

防水透湿性のスペックは以下の通り。

耐水圧: 50000mm
透湿性: 98000g/m2・24h
※2017年度以前とは計測法が異なります

使用感

主にロングライドで使用を想定。「東京糸魚川ファストラン」で実際に使用しました。

技術

まずはGORE-TEX Shakedryについて。一言で言えば、「メンブレン(防水透湿膜)をそのまま外側に出す」技術です。

通常のGORE-TEXは3層構造を取っています。一枚の布に見えて、実は3枚の布が重なっていることが多いのです。通常のGORE-TEXとShakedryでは以下の差があります。

①裏地
②メンブレン
③表地
①裏地
②メンブレン

つまり、「表地を排除し、メンブレンが表地を兼ねる」のがShakedryと言うことになります。

GORE-TEXメンブレンはフッ素樹脂。フッ素は撥水スプレーにも使われるものなので撥水性があります。通常のGORE-TEXは表地に撥水コートをすることで撥水性を実現していますが、コートは摩擦などで剥がれてしまいます。その点、メンブレンそのものが表地を兼ねると半永久的な撥水性を実現できることになります。「Shakedry」=「振るだけで乾く」と言う名前の由来通り、かなり高い撥水性を誇ります。

また、表地が無くなると言うことは、生地が一枚減ると言うこと。当然、透湿性も向上して蒸れにくくなります。また、軽量化も期待できます。

ここまで書くと「Shakedry、良いことだらけじゃないか!」と思うのですが、もちろん弱点もあります。それは、「耐久性が低い」と言うこと。元々のGORE-TEXに表地があったのは、メンブレンがデリケートで保護しなければならなかったのが理由の一つ。詳細は不明ですが、Shakedryで採用しているメンブレンは特殊な加工を施して耐久性を上げているようですが、やはりデリケートではあるようです。

付属の製品説明書には「バックパックを背負った状態では使わないように」との但し書きも。これは、表地を兼ねるメンブレンが擦れに弱いと言うことが理由のようです。バックパックに限らず、「基本的には上から何も羽織らないようにしてください」とモンベルの店員さんには念を押されました。

擦れに弱いという特性から、Shakedryのレインパンツは作られる予定は無いと思います。

重量・大きさ

同社のGORE-TEX採用の「サイクルレインジャケット」が252g(フード含)でしたが、それに比べても大幅に軽くなっています。また、表地を廃したことにより生地が薄くなり、折りたたんだ時にもより省スペース化。サドルバッグの中でも幅を取らなくなりました。

なお、本製品と同時に3層構造でほぼ同重量の「バーサライトサイクルジャケット」も発売されました。カタログ上の表記では、バーサライトの方が軽くなっています。

サイズ感

モンベルの通常のジャケットと同じサイズを買えばOKだと思いますが、胴回りは若干タイトです。試着してから購入したほうが良いでしょう。

撥水性・防水性

長時間、雨の中を走行すると、どうしても表地に水が染みてくるのが従来の3層構造の雨具の弱点でした。表地に染みたとしても、その下のメンブレンは防水であるのでジャケット内部に浸水することはありません。ただし、表地に水が染みてしまうと透湿を妨げてしまい、ジャケット内部が蒸れてくるのです。

その点、メンブレン自体が外に出ているShakedryは「染みる」という概念がありません。基本的に雨は全て球状になり、走行風で後方に飛ばされていきます。

上が水が掛かった状態、下がちょっと腕を振った状態。従来のGORE-TEXでも買った直後はこれくらい撥水しますが、これが半永久的に持続するわけです。

今回の「糸魚川ファストラン」ではダウンヒルで向かい風の中を雨に降られるという、雨具としては一番悪い条件で使用しました。それでも最後まで撥水性・防水性ともに完璧。期待通りの性能を示してくれました。

手首にもベルクロによる絞りが設けられており、背中側の裾もかなり長く取られているのはモンベルのその他の雨具と同じ。GORE BIKE WEARのShakedryはこれが無かったので、モンベルの仕様が継承されたのは良かったと思っています。

透湿性

数値上の透湿性能は「98000g/m2・24h」となっており、従来のGORE-TEXの「13500g/m2・24h」の7倍!……と最初は思ったのですが、この数字にはからくりがあります。

実はモンベルは2018年度からGORE-TEXの透湿性の計測方法を、「JIS L-1099B-2法」から「JIS L-1099B-1法」に変更しました。理由は定かではありませんが……。2018年度のカタログを見ると、従来のGORE-TEXの透湿性は「44000g/m2・24h」に変更されていました。この値と比較すると、Shakedryは約2.2倍の透湿性を持つことになります。

今回は気温10~15度の環境での使用でしたが、このくらいだと内部が蒸れることも無く非常に快適でした。ただ、私の場合は20度以上だと透湿性よりも発汗の方が勝りそうです。

また、サイクルレインジャケットには設けられているベンチレーションが本製品には存在しません。私の持論ではありますが、残念ながら雨天時は「透湿性」のみに頼るとどうしても蒸れるので、「通気」も適宜行う必要があります。本製品の場合はベンチレーションが無いので、「通気」をしたければ前のファスナーを開けるしかないことになります。前のファスナーを開けながら走ると、当然そこから雨が入ってきますし、空気抵抗も大きくなるので、出来ればベンチレーションで通気を行いたいのですが……。

空気抵抗

本製品の最大の弱点がここだと思います。

表地を廃したことにより、軽くしなやかな生地となりました。通常のGORE-TEXよりもゴワゴワ感は少ないのですが、そのせいで風でバタつきやすくもなっています。また、モンベル独自の「異様に腕周りが太いカッティング」のせいで、腕が特にバタつきます。スリムな方だと胴回りもバタつくかもしれません。向かい風のダウンヒルでは特に顕著で、パラシュートのようなブレーキ感がありました。背中側に空気が抜ける場所が無いのが原因だと思います。出来る限り早く走る「ファストラン」においては、本製品は失敗な選択でした。

平地無風の条件下20km/hくらいで走る分には特段問題にはならないとは思いますが、向かい風だと進まなさに拍車が掛かります。空気抵抗が嫌な場合は、通常のGORE-TEXを使用した雨具の方が良いでしょう。

耐久性

まだ耐久性を議論するほど使用はしていないのですが、「輪行袋のベルトでダメになった」という話を周囲では聞きました。8㎏程度ある自転車を片方の肩で背負うとダメな程度の耐久性のようです。

私は5㎏ほどのリュックを背負って8㎞ほど走行しましたが、これくらいだとメンブレンへのダメージは視認出来ませんでした。このことから、恐らくブルベの反射ベスト程度なら問題は出ないだろうと思われます(非推奨のことをやっているので、試す場合は自己責任で……)。

洗濯については、モンベルの店員さんから手洗いを薦められました。洗濯表示を見ると、脱水をしなければ洗濯機も使えるようですが……ちょっと怖いので、手洗いをする予定です。

その他

カラーは現在ガンメタルのみを展開。メンブレンに色を付けるのが難しいのが理由のようですが、御本尊では既に色付きのShakedryが出ているので来年度あたりからカラー展開も広がる可能性はあります。

暗い色であるためか、多めに反射素材が貼り付けられているのは好印象。雨の日は被視認性も大事なので。

まとめ

扱いはデリケートながら、撥水性・防水性・透湿性では現状最強の自転車用レインジャケットと言えるのではないでしょうか。ただし、軽すぎる&モンベル特有のリラックスフィットのため、空気抵抗が大きいのは残念な点です。強い風が吹くことが分かっていれば、私なら同社のサイクルレインジャケットの方を使うと思います。ただ、サイクルレインジャケットも2.5層なのでそれなりにバタつくのですが……ここは軽さとの兼ね合いですね。

晴れ予報のロングライドで、もしもの時に備えてサドルバッグに忍ばせるのが一番良い用途では無いかな、と。ただし、擦れに弱いということは恐らく畳まれることにも弱いので、ライドが終わったら都度広げてハンガーに掛けておく必要があると思います。

評価

対象モデル:  mont-bell「サイクルドライシェル」
年式: 2018年
定価: 27000円(税込)
購入価格: 27000円(税込)
公称重量: 171g
実測重量: 181g

価格への満足度

6/10

高いですけど、GORE御本尊よりは安いので。

総合評価

8/10

使い所は選ぶが性能は素晴らしい。

レビュアー情報

年齢: 33歳 (執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: QUARK ロードバイク(スチール), GIANT ESCAPE RX(アルミ)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)

# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせて頂きました。

記事のシェアはこちらから
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

ロングライド系自転車乗り。昔はキャノンボール等のファストラン中心、最近は主にブルベを走っています。PBPには2015・2019・2023年の3回参加。R5000表彰・R10000表彰を受賞。

趣味は自転車屋巡り・東京大阪TTの歴史研究・携帯ポンプ収集。

【長距離ファストラン履歴】
・大阪→東京: 23時間02分 (548km)
・東京→大阪: 23時間18分 (551km)
・TOT: 67時間38分 (1075km)
・青森→東京: 36時間05分 (724km)

目次