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【レビュー】Onyx Racing Products「Vesper Road」
評価:3.5
アメリカのOnyx Racing Productsによるロードホイール用ハブ。スプラグ式のワンウェイクラッチを採用した構造が特徴です。
リムブレーキ用とディスクブレーキ用がありますが、今回はリムブレーキ用のレビューです。
購入動機
購入した動機は下記の記事をご参照下さい。
かいつまんで言うと、下記のような感じ。
・妻がピンク色のホイールを欲しがっており、Onyxのハブにはピンクがあった。
・お世話になっているショップ「サイクルキューブ」がオリジナルブランド・MaverismoのホイールをOnyxハブ仕様で販売しようとしていた。
・サイクルキューブにあった試乗用のOnyxハブホイールに乗ってみたらなかなか面白い。
・Onyxにはメタリックレッドカラーもあったので、夫婦でMaverismoホイールの購入を決定。
組み上がったのは一年前になります。
サイクルキューブのサイトでも、Maverismoホイールの第一号として取り上げて頂きました。
そこから一年間使用した時点でのレビューを書いていきます。
製品概要
実測重量は、前輪85g、後輪390g。
ホール数は、前輪が「20 / 24 / 28 / 32H」、後輪が「24 / 28 / 32H」。対応スポークはJベンドのみで、ストレートプルには対応しません。
「スプラグ式ワンウェイクラッチ」という方式を採用しており、「空転時にロスがない」「ペダリングを始めるとすぐに”掛かる”」のが特徴です。
ベアリングはスチールとセラミックがあります。
カラーオーダーが可能な珍しいハブであり、20色以上のカラーの中から好きなものを選ぶことが出来ます。
使用感
リムブレーキロードで使用。走行距離は7-8000km程度です。主な利用シーンは、ブルベ・ロングライドです。
カラーは、フレームに合わせて「Candy Red」を選択。ベアリングは耐久性を考えてスチールにしました。
ホイールの仕様は以下の通り。
スポーク: SAPIM「CX-RAY BLACK」
ニップル: DT SWISS「アルミニップル(赤)」
組み方は、フロントはラジアル(20本)、リヤは双方タンジェント(24本)という一般的な組み方です。
納期
基本的には全てオーダーメイドで、国内代理店には在庫がストックされていないようです。
ミズタニ自転車を取り扱っているショップを通して注文を申し込みます。
コロナ禍真っ只中に注文したため、納期は5ヶ月程度でした。普段はもう少し早いようです。
構造
スプラグ式ワンウェイクラッチという方式を採用しています。
ペダルを踏んだ際に、スプラグと呼ばれる無数の爪がシャフトを掴んで駆動力を伝える方式です。
ラチェット式と違い空転時にシャフトと爪が接触しないので、ペダルを踏んでいない時に摩擦によるスピード低下が発生しないことになります。また、接触しないため、足を止めても無音です。
また、ペダルを踏み込んだときにラグがなく力の伝達が始まるのも特徴です。ラチェット式は爪の数を増やすことで、踏み始めから伝達までのラグを減らすことが出来るわけですが、スプラグ式だと限りなくそのラグが0に近くなるようです。
サイスポで安井さんがこのハブを「空転時にはロスをゼロに近付け、駆動時にはタイムラグをゼロに近付ける」と表現されていましたが、この短い文字数で的確にハブの特性を表していて流石だと唸りました。
重量
フロントハブは至って普通の構造ということもあり、85gとロード用ハブでも軽量の部類に入ります(相場は100g程度)。公称重量は95gなので、10gほど軽量でした。
後輪用は390gと重量級です(相場は250g程度)。公称は390gなので、寸分違わず一致。このハブの売りであるスプラグ式ワンウェイクラッチのスプラグは鉄製であるため、かなり重くなってしまうのです。
ホイールとして仕上がった状態での重量は下記の通り。
前輪: 694g
後輪: 1008g
合計: 1702g
前輪は普通の重量ですが、後輪は1kgを超えてしまいました。
組付け
独特の構造を持つのがスプロケットの取り付け部分。
フリーボディ自体はアルミ製ですが、食い込み防止のために針金が突起の両サイドに通っています。面白い。
漕ぎ出し・加速
通常のハブであれば爪がラチェットにハマるまで角度にして3~10°ほどの空転区間(スカっと空振りしたような感覚)があるものです。一方、Onyxのハブは、漕ぎ出しと同時にスプラグが食いつき、駆動力が伝達されます。実際、クランクを回し始めると同時に脚に負荷を感じ、ホイールを動かす感触が伝わってきます。
ラチェットの場合は噛み合った瞬間の「カチリ」という感触があるものですが、Onyxハブの場合はスプラグが軸を掴むためか若干「ヌルッ」とした感触があります。
Onyxのハブが最もよく使われているのは、漕ぎ出しの加速が命なBMXレースです。ペダリングを初めたと同時にホイールが動き始めるOnyxは競技特性と合っているため、東京五輪の競技でも使っている選手を見かけました。
私が良く走るコースとして中原街道があります。アップダウンが連続する道路ですが、下りから登りに転じるような場合に踏み始めてすぐに駆動力が伝わってくれる気持ちよさがあります。
夜練のコースには180°カーブがありますが、こういった所での立ち上がりの早さはOnyxがピカイチですね。
巡航
巡航は普通のハブと同じですが、Onyxの場合はペダリングを止めた際に完全に無音であるため、体感として非常にスムーズに進んでいる感じがします。実際、ラチェットの爪によるロス(微々たるものでしょうが)は無いので、空走距離は通常のハブよりも長くなるはず。ベアリングは特別なものではないスチールベアリングですが、そのベアリングの回転を阻害しないわけですね。
ただ、空転状態からペダリングを始めると瞬時に駆動力が伝わる点は他のハブとは異なる点です。ただし、「軸の空転速度 < クランクによってフリーボディが回転する速度」とならない限り、駆動力の伝達は始まりません。
ヒルクライム
一方、使い始めた頃には主にヒルクライムで違和感がありました。
私はヒルクライムでは「綺麗に回転させる」というよりは「グイッ!グイッ!」と不均一に前に踏み出すようなペダリングです。通常のハブでは踏み始めに数度の空転区間があるので、そこで勢いをつけて踏み込んでいたわけですね。しかし、Onyxハブだと踏み始めてすぐに駆動してしまう(=脚に負荷がかかる)ため、リズムが合わなくて苦労しました。
しばらく使っているとハブの挙動にも慣れて、登りでも回すペダリングを多用するようにはなりました。ペダリング矯正の効果は少しあるかもしれません。使い始めの頃は普段出ない場所に筋肉痛が出ていた記憶があります。
ただ、ヒルクライムでOnyxハブに有利な要素はあまり無い気がしました。物理的にも重いハブではありますが、重量によるネガは走行時には感じません。
音
前述の通り、ペダリングを止めた際の空転時は「無音」です。通常のハブのような空転時のラチェット音がありません。
空転時の様子を動画に撮ってみましたが、音をonにしても何も聞こえないかもしれません。それほどに無音です。
音と共に、ハブから伝わってくる微妙な振動もありません。噛み合う所がありませんからね。
北海道の600kmブルベで使用しましたが、郊外の静かな場所を1人で走っていると完全に無音の世界になります。聞こえるのは自分の息遣いとチェーンの音くらい。これは中々他のハブを使っていては得られない体験でした。
一方、街中やサイクリングロードでは、歩行者や他の自転車の人に音で存在を気付いてもらう事が出来ません。わざわざ意味もなく変速をして音を出したりすることもあります。
また、北海道や夜の山中ではラチェット音が動物避けになっている側面もあるので、完全に無音なのはちょっと怖くはあります。
ラチェット音が無いのは一長一短ではありますね。
見た目
今回はフレームに合わせたメタリックレッド(カラー名はCandy Red)としましたが、フレームの色と見事にマッチしていて気に入っています。
発色も非常に綺麗でムラは見られません。一年使っても退色した感じはなく、キレイなまま。所有欲という意味でこれは大きい。
受注生産からの塗装なので時間は掛かりますが、それだけの価値がある見た目です。カラーオーダーで大抵のフレームカラーに合わせられるのも他にはないメリットでしょう。
耐久性
一年間、ほぼノーメンテで雨の中でもガンガン使ってましたが、特に異音や性能劣化が発生することはありませんでした。
先日、ハブについて分解して確認いただきましたが、特に問題はなかったようです。必要部分のグリスアップだけしてもらいました。
価格
私が買った時の価格は以下の通り。
前側: 35000円
後側: 75000円
合計: 110000円
その後、値上げがあって現在の価格は以下の通り。
前側: 42000円
後側: 95000円
合計: 137000円
GOKISOやDT180よりは安く、クリスキングとは同等くらい。ハブとしてはトップクラスの値段です。
ブランド名
本来は「オニキス」なのですが、国内の商標の問題があるため日本では「オーエヌワイエックス」と呼ばれています。
まとめ
独特の構造を持ち、カラーオーダーが可能なハブ。
ロードのロングライド用途では大きな利点は無いかもしれません。ただ、空転時の無音がスムーズに感じられて気持ちが良いのと、見た目のフレームとのマッチングが気に入っていて、レギュラー使用を継続しています。SR600のような山岳ブルベでは別の軽量ホイールに変えるかもしれませんが、通常のブルベなら問題がないと感じました。
あと、今回は内幅21mmのリム(ロード的には最新規格)を選んだので、最新のタイヤを付けやすいというのもあります。手持ちの他のリムブレーキのホイールは規格的にちょっと古くなってしまいましたので。
ずっと25Cを使っていましたが、現在のタイヤはAGILEST 28C。足を止めた時、28Cのエアボリュームがあると、音も振動も消える感じがすると言いますか。この感触が気に入っています。
ロングライドにおける走行性能のみを追求するならば別のハブや完組ホイールを選んだほうが良いかもしれませんが、見た目を含めた所有欲や、独特の構造によるスムーズさに魅力を感じる方はこちらを選ぶのも良い選択肢だと思います。値段は……覚悟して下さい。
評価
対象モデル: Onyx Racing Products「Vesper Road」
年式: 2021年
定価: 35000+75000円 (税込)
購入価格: 35000+75000円 (税込)
公称重量: 95g, 390g
実測重量: 85g, 390g
価格への満足度
安くはないが、カラーオーダーが可能&凝った構造を見ると納得感はある。
総合評価
掛かりの早さと、空転時のスムーズさは唯一無二。ただ結構クセは大きく、慣れるのに時間がかかるかもしれない。
著者情報
年齢: 38歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: BIANCHI OLTRE XR4(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)
# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。