【レビュー】SHIMANO PRO「DISCOVER チームシートバッグ」

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評価:2

SHIMANO PROのバイクパッキング向け大型サドルバッグ。防水かつ、公称重量201gと非常に軽いのですが……。

目次

購入動機

詳しい購入動機は以前書いた↓の記事にあります。

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端的に言えば、「シマノが防水で200gの大型サドルバッグを出した」ということで飛びついてしまったのです。1月末の時点で予約をしました。

 

予約から4ヶ月、5月末にようやく届きました。

製品概要

実測重量は194g。

最大容量は10リットルで、最小容量は不明です(目測ですが7~8リットル程度?)。

完全防水とされていますが、防水規格についての記載はありません。

素材についても記載がありませんが、オルトリーブのサドルバッグの素材に似ています。オルトリーブよりは少し薄く、コシが無い素材です。

上部にはバンジーコードが付いていて、脱いだジャケットなどを括り付けることが可能です。

使用感

家で自転車に取り付けてみた段階で問題点が沢山見つかったため、実戦には投入していません。

 

走った際の感触を確かめるために、20kmほど実走で試してはいます。

重量

実測重量は194gと、堂々の200g切りです。10リットルの容量があってこれだけ軽いサドルバッグはそうそうあるものではないです。

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過去に使った中で一番軽かったのはこちらで170g。ただ、これは中に骨組みになるものが一切入っていませんでした。形状を保つのが非常に大変で、一度使っただけでお蔵入り。今回レビューするシマノのバッグは一部ではありますが、プラ板が入っています。

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次に軽かったのはこちらで216g。軽いのに作りが堅牢で非常に使いやすかったです。大型サドルバッグの原型を作ったメーカーが限界まで重量を絞り込むとこうなる、といった感じの製品でした。

その、大型サドルバッグの祖が作った最軽量サドルバッグよりも20gを絞り込んできたシマノ。軽量性は十分、問題は使いやすさです。

内部構造

本製品の内部を撮影してみました。これを見て問題だと思ったのが、「側面の補強がない」ことです。

 

黄色い点線で示した部分には、形状を保つための薄いプラ板が入っています。部位で言うと、バッグの底~シートポストと接する部分までをカバーしています。

厚みを測定した所、1.2mmと薄めのものが入っていました。ペラペラです。補強というよりは、かろうじて形を保つための骨組みと言った印象。シートポストとの接触面の変形を防ぐだけの強度はありません。

 

比較対象として、Ovejanegraのサドルバッグに入っていたプラ板がこちらです。厚みは1.7mmあり、十分に補強用として機能します。

このように、縦方向には一応骨組み的なプラ板が入っていますが、問題は横方向。バッグの側面部分には補強が入っていません。普通の大型サドルバッグはここに補強を入れます。具体的には、「プラ板を入れる」「丈夫な生地をもう1枚重ねる」手段を取ることが多いですね。

補強を入れるのは、「荷物でバッグが横方向に膨らむことを防ぐ」ためです。

 

大型サドルバッグ界隈では「荷物はそのまま入れるのではなく、内袋に入れる」という暗黙の了解があります。この黄色い袋が内袋。スタッフバッグとも呼ばれます。登山界隈では当たり前らしいのですが、自転車界隈ではあまり知られていないのが実情です。

 

スタッフバッグに入れた後にサドルバッグに入れると、このようになります。サドルバッグの側面部分は特に膨らんでいませんよね? これは、スタッフバッグが荷物の膨らみを防いでくれているからです。

 

次に、スタッフバッグを使わず直接荷物を詰め込んだ様子がこちら。サドルバッグの側面部分が大きく膨らんでいるのが分かるでしょうか。側面の補強がないとこうなります。

これだけ膨らんでいると、人によってはペダリング時に太ももと当たるようになってしまいます。こうした事態を防ぐため、普通は側面にも補強を入れるものなのです。側面の補強を省いた理由は恐らく軽量化だと思いますが、ここは省くべきではなかったでしょう。

 

本製品と同様に防水生地を溶着させた構造のオルトリーブのシートパックは、サイド側にもプラ板を入れて補強しています。

「スタッフバッグを使う」という暗黙の了解を知っていれば、この膨らみは防げます。しかし、(後述しますが)本製品には説明書は付属しません。暗黙の了解を知らないと起こる不具合ならば、それを防ぐための説明書を付けるか、もしくは不具合が起こらないような設計にすべきだと思います。

取付

大型サドルバッグは、通常2種類のストラップ(コンプレッション用ストラップ・サドルレール用ストラップ)と、1種類のベルト(シートポストに巻くベルト)を使って取り付けを行います。

本製品がユニークなのは、そのうちの一つであるサドルレール用ストラップをマジックテープで置き換えていることです。通常はサドルレール用ストラップは、バックルを使って固定するのが普通です。本製品は、ストラップ全体をマジックテープにすることで代用しています。

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この仕組はデカトロンのサドルバッグも採用していますね。

今回レビューしているバッグのサドルレール用ストラップは、側面のパーツと一体になっています。というか、一枚の生地から側面のパーツとストラップ部分を切り出していますね。普通は汎用品のストラップをバッグに縫い付けるわけですが、一体にして切り出すことで軽量化を試みたのでしょう。

取り付けようとして困ったのは、シートポストに巻くベルトがやたら短いことです。

 

左がシマノ、右がアピデュラ。ベルトの長さがぜんぜん違うのがお分かりでしょうか。アピデュラはちょっと長すぎかもしれませんが、これはエアロシートポストを考慮しているのでしょう。

 

オルトレXR4のエアロシートポストだと全くベルトが回ってくれません。これでは走れませんし、走行中に外れてしまうでしょう。

27.2mmの丸型シートポストだと問題ありませんでしたが、31.8mmだと怪しいかもしれません。2021年発売の製品にしては、シートポストの想定が細すぎます。

 

こちらのシートポスト用ベルトと、それを受けるループも、サドルレール用ストラップと同様に一つの生地から切り出されているようです。

 

単純にベルトが短いことも問題ですが、このベルトを折り返すためのループも強度が足りません。固定力が弱いです。

 

これはアピデュラの写真ですが、こういった一般的なベルトループのほうが固定力を高める上では良いと思います。

安定性

中に8リットルほどの荷物を入れて、自転車に取り付けてみました。色々な小技を駆使して安定するように取り付けを試みましたが、私の求める安定性の水準には達しませんでした。

実際に動画で見てもらったほうが早いかもしれません。

これは立ち漕ぎを想定した動きですが、バッグだけが尻尾のように揺れてしまっているのが分かると思います。こういった状態で走行すると、立ち漕ぎで重さを感じやすいですし、峠の下りカーブでバッグだけが不規則な動きをして自転車の挙動が不安定になります。

比較対象として、安定性が極めて高いオルトリーブのシートパックの動画も貼っておきます。

自転車を揺らしても、バッグだけが別の動きをするということはありません。これが私の言う「安定性が高い」状態です。

では、なぜこんなに安定性が低いのか。2点問題があると思っています。1点は先に書いた「シートポスト用ベルトの固定力が弱い」こと。もう一つは、「マジックテープ式ストラップを採用したことによる固定力の低下」です。前者は説明済みなので、後者について説明します。

 

こちらの画像は別の記事で、大型サドルバッグの取り付け時の注意点について書いた際に使った画像です。

通常の大型サドルバッグであれば、ストラップBを引っ張ることで、サドル裏方向に向かってテンションが掛かり、バッグがサドル裏に密着します。この画像で言うストラップBは、サドルバッグの底部分の生地に接続されています。

 

指で示した部分がストラップB(サドルレールから伸びたストラップ)です。ご覧のように、サドルバッグの底から伸びた生地にストラップが接続されています。

こうした構造なので、ストラップBを引くと、バッグ全体を底から引き上げるように力が加わります。「サドルレールから吊る力」+「バッグを底から引き上げる力」の2つの力で、バッグがサドル裏に密着し、安定性が高まるのです。

 

一方、シマノのサドルバッグはこのような構造です。バッグのサイドに貼り付けられたマジックテープで固定するだけです。バッグの底から引き上げる力が働かず、ただサドルレールから吊る力だけでバッグを支えていることになります。これではサドル裏に正しく密着しません。結果として、バッグの安定性が下がる(=揺れやすくなる)というわけです。

防水性

生地と生地は縫製ではなく溶着されています。

当サイトでは恒例、「シャワーの水をあらゆる方向から一分間掛ける」テストをやりましたが、中身への浸水は無し。防水性はしっかりしています。

ただ、防水の大型サドルバッグに付きものである「空気抜き穴」が本製品にはありません

防水のサドルバッグは気密性が高く、ロールアップすると風船のように膨らんでしまうもの。膨らんでしまうと中の荷物をコンプレッション出来ないので、シートポストへの密着度が下がり、サドルバッグが揺れやすくなります。

だからこそ、各社の防水を謳う大型サドルバッグは空気を抜くための穴を付けています。

 

↑はオルトリーブのシートパックの空気抜き穴です。

 

こちらはアピデュラのドライサドルバッグ。ベルトカバーの裏側に実は空気抜き穴が開いています。

シマノのバッグにもこの手の穴が必要だと思うのですが、やはりこれも軽量化のために省かれたのでしょうか?

説明書

マジックテープを使うという独自構造ながら、マニュアルなどは付属しません。

 

付属するのはこのタグ一枚だけ。これだけクセのあるバッグに説明書なしというのは不親切だと思います。

トピーク、アピデュラ、オルトリーブといった大手メーカーは、大型サドルバッグに取付マニュアルが付属するようになってきています。シマノもそれに続いてほしいものです。

(2021年8月21日・追記)

バッグの入っていた袋を捨てようとしたらマニュアルの紙が入っていたことに気づきました。何も付いていないと勘違いして申し訳ありませんでした。

ただ、やっぱり単純に取り付け方法を書いているだけなので、初めて取り付ける人にはコツ的なことは分からなそうです。

オルトリーブの説明書くらい丁寧だと良いのですけど。

工作精度

設計は色々とイマイチですが、モノとしての工作精度は優れていると思います。

ちゃんと左右対称に出来ていますし、生地の裁断や部材の縫製にも粗はありません。また、生地の溶着もシマノとしては初の試みなんじゃないかと思いますが、防水性もしっかりしていました。

この辺りは大メーカーの面目躍如といった所でしょうか。

被視認性

基本的に真っ黒ですが、サイドの製品ロゴと、バンジーコードのループに反射材が採用されています。

 

しかし、ここ光らせてどうするんでしょう?

車体に取り付けている時には、上を向いている部分なんですが。リュックサックに倣ってループに反射材を付けたのだと推測しますが、リュックはバンジーコードが後ろを向くからそこを反射させる意味があります。

せっかくここまで軽量化に気を使ってきたのに、重量のかさむ反射材を全く意味のないところに使うのは疑問です。一応荷物を挟めばループが立ち上がって側方から見えるかもしれませんが……。

 

ループに反射材を付けるくらいなら、こちらの写真のようにバッグの底面に反射材を足すべきですね。

この辺りからも、「設計者が実用していないんじゃないか」と思えてきます。実用している人ならこんな設計はしません。

その他

ちょっと感心したのが、コンプレッション用ストラップに付けられたゴムループです。最初はこれが何のためのものか分からなかったんですが。

 

余ったストラップをクルクル折りたたんでゴムループで固定出来ます。なるほど!と感心しました。しかし、これもマニュアルが無いので、気づかない人は永遠に気づかない工夫です。

 

シマノプロ カタログより引用

なお、こちらはカタログの宣材写真ですが、せっかくのゴムループは使われずに、ストラップはダラーンと垂れ下がっています。使ってあげてくれ……。

まとめ

軽量性を追求しすぎた結果、基本的な所が疎かになってしまった感のある大型サドルバッグです。はっきり言って使いにくい。

ストラップやベルトを側面の部材と一体化することで部品点数を減らして軽量化を狙ったのは面白い試みでしたが、それによって安定性が低下しています。そこは犠牲にするところではないと思います。

防水なのに空気抜き穴が付いていなかったり、サイドの補強が無いのも、2021年発売の後発製品としてはお粗末です。先行製品にはほぼ必ず付いてますからね。

シートポスト用ベルトが短いのは致命的です。エアロ全盛の今、バイクパッキング用とは言え、細い丸ポストにしか使えないのではお話になりません。

これらの欠点は恐らく軽量化に起因しているとは思います。軽量化のためにギリギリを攻めてコースアウト、結果として使いづらい製品になってしまっています。

「玄人志向」として、そういう割り切った製品もアリかもしれませんが、それは大メーカーがすることではありませんし、大メーカーがやるならば懇切丁寧なマニュアルを付けるべきでしょう。


自分で言うのもなんですが、私は大型サドルバッグの取り付けに関してはかなり経験がある方だと思っています。

この手のバッグを初めて使ってから7年、10個以上の大型サドルバッグを使ってきました。自転車の専門誌であるサイクルスポーツ誌で「大型サドルバッグの正しい取り付け方」の記事を担当させてもらったこともあります。

その私が取り付けても、動画で見せたように左右に揺れてしまう程度の安定性しか出すことが出来ません。初めての大型サドルバッグにこのバッグを選んだ人が居たとしたら、まともに使える状態にはならないでしょう。そして、信頼あるブランド「シマノ」の名が冠されている以上、最初のバッグに選ばれる可能性は低くありません。

このバッグは、正確にはシマノ傘下の「PRO」というブランドの製品です。いわば子会社の製品ではあるのですが、国内では「シマノ製品」として紹介されることも少なくはありません。「シマノなら安心だ」と思って買う人も多いはずです。そういったブランドの信頼性を裏切らないような製品設計を、ブランドを共有する子会社にまで行き渡らせて欲しいものです。

 

SHIMANO PRO シマノプロ DISCOVER TEAM SEAT BAG ディスカバー チームシートバッグ(R20RBA0062X)(8717009419567)バッグ

評価

対象モデル:  SHIMANO PRO「DISCOVER チームシートバッグ」
年式: 2021年
定価: 22000円 (税込)
購入価格: 17600円 (税込)
公称重量: 201g
実測重量: 194g

価格への満足度

6/10

大型サドルバッグの相場よりは高めだが、新技術の搭載ということで適価と思われる。

総合評価

4/10

軽量という1点では最強クラス。その代償として非常に使いにくい。

著者情報

年齢: 36歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: BIANCHI OLTRE XR4(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)

# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせて頂きました。

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この記事を書いた人

ロングライド系自転車乗り。昔はキャノンボール等のファストラン中心、最近は主にブルベを走っています。PBPには2015・2019・2023年の3回参加。R5000表彰・R10000表彰を受賞。

趣味は自転車屋巡り・東京大阪TTの歴史研究・携帯ポンプ収集。

【長距離ファストラン履歴】
・大阪→東京: 23時間02分 (548km)
・東京→大阪: 23時間18分 (551km)
・TOT: 67時間38分 (1075km)
・青森→東京: 36時間05分 (724km)

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