【レビュー】SHIMANO「ULTEGRA/XT RT-CL800」

この記事は約 10分で読めます。

評価:5

SHIMANOのディスクローター。元々はロード用としてラインナップされていましたが、180mm/203mmサイズが追加され、MTB用と兼用になりました。グレードはアルテグラ/XT。

今回は160mm/140mmサイズのレビューとなります。

目次

購入動機

2022年、シマノのロード用ディスクローターが刷新されました。なんでも、「音鳴りがしにくくなっている」とのこと。

関連記事
RT-CL900を見てきました シマノのロード用 新作ディスクローター「RT-CL900」の現物を見せていただきました。 まえがき 先日、La route編集部にお邪魔しました。 訪問の目的 新型105グレードの...

そんな時、実物のデュラエースグレード(RT-CL900)を見学する機会があり、「これはいい」と思ったのですが。

デュラエースグレードとアルテグラグレードで公称重量は全く同じ。違いは「放熱ペイント」と呼ばれるフィン部の塗装のみ。それで値段の差は3000円。

この段階では実使用での性能は分からなかったため、「まずはアルテグラグレードを買おう」ということにしました。それで良かったらデュラエースグレードに変えれば良いのです。消耗品だし。

created by Rinker
シマノ(SHIMANO)
¥6,080 (2024/12/05 08:17:54時点 Amazon調べ-詳細)

かくして、RT-CL800を160mm/140mmで一枚ずつ購入することになりました。

製品概要

実測重量は以下の通り。

ローター径 公称重量 実測重量
140mm 96g 94.9g
160mm 114g 112.5g

取付はセンターロック方式のみ対応です。

サイズ展開は以下の通り。

  • 140mm
  • 160mm
  • 180mm
  • 203mm

放熱性を高める「ICE TECHNOLOGIES(アルミをステンレスで挟み込む方式)」という技術を採用しています。フリーザという名前の冷却用のフィンも採用。

使用感

ディスクロードに取り付けて、ブルベや普段の練習ライドで使用しています。前輪に160mmローター、後輪に140mmローターを使用。

組み合わせているブレーキパッドは、同時期に発売されたシマノのレジンパッド「K05S-RX」です。

ブレーキはGROWTACの機械式ブレーキ「EQUAL」を使用しています。

取付

センターロック方式のみ対応ということで、スプロケ用工具で取付を実施。

今回のロックリングは内セレーション方式のもの(ローター付属)を使用しました。

重量

前述の通り、実測で160mmが112.5g、140mmが94.9gと非常に軽いです。どちらも公称重量を下回っていました。

140mmの計測結果

160mmの計測結果

関連記事
ロード用ディスクローターの重量調査 ロードバイクに使えそうなディスクローター(センターロック限定)の重量を一覧化してみました。 前置き ディスクロードでは、リムブレーキ時代に無かった「ディスクロー...

こちらの記事で各社のローターの重量を調べましたが、かなり軽い部類に入ります。シマノのMTB用旧モデルであるRT-MT800・900よりは重くなっていますが、それでもトップクラスの軽さと言って良いでしょう。

RT-CL800よりも軽いものはかなり「攻めてる」構造のものが多く、見た目で怖いところがないのにこれだけの軽さを実現しているのは驚異的です。

制動性能

シマノの従来製品や、他社の上位モデルのディスクローターと比べて特別「凄く止まる!」という印象はないですが、普通に良く止まるディスクローターです。ケーブルを通じてローターが曲がるような感触もありません。

馴染みが出るまでは(5kmくらい)効きが良くなかったですが、馴染みが出るとそれまで使っていたSwissStop「Catalyst」と遜色がないくらいには効くと感じられました。

横風耐性

シマノのロード用ディスクローターの前作(SM-RT800/900)は大きな放熱フィンが特徴でした。

前作(SM-RT800)

写真のマットな銀色部分が放熱フィンです。ローターの内周を覆うようにフィンが付いていたので放熱効果は高かったのだと思いますが、横風を受けたときにこの影響で前輪が押されるような感触を覚えたことがありました。

今作(RT-CL800)

今作はフィンの面積は控えめです。横風に強いリム形状を持ったシマノ「WH-R8170」ホイールと組み合わせてからは、横風に対して怖さを感じたことはありません。フィンのないSwissStopよりは少し「持っていかれる」感は強いかもしれません。

音鳴り

少し前のディスクロードで多くの人がストレスに感じていたことの一つは、「長時間または急ブレーキを掛けた後に、ローターとパッドが擦っている音がしばらく鳴る」ことだったと思います(いわゆるシャンシャン音)。私もこれが凄く嫌でした。

従来のシマノローターの特性

この原因は熱によって、一時的にローターが片方に曲がってしまうこと。冷めれば元の位置に戻るのでしばらく待てば音鳴りは解消されるのですが、その数十秒がかなりのストレスです。

シマノのローターは放熱のためにアルミをステンレスでサンドイッチする3層構造(ICE TECHNOLOGY)を採用しています。素材の熱変形の度合いがアルミとステンレスで異なるため左右どちらかに曲がりやすく、「放熱性が高いかわりに音鳴りがしやすい」ローターであったと言えます。

RT-CL800の変更点

RT-CLの製品ページの説明には「新設計のアーム形状は堅ろう性を高め、静音性を向上」と書かれています。

確かにアームの形状は前作に比べて複雑になっており、いかにもねじれに強そうです。

音鳴りの具合

実際に、斜度15%くらいの下り坂でわざと強くブレーキを掛けながら坂を下ってみました。これまでのシマノローターならば数十秒はパッドと擦る音がするシチュエーションです。

しかし、RT-CL800ではそういった音がすることはありませんでした。確かに高温になっても変形を防ぐ挙動を示しています。

パッドとの音鳴りのしにくさについてはかなり向上していると言えるでしょう。

耐久性

音鳴りのしにくさと並んで驚いたのがその耐久性です。

シマノの旧ローターの耐久性

関連記事
ディスクローターの厚みと寿命 ディスクロードで約3000km使用したディスクローター(SHIMANO RT-MT900)を、交換のために外しました。 その作業の中で分かったことを記事として纏めておきます。 経緯 先...

かつてのシマノのローターはかなり削れやすく、前輪側の推定寿命は7500kmほどでした。

RT-CL800の初期厚み

購入直後にノギスでローターの厚みを測定した所、場所によって微妙に差がありましたが、概ね1.75mmでした。

ローターには「Min.TH=1.5」の文字があります。「1.5mmまで達したら寿命」という意味なので、使える厚みは0.25mmです。

4000kmほど使った結果

さて、4000kmほど使用した後に前輪のローターの厚みを再度計測してみました。

驚くべきことに全然減っていませんでした。0.01mm減ったかどうかというところ。これだと0.25mmを使い切るのに10万km掛かるという計算になるんですが……。

何かの間違いかと思って複数箇所を計測しましたが、やっぱり減っていません。

この4000km中の雨天走行の度合いは100kmほどなのであまり厳しい条件では使っていませんが、それにしてもこれだけ距離を乗って全く減っていないのは驚きでした。

「じゃあブレーキパッドのほうが減ったのか?」と思って計測してみましたが、こちらもさほど減っておらず。

磨り減ることで制動力を生むはずのパッドとローターの両方の耐久性が伸びているのは狐に化かされたような気分ではありましたが……。

今回組み合わせて使用したシマノ「K05S-RX」レジンパッドは、耐摩耗性の進化(前モデル比+50%)がアナウンスされています。何らかの技術革新があり、「磨り減る量が減っても制動力を発生できる」ようになったのかもしれません。

(追記: 2024/7/4)

申し訳ありません。「全然減っていない」というのは誤りでした

これまでディスクローターの厚み計測はノギスを用いて実施していましたが、ノギスではロードバイクのディスクローターの厚みを正確に測ることが難しいことに気づきました。

写真を見ていただくと、再外周部だけ摩擦跡が付いていないことが分かります。

正しい位置にパッドが取り付けられた場合、ディスクローターの再外周部(1mm程度)はパッドに触れません。つまり削れないわけです。

ノギスで計測する場合はこの再外周部を挟んで計測することになるため、全く減っていないように見えていた……ということです。お恥ずかしい。

シマノのサイトにはディスクローターの厚みチェック方法が掲載されており、正しくは「マイクロメーター」という計測機器を使う必要があることが分かりました。

created by Rinker
シンワ測定(Shinwa Sokutei)
¥6,245 (2024/12/05 13:09:13時点 Amazon調べ-詳細)

そこで早速マイクロメーターを購入。この記事を書いた2024年2月から5ヶ月間で3000kmほどを乗っているので、7000km走行時点での前側ローターの厚みを改めて計測しました。

走行距離 パッドが当たる部分の厚み
0km走行(初期状態) 1.76mm
7000km走行 1.66mm

「7000km走行で0.10mm削れた」という結果になりました。シマノの基準では1.50mmがデッドラインなので、あと0.16mm使えることになります。

これまでの実績から残り使用可能な距離を計算すると、あと11200km。合計すると約18000kmくらいで寿命を迎えると推測されます。これは私の使い方での結果であり、乗り手の体重・天候・走り方によって変化するはずです。

関連記事
ディスクローターの厚みと寿命 ディスクロードで約3000km使用したディスクローター(SHIMANO RT-MT900)を、交換のために外しました。 その作業の中で分かったことを記事として纏めておきます。 経緯 先...

旧モデルであるRT-MT900が約7500kmで寿命を迎える計算であったことを考えると、2倍以上持つようになってはいるようです。より長寿命を謳うようになったパッド「K05S-RX」との合わせ技かもしれませんが、かなり長持ちするようになったとは言えるでしょう。

見た目

私の自転車は黒ベースのカラーなので、フィンが銀色のRT-CL800よりは黒色のRT-CL900のほうが似合うはずです。

交換したいなーとは思っているのですが、あまりにも減らないので変えられません。

まとめ

前世代のシマノ製ローターより格段に進化したディスクローターです。

寿命は伸び、音鳴りもしにくくなり、横風耐性も向上。

重量こそMTB用の前世代(RT-MT800/900)よりは重くなりましたが、その増量具合も最小限。音鳴りがしやすく、すぐに寿命を迎えていたことを考えれば、新世代のシマノローターのメリットのほうが大きいと考えます。

クランク問題やら値上げを続けるシマノ製品をあまり褒めるのも悔しいんですが、このローターに関しては非の打ち所がありません。

ただし、同じくシマノの最新世代のブレーキパッド「K05S-RX」と組み合わせた時しか、この性能が出ることは確認できていません。まずはこの組み合わせでの使用をオススメします。

created by Rinker
シマノ(SHIMANO)
¥6,080 (2024/12/05 13:09:14時点 Amazon調べ-詳細)

評価

対象モデル:  SHIMANO「ULTEGRA/XT RT-CL800」
年式: 2022年
定価: 6600-6750円
購入価格: 6270円
公称重量: 96g/114g
実測重量: 94.9g/112.9g

価格への満足度

9/10

この耐久性と性能を考えると非常に安い。

総合評価

10/10

寿命の長さ・音鳴りのしにくさ・横風耐性等々、全てにおいて文句なし。

著者情報

年齢: 39歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: BIANCHI OLTRE XR4(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)

# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。

記事のシェアはこちらから
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

ロングライド系自転車乗り。昔はキャノンボール等のファストラン中心、最近は主にブルベを走っています。PBPには2015・2019・2023年の3回参加。R5000表彰・R10000表彰を受賞。

趣味は自転車屋巡り・東京大阪TTの歴史研究・携帯ポンプ収集。

【長距離ファストラン履歴】
・大阪→東京: 23時間02分 (548km)
・東京→大阪: 23時間18分 (551km)
・TOT: 67時間38分 (1075km)
・青森→東京: 36時間05分 (724km)

目次