ONYXハブに試乗

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アメリカのハブ専門メーカー「ONYX RACING PRODUCTS」のハブを試す機会を得たので、その感想を書き残しておきます。

目次

試乗の経緯

「なぜ試乗をすることになったか」が結構長い話なので振り返ってみます。

カラーオーダーが出来るハブ

もともとONYXハブを見つけてきたのは妻でした。

「自転車パーツをピンクにしたい」という欲求を持つ妻は、カラーオーダーが可能なアイテムに関しては私よりアンテナが高いのです。私は全然聞いたことがありませんでした。

Twitterの発言を調べると2017年頃には既に見つけていたようですね。ONYXハブが国内に入ってきたのは2016年の夏なので随分早い段階からキャッチしていたことになります。元々はBMXとかそちらのジャンルに強いメーカーのようで、ロードでの知名度は今に至るまであまり高くはありません。

 

ミズタニ自転車のサイトより引用

国内代理店であるミズタニ自転車のサイトにはカラーサンプルがあるのですが、実に多種多彩なカラーを揃えています。

この時点では「色の選択肢が随分あるハブ」くらいの認識しか持っていませんでした。

手組みホイール用ハブとして俎上に

それから4年ほど経って、妻が「手組みホイールが欲しい」と言い出しました

 

昨年組んだOLTRE XR4のピンクバージョン。ホイールもこだわってSPINERGYのカーボンホイール(スポークがピンク色)を入れたのですが、どうもカーボンリムの制動力の違いに慣れることが出来ず。

 

暫定的に、私が使っていなかったSHAMALを妻に貸しました。フレームとの相性は良かったようで性能的には気に入っているようですが、見た目的には不満があったようです。ピンク要素一切無いですからね。

そこでピンク要素を入れるために再び候補に上がってきたのがONYXハブでした。

現状、ピンク色の入った完組のリムブレーキホイールと言えばSPINERGYくらいしか選択肢がありません。SPINERGYは乗り心地こそ唯一無二ですが、力の伝達や空力の点では性能が少し落ちる特徴があります。

一方、手組みならばピンク色のハブの選択肢はいくつかあります(CHRIS KING、PHILWOOD、GOKISOなど)。妻に言わせると「ピンクにも色味の違いがある」そうで、その中でこのフレームにベストマッチするピンクは、ONYXの「Fluorescent pink」なんだそうです。手組ならばデカールも自作は可能ですから、妻の理想に近いホイールが出来上がるはずです。

とはいえ、ONYXなんてマイナーメーカーのハブを取り寄せられる店が近くになんてあるんだろうか……そんなことを考えてググって見ると、以下の記事が出てきました。

店長日記
オーエヌワイエックス 突然ですけど、ONYX Racing P…

行きつけの店であるサイクルキューブの店長ブログでした。めちゃめちゃ身近で取り扱ってたわけですね。

サイクルキューブで話を聞く

妻とともにサイクルキューブに行ったタイミングで店長に話を聞くと、堰を切ったようにONYXハブについて熱く語り始める店長

店長日記
ONYX RACINGのハブで手組ホイールのススメ 半年ほど使ってすっかり虜になった、ワンウ…

こんな記事を書いている所からも伺えますが、どうやら店長にとって相当な推しアイテムだったようです。

話を聞いてみると、カラーオーダーだけではなく様々な特徴的な機構(後述します)があることが分かりました。正直、私はホイールに入れる差し色には興味はなかったのですが、機構のほうに強く興味を持ちました。妻よりも前のめりで話を聞く私。

値段についても「GOKISO並に高い」というイメージがあったんですが、アルミリムのホイールならば15万円以下でそれなりの構成(リム: TNI、スポーク: CX-RAY)で組めることも分かりました。

店長もそんな私を見て興味を持ったことを察したのか、私物のホイールを試乗のために用意してくれることになったわけです。

ONYXハブの特徴

ここで、ONYXハブの特徴を紹介しておきます。

スプラグ式ワンウェイクラッチ

ONYXのハブは、フリーボディ部分に「スプラグ式ワンウェイクラッチ」と呼ばれる構造を採用しているのが最大の特徴です。

空転時に無音

一般的なハブのフリーボディはこんな形状をしておりまして、いわゆる「ラチェット式」の構造を取っています。

ペダルを踏むと、このフリーボディの爪がハブのラチェットに引っかかることで駆動します。ペダルから力を抜くと、引っ掛かりが外れてラチェットとが接触しながら空転します。「ジャーーーー」という、足を止めた時にする音の正体がこれですね。

つまり、空転している際には爪とラチェットが接触している分、抵抗が発生しています。恐らく大したロスではないだろうと思うんですが、空走距離に多少の影響は出るでしょう。

踏み込み時の伝達時間が極端に短い

ONYXサイトより引用

一方、ONYXのハブは「スプラグ式」と呼ばれる構造を取っています。スプラグと呼ばれる無数の爪がシャフトを掴むような方式です。

ラチェット式と違い空転時にシャフトと爪が接触しないので、ペダルを踏んでいない時に摩擦によるスピード低下が発生しないことになります。また、接触しないため、足を止めても無音です。

また、ペダルを踏み込んだときにラグがなく力の伝達が始まるのも特徴です。ラチェット式は爪の数を増やすことで、踏み始めから伝達までのラグを減らすことが出来るわけですが、スプラグ式だと限りなくそのラグが0に近くなるようです。

カラーオーダー可能

前述の通り、カラーオーダーが可能です。23種類もの中から好きなカラーを選べます。

本体の色はアップチャージなし。小物・アクスルカラーの変更は3000円のアップチャージです。

ただ、受注してから塗装するらしいので納期は2~3ヶ月掛かるようです。

なかなか高価

凝った構造だけあって、値段も高くなります。

ロード用ハブの税込価格体系は以下の通り。

スチールベアリング セラミックベアリング
ONYX 前輪用 33000円 41800円
ONYX 後輪用 71500円 85800円

 

スチールベアリングで前後10万円ほど。高価ですね。比較用に高級ハブのお値段を貼っておきます。

スチールベアリング セラミックベアリング
CHRISKING 前輪用 35200円 49500円
CHRISKING 後輪用 72600円 88000円
PHILWOOD 前輪用 32780円
PHILWOOD 後輪用 78980円
GOKISO 前後輪セット 240900円

 

GOKISOが突出して高価ですね。ONYXはCHRISKINGやPHILWOODとほぼ同程度の価格帯と言えます。

試乗の感想

自分の自転車(FTB QUARK)にONYXハブで組まれたホイールを取り付けて、約5kmのコース(400mの坂を含む)を試乗しました。

ホイールのリムはASTRAL(ROLFのリムブランド)、スポークは失念、タイヤはMICHELIN POWER(TLR)の25Cです。

漕ぎ出し

普通のハブの場合、漕ぎ出してから爪がラチェットにハマるまで、角度にして数度のラグ(スカッと抜ける感覚)があるものですが、このハブは踏んだ瞬間からヌルっと駆動力が掛かることが実感できます。

ただ、掛かりというか、加速力はそこまでではない感触がありました。随分フランジ幅が狭いのでそのせいなのか、それともローハイトのリムを使っているからなのか、この短時間の試乗では分かりませんでしたが。

巡航

巡航中も足が動いている間は常に駆動力が伝わっている感触があります。ペダリングをわざと雑にしても、常に力が掛けられるのは良いですね。ある意味ピスト的といいますか。

600kmブルベのラスト100kmなど、疲労が溜まってくるシーンではクランクを上手く円運動させることが出来ず、ギッタンバッコンなペダリング(力が不均一に加わり、爪とラチェットが上手く噛み合ってない状態)になってしまうことがあります。このハブであれば、そういった状態は起こり得ないわけですね。

足を止めた時

このホイールで一番印象的だったのは、足を止めた時です。

前述の通り、スプラグが軸から離れるので、ベアリングの抵抗のみで空転します。ラチェット音は鳴りませんし、スピードが有意に落ちにくいと感じました。信号で足を止めてブレーキを握る際に必要な握力が、いつもよりも強かったですね。

もともとONYXハブはロードよりもBMXでよく使われるそうです(参考リンク)。BMXではペダリングを止めてジャンプしたり、連続するコブを惰性でクリアするリズムセクションがあります。そうした時に、足を止めても減速しにくいこのハブは有利に働くとのこと。

ベアリングの性能を極限まで高めたGOKISOとは違うアプローチですが、加えた力を無駄にしないという意味では目的は近いものがありそうですね。

空転時の音を動画で撮影してみました。ほぼ無音なのでよく分からないかもしれませんが。

今回試乗させてもらったホイールはオーソドックスなブラックカラーでしたが、塗装が綺麗でしたね。所有欲をくすぐります。

まとめ

「カラーオーダーが魅力なハブ」の第一印象を覆す面白いハブでした。

「速く走る」ことは出来ないかもしれませんが、「楽はできそう」なハブですね。ロードレースには向かなそうな印象を持ちましたが、私のようにブルベ主体で使うならばメリットがありそうです。特に、先週末に参加した宗谷岬600のようなコースではかなり楽ができそうだなと。

ブルベ向きのアルミリムの手組であれば15万円前後で組めそうですし、本気で検討をしようと思えてきました。どうせ今年も遠征のチャンスはほとんど無さそうなので、その分予算がありますしね……。

オーダーするならば、Candy Redで行く予定です。

 

著者情報

年齢: 36歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: BIANCHI OLTRE XR4(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)

# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせて頂きました。

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この記事を書いた人

ロングライド系自転車乗り。昔はキャノンボール等のファストラン中心、最近は主にブルベを走っています。PBPには2015・2019・2023年の3回参加。R5000表彰・R10000表彰を受賞。

趣味は自転車屋巡り・東京大阪TTの歴史研究・携帯ポンプ収集。

【長距離ファストラン履歴】
・大阪→東京: 23時間02分 (548km)
・東京→大阪: 23時間18分 (551km)
・TOT: 67時間38分 (1075km)
・青森→東京: 36時間05分 (724km)

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