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Outbound Lighting「Detour Road Bike Light」テストレポート
アメリカのライト専業メーカー「Outbound Lighting」によるロード/グラベル用ライト「Detour」をお借りしてテストしました。
テストに至るまで
まずはテストに至るまでの経緯について説明します。
Outbound Lightingというメーカーを知る
ある日、Twitterでライトについての話をしていた所、こんな情報提供を頂きました。
私はコレでライト沼から這い上がりました。OLIGHT RN 1500も使ったんですがレンズとリフレクターがどうにも自転車向きじゃあない気がして、Stvzo規格のライトを探していてイリノイ州シカゴ発のこのライトにめぐりあいました。先日のブルベで使用しましたがこれ一択です。ホームページが素晴らしい。 pic.twitter.com/Oq1wbl1VOk
— オザ1955 (@9594o0206) October 14, 2022
Outbound Lighting。初めて聞くメーカーです。日本にも代理店は存在しないようでした。
ライト自体も、リフレクターのカッティングが複雑かつ左右で異なる点でマニアックさが感じられます。
「これは面白そう」と興味を持ちました。
Outbound Lightingについて
メーカー公式サイトはこちら→ Bike Lights by Outbound Lighting
自動車照明のエンジニアと、元CREE(LEDの大手メーカー)のエンジニアが中心となって創業されたメーカーで、本拠地はアメリカ。
メインとなる製品はMTB用の「Trail Evo」。「世界最高のバイクライト」を標榜していますが、私の用途には合わなそう。
それにしても、バッテリー内蔵式のライトに「ワイヤレス」という表現が用いられているのが面白い。確かにMTBのナイトトレイル用のライトって、バッテリー別体でライト本体と有線で繋ぐタイプのものが多いので、それと対比してのワイヤレスなのでしょうが。
一方、ロード/グラベル用と位置付けられているのが「Detour」。日本語に訳すと「寄り道」という意味ですね。
スペックを見てみます。
- 21700バッテリー(5000mAh)採用
- 充電端子はType-Cを採用、充電時間も2時間半程度
- ローモードで8時間半動作
と、現代的なスペックを揃えています。
また、スペック説明として、「明るさの時間変化」グラフも自ら公開しています。他のライトメーカーで、こういうグラフを公開している所はないはずです。他のメーカーも見習って欲しい。
円安&送料が高い
しかし、世は急激に円安に進み、ドル建て支払いしか手段のないOutbound Lightingのライトはかなり高くなっていました。
さらに日本への送料は11000円と超高額。
さすがにちょっとこれは払えないな……と思い、見送ることにしました。VOLT800 NEOもそろそろ出ることですし。
お借りできることに
一度は購入を見送ったDetourですが、気になり続けていました。
そんな時、知人のオカピさんから、下記のご提案を頂きました。
コミケ疲れが取れないストレスから Detour Bike Lightを注文しました。
測定されるんでしたらお貸ししますよ。
興味津々だったので、早速お借りしてテストさせていただくことにしました。
海外メディアの反応
Detourをお借りしたのと前後して、海外の自転車メディアにもDetourのレビュー記事が上がり始めました。
発売は2022年の4月のようですが、大手メディアも様子見をしていたんですかね?
どのメディアも概ね高評価を付けています。
Detour Road Bike Light
オカピさんからお借りし、一週間ほどテストしました。
パッケージ
外箱です。
箱を開けるとこんな感じ。
最小限のスペースにライトとマウントが収まっています。このサイズでなぜ送料があんなに……
中身は以下の通り。
- ライト本体
- ハンドルバー用マウント (31.8mm径/35mm径に対応)
- USB Type-Cケーブル
- 2.5mm 六角レンチ
- マニュアル
これに加えて、オカピさんが別売りで購入したGoPro用マウントが入っていました。
重量
ライト単体の重量を計測しました。
152gです。
OLIGHT「RN1500」と同じく21700バッテリーを採用しているにしては軽量です。RN1500は166gでした。
取付
付属するハンドルバー用マウントがこちら。
35mm径ハンドル用マウントが基本で、31.8mm径ハンドル用のシムが付属しています。樹脂製。2.5mm六角レンチで固定します。
マウントにライトを固定する方法は、三脚にカメラを固定する方式を踏襲しているようです。
この突起部分をマウントに差し込んで、レバーを捻って固定する方式になっています。
こちらのツマミで、工具を使わずにライトの角度を変更出来ます。これも三脚っぽいギミックですね。
GoProマウントはこちら。
ライト本体
ライト本体を詳細に見て行きます。
特徴的なのは、筒ではなく横長の筐体である点。この筐体の形状は、SPECIALIZED「FLUX」シリーズによく似ています。
後の配光の章でも紹介しますが、この形状の筐体を採用したのは「よりワイドな配光が欲しいから」だと思われます。
LEDは左右に1灯ずつ。それぞれリフレクターのカットが異なっており、カバーする範囲が異なることが伺えます。
また、LED(写真内の黄色い四角形)の取り付け位置も左右で異なっています。こだわってますね。
筐体上部にはヒートシンク(おそらくアルミ製)が付属。走行中の過熱を防ぎます。
充電端子はType-C。パッキンも深めのしっかりしたものが付いています。借り物なので、いつものように水に沈めたりはしませんが、防水性はしっかりしてそうです(防水等級は未掲載)。
モード/点灯時間
各モードと点灯時間を示します。
モード | 明るさ | 点灯時間 |
点灯(Adaptive) | Max 100% | 2時間32分 |
点灯(High) | 100% | 1時間44分 |
点灯(Medium) | 63% | 4時間10分 |
点灯(Low) | 37% | 8時間20分 |
デイタイムストロボ | – | 10時間00分 |
ナイトタイムフラッシュ | – | 4時間30分 |
照度変化
このライトのマニュアルには、各モードの明るさの時間変化グラフが掲載されています。
これが本当かどうか、MediumモードとLowモードについて、照度の時間変化を計測しました。
Mediumモード
まずはMediumモードから。
点灯直後は照度が少し落ちますが、その後は一定照度を保ちます。公称4時間10分のところ、5時間20分点灯しました。
Lowモード
続いてLowモードの結果を示します。
公称で8時間20分のところ、10時間31分点灯しました。
各モードのルーメン値
Outbound Lightingは、スペック表にルーメン値を示していません。「最大で1100-1200ルーメン」とだけ書かれています。
元CREEの技術者がルーメン値を知らないはずはないので、わざと示していないのだと思います。
CATEYEの方に聞いた所によると、欧米では「ルーメン値 ÷ 価格」がライトのコストパフォーマンスの計算式として一般的だそうです。配光や点灯時間は全く重視されないとか。
Outbound Lightingの本拠地はまさにそういった文化のアメリカなので、「ルーメン値よりも配光を見てくれ」という想いを込めて「スペック表に書かない」という姿勢を貫いている気がします。
ただ、当サイトではスペックをルーメンで表記することが多いため、あえてルーメン値を算出してみます。直接ルーメン値を計測する装置は我が家にはないので、間接的に算出します。
- 各モードの点灯開始直後の照度を同距離で計測する。
- Highモードに対するMediumモード/Lowモードの照度比率を計算する。
- Highモードのルーメン値を1100ルーメンと仮定して、②で求めた照度比率から各モードのルーメン値を計算する。
まずは、各モードの点灯開始直後の照度を示します。
モード | 照度[lux] |
点灯(High) | 84000 (100%) |
点灯(Medium) | 33000 (39%) |
点灯(Low) | 16000 (19%) |
公称では、Mediumモードが63%、Lowモードが37%となっていました。実際には、Mediumモードが39%、Lowモードが19%という結果に。ちょっと食い違っていますね。
Highモードを1100ルーメンと仮定して各モードのルーメン値を計算すると以下のようになります。
モード | 光束[lm] |
点灯(High) | 1100 |
点灯(Medium) | 429 |
点灯(Low) | 209 |
バッテリー容量と点灯時間から見ると、こちらの値は納得できる値です。
充電性能
本製品はType-C端子を搭載しており、充電しながらの点灯も可能となっています。
充電時間を実際に計測してみました。
おおむね2.5Aほどの電流が流れており、2時間10分ほどで満充電となりました。頻繁に電流が降下しているのがちょっと気になります。
これだけ充電時間が短ければ、ブルベにおいてホテルでの仮眠時に満充電にしやすいはず。
インジケーター
電池の残量を示すインジケーターが付いています。
スイッチとインジケーターを兼ねるケースが多いですが、Detourは独立したインジケーターを採用。4つの目盛りで電池残量が分かりやすいです。
実走テスト
いつものように夜練で実走テスト&河原で配光確認を行いました。
配光
まずは河原での配光確認から。
Outbound Lightingのサイトでは、ライトの配光を以下のように例えています。
従来の自転車ライトの配光: 光のトンネル
Detourの配光: 光のじゅうたん
「光のじゅうたん」とは言い得て妙な表現で、前輪から20m先あたりの路面までを左右方向に広く照らします。確かにじゅうたんのようです。
ただし、一番明るく照らされるのは前輪あたりの部分です。
画像を見ると自転車の前方10~20mの路面も十分に明るく見えるのですが、前輪あたりが明るすぎて、相対的に遠方の路面が暗く感じられます。
オンロード走行においては、自転車の前輪あたりを見るシーンというのはあまり無いように感じます。停止状態から走り出す時に障害物があれば気づけるという利点はありますが、それならばその光をもっと遠方に回して欲しいですね。
自転車の前方10~20mあたりの路面が暗く感じられるので、このライトではあまりスピードを出す気になれません。25km/h程度で流すならば良いですが、30km/h以上はちょっと怖いです。
比較対象として、CATEYE「VOLT400 NEO」の配光を以下に示します。
このライトでは、前方10~15mの路面が一番明るく照らされます。
個人的にはこういう配光のほうがオンロードで走りやすく感じます。人間、暗い場所では一番明るい部分を優先して見てしまうものだと思うので。
なお、Detourは「グラベル用ライト」でもあります。私は走らないので分からないのですが、グラベルにおいては自転車の近辺を照らす理由があるのかもしれません。
また、オンロードに比べるとグラベルのほうが低速になると思われるので、遠方を集中的に照らすよりはワイドな配光を優先したとも考えられます。
他のライトとの配光比較を行う場合は、「自転車ライト配光比較ツール」をご利用下さい。
防眩
Detourはオンロード走行を考慮しており、防眩対応の設計となっています。
壁際で点灯してみると、水平方向より上の光がカットされていることが分かります。
かなり明確にカットされているため、路上の標識や青看板を照らすことは出来ません。こうした水平より上方向のものを照らしたい場合、追加で補助ライトを使用する必要があるでしょう。
個人的には完全な「カット」よりも、上方向の光を眩しくない程度に「軽減」の方が良いと思うんですけどね(VOLT400 NEOは「軽減」設計)。
完全にカットしてしまうと、逆に車や歩行者が気づかなかったりするので。フロントライトの「被視認性」も重要だと思っています。
ライトの側方も点灯するようになっており、側方視認性は考慮されています。
操作性
ボタンは大きく、グローブをしていても押しやすかったです。
「説明書を見なくても操作方法が分かるように」と、「長押しでスイッチオン」「シングルクリックでモード切替」と分かりやすい操作性です。
点灯と点滅が別のループになっているのも良いですね。通常の夜間走行では点滅機能は使わないので、ループを分けてくれたほうが使いやすいと思います。
スイッチも縁が上がっており、カバンなどに入れた際に誤って点灯して発火……のようなことがないように考慮されています。
マウント
前述の通り、カメラの三脚に良く似た方式のマウントを採用しています。
元々はシリコンバンドでライトを固定していたそうですが、振動したり下を向いたりといった不具合があったことから現在のマウントに改良されたようです。
実際、走行していても光軸のブレやライトが下を向いたりといったことはなく、非常に安定したマウントです。また、工具を使用せずにライトの脱着と角度変更ができる点も素晴らしいです。ライトの角度変更程度でいちいち携帯工具を出していられませんからね。
ライト本体に比べてマウントを軽視するメーカーは多いですが、マウントは本体と同じくらいに大切なもの。Outbound Lightingはマウントの品質までしっかり考慮していると感じました。
その他
ちょっと気になったのは、リフレクターに指紋のようなものが付いている点。
アメリカでハンドメイドされているようですが、リフレクターは綺麗に組み立ててほしいですね。配光にも影響するものですし。
まとめ
「充電が早い」「明るさが落ちない」「マウントも堅牢で使いやすい」と、非常に意欲的に作り込まれた自転車ライト。
配光にもこだわりが感じられますが、私の好みとは合わなかったです。恐らく、オンロードのみというよりは、グラベルに「寄り道」することを想定したライトなのでしょう。私とは使い方がちょっと違います。
驚いたのは、マウントの品質もしっかり考慮している所。いくら配光を工夫しても、土台が揺らいでは意味がありません。
「しっかりライトを固定できる」「工具なしで微調整が可能である」という2つのポイントを抑えていたメーカーは、これまでにCATEYEしかありませんでした。
Outbound Lightingのマウントは、その2つのポイントをしっかりと抑えています。新興メーカーなのに素晴らしい。
非常に面白く、品質の高いライトです。用途に合えば非常にオススメできるライトだと思いました。
最後に、ライトを貸し出してくださったオカピさんに御礼申し上げます。ありがとうございました。
著者情報
年齢: 38歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: BIANCHI OLTRE XR4(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)
# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。