GHISALLO「GE-110」試乗レポート

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フカヤのオリジナルブランド「GHISALLO」から来年1月発売予定のエンデュランスロード「GE-110」に試乗してきました。

「ブルベ」をターゲットに開発された意欲作です。

目次

GHISALLO「GE-110」

まずは今回試乗したGHISALLO「GE-110」の紹介です。

GHISALLOブランド

GHISALLO」は大手自転車問屋のフカヤ(旧・深谷産業)のオリジナルブランドです。

最近出てきたように思われる方も多いかもしれませんが、かなり昔からオリジナルのフレームや完成車がラインナップされていました。恐らく15年以上の歴史があります。

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何を隠そう、私が初めて買ったロードバイクもGHISALLOだったりします。

問屋のオリジナルブランドということもあってか、とにかく安かったんですよね。カーボンフレームをアルテグラSL組、更にカーボンハンドルとカーボン巻ステム付きで255800円でした。当時としても安すぎます。

ただ、2010年頃から新作フレームが発表されなくなりました。私が購入したのはカーボンロードのラストモデルです。

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しばらく休止状態にあったGHISALLOブランドでしたが、2021年にシクロクロスバイク「GX-110」が発表されました。久々の復活です。

エンデュランスロード開発を発表

2022年4月のサイクルモードにて、GHISALLOブランドのエンデュランスロード「GE-110」が開発されていることが明らかになりました。

なんと、「ブルベをターゲットに開発」しているとのこと。なんてニッチな所を狙うのかと驚きました。恐らく、カーボンフレームでは初のコンセプトではないでしょうか?

開発協力には、元プロロードレーサーの三船雅彦さんの名前が。

三船さんと言えば、PBPも3度完走されており、山岳ブルベSR600の完走回数は世界一。筋金入りのランドヌールです。

世には「ブルベ向き」を謳った製品は既にいくつかあります。しかし、どこかブルベの現場感覚とはズレている製品が多いのも事実です。もちろん、ブルベというニッチな世界に向けた製品を作ってくれるのはありがたいのですが、いざ実際に使おうとすると「ちょっと違うな……」となるのは不幸なこと。

その点、三船さんが監修しているのであれば現場の感覚は十分に反映されているはずです。

更に、このGE-110のプロトタイプは2022年の夏に開催されたLEL(ロンドン・エジンバラ・ロンドン)に最終テスト投入されています。

LELと言えば、ブルベの世界ではPBPと並ぶ権威のある大会です。例えるならば、「ジロ・デ・イタリアで実戦テストされたレースフレーム」と言った感じですね。

今回のLELは例年よりもかなり厳しいコースであったようですが、三船さんは1540kmを92時間02分の好タイムで完走されています。

この時点ではトップチューブ上にはアイレット(ダボ穴)がありませんでした。ここにアイレットがあると、ボルトオンタイプのトップチューブバッグを付けるのに便利なのですが……。

そんな思いからこんなツイートをしてみたところ、翌日になってフカヤ公式ツイッターアカウントで「GE-110にトップチューブのアイレットは必要?」というアンケートが実施されました。そして、「必要」が多数派で勝利。これはもしかして期待できるのでは……?

GE-110、正式発表

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そして、10月には正式に発売が発表されました。

なんと、トップチューブのアイレットが採用! 素晴らしいですね。

驚いたのがその価格。カーボンステム・カーボンハンドル・カーボンシートポストが付属して253000円。値上がりラッシュのロードバイク界においては目を疑うほどのバーゲン価格でした。サイクルモードでは「フレームセットで20万円目標」と仰っていた気がしますが、世界情勢を見るとこれでもかなり頑張っておられる価格であろうと思います。

近所で試乗会が開催

そして12月。

我が家から自走で1時間掛からない自転車店「SNEL」にて、GE-110の試乗会が開催されるとのこと。

これは是非乗ってみたい!ということで、試乗してきました。

試乗レポート

12月12日(日)に、大田区のSNELさんまで自走で赴きました。

やはりGE-110の注目度は高いようで、既に試乗待ちの人がいらっしゃいました。

その方の試乗が終わるのを待ち、ペダルを交換&サドルの高さを調整してもらって、いざ試乗。多摩川沿いの道を3kmほど乗ってきました。

試乗車の仕様

GE-110はフレームセット売りで、完成車販売はありません。

今回の試乗車はMサイズで、R8200系アルテグラで組まれていました。ホイールもアルテグラ(WH-R8170)のC36。タイヤはAGILEST TLRの28Cが付いていました。ホイールもタイヤも普段使ってるものに近いので比較はしやすかったです。

なお、ハンドル・ステム・シートポストは本来このフレーム専用のものが付属するはずですが、今回の試乗車はその部分がDedaのパーツで組まれていました。恐らくパーツは下記だったと思います。

ハンドル: VINCI SHALLOW
ステム: VINCI
シートポスト: SUPERLEGGERO

どれもDedaの中ではかなり高級品なので、純正品よりは若干性能的に上回っている可能性があります。出来れば純正パーツで乗りたかったですね。

詳細写真

カラーはオキシダイズドシルバーのみのラインナップ。実物の塗装は中々綺麗です。

もう何色か欲しい所ですが、国内専売であろうことを考えると厳しいでしょうか。

このフレーム、とにかくアイレットが豊富です。

ダウンチューブ、トップチューブともにアイレットは3個ずつ。上下で場所を選べます。両方とも下側を選ぶとかなり低重心化が可能になりますね。今回は「マスの集中化」がテーマだそうで、重量物をBB付近に近付けることで挙動を軽くすることを狙ったようです。荷物ありきで設計されているのが良いです。

ダウンチューブ裏側にもアイレットが3個。第三のボトルケージをよく使うブルベでは必須の場所です。

そして、発表前に急遽増設となったトップチューブ上側のアイレットも付属を確認。

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こういったトップチューブバッグが取り付けられて便利なんですよね。膝が当たっても、バッグの底がフレームに固定されているので左右に倒れないのが良いのです。

シートポストは丸形の汎用タイプですが、シートポストの固定はエアロを意識した臼埋め込みタイプ。丸形シートポストなので、自分で好きなものが使えるのはありがたい。

今回は写真を撮り忘れましたが、ハンドル周りはケーブル完全内装になっています。理由はエアロ……だけではなく、「フロントバッグを付けやすくするため」という驚きの理由もあるんだとか。

確かにハンドル周りのケーブルがないとフロントバッグの取り付けは楽なんですよね。ブルベではフロントバッグ派も多いですし。もちろん、バッグを外せば空力性能的にも有利ということになります。ハンドルの交換やメンテなどは大変ですが、そこはトレードオフということなのでしょう。ステムの選択肢が減るのはちょっと残念ですが。

なお、特にアピールはされていませんが、フレームの形状はカムテールっぽく見えます。「っぽい」だけで違うかもしれませんが。
→GHISALLO公式アカウント宛に聞いてみたところ、プロトIIからエアロ形状を採用したそうです。

重量

公称重量は、フレームが850g(Sサイズ:未塗装)、フォークが400g(未塗装/コラム未カット)。

塗装が結構重そうではありますが、ディスクロードフレームとしては軽量な部類に入ると思います。開発当初はもっと軽かったらしいですが、荷物を載せた状態でもしっかり走らせるために、少し重くしてでも剛性を上げたそうです。

今回の試乗車の重量は、手で持った限りでは7kg前半くらいではないかと思われました。

ポジション

事前にジオメトリを見て、自分的にちょうどいいサイズはSかMだろうと考えていました。

下記はGE-110のジオメトリの抜粋です。

リーチ スタック
Sサイズ 380.9 551.2
Mサイズ 381.0 570.8

とかく、ジオメトリを見る際にはトップチューブ長に目が行きがちですが、私はとりあえず「リーチ」と「スタック」を見ます。

リーチはハンドルの遠さ、スタックはハンドルの高さに関係する数値です。ここが適正な値でないと、とんでもなく短いステムを使う羽目になったり、ハンドルが高すぎてポジションが出ないなんてことも起こります。

なお、GE-110はハンドルの遠さを決めるリーチが、SサイズとMサイズで0.1mmしか違いません。誤差の範囲と言えます。ちょっと設計としてはイマイチに見えてしまいますが、会社によってはサイズが大きいのにリーチが短かったりすることもあるので、イマイチだけど許容範囲といった所でしょうか。

私が今乗っている「INFINITO CV」のリーチとスタックを以下に示します。

リーチ スタック
Mサイズ(530mm) 376.0 553.0

数値的にはSサイズの方に近いですが、INFINITO CVはヘッドキャップが特殊な形をしているので、実質的なスタックは553mm+10mmくらいはあります。

ちなみに、GIANTのエンデュランスロードのDefyだと私のサイズでスタックが567mmなので、GE-110とそう大きく違わない値ということになります。

INFINITO CVには3mmのスペーサーを入れているので、Mサイズのほうが私には向いていそうだと判断。Sサイズだと多分スペーサーを2cmくらい余分に積む必要があるはずです。

今回はステム下に3cmほどスペーサーが入っていたので「やや高いかな」と感じましたが、そこまでの違和感は無し。

なんでだろう?と思ったら、ステムの角度が違うからでしたね。DedaのVINCIステムは73度なので、よくある84度のステムよりもハンドルの高さはかなり低くなります。ちなみに私が普段使うステムは83度なので、同じ100mmで73度のステムを入れるとハンドルが17mmほど低くなる計算です。

純正のステムのスペックは明らかにされていませんが、そちらで組む場合にはもう少しスペーサーの数を減らすことになるはず。

長々と書いてきましたが、言いたかったのは「よほどレーシーなポジションを求めなければ、(大抵の人は)ポジションは出るはず」ということです。

実走

前置きが長かったですが、いよいよ実走です。

エンデュランスロードという名前から「剛性が低いのではないか」というイメージがあったのですが、そんなことはなかったです。というより、乗った感じは少し前のエアロロードっぽいと言う印象があります。固めです。

個人的には「エンデュランス」=「とりあえず剛性下げとけば良いでしょ」という風潮には反対です。そういうメーカーも多いんですが。

※ちなみに、特にエンデュランス用を謳っていなかったGHISALLO「GC-3」はめちゃめちゃ柔らかいフレームでした。

剛性の高いフレームは脚にダメージを残すイメージはありますが、それは乗り手の問題だと思ってます。レースだろうがロングだろうが、剛性はしっかり有ったほうが良いはず。乗り心地は足周り(タイヤ・ホイール)などで十分出せる時代なので、フレームは動的性能の追求を考えるべきです。

その点、元レーサーでファストラン志向の三船さんが監修しているだけあって、GE-110は剛性をしっかり出す方向性となっていて安心しました。ゼロ加速・巡航ともにスムーズで、もっさりした印象はありません。今回の試乗コースは平坦だったのでヒルクライム性能は試せていませんが、この感じであれば問題はなさそうです。

ハンドリングについては、10km/h以下の低スピードでは少しクイックに感じましたが、ブルベでよく使う30km/h前後の速度では安定して直進するように感じられました。多分このフレームはそのくらいの速度が美味しい速度域なのでしょう。

GE-110はサスペンション的なギミックは付いていませんが、ディスクロードフレームの中では乗り心地が良い部類に入ると思います。

個人的にはギミック入りのフレームを「不自然な乗り心地の良さ」と感じることが多いんですが、GE-110は自然な乗り心地の良さがあります。今乗っているINFINITO CVとも近い方向性です。GHISALLO公式アカウントいわく、「リアバックの形状と積層を工夫して乗り心地を良くしている」とのことです。

あと、機械式のギミックの付いたフレームは部品数が増えます。すなわち破損する箇所が増えるということでもあります。1トラブルで詰むこともある上に、メカニックも帯同しないブルベの世界では、「トラブルが起きにくい」単純な構造であることも重要です。

確かめられなかった点

GE-110の公式説明には以下のように書かれています。

長距離サイクルイベント「ブルベ」で必要なスペックを検証し、剛性と快適性のバランスを兼ね備えた軽量なフレーム・フォークを採用。
「ブルベ」で必要な装備を積載できるようにアイレット位置を工夫し、「マスの集中化」を実現。
重量物をできるだけBB付近に近づける事で、積載走行時の操作性を向上することに成功しました。

このフレームは「積載走行時の操作性の向上」を設計の一つのテーマとしていることが明言されているわけですね。

試乗前には思い至らなかったんですが、本来この試乗はブルベ並の装備(フロントバッグ・サドルバッグ・ツールボトル等)を付けた上でテストするべきでした。

PBPのような1000km超のブルベでは自転車に取り付ける荷物の重量も数kg単位になります。1500kmのLELでのテストを経ているわけですから、当然その辺りも考慮されているはず。次に試乗する機会があれば、普段のブルベの装備を載せた状態で試したいと思っています。

荷物がない状態での挙動は、オールラウンド系ロードフレーム(TCRやEmondaのポジション)のミドルグレードモデルに近いように感じました。

まとめ

GHISALLO「GE-110」の試乗レポートでした。

このフレームにはレース用のフラグシップフレームのような乗り味の鮮烈な特徴こそありませんが、真面目にブルベというものを考えて作られたフレームだということが伝わってきました。


私は10年以上、自転車をロングライドメインで取り組んできて、1000km超のライドも10回程度は経験しています。

その経験から考えると、ブルベのようなライドに向いたフレームというのは、「積載用のアイレットが付いたオールラウンドモデル」ではないかと私は考えています。

わざと剛性を落とした上で機械式のギミックの付いた「わざとらしいエンデュランスモデル」ではなく、TCRやEmondaのようなオールラウンドモデルで乗り心地的には十分。そして、変に剛性を落としたモデルは距離が伸びるほどにモッサリ感が気になってくるんですよね。距離が伸びるほど体は疲労するわけで、元気なうちに進まないフレームが疲れてから進むようになるわけがないのです。

ただ、「積載用のアイレット」というものは、レーサーとは目的を異にするものです。だってレーサーはレースをするもの。荷物の積載を考える必要はありません。キャンプツーリングにも使えるようなグラベルロードにこそ最近はアイレットが多く付くようになりましたが、レースをターゲットにしたオールラウンドモデルに付いていることは稀です。

つまり、私がロングライドフレームの理想形と考える「積載用のアイレットが付いたオールラウンドモデル」というのは矛盾した存在であり、これまでマスプロモデルとして市場に存在するものではありませんでした。

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ということで、私のオーダーフレームは「積載用のアイレットが付いたオールラウンドモデル」と言える仕様になっています。ジオメトリ的にはレーサー(ラピエールのXELIUSをほぼ再現)であるのですが、ダウンチューブ下にアイレットを増設。乗り心地はタイヤ側でする&泥除け用の余裕を持つために、キャリパーブレーキの限界である28Cまで対応するようにしてあります。

そんなオーダーフレームでしか実現し得なかった矛盾した存在が、ついにマスプロモデルとして出てきたわけですね。GE-110、非常に面白いフレームだと思います。もっと自転車メディアでも取り上げられるべき製品だと思うのですが、残念ながら今の所大きく取り上げられてはいません。なので今回、自分で記事化しました。

立ち姿も至って普通のロードフレームという感じで、「エンデュランス!!」と主張していないのが良いです。

今「欲しいフレームを1本選べ」と言われたら、ドグマでも新型オルトレでもなく、私はGE-110と答えるでしょう。……残念ながら我が家にはもう自転車を置くスペースは無いんですけどね。

著者情報

年齢: 38歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: BIANCHI OLTRE XR4(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)

# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。

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この記事を書いた人

ロングライド系自転車乗り。昔はキャノンボール等のファストラン中心、最近は主にブルベを走っています。PBPには2015・2019・2023年の3回参加。R5000表彰・R10000表彰を受賞。

趣味は自転車屋巡り・東京大阪TTの歴史研究・携帯ポンプ収集。

【長距離ファストラン履歴】
・大阪→東京: 23時間02分 (548km)
・東京→大阪: 23時間18分 (551km)
・TOT: 67時間38分 (1075km)
・青森→東京: 36時間05分 (724km)

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