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La route【表面処理】の記事が素晴らしい
会員制自転車メディア「La route」にて昨日公開された記事【薄くて深い「表面処理」の世界(番外編Vol.02)】が素晴らしかったので紹介致します。
La routeの紹介
まずはこの記事で取り上げる「La route」というサイトについて紹介します。
La routeとは
La routeは自転車に関するマニアックな記事が読める、有料の会員制メディアです。月額500円で記事が読み放題。
詳しくは以下の記事で紹介しています。
このLa routeを立ち上げた安井行生さんは、雑誌「サイクルスポーツ」や、Webサイト「Cyclist Sanspo」などで記事を書いてこられた自転車ライターです。
既存のメディアでは書けることに限界があると感じた安井さんは自らのメディアである「La route」を企画。「広告なし、忖度なし」をモットーとした、「自主規制なしの本気の自転車メディア」を標榜しています。
2020年4月に「La route」が本格始動。月に2~4本の記事が公開され続けています。既存の自転車メディアでは中々見られなかった骨太かつマニアックなテーマの記事が多いのが特徴ですね。
La route 自転車研究所
そんなサイトの中でも個人的に一番興味深いと感じているのが「La route自転車研究所」というコーナーです。
「自転車を構成するパーツについて、より詳しく知ろう」というコーナーで、毎回そのジャンルの専門家を招いた濃い解説・実験が行われるのが特徴となっています。
「La route 自転車研究所」には、現在以下のテーマの記事があります。
→ 静岡のネジ専門業者へ赴き、自転車用ボルトの働きと重要性を調査。
・「コンポメーカー各社の設計思想」
→ シマノ、カンパ、スラムのシフトレバーを分解し、専門家と共に設計思想を解析。
記事の方向性は、安井さんがかつて手掛けた企画「自転車道」の延長といった感じ。あちらではベアリングやスチールパイプなど様々なテーマがありましたが、その続きが読めているようで嬉しいです。
連載「”表面処理”の世界」
そんな「La route 自転車研究所」の3番目のテーマとして選ばれたのが「表面処理」でした。
自転車パーツには金属製品が多く、その多くに表面処理が施されています。Mavicのエグザリッドリムに施される「PEO処理」が有名ですが、ボトルケージの色付きネジに施されるアルマイト加工も表面処理です。
この記事の中では自転車で使われる様々な表面処理について、表面処理の専門企業である「千代田第一工業」の技術者の方に詳細を尋ねる内容となっていました。
取り上げられていた表面処理の中で、私がとりわけ興味を惹かれたのが「DLC」でした。
DLC(=ダイヤモンドライクカーボン)は、自転車パーツでは主にチェーンに施される表面処理であり、KMCやPYCといったメーカーがDLC加工されたチェーンを販売しています。
この表面処理の記事では、PYC製のDLCチェーンを分解し、その加工の意図を考察する内容となっていました。
DLCチェーンについての追加調査
La routeで「表面処理」の連載が公開されたのは今年のGW。私が下記のレビュー記事を書き終えてすぐのことでした。
そんなタイミングでDLCについての記事が公開されたとあって、貪るように読みました。自転車の観点でDLCについて専門知識を持つ技術者が詳しく語った日本語資料なんてそれまで他に無かったので、これだけでも非常に貴重な資料であると言えます。
ただ、記事を読んだ後に気になったことがあり、私はLa route編集部あてのメールを書いたのでした。
送ったメールの内容
かいつまんで言うと、送った内容は以下の通りです。
・KMCのDLCチェーンをバラしてみた所、PYCとほぼ同じ部分にDLC加工と思われる黒色が付いていた。
・しかし、KMCのサイトでは、プレート表面の黒色の部分は「TiCN加工である」と解説されている。
・TiCN加工とDLC加工は全く別の加工である。
・そして、KMCではDLCを「ダイヤモンドライクカーボン」ではなく「ダイヤモンドライクコーティング」の略だとしている。
・実は、KMCのDLC加工は、世間一般のDLC加工と違うのではないか?
と、このような感じのメールを書きました。
こちらが問題のKMCのサイトのキャプチャです。どこにもDLC加工をしているとは書かれてないんですよね。
実はKMC本国宛にメールを送ってDLC加工について問い合わせたりもしたのですが、詳しい話は教えてもらえませんでした。そりゃそうですね、飯の種ですから……。「そんなことを聞くなんて、君は競合他社の人間か?」と逆に質問もされました。すいません、ただのマニアックな1ユーザーです。
「表面処理」の記事の中では、PYCのDLC加工の意味に疑問を呈していた部分がありました。私としてもKMCのDLC加工に疑問があったので、私が持っている情報を提供しつつ、可能であればさらに突っ込んで調査をしてもらいたい旨のメールを書かせて頂きました。今考えると随分図々しいことをしたもんだなぁと思いますが……。
返ってきたメールの内容
それから数日後。メールボックスに、安井さんからのメールが届いていました。これにはびっくり。返事が来るものだとは。
返信の内容をまとめると以下のとおりです。
・記事の公開後、KMCのサイトではプレート表面の黒色部分にTiCNと表記があることに気づいた。
・気になったので、KMCのDLCチェーンを買って早速分解した。
・これを持って、「千代田第一工業」へ追加取材を行う予定である。
・メールで寄せられた疑問についても、その取材の中で可能ならば聞いてみる。
……KMCのDLCチェーンって定価20000円するんですよね。それを調査のためにポーンと買ってしまう所がさすが安井さんです。
そしてそこからの追加取材。その中で、私が送ったメールの内容についても突っ込んでいただけるとのこと。これは凄いことになってしまった。
番外編 公開
そして数週間後。再度、La routeからメールが届きました。「追加取材の記事を公開しました」という内容で、差出人は安井さん。丁寧!
そのとき公開されたのがこちらの記事です。
有料記事なので詳しい内容は書けないのですが、DLCチェーンを分解し、千代田第一工業さんの設備で硬度試験を実施。その結果が掲載されています。
私が疑問を呈した「KMCのDLCは世間一般のDLCとは別物では?」という内容についても検証をして下さいました。こんな一読者の意見を専門家の検証まで持っていってくれるなんて、本当に頭が下がります。
番外編 vol.2 公開
それから更に3ヶ月。昨日のことですが、再度La routeからメールが届きました。「追加取材の第二弾の記事を公開しました」とのこと。えっ、あれより更に詳しく追求するんですか?!
公開されたのがこちらの記事です。
今回は、産業技術研究センターの「エネルギー分散型分光器付走査電子顕微鏡」なる装置で解析をしてみたとのこと。
この電子顕微鏡は、簡単に言えば対象物の原子レベルの組成を分析できる装置。これでDLCチェーンが本当にDLC加工されているのかを明らかにしてくれたのです。
「番外編 vol.1」では「専門家が簡易的な試験でDLC加工を調査する」記事でしたが、「番外編 vol.2」は「専門家が超専門的な機器を使ってDLC加工を調査する」内容になっています。これ以上無い詳しい調査だと言えます。まさか自分のふとした疑問を、ここまで詳しく掘り下げてくれるとは思いもしませんでした。足を向けて寝られません。
まとめ
La routeの連載記事「表面処理の世界」の紹介でした。
今回の記事ほど、La routeの会員で良かったと思ったことはありません。私が独力で調査しても絶対に辿り着けない調査結果を、La route編集部の方々と千代田第一工業の皆様は出して下さいました。こんなに突っ込んだことをやってくれるメディアは、いくら専門メディアとはいえそうそう無いでしょう。
私も自分のサイトでレビューを書く際に、実験で確認できることは確認し、結果を掲載するようにしています。ライトの照度・ランタイムの実測、携帯ポンプの回数と空気圧の関係などがそうです。
ただ、これは素人が入門機器で簡単な測定を行っているに過ぎません。言ってしまえば、夏休みの自由研究レベル。それ以上の精度で調査を行おうと思うと、個人の力ではなかなか難しいんですよね。
そういった意味で、専門家との仲立ちを担ってくれる専門メディアの存在は有り難いのです。個人じゃアポイントメントすら取れないでしょうし。読者の「知りたい」というリクエストに直接応えてくれる「La route」は素晴らしい専門メディアであると私は今回の件で感じました。
この記事をここまで読んでこられた方は、恐らく「La route」の記事に魅力を感じる方だと思います。是非会員登録してみてください。月額500円の価値は十分すぎるほどにあると思います。
著者情報
年齢: 37歳(レビュー執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: QUARK ロードバイク(スチール), GIANT ESCAPE RX(アルミ)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)
# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせて頂きました。