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ディスクロードの歴史(~2020年)
ディスクロードの登場から現在までの歴史を纏めました。
導入
2021年現在、ほぼ全てのロードバイクメーカーのトップモデルはディスクロードに置き換わりました。
私がロードバイクを始めた2009年時点では、ディスクロードは影も形もありませんでした(実は海外で静かに産声は上がっていましたが)。
たった10年ほどの間に登場し、あっという間にメジャーとなったディスクロード。その歴史を振り返ってみようと思います。
シクロクロスやグラベルロード等は対象外としております。
2009年: 最初のディスクロード
現代のディスクロードに連なる最初のモデルは2009年に登場しました。
FACTOR「FACTOR001」
記念すべき初めてのディスクロードを作成したメーカーは「FACTOR」。モデル名は「FACTOR001」です。
2021年、フルームが所属する「Israel Start-up Nation」が採用するメーカーが、実は12年前にディスクロード(実はメーカー処女作)を作っていたのです。
メーカーの姿勢を示す上で作られたワンオフ部品を大量投入した逸品で、一応22000ポンド(およそ350万円)の値段が付けられていたようですが、実際に売れたのかは不明数百台ほどが生産されたそうです。
当時のUCI規制を考慮せずに究極のロードバイクを作ったらこうなったとのこと。
写真を見る限り、既にスルーアクスルを導入していた模様です。先進的過ぎる。
実は2007年にはディスクロードがあった?
余談ですが、私のスチールロードを作ってくれた細山正一さん(細山製作所フレームビルダー)は、2007年に雑誌「自転車人」のインタビューでこんなことを語っています。
トライ中なのはディスクブレーキのロードバイク。
天候に左右されにくい、砂利などを噛みにくく制動力が安定していることで、コーナーリング速度向上にも一役買うのではと。
自転車も汚れないしね。
この年、細山さんは「東京~糸魚川ファストラン」に自らが乗るためのディスクロードを製作して投入しています。
ハンドメイドの世界を探せばこの手の話はいくらでも出てきそうですが、私が知る最古のディスクロードに関するエピソードはこれです。
2012年: ディスクロード黎明期
2012年から、大メーカーがテスト的にディスクロードのリリースを始めました。
ディスクブレーキ用のコンポーネントが初登場したのもこの年です。
COLNAGO「C59 Disc」
2012年、マスプロメーカーで最初にディスクロードを発表したのはCOLNAGO。由緒あるC59のディスクモデルでした。
台北ショーに向けて作られたコンセプトモデル。C59のリム版は既にありましたが、それとは別に一から設計されたディスクロードです。
スルーアクスルは採用しておらず、ホイールの固定はクイックリリース。ただ、既に電動変速と油圧ブレーキを採用した意欲作でした。
2013年、チームバイクとしてCOLNAGOに乗っていた新城幸也選手が、C59のリム版/ディスク版の乗り比べインプレをしていたことが記憶に残っています。
SRAM「RED22 Disc」
最初のロードバイク用ディスクブレーキコンポは、SRAMでした。
まだeTap発売前で電動化はされていませんが、油圧ブレーキを採用していました。
2013年: 大手メーカーがテスト参入
2013年は少しずつ大手メーカーがディスクロードに参入。
クイックリリース/スルーアクスルは混在し、エンド幅も130/135/142mmが混在。規格はてんでバラバラな時代です。
STORCK「AERNARIO」
2013年、STORCKの「アエロナリオ」がリリースされました。
鬼才と呼ばれるマーカス・ストークがこだわりにこだわって作った1台。フレーム価格は53万5000円と、FACTOR001よりは現実的な値段になりました。
こちらのモデルもスルーアクスルを採用していますが、DTに特注して作らせたフロント9mm、リヤ10mmのもの。マッチするハブもまた特注なので、ホイールも選べないという制限がありました。
ORBEA「AVANT」
同じく2013年に発表された時代の鬼子的なモデルがORBEA「AVANT」。
こちら、なんと「ディスク/リム兼用」フレーム。まさに移行期特有のコンパチ製品です。
スルーアクスルは採用しておらず、ホイールはクイックリリース止め。エンド幅はドロップアウトを交換することで130/135mmから選べるなど、互換性に重きを置いたモデルだったようです。
乗ったことはありませんが、まぁ走らなそうではありますね……。
SPECIALIZED「ROUBAIX Disc」
SPECIALIZEDのエンデュランス担当、Roubaixが最初のディスク化を遂げます。
基本的に大メーカーのディスクロード参入はエンデュランスモデルから。これはやはり、一番ユーザー層的にディスクが向きそうな所から導入し始めた……という所でしょう。
SHIMANO「R785」
SRAMから遅れること一年、シマノがディスクロード用コンポを発表。ロード用ながらグレードは与えられず、Dura-AceとUltegraの中間くらい位置付けで登場しています。
最初は電動変速専用でしたが、その後で機械式変速の「R685」も発表されました。
一時期このブレーキを使っていましたが、今のロード用ディスクブレーキと比べると、カックンブレーキだったように記憶しています。まだまだフィーリングを煮詰める段階には無かったのでしょう。
2014年: 大手メーカーが本格参入
しかし、その翌年の2014年から急に大メーカーがディスクロードに参入。
全ては紹介できないので、代表的なモデルを紹介します。
TREK「Domane Disc」
当時最強のTTスペシャリスト、カンチェラーラがプロデュースしたことでも有名なエンデュランスモデル「DOMANE」。
これがキッカケで、多くのメーカーがディスクロードを発売したと記憶しています。
TREKはディスクロードに舵を切るのが早く、かなり早い段階でリムブレーキをラインナップから消しました。
SPECIALIZED「Tarmac Disc」
エンデュランスバイクではなく、レースバイクがリム/ディスク同時に発売された最初のモデルがTarmacです。先んじてRoubaixがディスク化を果たしていましたが、Tarmacのディスク化の方が驚きを持って迎えられました。
この時点でスペシャライズドのエンジニア(Allezの特殊溶接で有名なダルージオ氏)はこんなことを言っています。
ホイール交換に手間取り、重量増加にもつながるスルーアクスル方式ににメリットは無い。
なぜ他のメーカーが安易にそれを採用するのか、我々には理解できない。
世のディスクロードがこの後、スルーアクスル一色になったのは皆さんも御存知のとおりです。
SCOTT「SOLACE Disc」
SCOTTのエンデュランスモデル「SOLACE」もディスク化。特に有名なモデルではないのですが、個人的思い入れで紹介させて頂きます。
何を隠そう、私が初めて買ったディスクロードがこちら。そして私に大いなるトラウマを残したのもこちら。
恐ろしく走らないバイクでした。あらゆるパーツを交換しても改善しなかったため、一年で売却。スルーアクスルは採用していましたが、フロント15mmという後に消えた規格を採用(現在は12mmに固定されました)。
出始めの製品を買う怖さを私に教えてくれた1台です。
2015年: UCIレースでテスト導入
ついにプロレースの世界にもディスクロードが進出。ただし、最初は「トライアル」という位置付けでした。
「制動距離が違うからプロトンに混在するのは危険」という議論が盛んに交わされた時期です。結局、その後は混在しているのですが。
ディスクロード、レースでトライアル開始
The UCI & WFSGI study the introduction of disc brakes to professional road cycling. Read more http://t.co/mZKjzfdtnF pic.twitter.com/IdVQMhgFk5
— UCI (@UCI_cycling) April 14, 2015
2015年の8月から、UCIレースでのディスクブレーキのトライアルが開始されました。
この時点はまだディスクブレーキを選択できるチームやレースにも制限があったようです。
SHIMANO「BR-RS505」
SHIMANOがディスクキャリパーの新規格「フラットマウント」を発表。それまで主流だったポストマウントよりもコンパクトで軽量なブレーキシステムとして提唱されたものです。
何と最初に導入されたのは105/Tiagraグレードでした。その後、最高グレードであるDura-Aceにまでフラットマウントは導入。現在ではロード用ディスクの主流規格となっています。
2016年: UCIレース正式導入を延期
春先に起きた事故により、「ディスクブレーキは危険ではないか」議論が勃発。一時的にUCIレースでのトライアルが中止となりました。
ベントソがディスクローターで負傷?
クラシックレース「パリ・ルーベ」で、フランシスコ・ベントソが落車時に負傷。その原因が「ディスクローターにあるのではないか」と疑われ、2016年4月14日からディスクブレーキのトライアル中止が決定。UCIレースではディスクブレーキが使用不可となりました。また、2017年からのディスクブレーキの正式導入も延期が決定。
結局、本当にディスクローターが原因だったのかは未だに分からないままですが、この事故がきっかけとなり、「ディスクローターは面取り加工を施すこと」が条件として追加されるようになりました。
SHIMANO「Dura-Ace R9100」
UCIレースでのディスクブレーキ禁止のさなか、リリースされたのが「Dura-Ace R9100」シリーズです。
これまでグレード外しか無かったディスクブレーキが、ついに最高グレードのDura-Aceに導入されました。ブレーキの特性もロード用に最適化。これによって更にディスクロードの浸透が進むことになります。
2017年: UCIレースでディスク初勝利
2016年に起きた事故の影響でしばらくUCIレースでは使用禁止となっていたディスクブレーキ。
2017年1月よりようやくディスクブレーキのトライアルが再開されることになりました。再開後すぐに、プロレース初勝利を挙げることになります。
ディスクブレーキのトライアルを再開
2016年4月から、ベントソの事故が原因となりUCIレースでは全面禁止となってしまったディスクブレーキ。
2016年10月にはチーム・選手・自転車産業の三者協議によってトライアルが再開されることが決定。
2017年1月1日より、ディスクブレーキのトライアルが再開されました。
プロレースでディスクが初勝利
2017年1月、トム・ボーネンが、ブエルタ・ア・サンフアンでディスクロードによるUCIレース初勝利を挙げました。
バイクは、SPECIALIZEDのVENGE Vias Disc。SPECIALIZEDのエンジニアが「スルーアクスルにメリットはない」と言ってからわずか3年。SPECIALIZEDのディスクロードは、スルーアクスルでホイールが固定されるようになっていました。
グランツールでディスクがステージ初勝利
2017年7月、マルセル・キッテルが、ツール・ド・フランスの第2ステージで勝利。グランツールにおけるステージ初勝利となりました。
バイクはまたしてもSPECIALIZED VENGE Vias Disc。スペシャのディスクロードの強さを印象付ける出来事でした。
2018年: UCIレースでディスク正式導入
この年で一番大きなトピックは、ディスクブレーキのトライアル期間が終わり、正式に解禁となったことでしょう。
各メーカーのラインナップにもディスクロードの方が数が多くなってきた頃です。
UCIレースで正式導入
6月23日に、UCIが今後4年の活動方針をまとめた「アジェンダ2022」を発表。
自転車ロードレースにおける、2015年から3年間に渡って行われたディスクブレーキのトライアル期間を終了。7月1日から本格導入が決まりました。
完全内装化ブーム
ディスクブレーキ化によって増えたのが「ケーブル完全内装」です。
ブレーキが油圧に、変速が電動になったことによって、ケーブルの屈曲による性能低下がほぼ無くなりました。これにより、各社が少しでも空力性能を上げようとケーブルのフレーム完全内装化を推し進めました。
最初はメーカーごとに独自方式を取っていましたが、ハンドル・ステムメーカーを中心に内装化の規格が現れます。代表的なものは、FSAの「ACR」、DEDAの「DCR」です。
2019年: ディスクが当たり前に
この年はコレと言って大きな出来事はありませんでした。ディスクロードが「当たり前」になってきたということなのでしょう。
TREK、ハイエンドモデルでのリムブレーキ販売終了
トレックはグローバルの生産体制において、ハイエンドのリムブレーキモデルの生産を終了いたしました。今後の追加生産も予定されていません。
現在、Project Oneのリムブレーキモデルの完成車、フレームセット共に、税抜価格から56,000円を割引するクローズアウトセールを行っております。 pic.twitter.com/fAsDlPlejw
— トレックジャパン (@TREKJapan) June 10, 2019
TREKがハイエンドモデルでのリムブレーキ廃止を発表。今後はディスク一本となることが発表されました。
ディスク導入も早かったですが、一本化するのも早かったですね。
2020年: 大きく動きのない一年
2020年もディスクロードという括りでは大きな出来事のない一年でした。
ただ、各社のラインナップからはほぼリムブレーキが消え失せ、ディスクブレーキ一色となりました。
フックレスリムの登場
ディスクブレーキ化による影響で走行性能に最も寄与するのは、タイヤやチューブに関する制限が少なくなったことでしょう。
ブレーキアーチが無くなったことにより、より太いタイヤを履けるようになりました。さらに、タイヤやチューブが摩擦熱の影響を受けないため、極薄のチューブも使用可能となりました。
そんな中で、GIANT・ZIPP・ENVEが相次いで発表したのが「フックレス」リムのホイールです。
これまたリムが熱の影響を受けない&太いタイヤが履けることになったため、低圧運用前提のフックレスリムがついにロードでも実用化されたということです。
SPECIALIZED「AETHOS」
SPECIALIZEDが、完成車で5.9kgという超軽量ディスクロード「AETHOS」をリリース。「レース用ではない」と銘打ったことでも話題になりました。
完成車で中々7kgを割れないものが多いディスクロードにおいて、この数字は衝撃的です。
未だ、ディスクのグランツール総合優勝なし
2017年のグランツールにおけるディスクブレーキ解禁から4年。実は一度もディスクブレーキはグランツールの総合優勝を経験していません。
ステージ勝利はそこそこ挙げているのですが、ずっと総合優勝はリムブレーキが独占しています。プロトンにおける比率は確実にディスクのほうが多いのですが。
まとめ
ディスクロード、12年間の歴史を振り返ってみました。
きっと既に誰かが纏めてるだろうと思ったのですが、意外にも存在していなかったので詳しく調べました。何か間違っている点や、抜け落ちている出来事などあればご指摘下さい。
さて、既に2021年のプロレースも始まっていますが、既にリムブレーキをメインで使うチームはINEOSただ一つとなりました。他はすべてディスクブレーキに置き換わっています。
だがしかし。今年はディスクを使うと予告されていたはずのUAEエミレーツ所属のポガチャルは今年もリムブレーキでレースに出ているようです。
ポガチャルは言うまでもなく昨年のツール・ド・フランス優勝者。今年も優勝候補に挙げられています。さすがに今年もディスクブレーキが総合優勝を取れないということはないと思うのですが……。
もし、今年もディスクブレーキが一度も総合優勝を取れないようであれば、来年あたりしれっとSPECIALIZEDがリムブレーキを復活させてもおかしくありません。歴史を見ても分かる通り、すぐに手のひらを返すのがSPECIALIZEDなので……(チューブレスタイヤを推していたのに急にクリンチャーホイールを出したりしたこともある)。
ロードレースにおけるディスクブレーキとリムブレーキの動向は今年もなかなか面白そうです。
著者情報
年齢: 36歳 (執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: QUARK ロードバイク(スチール), GIANT ESCAPE RX(アルミ)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)
# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせて頂きました。
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