大型サドルバッグは「大は小を兼ねない」という話

この記事は約 14分で読めます。

「大は小を兼ねる」ということわざがあります。「大きいものは小さいものより役に立つので、大きいものを選んだほうが良い」という故事成語です。

しかし、このことわざは、大型サドルバッグには必ずしも当てはまるものではありません。「どうせならば大きいものを」と考えてしまいがちですが、一旦立ち止まって下さい。

本記事では、その理由を説明していきます。これから大型サドルバッグを買おうと思っている方の指針になれば幸いです。

目次

大型サドルバッグとは

まず最初に、本記事における「大型サドルバッグ」の定義をしておきます。イメージするものが食い違っていると、この後の説明がうまく伝わらないと思いますので。

大型サドルバッグの例

一言で言えば、「バイクパッキングで使われる大容量のサドルバッグ」です。

Alternative Bicycles サイトより引用

写真で例を示します。こちらは、大型サドルバッグの始祖と言われるアメリカ「Revelate Designs」のpikaという名前のバッグです。

今や世界中で数十メーカーが大型サドルバッグを販売していますが、たいていのメーカーはRevelateのバッグに影響を受けた構造をしています

大型サドルバッグの定義

写真だけではなく、言葉でも定義しておきたいと思います。

あくまでも、「この記事の中における」定義であることにご注意下さい。この後の話の前提として定義するだけです。決して一般的な定義ではありません。

① 布製であること。
② 自転車に取り付ける際に、マウントやアタッチメントを必要としないこと。
③ 左右のサドルレールにストラップを引っ掛け、シートポストにベルクロを巻いて自転車に取り付けること。
④ ロールアップ式で全長の調整が可能であること。
⑤ 容量が大体5リットル以上であること。
この中で分かりにくいのが「ロールアップ」という単語です。
「ロールアップ」はつまり、巻き上げることが出来る構造のことです。
上の写真で示したように、巻き上げることで長さを変えることが出来るわけですね。これは、荷物が少ない場合に、中で荷物が動き回らないようにする意味合いがあります。それに、中身が少ししか入ってないのに一番長い状態にしておいたら、バッグの後ろの部分が垂れ下がってみっともないことになりますので。
こんな状態で走る人はいませんよね? だからこそロールアップ機能が必要なのです。
適切にロールアップするとこんな感じになります。これは中身の荷物が一番少ない状態です。
一番中身が多い状態だと、ここまで伸ばすことが出来ます。
このロールアップが今回の話ではとても重要ですので、覚えておいて下さい。

大型サドルバッグではないもの

一見「大型サドルバッグ」ながら、この記事における定義では「大型サドルバッグではない」とする具体例も挙げておきます。

オルトリーブ サドルバッグシリーズ

かつてブルベの定番品だったオルトリーブのサドルバッグ。こちらは今回の定義では大型サドルバッグに含まれません。

 

理由は取り付け方。サドルレールにアタッチメントを取り付けるタイプであり、ストラップで吊るすタイプではないからです。

容量的にも公称2.7リットルなので、今回の定義には当てはまりません(詰め込めば5リットル入りますが)。

革製の横型バッグ

GLENBROOK(グレンブルック)BROOKS(ブルックス)サドルバッグ

イギリス生まれの革製のサドルバッグというジャンルもあります。サドルに大して横方向に幅広であることが特徴です。

キャラダイスやブルックスが代表的メーカーで、ヨーロッパのブルベでは結構な頻度で見かけるバッグでもあります。

今回の記事では「布製ではなく革製であること」から、大型サドルバッグの定義から外しています。革を定義から外す理由は後述しますが、簡単に言うと革製のバッグは中身が少なくても形状を維持できるからです。

「大は小を兼ねない」理由

では本題の「大型サドルバッグにおいては、大は小を兼ねない」理由です。

結論から書くと、大型サドルバッグには「最小容量」という概念があるからです。

中に入れる荷物が最小容量に満たない場合、大型サドルバッグは尻尾のようにブラブラと揺れることになります。

大型サドルバッグが揺れる理由

既に大型サドルバッグを持っている方は、揺れに悩んだことがある方も多いのではないでしょうか?

まだ大型サドルバッグを使い始めて間もない頃のことです。立ち漕ぎで自転車を左右に振ると、サドルバッグが逆方向に振れたりしてバランスを崩しそうになった経験があります。他にも、峠の下りカーブで、バッグがカーブの外向きに慣性力を受けてヒヤッとしたこともありました。

大型サドルバッグは、左右のサドルレールにストラップを引っ掛けて吊るす構造を取っています。あたかもハンモックのようになっているわけで、固定方法が不十分だと左右に揺れてしまうわけですね。

大型サドルバッグを揺らさない方法

では、大型サドルバッグを揺らさないようにするにはどうしたら良いか?

バッグを、サドル裏とシートポストに密着させればよいのです。

バッグを、サドル裏とシートポストに面で密着させる事ができれば、面同士の摩擦力が働き、バッグが左右に揺れにくくなります。

 

一般的に、大型サドルバッグには2本のストラップが付いており、それを引くことでサドル裏&シートポストに密着させることが出来ます。

 

ここで一つ問題があります。これらのストラップを引いてサドルバッグをサドル裏&シートポストに密着させるためには、バッグの中身がパンパンに詰まっていないといけないんです。そのためにロールアップ機能があり、荷物のサイズに合わせて巻き上げる回数を変えます。ロールアップされた状態でストラップを引くと中身の荷物が押され、その荷物がサドル裏&シートポストに押し付けられることで密着するわけです。

中身が詰まっていないと、ストラップを引いてもバッグが潰れるだけ。適切にロールアップされ、中身が詰まっていて初めて、バッグがサドル裏&シートポストに密着します。

大型サドルバッグは布で作られており、容易に変形してしまいます。最低限の形状を保つプラ板が入っている事は多いのですが、中身が詰まっていない状態ではサドルバッグとしての形状を保てないんですね。そこで、中身の荷物を骨格として用いるわけです。

荷物が単なる「運ばれるだけのもの」ではなく、「構造を保つための部品」となっているのが大型サドルバッグの厄介なところなのです。

ここで「最小容量」の話になります。

最小容量とは

最小容量とは、「サドルバッグに入れなければならない最小の容量」のことです。さらに言えば、「最小容量より少ない荷物を入れた場合、正しく使えませんよ」ということになります。

 

Ovejanegraサイトより引用

こちらの画像は、私が愛用している「Ovejanegra」のサドルバッグの製品ページをキャプチャしたものです。私はこのバッグのMediumサイズを使用しています。

画像内を赤線で囲った部分に「CAPACITY Medium: 4-10 liters」の記載がありますね。これはつまり、「最小容量は4リットル」「最大容量は10リットル」という意味です。

 

再掲になりますが、こちらが「最小容量」の4リットルまで入れた状態の写真です。限界までロールアップしています。

 

で、こちらは10リットルの「最大容量」まで詰め込んだ時の写真です。ロールアップ回数を最小限にしています。

最小容量は、ちゃんとしたメーカーの大型サドルバッグなら、製品ページに記載があります。

記載がない場合、最小容量は大体「最大容量の4~6割」になることが多いです。設計にもよるのですが、ざっくり半分程度と考えておけば良いでしょう。最大容量が10リットルなら約5リットル、最大容量が16リットルなら約8リットルということです。

荷物が最小容量に満たない場合

では、このバッグを使って近所を走る(20km程度)場合を考えてみましょう。

ご近所なので、精々持つのはパンク修理用具程度。となると、荷物の容量は1リットル程度でしょう。最小容量に3リットルも届いていません。

そうなると、限界までロールアップしてもバッグの中はスカスカ。ストラップを締めてもバッグが潰れるだけで、サドル裏&シートポストには密着しません

結果として、段差などでは中身の荷物が暴れまわり、立ちこぎをするとブラブラと揺れてしまう状態になってしまいます。

私はそれが嫌なので、荷物が最小容量に満たない場合には、軽くて容積があるタオルやウインドブレーカーを詰めて容積を稼ぎます。別に必要のない荷物を入れてわざわざ重くしないと使えないわけですね。

大は小を兼ねない

先程の例では最小容量が4リットルと小さめでしたが、最小容量が8リットルのバッグだったらどうでしょうか?

荷物が1リットルしかないならば、7リットルも余計にモノを詰め込まなければなりません。しかも大して必要のないものを。それはさすがにおかしい。

これが「大は小を兼ねない」と書いた理由になります。

その人のライドスタイル(荷物を多めに持つ派/最小限派)や、走行シチュエーション(キャンプ/ロングライド/ポタリング)にもよりますが、荷物がバッグの最小容量を下回る場合には、正しく使えないんです。

よって、こうした大型サドルバッグを「とりあえず大きいものを」と考えて買ってしまうと、後々使えないシチュエーションが出てきてしまうわけですね。

ポタリングからロングライドまで、一つの大型サドルバッグで……と出来れば理想なのですが、そうはいかないということです。

解決策

では、どうすれば良いのか?

私の結論は、「自分の用途にあった適切なサイズのバッグを買う」です。

用途に合わせたバッグ選び

私の場合は、「週末ロングライド(100km程度・雨では走らない)」か、「ブルベ(200~1200km・雨でも走る)」のどちらかの用途でしかサドルバッグを使いません。

大型サドルバッグ沼にハマった私は10個以上の大型サドルバッグを持っていますが、普段使うのは2~3製品に限られます。

 

前者の用途には、容量約2リットルのオルトリーブ サドルバッグ(Mサイズ)を使うことが多いです。せいぜい輪行用具しか入れないので、この程度の容量があれば十分なんですよね。大型サドルバッグだと最小容量には全然届かないのです。

 

後者の用途では、前述のOvejanegraの大型サドルバッグを使っています。こちらは最小容量が4リットルで、最大容量が10リットル。ブルベでは雨でも走りますので、レインジャケット・レインパンツ・レイングローブと言った装備が入り、最小容量の4リットルは軽く超えて来ます。

このように、自分の用途と荷物の量に合わせて、サドルバッグを選ぶことが快適に走るための秘訣だと思っています。

サイズ別展開をしているメーカー

メーカー側もその辺りは意識しているようで、良い例がTOPEAKのバックローダーシリーズです。6リットル/10リットル/15リットルの3サイズ展開となっています。

寸法を見ると、単純に長さが違うだけではなくサイズごとに周長(太さ)も変えて容量を増やしていることが分かります。

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こちらは最小の6リットルのモデル。週末のロングライド(100km前後)ならこのサイズがあればお土産を買っても持って帰れるサイズ感です。

次に、真ん中の10リットルのモデル。ブルベで雨具を詰め込むならば、これくらいのサイズは欲しい所。しかし、ポタリングにはちょっと大きすぎますね。

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最後に、一番大きな15リットルのモデル。こちらは大荷物のキャンプツーリング用。テントやシュラフなどの大物を持ち運ぶ用途になると思います。ブルベでも使えないことはないと思いますが、多くの人は容量を持て余すことになるでしょう。

ここまで読んでいただければ、「とりあえずLサイズを買っとこう」が良くないということは分かって頂けると思います。

最近は同一モデルで複数サイズの大型サドルバッグを出しているメーカー(APIDURA等)も増えていますので、自分の用途に合っているかも考えて選ぶと良いでしょう。

余談

ここで、「オルトリーブ サドルバッグ」と「革製の横型バッグ」を大型サドルバッグの定義から外した理由を書いておきます。

一言で言えば、これらのバッグは「最小容量まで荷物を詰め込まなくても大して問題がない」からです。荷物をパンパンに詰め込む必要もありません。別にサドル裏とシートポストに密着させなくても、これらのバッグは安定する構造になっているんです。

ここでいう「安定する」は、「左右にブラブラ揺れない」ことを指しています。
荷物が少なすぎる場合には、バッグは揺れなくてもバッグの中身で荷物が暴れるので注意。

前述の言葉を用いれば、荷物が「運ばれるだけのもの」であり、構造の一部とならないバッグということになります。

 

オルトリーブのサドルバッグは、サドルレールに付けたアタッチメントにサドルバッグを差し込むタイプとなっています。

この場合、左右のサドルレールにストラップで釣っているわけではないので、基本的には左右に揺れることはありません

中身の荷物をパンパンに詰めたところで、バッグがサドルに密着することもありません。つまり、荷物の量が多くても少なくても、安定性への影響は無いということです。

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ただし、付け方が不適切だと後ろが垂れ下がるので、それはこの記事のような方法で防止する必要があります。


GLENBROOK(グレンブルック)BROOKS(ブルックス)サドルバッグ

革製の横型サドルバッグの場合は、そもそも革という素材に硬さがあるので、中に荷物を入れなくても形状を保つことが出来ます

もちろん中身の荷物が少なすぎると段差で荷物が暴れたりはするでしょうが、安定性には寄与しません。


このように、別の手段で安定性を担保しているサドルバッグは、大型サドルバッグのように「中身をパンパンにする」「サドル裏&シートポストに密着させる」という手間が必要ありません。その分、シートポストやサドルレールの素材・形状を選んだり、重かったりするわけですが。

安定性や使いやすさを求めるのならば、大型サドルバッグではなく、こうした「非大型サドルバッグ」を選ぶのも一つの手段だと思います。

なお、大型サドルバッグでも素材が分厚い場合は革製のバッグと同様、中身の荷物が少なくても形状を保てるケースもあります。大抵、そういった大型サドルバッグはかなり重いのですが、実は使いやすくはありますね。

裏を返すと、軽量な大型サドルバッグは素材も薄く、単体では形状を保てないことが多いことも意識していただければと思います。

更に、サイズが大きいと剛性は低下するものなので、同じ厚さの材料を使ってもコシがなくなる(=形状を保ちにくい)ので、軽量で容量15リットル……というのは相当上級者でないと使いこなせないでしょう。ペラペラですからね。

「おおっ、めっちゃ入るのに、かなり軽い!買っちゃえ!」と思って買うと、後から苦労します(実体験)。

まとめ

「大型サドルバッグを購入する場合には、最大容量だけではなく“最小容量”もチェックし、用途に合ったものを選びましょう」という内容でした。

長々と書いてきて結論はコレだけなのですが、説明するのには意外と文字数が必要でしたね。

色々入って便利そうに見える大型サドルバッグですが、実は暗黙のノウハウが沢山あり、それを知らないと快適に使うことは出来ないのです。

困ったことに、どこのメーカーのサイトを見ても、そういった内容は詳しく書かれていません。最小容量と最大容量は書かれている事が多いですが、それだけの情報しか書いていないのは不親切ではないかな、と私は感じています。

「どうせならば大きいやつを買おう」と言うのは自然な心理ですし、「最小容量」という概念って大型サドルバッグの他には中々出てこない概念だと思うんです。登山用のザックとかは恐らく似たような感じだと思うのですが……

zakzak:夕刊フジ公式サイト

と思って探してみたら、まさに「大は小を兼ねない」というキーワードで語っている記事を見つけました。やっぱりそうなんですね。


とはいえ、用途に合わない大容量の大型サドルバッグを買った所で、起きる不都合は「ブラブラ揺れる」ことくらいです。「そのくらいは気にならない」という方は特にこの記事で書いたことは全くの蛇足であると言えます。

実際、ロングライドマニアが集結する1200kmブルベ「パリ・ブレスト・パリ」でも、明らかに大きすぎるサドルバッグを尻尾のように揺らしながら爆速でカッ飛んでいく欧米人ランドヌールを見ました。私なんかはサドルバッグが揺れるとパワーがロスしているようで嫌なんですが、圧倒的なパワーを持つ人には関係ないのかもしれません。


この記事では「最小容量まで荷物を詰めないと、大型サドルバッグが揺れてしまう」という書き方をしましたが、実は最小容量まで荷物を詰めるのはサドルバッグを揺らさないための前提に過ぎません。

実際には、最小容量まで荷物を詰めた上で、適切な手順・方法で取り付けを行わないと、大型サドルバッグは揺れます。

ということで、「大型サドルバッグの正しい取り付け方」についても近日記事化予定です。


大型サドルバッグの取り付け方ノウハウについては、2018年のサイクルスポーツ誌の付録でも解説を行いました。実はこの付録内で既に「大型サドルバッグは”大は小を兼ねない”」というフレーズを使っています。

フレームと大型サドルバッグの相性の見極め方についても解説していますので、大型サドルバッグの取り付け方に悩んでいる方はご覧頂けると役に立つと思います。

リンク先はKindle版ですが、付録の内容もちゃんと収録されております。

著者情報

年齢: 36歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: BIANCHI OLTRE XR4(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)

# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせて頂きました。

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この記事を書いた人

ロングライド系自転車乗り。昔はキャノンボール等のファストラン中心、最近は主にブルベを走っています。PBPには2015・2019・2023年の3回参加。R5000表彰・R10000表彰を受賞。

趣味は自転車屋巡り・東京大阪TTの歴史研究・携帯ポンプ収集。

【長距離ファストラン履歴】
・大阪→東京: 23時間02分 (548km)
・東京→大阪: 23時間18分 (551km)
・TOT: 67時間38分 (1075km)
・青森→東京: 36時間05分 (724km)

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