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TNI「LIGHT 35 RACE TUBE」購入
TNIのTPUチューブ「LIGHT 35」を2本購入しました。
税抜1500円という安価でリリースされたTPUチューブ。その実力やいかに。
購入まで
Twitterでリリース情報を見て、ショップ経由で注文しました。

私とTPUチューブ
近年、私は「TPUチューブ、結構良いかも」と思っていて、各メーカーのチューブをテストしています。
チューブレスには懐疑的なこともあり、クリンチャータイヤの性能を伸ばせる可能性があるTPUチューブには非常に期待しています。
これまでに使ったチューブは以下のとおりです。
TNIのTPUチューブは5ブランド目のTPUチューブということになります。
購入モデルの選択
TNIのTPUチューブは厚さによって2モデルから選ぶことができます。
通常の厚みの「LIGHT 35」。公称重量35g。
薄くて軽量な「LIGHT 24」。公称重量24g。
TPUチューブを販売しているブランドの場合、大抵はTNIと同様に「通常」「軽量」の2モデル展開になっていることが多いです(mageneは軽量モデルの展開なし)。
私はブルベでの使用を念頭に入れていることもあり、TPUの軽量モデルは避けています。これまでに買ったのは通常モデルのみです。
今回も通常モデルにあたる「LIGHT 35」を購入しました。
購入後
予約注文をしたのが6月中頃。
6月21日にはショップから入荷連絡があり、製品を受け取りました。
この時期は、8月半ばに予定されていたPBP準備の真っ最中。なかなか新パーツをテストする時間はありませんでした。
TPUチューブはブチルチューブに比べて小さくて軽量なので、ツール缶に入れる予備チューブに向く特性があります。「LIGHT 35を予備チューブにするのはどうか」と少し考えました。
ただ、使ったことのないチューブを予備とはいえ持ち歩くのは私のポリシーに合いません。何か致命的な欠点があるかもしれませんし。こうして、LIGHT 35は一度も使われることはなく、2ヶ月半が経過しました。
PBPも終わって9月の中頃。「そういえばテストしていなかったな」と思い出し、LIGHT 35を箱から出してテストを開始しました。
TNI「LIGHT 35 RACE TUBE」
TNI「LIGHT 35 RACE TUBE」のファーストインプレッションです。
700C/18-32c用で、バルブ長65mmのモデルを2本購入しました。
ファーストインプレッションとは言いつつ、実は一度も実走していません。取付テストの段階で気になる点が多く、これに乗って外を走る気にならなかったからです。
重量
公称重量は「35±2g」と珍しく誤差表示があります。
実測重量は、2本とも38gでした。少しオーバーしていますが、これくらいは良くある範囲でしょう。
構造
オレンジのチューブ部分に、樹脂バルブが接着されています。チューブ部分の材質はもちろんTPU。ドイツのBASF社の素材を使っているとか。
バルブの音鳴り防止用と思われるシリコンリングが付属します。
バルブコアも樹脂バルブ内に接着されており、外れません。
バルブの根本は強化されています。円形の強化はtubolitoに似ています。
不具合
ホイールに取り付けて使ってみようと思ったのですが、4点の不具合がありました。
不具合①: バルブが太くてバルブホールを通らない
アルテグラのカーボンホイール(WH-R8170)に取り付けようとした所、バルブが太すぎてリムのバルブホールを通りませんでした。2本試して2本とも通らず。
MageneのTPUチューブの樹脂バルブも太めでしたが、ギリギリ通ることは通りました。TNIのTPUチューブは全く通る気配がありません。
ちょ、TNi、ティニのTPUチューブのバルブがシマノホイールのバルブ穴通らないよ。
ホイールはWH-R8170前後とWH-RS370、チューブは2本で試したから個体差じゃない。MAVICは通った。
ちょっとヤスリで削った程度じゃ意味はなく力入れて押し込んだら通った。
カーボンではやりたくないな。 pic.twitter.com/ZlhqnLzava— ken_taki_ニコ厨 (@kentaki_Bfe3Hu) July 31, 2023
検索してみると、私の他にも同じように通らなくて苦労した人がチラホラ見られました。
不具合②: バルブが太くてポンプの口金に入らない
アルテグラホイールに取り付けるのは諦めて、アルミリムのユーラスに取り付けてみることにしました。こちらのリムのバルブホールはバルブを通すことが出来ました。

しかし、今度は愛用のヒラメのポンプヘッドの口金にバルブが入りません。やっぱりこのバルブ、太すぎないか……?
不具合③: ポンピング時の抵抗が大きい
仕方ないので、パナレーサーのフロアポンプを引っ張り出してきました。

こちらの口金であれば、何とか太いバルブも咥え込むことが出来ました。リムを選んでポンプを選ぶチューブとか、斬新すぎないか……?
しかし、今度はポンピング時に妙な抵抗感があります。空気がチューブ内に上手く入っていかないと言うか、バルブコアに何か詰まっている感じと言うか。
2本とも通常のブチルチューブよりは抵抗感があるんですが、うち1本が明らかにポンピング時の抵抗が大きいことが気になりました。
そして、空気を抜こうとしたときの速度も遅い。明らかにバルブに問題があります。
TNI製TPUチューブをテスト。
2本中1本、チューブに穴。インストールに失敗した…かもしれないが、バルブ付近ではない。折り畳まれてパッケージされている折り目のところに穴が。
問題なくインストール出来た方も、バルブコアのフィーリングが変なのか、空気を入れていく感覚がいつもの感じではなかった pic.twitter.com/VTv6HTQRQx— タマゴ屋 (@TamagoyaCS) July 26, 2023
こちらについても、同じように「バルブコアのフィーリングが変」とコメントされている方がいました。
フロアポンプの空気圧計の動きも妙な感じで、一度かなり高い気圧を指してから本来の気圧に戻ってくる感じで空気圧が今どれくらいなのかが分かりにくかったです。
不具合④: 空気圧計で空気圧を計測できない
フロアポンプの空気圧計の動きが変だったので、愛用のパナレーサーのデジタル空気圧計で空気圧を確かめることにしました。
……が、空気圧計が反応してくれません。2本試して2本ともダメでした。
ただ、同じくパナレーサーのアナログ空気圧計は値が出ました。リム、ポンプに加えて空気圧計まで選ぶチューブ……。
不具合のサマリ
4つの不具合が起きましたが、原因としては2つに集約できそうです。
- バルブの外径が太い。
- バルブコアに不具合があり、空気が通りにくい。
不具合④についても原因はハッキリしませんが、恐らくどちらかが原因でしょう。
これらについて、販売元に問い合わせることにしました。
トライスポーツへ問い合わせ
TNIはトライスポーツが販売元です。トライスポーツに問い合わせを行うことにしました。
バルブの太さは2本とも共通なのでそういう仕様かもしれませんが、ポンピング時の抵抗については個体差があります。少なくとも、抵抗の大きい1本は不良品ではないかと思ったのです。バルブコアが通常より太いとか、動きにくいとか、そんな所かなと。
購入店のサイクルキューブさん経由で、不良品交換をお願いできないかを問い合わせていただいたのですが……。
1度目: 電話回答
サイクルキューブさんから問い合わせた所、トライスポーツから電話で以下のような回答があったとのことです。
- バルブの太さ
バルブが若干太いのは個体差などの製品不具合ではなく製品仕様で、
ポンプヘッドによっては嵌らない可能性もございます。- バルブの空気の通りにくさ
コアからの空気の抜けにくさは、ブチルチューブと違いチューブがしぼみにくいという特性からくるものでもあるので、
全く空気を抜くことが出来ないようであれば不良の可能性もございますが、
そうでなければ製品上仕様となっております。
一言で言えば、「製品には問題ありません。仕様です。」という回答でした。
バルブの太さについては百歩譲って仕様だとしましょう。多くの自転車店で使われているヒラメのポンプヘッドが使えないのは問題だとは思いますが。
しかし、バルブコアの抵抗については個体差が明らかにあります。これはさすがに不良だと認めてもらえると思ったんですけどね……。
サイクルキューブさんと話し合い、「上手くニュアンスが伝わらなかったのではないか」ということで現物をトライスポーツ側に送ってもらって確認してもらうことにしました。
2度目: 現物確認後の回答
数日後、トライスポーツからの回答がサイクルキューブさんより送られてきました。
弊社にて実際にホイールに取り付けて空気を入れてみましたが
全く問題ないと思われます。ブチルと異なり伸縮性が無いため、空気を入れる際は入りにくいですが、
ポンプの針が一時的に振れているだけで特に問題ありません。
9-10barになるとの事でしたが、一気に力を込めていると思われますが、
もう少しゆっくり押し込んで頂ければ、針は振れますが空気は通常通り
入ると思われます。チューブ自体は特に問題なく使用可能なため返送させて頂きます。
……個体差の件は全く触れられず、今回も「仕様です」とのことですね。「全く問題ない」と言われても、こちらの環境では問題があるんですけども。抵抗が大きいと出先で携帯ポンプを使う際にはより大きな力が必要となりますし。
私はTPUチューブをこれまでに4種類使ってきました。本数で言えば10本以上は使っています。
「ブチルと異なり伸縮性がない」のは事実かもしれませんが(一度伸び切ると縮まない)、それによって空気が入りにくい/抜けにくいと感じたことは一度もありません。これはチューブの素材ではなく、バルブ側の問題です。
明らかに他ブランドのTPUチューブと比べても挙動がおかしいのに、TPUという素材自体の特性と言い張る理由が分かりません。「ユーザー側にはTPUチューブの知識がない」と思って適当な回答をされているのかな?と思いました。
結局、チューブは問答無用で返送されてきました。
返送後の不具合検証
これを「仕様」と言われるのは納得がいきません。手元に戻ってきたチューブを対象として検証してみることにしました。
① 「バルブの太さ」検証
他社製のTPUチューブを含めて、バルブの太さを精密ノギスで測定してみました。
今回はバルブの2箇所の太さを測定しています。
- バルブコア近く
- バルブコアから1cmくらい下の場所
参考までに、ブチルチューブの金属バルブの太さは約5.9mmです。
まずは、TNIのチューブ。
①は6.27mm、②は6.12mmでした。①のほうが若干太くなっています。
次に、Revoloopのチューブです。
①は5.32mm、②は5.92mmでした。バルブコア近くは細く絞り込むように整形されています。
最後に、Mageneのチューブです。
①も②も6.03mmでした。
これらのデータを表にまとめると以下の通りです。
製品名 | ①の太さ | ②の太さ |
ブチルチューブ (金属バルブ) |
5.92mm | 5.92mm |
TNI TPUチューブ (樹脂バルブ) |
6.27mm | 6.12mm |
Revoloop TPUチューブ (樹脂バルブ) |
5.32mm | 5.92mm |
Magene TPUチューブ (樹脂バルブ) |
6.03mm | 6.03mm |
とりあえず、「TNIのTPUチューブのバルブは太い」ということはハッキリしました。
そして、気になるのは、「TNIに限っては①の箇所が②の箇所より太い」という点です。
まじまじと見てみると、TNIのTPUチューブはバルブコアを差し込んだ部分だけ太くなっていることに気づきました。
筒状のバルブにバルブコアを押し込んでいるのだと思いますが、その際に外側の筒が膨らんでしまったように見えます。それによって①の部分だけ太くなり、結果としてポンプの口金やリムのバルブホールを通らなくなってしまったのでしょう。
さて、工業製品には「規格」というものがあります。世界ならばISO、日本ならばJISです。
バルブもリムも好き勝手に作られているわけではなく、普通はこうした規格を元に作られているものです。じゃないと、組み合わせた時に使えない状態が生じてしまいますからね。
自転車用のバルブとリム(バルブホール)について規定している規格を以下に示します。
部位 | 規格名 | 規定値 |
バルブ | JISD9422:2008 自転車用タイヤバルブ ISO 4570-1 |
5.830-6.030mm |
リム(バルブホール) | JISD9421:2009 自転車-リム ISO 5775-2 |
6.3±0.1mm (仏式バルブの場合) |
仮にこれらの規格に従ってリムが作られていた場合、バルブホール径は最小で6.20mmということになります。
これに対し、TNIのTPUチューブのバルブは6.27mmありました。規格を満たして作られたリムであっても、使えない場合があるということです。バルブコアを押し込んだことで広がっている部分がなければ、元々は6.12mm径なので規格の範囲内に収まっていたはずですが。
なお、バルブがバルブホールを通らなかったアルテグラホイール(WH-R8170)のバルブホール径を実測した所、6.22mmでした。小さめではありますが、規格の範囲内の値です。
MageneのTPUチューブもアルテグラホイールに付けた際には中々バルブホールを通りにくかったですが、それでもバルブの太さは規格の上限ギリギリに収まっています。
もちろん、これらの規格に沿って製品を作るかどうかはメーカーの裁量に任されており、それを守らなくても罰則があるわけではありません。
ただ、規格を守って作っているメーカーの製品と組み合わせたときには、不具合が生じるリスクが高いということではあります。こういったことを起こさないために規格が存在するんですけどね。
② 「バルブの空気の通りにくさ」検証
もう一つの不具合と思われる、バルブの空気の通りにくさ検証です。
これは、空気が抜けきるまでの時間を計測することで、バルブコア部分の空気の通りにくさを確かめようと考えました。
検証方法は以下の通りです。
- ホイールにタイヤとチューブを取り付け、6気圧まで上昇させる。
- バルブコアを押し、完全に空気が抜けきるまでの時間を計測する。
- 計測対象は、以下の4本。
– TNI TPUチューブ 個体A
– TNI TPUチューブ 個体B
– Revoloop TPUチューブ
– R’AIR ブチルチューブ
以上の条件で計測した結果は以下の通りです。
製品名 | 空気が抜け切るまでの時間 |
TNI TPUチューブ 個体A (空気がとても入りにくい個体) |
28.93秒 |
TNI TPUチューブ 個体B (空気がやや入りにくい個体) |
16.89秒 |
Revoloop TPUチューブ | 13.35秒 |
R’AIR ブチルチューブ | 11.98秒 |
TPUチューブよりもブチルチューブのほうが空気の抜けが早くはありました。
ただ、TNIのTPUチューブの個体Aは明らかに空気が通りにくすぎることが数字でも分かります。個体Bが16.89秒で抜けきっているのに、個体Aは28.93秒も掛かっています。実に1.5倍の差です。
少なくとも個体Aと個体Bは同一の素材で作られたチューブであり、伸縮性の差でここまでの差が出るとは考えにくいです。差が出るとすれば、バルブコアではないでしょうか。
ここからは私の推測ですが……TNIのTPUチューブはバルブコアがバルブの筒を押し広げるように圧入されています。バルブコアが筒を押し広げているということは、バルブコアにも外から潰すような力が掛かるということです。これによって、バルブコアに変形や不具合が生じているのではないでしょうか?
恐らく、バルブ筒の内径がバルブコアに大して小さすぎるのだと思います。その小さすぎる筒にバルブコアを押し込んだ結果、バルブの径は大きくなり、バルブコア自体にも圧力が掛かって不具合が生じているのではないかなと。端的に言ってしまえば設計ミスだと思います。
バルブコアの外径を小さいものにするか、バルブの内側をもう少し削る必要があると思います。
他社のTPUチューブを見ると、バルブとバルブコアの間に白い接着剤が流し込まれているのが見て取れます。樹脂バルブにはネジ切りが難しいので、接着剤で気密性を確保しているのでしょう。
金属バルブのチューブならばバルブコアを交換すれば解決する可能性がありますが、樹脂バルブはバルブコアの交換ができません。不具合の解消の手段はないということです。
まとめ
とにかくバルブに不具合の多いTPUチューブです。製造における不具合というよりは設計ミスだと思われます。
パーツ同士の相性問題は自転車業界でよくあることですが、バルブが口金やバルブホールを通らない事案は今回が初めてでした。Twitterを「TNI TPU」で検索しても似たような事案が見られますので、水面下ではそれなりの人が同様の問題に直面しているはずです。
個体差について全く認めて頂けないトライスポーツのサポート姿勢にも疑問を持ちました。以前はこういう対応ではなかった気もするのですが……。
チューブの不具合はリタイヤや事故にも繋がります。このチューブを使用することにリスクを感じたので、結局一度も実走せずにお蔵入りとなりました。
これならば、同じトライスポーツが扱うREVOLOOPの方を使います。値段は倍ですが、その分だけ作りがしっかりしています。
TPUチューブはその薄さと軽量性から、「携行用の予備チューブに向く」という宣伝文句も付けられています。出先でパンクしたときに、使おうとしたチューブがバルブホールを通らなかったり、携帯ポンプの口金が付けられなかったら……恐ろしいことですね。
もちろん、予備パーツが自分の持っている自転車に使えるのかを確認するのはユーザー側にも求められることですが、チューブという汎用性の高い部品でそこまで行う人は稀でしょう。そこはメーカーの責任において担保して欲しい所です。
ユーザー側としても、「チューブはどこのメーカーのものでも使えないことはないでしょ?」という認識を改める時が来ているのかもしれません。
長い歴史を持つ金属バルブと比べ、樹脂バルブはTPUチューブと共に登場したものです。チューブ自体との接合もそうですが、バルブコアとの接合に関してもまだまだメーカーごとの技術差が存在しているように思えます。
TPUチューブはまだ発展途上のチューブです。「決戦用」といっていきなり本番に投入する前に、しばらくテストをしてから本導入を決めたほうが良いでしょう。
著者情報
年齢: 39歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: BIANCHI OLTRE XR4(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)
# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。