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チューブレスレディタイヤに乗車可能になるまで
現在、ロード用チューブレスレディタイヤに挑戦中です。
こちらの記事に書いたように、久々にチューブレスタイヤに対応したホイール(Racing Zero Carbon DB)を購入しました。しかし、同時に買ったタイヤ(Schwalbe Pro One TLE)はホイールと相性が悪く、継続使用は断念しました。
しかし、チューブレスタイヤ自体を諦めたわけではありません。相性の良さそうなタイヤで再挑戦してみることにしました。ただ、いざやってみると、実際にチューブレスタイヤで走れるようになるまでは色々なお約束があることが分かりました。
本記事では、そういった「お約束」の紹介も含めて、チューブレスレディタイヤ(シーラント必須)で乗車可能になるまでの様子を書いていこうと思います。
チューブレス挑戦の動機
「チューブレスタイヤが外れなくなった話」でも書きましたが、私はチューブレス出戻り組です。
2012年頃、一度チューブレスに移行しようとしたことがあったんですが、出先でパンクした際にタイヤをリムにはめることが出来ず、車に乗ることになりました。それがトラウマになり、チューブレスを避けていたわけです。
性能的優位性
パンク発生時に大変面倒なことを身を以て知ることになった一方、性能面での優位性も感じていました。
転がり抵抗は、タイヤとチューブが変形して戻る際のロスによって生じます。その抵抗の源の一つであるチューブを省いたチューブレスタイヤは、確かに走りが軽いのです。
また、チューブの入ったクリンチャータイヤに比べて、空気圧を落としても転がり抵抗が大きくなりにくいので、空気圧を下げられる=乗り心地が良くなるメリットもあります。
ロード用チューブレスの一般化
近年はどのタイヤ会社もロード用チューブレスタイヤ or チューブレスレディタイヤをラインナップするようになってきています。8年前はIRCとHutchinsonくらいのものでしたが、現在ではラインナップしていない会社を見つけるほうが難しくなりました。一般化した理由は色々あるとは思いますが、大きかったのはMavicのUSTの登場でしょう。今、当のMavicは経営難のようですが。
ちなみに、8年前に出先ではまらなかったタイヤはHutchinsonです。現在はFusion5になっていますが、私が使っていたのはFusion2でした。もう3世代前になるわけですね……。Mavicのチューブレスタイヤを手掛けているのもHutchinsonです。
そして、数年前から「フックレスリム」というものが出てきました。フックレスリムとは、クリンチャータイヤに付いているビードが引っかかるフックが無いリムを指します。「タイヤ外れない?」と思いましたが、大丈夫らしいです。
現在、フックレスリムのロードホイールを販売しているのは、GIANT(CADEX)、ZIPP、ENVE。まだまだ多くありませんが、じわじわ増えています。
基本的にはフックレスリムはチューブレスタイヤしか使うことが出来ません。クリンチャータイヤも使えないことはないようですが、ビードが伸びると脱落の危険があるため、フックレスリムを出している各社はチューブレスリムのみを使用するように求めています。
また、昨今ではフックありのリムでも、各ホイールメーカーの上位モデルはチューブレス対応のホイールであることが当たり前になってきました。私はクリンチャー専用リムも好きなんですけども、これからは少なくなっていくのでしょう。
チューブレスの時代が来る?
性能の優位性。大手メーカーのチューブレス専用ホイールへの参入。チューブレス対応ホイールの増加。
登場から10年が経つロード用チューブレスですが、「近い将来にはもっと一般化するのではないか?」と思い始めました。
ディスクロードはイマイチ浸透はしていませんが、それでもTREKのように上位モデルでディスクブレーキモデルしか販売しないメーカーも出てきました。同じように、フラグシップタイヤをチューブレスしか出さないメーカーもそろそろ出てくるかもしれません。実際、Schwalbeはチューブラータイヤの製造をやめ、クリンチャーとチューブレスタイヤのみのラインナップに変わりました。チューブレス一本に絞ってくる会社がないとは言えません。
まだまだ運用面で不便なことが多いロード用チューブレスシステムですが、ここらで体験しておかないと時代の波に置いていかれそうではあります。
幸か不幸か、現在全ての自転車イベントはコロナの影響で中止。走れても近所のみという現在の状況は、新しい機材を試すには適しているとも言えます。
馴染めなかったらクリンチャーに戻れば良いわけですし、せっかく新しいホイールを買ったこの機会にチューブレスタイヤの練習をしてみたいと思ったのでした。
使用機材
チューブレスシステムの場合、クリンチャータイヤよりもホイールとタイヤの相性がシビアです。
メーカーが恐れるのは、タイヤの脱落事故です。このため、ホイールメーカーは「少し径を大きめ」に作り、タイヤメーカーは「少し径を小さめ」に作りがちです。近年はETRTOの規格に沿った寸法で制作をするメーカーも増えており、相性問題は徐々に解決しつつはありますが、依然として相性問題はあります。この辺りの話はサイスポの2019年2月号に詳しく書かれています。
このため、本記事で使うホイールとタイヤの情報をまずは書いておきます。私にとって必要な手順が他の方に必要な場合がありますし、その逆の場合があることをご了承ください。
ホイール
Fulcrum Racing Zero Carbon DBです。
リムに穴が開いていないため、リムテープを使わずにチューブレスタイヤを取り付けることが可能です。
リム内幅は19mm(19C)で、現在のスタンダードである17mmよりもやや広めです。
タイヤ
IRC Formula Tubless Ready S-Light(25C)です。
シーラント必須のチューブレス「レディ」タイヤです。チューブレスレディタイヤは気密性をシーラントに任せるため、タイヤの気密層を簡素化できることから軽量になります。本製品は公称220g。シーラントを入れても250g程度と、クリンチャータイヤとチューブの組合せと同等か、軽い重量になります(タイヤ: 210g, チューブ: 70g 程度が相場)。
今回これを選んだのは、Racing Zero Carbon DBと一緒に使っている人が既におり、相性は悪くないとコメントしていたからです。ホイール・タイヤの個体差もあったりするので、私のホイールで相性が良いかどうかは不明でしたが、気になっているタイヤでもあったのでコレを選びました。
タイヤの取り付け
早速、届いたタイヤの取り付けを行っていきます。
ホイールとタイヤ以外に用意するものは以下です。
・チューブレス用タイヤレバー
・バルブコアツール
・シーラント
・バケツ(中身: 水 + 中性洗剤)
・スポンジ
・ビニールシート
・シャワーキャップ
・タオル
・空気圧計
なお、以下で紹介するのはあくまで私のやり方です。タイヤメーカー・ホイールメーカーの指定がある場合は、そちらに従ってください。
下準備
まずは作業を始めるための準備です。
シーラントの選定
今回のタイヤはチューブレスレディタイヤなので、シーラントをタイヤ内に入れる必要があります。これでビードとリムの間の微細な空間を塞ぎ、気密性を確保するわけですね。また、タイヤ内に残ったシーラントは、パンクした時に自動的に穴を塞いでくれるパンク修理剤にもなります。
8年前は大して種類もなかったシーラントですが、現在は色々な会社から販売されており、何を使っていいか迷ってしまいました。
【ゆるぼ】ロードチューブレス用のおすすめシーラント。一長一短ありそうですが。
— ばる (@barubaru24) May 20, 2020
困ったらTwitterで聞いてみる。ありがたいことに、20人以上の方からオススメのシーラントを教えていただくことが出来ました。
その中でも人気があったのは、「Stan’s Notubes」「カフェラテックス」の2つ。カフェラテックスも気にはなったのですが、手元に昔買ったNotubesのシーラントがあったので、こちらを使うことにしました。
もう一本手元にはエバーズのシーラントもあったのですが、こちらは良い評判がまったくなかったので封印します。
石鹸水を作る
バケツを用意し、水に台所用洗剤を溶かします。配合は適当でOK。そんなに大量には必要ないので、バケツではなくお茶碗でも良いかもしれません。
石鹸水は以下の2つの用途で使用します。
・空気を入れる時、ビードを上がりやすくする
・エア漏れ箇所の確認に使用する
ビニールシートを敷く
石鹸水やシーラント等、チューブレスタイヤの組付けでは液体を多用します。床を汚さないように、ビニールシートを敷いて作業したほうが良いです。
ローターの保護
ディスクロードに限った話ですが、チューブレスタイヤの組み付け時にはローターを保護する必要があります。ローターに皮脂や石鹸水が付着するとブレーキトラブルの元になるからです。
私はダイソーで買ってきたシャワーキャップを使用しています。市販のローターカバーでも良いと思います。
チューブレステープの貼り付け
リムにスポーク穴が空いている場合、チューブレステープと呼ばれる専用のリムテープで穴を塞ぐ必要があります。
私が今回使ったRacing Zero Carbon DBはスポーク穴が無く、チューブレステープを巻く必要はありませんでした。
チューブレスバルブの取り付け
リムに空いたバルブ穴からも空気が漏れてはいけないので、専用のバルブを使います。ホイールに付属してくることが多く、Racing Zero Carbon DBにも付属していました。
付属していない場合は、以下のような汎用のバルブを使います。
中身はこんな感じで、バルブとナットがセットになったものです。
クリンチャータイヤの場合、ナットを付けない人もいるかと思いますが、チューブレスタイヤの場合にはナットも必ず付けた上で、しっかりと奥まで締め込む必要があります。実はこのナットの中にOリングが入っていまして、これがないとネジ山の部分から空気が漏れてしまうからです。Oリングが別体になっているものもあります。
タイヤの取り付け
いよいよタイヤの取り付けです。これについては私の説明よりも分かりやすい動画がありますので、そちらを見てください。
今回私も使っているタイヤの製造元であるIRCの山田氏による取り付け動画です。この動画だと素手で簡単にタイヤをはめていますが、ここまで簡単に行くことは稀です。
守るべきコツはこの動画の中で語られていることで十分なのですが、現実にはホイールとタイヤの相性や個体差によって、取り付けの難易度は変わってきます。また、この動画で使っているタイヤ(Formula Pro Light)は一度私も使ったことがありますが、クリンチャー並にはめやすかったですね。かなり指の力が必要なこともあるので、出来ればゴム手袋をして作業したほうが良いと思います。
今回の組合せ(Racing Zero Carbon DB + Formula Pro S-light)では、残念ながら手だけでは付けることが出来ず、最後はタイヤレバーを使いました。チューブレスのビードを傷めにくい専用のタイヤレバーがあるので、そちらを使いましょう。
シーラントの注入
シーラントをタイヤに入れます。
シーラントの撹拌
まずはシーラントの容器をよく振って撹拌します。中身が分離したり偏ったりしていることがあるようなので。
バルブコアを外す
バルブコアツールを使って、バルブコアを外します。私は以下のツールを使っています。
シリンジでシーラントを注入
バルブコアを外したら、そこにシーラントを注入します。使い切りのシーラント容器はそのままバルブに挿せる太さになっていることも多いのですが、今回は以下のシリンジを使いました。
体温計などで有名なテルモのシリンジです。ホイールの専門家であるPAX CYCLEのキクちゃんに激推しを頂きまして購入しました。医療用ということで精度が高く、シーラントが逆流してきたりすることが無いそうです。
バルブにちょうど挿せる太さなのもポイント。漏れにくい。目盛りも付いているので、タイヤ指定量の30mlを注入します。
バルブコアを付ける
再びバルブコアツールを使って、バルブコアを取り付けます。
シーラントをタイヤ内に行き渡らせる
タイヤ内にシーラントを入れた時点では、シーラントはタイヤ内の一箇所に溜まったままです。これをタイヤ内に行き渡らせる必要があります。
サイスポの例にならって、上記の写真のごとく回転させてシーラントをタイヤ内に行き渡らせました。しかし、実はこれでは不足があったことが後から判明します。理由は後述。
空気を入れる
フロアポンプでタイヤに空気を入れます。
バルブの向きを変える
バルブの向きを12時方向にして空気を入れます。バルブが6時方向の向きにあると、シーラントが逆流してきてしまうためです。私は12時方向でやりましたが、5~7時方向を避ければ、どの角度でも大丈夫そうですね。
フロアポンプで空気を入れる
上手く組み付けが出来ている場合、空気を入れていくと、「カン!カン!」という甲高い音がホイールから響き渡ります。これは、ビードがハンプを超えてフックにはまった時の音です。
上手く組み付けが出来ていないと、フロアポンプで空気を入れたそばから空気が漏れます。よくあるのがバルブをビードが跨いでいないケースです。それでもダメなら、フロアポンプの空気の勢いが足りていないケースが考えられます。そんな時は下記のようなチューブレスタイヤ用のポンプを使います。蓄圧タンクを備えており、一気に空気をタイヤ内に送り込めるポンプです。
全てのビードがしっかりとフックにはまるように、一旦最大気圧まで空気を入れます。今回は8気圧まで空気を入れました。
エア漏れの確認と対処
本来は前の段階までで組み付け終了なのですが、実際には微細なエア漏れに対処する必要があります。
私は前の段階が終わってから1時間ほど放置したのですが、3気圧ほど空気が抜けていました。シーラントが十分にビードとホイールの間に行き渡っていないことが理由である場合が多いです。あとは、バルブナットの締め込みが不十分でも空気圧は落ちます。
エア漏れ箇所の確認
「シーラントをタイヤ内に行き渡らせる」の手順では単純にホイールを回しましたが、これだと遠心力でタイヤのトレッド裏の所にシーラントが集中し、本来シーラントを行き渡らせたいビードとリムの間に十分に行き渡らないことになります。
石鹸水をホイールとタイヤの間に塗ってみると、空気が漏れている場所は泡立ちます。この部分にシーラントを行き渡らせればよいわけですね。
シーラントをエア漏れ箇所に誘導する
ビード部分にシーラントが行き渡るように、様々な方向に回転させます。
私がやったのは、「床に置いてフラフープのように回す」「球体を描くように回す」と言った方法です。なるべく、エア漏れが確認された箇所にシーラントが行くように回すと良いと思います。
ホイールを持って謎のダンスを踊る店もあるとか……これも目的は、ビード部分にシーラントを行き渡らせるためだと思われます。たぶん。
複数箇所でバウンドさせる
これは知り合いのショップ店員さんから聞いた方法ですが、仕上げにホイールをバウンドさせます。そんな高いところから落とす必要はなく、床から10cmくらいの高さから落とすことを一周分繰り返します。
当初はバウンドさせる意味が分からなかったのですが、以下のような意味があると推測されます。
・シーラントが跳ねて、ビード付近にかかる。
・バウンドさせると、リムとビードの微妙なズレが補正される(馴染みが出る)。
タイヤを水拭きする
タオルなどで、タイヤの表面やサイドに付いた石鹸水を拭き取ります。乾いてしまっているかもしれませんが。
しばらく放置して空気圧を確認する
数時間放置して、空気圧の低下具合を空気圧計などで確認します。空気圧計が無ければ、フロアポンプで少し空気を入れて確認しても良いと思います。
ここまでの作業の成果か、8時間経っても0.2気圧程度の低下しか見られませんでした。これでもまだ漏れが少し大きいですが、実走行をしていくことで更に馴染みが出てエア漏れは少なくなっていくそうです。
実走
多くの工程を経て、ようやく走れる状態になりました。組み付けて「さぁ走ろう!」とすぐに走れないのはチューブレスタイヤのもどかしい所でもあります。
カラーもホイールとマッチしていて気に入りました。
せっかくなので、少しだけ外をテスト走行。家の周りの平坦路を少し走っただけではありますが。
さすがチューブレスタイヤ、チョイ乗りでも分かるくらいに性能が高いです。印象的なのは、とにかく失速しにくいこと。転がり抵抗の低さが実感できるレベルで違います。なお、IRCの方によると、「50kmほど走行するとゴムの分子が安定して10%ほど転がり抵抗が下がる」そうですが……。これ以上軽くなるのか、すごい。
また、前後6.5気圧に設定しましたが、乗り心地が良いのにもかかわらずサイドが腰砕けしない、非常に好みの挙動を示しました。私はサイドがしなやかすぎるタイヤが苦手なので、これくらいサイドが硬めな方が好みです。
まとめ
チューブレスレディタイヤで実際に走行できるようになるまでの工程を紹介しました。
こうしてやってみると、かなり多くの「作法」というか「お約束」があることが分かります。厄介なのが相性や個体差で、ある「お約束」の手順をやらなくても上手く行ったりすることもあれば、逆にあらゆる「お約束」を実行したのに上手く行かないこともあります。こればかりはチューブレス経験者から話を聞いて、「こんなことをやった」みたいな話を聞く必要がありそうです。この記事も、そんな情報の一つになればと思って書きました。
さて、走り出すまでも色々面倒でしたが、走り出してからも色々とまだやらなければならないことがあります。
目下の悩みは、「ロングライド時のチューブレス用対策ツールの選定」です。パンク時の修理方法がクリンチャータイヤとは異なるので、持ちものを変更する必要があるのです。クリンチャータイヤで長いこと走ってきたので、その辺りのノウハウはほとんどないので、こちらもこれから勉強ですね。その辺りもまとまったら記事にしたいと思います。
著者情報
年齢: 35歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: QUARK ロードバイク(スチール), GIANT ESCAPE RX(アルミ)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)
# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせて頂きました。