携帯ポンプの「最大気圧」とは

  • 2021年2月2日
  • 2021年2月2日
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携帯ポンプに必ず記載されている「最大気圧」。

表記は「上限気圧」だったり「対応気圧」だったりとさまざまですが、そもそもこれってどういう意味なのか? 明確な定義は存在するのか?

気になったので調べてみました。

経緯

なぜ携帯ポンプの「最大気圧」の定義を調べようと思ったのか。その経緯を述べます。

ジョークのつもりで

昨日、こんな記事を書きました。

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ロードバイク趣味を始めて10年ほど。 松重豊さんよろしく、「それ、早く言ってよ~……」という案件が色々合ったので、そういったネタを書き出してみようと思います。 ① 携帯ポンプの公称最大気圧 1つ目は、「最大気圧まで入る携帯ポンプは[…]

 

4つの話を取り上げましたが、そのうちの1本目が「最大気圧まで入る携帯ポンプはほとんど無い」という話です。

ここで、私は以下のように書きました。

そもそもこの「最大気圧」って、一体何なんでしょうか?
本当に「この気圧まではこのポンプで入れられますよ」って意味なのか。そんなことはどこにも書いていないわけで。もしかしたら「この気圧を超えたら破裂します」って意味かもしれません。もしくは、「パッキンが耐えられる限界気圧」という線もありえます(YO-TAさん仮説)。
当初は「この気圧を超えたら破裂するかもしれない」というのはジョークで書きました。
しかし、よくよく考えてみると、「これって実は本当に”それを超えたら危険ですよ”という意味なのでは……?」と思えてきました。耐荷重と同じように、「このポンプが耐えられる気圧が○○気圧ですよ」という意味なのではないか、と。
実際、ボディだって気圧が高まりすぎれば破裂するでしょうし、パッキンが耐えられずに空気漏れを起こすといったような故障の可能性は十分にあるはずです。

多くの人が思う「最大気圧」

もう遠い記憶の彼方かもしれませんが、初めて自転車屋で携帯ポンプを買った時のことを思い出してください。一体何を基準に買うポンプを選んだでしょうか?

大きさ・重さ・見た目はもちろん、最大気圧を見て決めたのではないかと思います。

例えば、普段7気圧で乗っているのならば、「最大気圧: 8bar」のように書かれた携帯ポンプを手に取るのが自然でしょう。普段7気圧で走っているのに、「最大気圧: 4bar」と書かれた携帯ポンプを買う人はいないと思います。

この時、同時にこう思っているはずです。

「この携帯ポンプならば、自分でも8barまでは入れられるってことだよな」

と。これが、多くの人が最初に思うであろう「最大気圧の定義」です。

何本か携帯ポンプを買ううちに「そんなことはない」と気づくのですが、最初はこう思っていたはずです。「出先でも8barまで入れられる能力のあるポンプだろう」と。

これはある意味、正解であり、間違いでもあります。その理由は後述します。

「最大気圧」と「実用気圧」の大きすぎる差

先述の通り、多くの携帯ポンプは表記の最大気圧まで入れることは出来ません。

私は40本以上の携帯ポンプを試してきましたが、表記の最大気圧を超えて使うことが出来たのはわずかに2本でした。その他の携帯ポンプは、最大気圧の遥か手前で、成人男性の腕力では押しきれないほどピストンが重くなります。

ぶっちゃけて書かせてもらえば「スペック詐欺が過ぎる」と思っていました。自転車界隈ではスペック詐欺は良くあることで、ホイールの重量がカタログスペックより5%重いことはザラです。携帯ポンプの最大気圧もその類いのものかと思っていたのですが。

仮に、ここで「一般成人男性が人力で辿り着ける気圧」を「実用気圧」と呼ぶことにしましょう。

携帯ポンプの場合は「実用気圧」と、「表記の最大気圧」に相当の開きがあります最大気圧:11気圧を謳いつつ、6気圧でギブアップした携帯ポンプもあります。私は一般の成人男性より少し上くらいの腕力はあります。ポンプの扱いにも慣れています。それなのに、カタログスペックの55%程度までしか入らないのは流石に変じゃないか?と思えてきました。

ちなみに、サイクルスポーツ2015年12月号の「ツールボトルに入る携帯ポンプを徹底比較!」という特集の総括には以下のように書かれています。

想像以上に過酷だった。
当初は6barを目指してテストを開始したものの、どう頑張ってもそこまで充填できないものが続出。
仕方なく編集部内で話し合い、5bar前後ならリム打ちせずに帰宅できるはずとの結論に達し、このテストを続行した。

やっぱり最大気圧まで入るポンプはほとんど無いわけですね。

最大気圧の定義は別にあるのでは?

大抵の携帯ポンプのパッケージには、正面にデカデカと最大気圧が書かれています。前述の通り、実用気圧とはかけ離れた値です。

しかし、いくらなんでも名だたる大メーカーがそんなウソ・大げさ・紛らわしい値を堂々とパッケージに載せ続けるでしょうか? 何か堂々とするに足る理由があるはずです。

思いついた仮説は、「最大気圧の意味を単に誤解しているだけなのではないか」という物でした。

そこで、「最大気圧」を各社どのように定義しているのかを調査してみることにしました。ちゃんと書かれていてそれを知らなかったのだとしたら、それは私の怠慢ですからね。

最大気圧の定義調査

各社、何か最大気圧についての定義を持っているのか?

世界中の携帯ポンプメーカーを対象に調査しました。

パッケージ・説明書を確認

まずは手近な所から。何故か家の中に大量にある携帯ポンプのパッケージ・説明書に書かれた最大気圧についての説明を探してみました。

確認したメーカーは以下です。

・Panaracer (表記: 空気圧上限)
・Blackburn (表記: MAX PSI / BAR)
・TOPEAK (表記: PSI / BAR)
・UNICH (表記: 最大気圧)
・Oture (表記: Air pressure upper limit)
各社表記はバラバラですが、大体意味する所は同じでしょう。
この中で、唯一詳細に最大気圧についての説明が書かれていたのが「Panaracer」でした。
書かれている文章を引用します。
●注入可能な空気圧上限: 約900kPa (130PSI、9kgh/cm2)
※空気圧上限以上のポンピングは絶対にしないでください。
●体力差や個人差により、空気圧上限までのポンピングが困難な場合があります。
さすが日本メーカー、説明が素晴らしく詳しい。そしてこの「絶対にしないでください」という説明は、明らかな警告です。約9気圧まで入ると書かれていながら、「それを超えてはいけない」と書かれているわけですね。恐らく何らか上限を超えると不具合が生じるということなのだと思われます。
他のメーカーは単に最大気圧の数字が書かれているだけで、それについての説明は一切ありませんでした。

各社のサイトを確認

次は各社のサイトを確認します。仮に最大気圧が「これを超えると危険」な値なのであれば、商品ページやマニュアルに何らかの注意書きが書かれているはずです。特に、訴訟大国であるアメリカのメーカーならば必ずその手の記載があるはず!……と思ったのですが。

海外含めて15メーカーのサイトを確認しましたが、そうした警告表記を載せていたのはやはりPanaracerのみでした。他のメーカーは特に最大気圧に関しての言及はありません。

あくまでサイト上で公開されている情報のみの確認なので、同梱の説明書に何らかの注意書きが書かれている可能性はあります。

メーカーに直撃

最後は、メーカーに直撃です。

最近Twitterアカウントを開設。親しみやすいキャラクターと、豊富な情報発信で今や人気企業アカウントとなったPanaracer公式アカウント(@PanaracerJ)さんに下記の質問をぶつけてみました。

 

不躾な質問ではあったのに、Panaracer公式アカウントさんは社内でご確認をしてくださったようで、下記の回答を頂きました。

 

おおっ、やはり推測通り! 最大気圧(Panaracer表記では”空気圧上限”)は、「ここまで(普通の人が)入れられるよ」という意味ではなく、「これ以上の気圧を入れると故障の可能性があるよ」という意味だったようです。

Panaracer公式アカウントさん、ご回答ありがとうございました。

空気圧上限=「通常使用で故障しないと保証し得る最大圧」、というのはあくまで「Panaracerの定義」です。
他社の定義は異なる可能性も十分にあるので、そこは強調しておきます。

考察

仮にPanaracer内の定義が最大気圧の定義だとすると、恐らく各ポンプメーカーは表記の最大気圧まで入れる試験を行い、「この気圧までは安全である」という確認をしているはずです。

恐らく、各社の携帯ポンプが「最大気圧まで入れる能力を持つ」というのは本当なのでしょう。

しかし、その試験でポンピングを行っているのは一般人ではない可能性があります。恐ろしく剛力なマッチョマンかもしれません。機械の力に頼っているかもしれませんし(携帯ポンプのポンピングテストをする機械があったら見てみたいですけど)、複数人で力を合わせてポンピングしているかもしれません。

「このポンプは表記の最大気圧まで入れる能力はある(※ただしそれを一般人の力では行えるとは限らない)」

「正解であり、間違いでもあります」と書いた理由はこういうことです。

まとめ

結局「最大気圧」の明確な定義ははっきりしませんでした。

とりあえず、「実用気圧≠最大気圧」であることは恐らく間違いないでしょうが、もう少し調査が必要そうです。


一方、今回の調査ではっきりしたのは、「多くの携帯ポンプメーカーは、最大気圧の表記はあるけど、その意味を明言していない」ということでした。

仮に「これ以上入れたら危険」な気圧を「最大気圧」として表記しているのならば、そのようにはっきりと書いて欲しいですね(書いているメーカーがあれば是非教えて下さい)。「見れば分かるだろう」ってことなのかもしれませんが、多分かなりの割合の人が「この気圧までは入れられるよ」という意味で受け取っているはずです。

唯一、その辺りをはっきりとパッケージに書いていたPanaracerさん、素晴らしいです。

ちなみに、「最大気圧まで本当に入った2本」のうち1本はPanaracerの携帯ポンプでした。本当に最大気圧を超えられるだけの能力を持つからこそ、表記しないと危険であるとも言えるわけで、このはっきりした表記は性能の証明と言えるかもしれません。

なお、「最大気圧まで本当に入った2本」のもう一本である「TOPEAK Roadie TT」のパッケージには最大気圧の記載は裏面含めてありませんでした(サイトには160PSIと記載)。何でだろう。このポンプはホントに天井知らずで高圧まで入ってしまうので、ちゃんと表記すべきだと思います。

機会があれば、他のメーカーにも最大気圧の定義について聞いてみたいと思っています。進展があれば、追って報告いたします。

著者情報

年齢: 36歳 (執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: QUARK ロードバイク(スチール), GIANT ESCAPE RX(アルミ)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)

# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせて頂きました。


この記事を書いた人
ばる
ロングライド系自転車乗り。昔はキャノンボール等のファストラン中心、最近は主にブルベを走っています。PBPには2015・2019年の2回参加。R5000表彰・R10000表彰を受賞。

趣味は自転車屋巡り・東京大阪TTの歴史研究・携帯ポンプ収集。

【長距離ファストラン履歴】
・大阪→東京: 23時間02分 (548km)
・東京→大阪: 23時間13分 (551km)
・TOT: 67時間38分 (1075km)
・青森→東京: 36時間05分 (724km)