エンデュランスロードの20年―各社は何を目指してきたのか

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「エンデュランスロード」というカテゴリが生まれて、今年で約20年。この20年で各社のエンデュランスロードがどういった目的で作られてきたのかを分析しました。

目次

はじめに

まずはこの記事を書こうと思った理由から。

新型Domaneの各メディアの扱いに違和感

2026年8月、TREKのエンデュランスロード「Domane」の第5世代が発表となりました。

北米の大手メーカーの新モデルということで、各メディアからは特集記事が出てきました(サイクルスポーツ / バイシクルクラブ / シクロワイアード)。これらの記事を読んでみたのですが、どうしても私としては引っかかりを感じる部分が多かったのです。具体的には、以下のような表現。

  • 「エンデュランスロードの本来の姿」
  • 「真のエンデュランスロード」
  • 「エンデュランスロードに向く人」

私個人としては「エンデュランスロードって各社の考え方はかなりバラバラだよね」と以前から感じていました。そうであるとすれば、「真の」とか「本来の」というものは定義できないし、カテゴリとして一括で語れる性格のものではないはず。

私のエンデュランスロード歴

SPECIALIZED「Roubaix」の2009年モデル。この頃のRoubaixはクラシックレースでプロレーサーが使用していた。

私が最初に購入したロードバイクは、SPECIALIZED「Roubaix」。エンデュランスロードの代名詞とも言えるモデルです。多分、エンデュランスロードを一台目から買う人って珍しいはず。大抵は「景色を置き去りにする加速」「羽根が生えたような軽さ」に魅力を感じてレースモデルを買う人の方が(特に日本では)多いと思うので。

私の場合、もともと自転車趣味に入ったきっかけは、100km(大学の下宿~実家)をママチャリで往復したことでした。その時に「自分はどうやら長距離を走ることに向いているらしい」と感じ、スポーツ自転車を買ったらレースよりもロングライドをしたいと考えるようになりました。そこで、当時のガイド本や自転車雑誌を読み、自分の用途に合いそうなエンデュランスロードを選んだわけです。

その後も、2015年にはSCOTT「SOLACE DISC」、2020年にはBianchi「INFINITO CV」、2024年にはGHISALLO「GE-110」と、エンデュランスロードを積極的に選んで乗ってきました。私のロングライド・ブルベといった用途に合っていると考えたからです。レースをやめたからでも、体力が落ちたからでもなく、「自分がやりたいことに合う自転車を選ぶ」という考え方でそうしてきました。

ただ、今回の記事を書くにあたって改めて歴史を調べてみると、最初に買ったRoubaixの出自は、私が当時イメージしていた「長距離を走るためのロードバイク」とは少し違っていました。Roubaixは、元々「パリ~ルーベ」のような石畳を含む路面を速く走る「レーサー」として生まれたモデルだったのです。

一方、現在私が乗っているGE-110はブルベを明確に意識して生まれたモデル。ブルベは、1日に300km程度の舗装路をセルフサポートで走り、制限時間内にゴールすることを目指す長距離イベントです。タイムは記録されませんし、順位も付きません。GE-110は、そうした走り方を念頭に置いて開発されており、レースでの使用は主眼に置かれていません。

エンデュランスロードの目的はモデルごとに異なる

このように、同じ「エンデュランスロード」カテゴリであっても、作られた目的は異なっています。プロが石畳でレースをするために作られたものもあれば、一般サイクリストが週末のロングライドをするために作られたものもあるし、ブルベのために作られたモデルもある。

私の感覚では、これまで各社のエンデュランスロードが足並みをそろえて同じ方向を向いていた時期なんてほとんどありません。更に、同じ名前のモデルであっても、世代が変わるとその目的が変わってしまうケースもあります。

メディアで良く見られる、「ほとんどの人はエンデュランスロードを選ぶほうが幸せになれるのでは」という意見は分かります。特にここ数年のレーシングロードはスピードに特化して先鋭化しており、一般サイクリストにはポジションを含めて要求が厳しくなってきています。ある程度、「乗りやすさ」や「安定性」といった性能を考慮されているエンデュランスロードの方が向く人も多いでしょう。

ただ、「レースをしないならエンデュランスロード」「エンデュランスロードなら何でも出来る」と考えてしまうのは、少々乱暴ではないでしょうか。実際には、エンデュランスロードの中で更に各モデルの(もっと言えば各世代の)性格を見る必要があるはずです。

メーカー側の公称用途の変遷を追う

以前書いたこちらの記事では、現行のエンデュランスロードについて、ジオメトリや装備から各モデルの想定用途を読み解きました。ただ、それはあくまで完成した自転車の仕様から私が用途を推測したものです。

今回は、少し違う方向から見てみようと思います。

新型Domaneの記事を読んで感じた違和感の正体を確かめるため、エンデュランスロードの主要7モデルについて、メーカー自身が各世代でどのような用途を掲げてきたのかを時系列で追いました。

各社は同じ「エンデュランスロード」という名前の下で、本当に同じところを目指してきたのか。過去20年ほどの変化を見ていきます。

各社はエンデュランスロードをどう作り変えてきたか

ここからは、エンデュランスロードの代表的なモデル7つを取り上げ、その変化を見ていきます。

7モデルは、北米・欧州・アジアの3地域から2-3モデルずつ選びました。前の記事で、「エンデュランスロードには地域性が出る」という発見があったので、地域ごとに取り上げる必要があると考えたためです。

今回は、各社が各モデルの世代ごとに「こんな用途で使って欲しい」「こういった目的のために作った」と発表してきた「公称用途」を、プレスリリースや各メディアの記事などから調査して時系列に整理しました。

↓が、代表的な7モデルについて調査結果を整理した年表になります。

エンデュランスロード 代表的な7モデルの公称用途年表(2004~2026年)

ここからは、7モデルについてその変遷を詳しく見ていきます。

なお、各モデルの歴史を詳しく述べていた所、物凄く記事が縦長になってしまったため、歴史部分は折りたたんであります。詳しく知りたい方は展開してお読みください。概要だけ知りたい方は、モデル名の直後に書かれているサマリだけをお読みください。

・本記事では、以下のようにエンデュランスロードのサブカテゴリを呼び分けています。

 ■多用途ロード
 積載・フェンダー・ツーリングなど、使い方の幅を広げたもの。

 ■オールロード
 荒れた舗装や軽グラベルなど、走れる路面の幅を広げたもの。

「多用途ロード」という呼称は一般的ではありませんが、「万能ロード」だとオールロードとの区別が難しいので、少し語感の違う多用途ロードを採用しました。

・以降の説明では、用途の変わり目で世代を区切っています。モデルの世代が変わっても、用途が変わっていなければ区切っていません。

① SPECIALIZED「Roubaix」

Roubaixは2004年に登場した、現代的なエンデュランスロードの一つの起点と言えるモデルです。当初からパリ〜ルーベを強く意識しつつ、荒れた路面や長時間走行での快適性も追求していました。

その後はZertzからFuture Shockへと振動吸収機構を進化させ、長く石畳レースでも活躍。しかし2023年のSL8では各種バッグ・フェンダーマウントを備え、最大40mmタイヤ対応で軽グラベルや長距離実用まで守備範囲を拡大しました。一方、石畳レースではTarmacが使われるようになり、Roubaixのレース専用機としての役割は事実上終わっています。

石畳レーサーとして始まり、現在は高速性を保ちながら走破性と実用性を広げたオールロードへ。 Roubaixは20年間のエンデュランスロードの変化を象徴するモデルであると言えます。

Roubaixの用途変化の歴史(クリックで展開)

2004~2016年: Zertz使用の石畳レーサー

Roubaixは、現在の「エンデュランスロード」というカテゴリーの嚆矢とも言えるモデルです。

名前の由来はもちろん、フランス北部の石畳レース「パリ〜ルーベ」。ただし、初代RoubaixはDomaneのように「特定の選手のために作られたクラシックレーサー」という生まれ方ではありませんでした。

Specializedで初代Roubaixを手掛けたロドニー・ハインズは、当時のレーシングロードについて「硬すぎる、ヘッド角が立ちすぎている、チェーンステーが短すぎる、太いタイヤも入らない」といった趣旨の振り返りを残しています。当時のレーシングロードは速さを求めるあまり、荒れた路面や長時間走行には向かなくなっているのではないか。そこに対する問題意識からRoubaixは生まれたのです。

第一世代のRoubaix。フロントフォークとシートステーの中間部分に入っているのが「ゼルツ」と呼ばれる振動吸収剤。

初代Roubaixの大きな特徴が「Zertz(ゼルツ)」です。フォークとシートステーにエラストマー製のインサートを設け、路面から伝わる振動を減らす仕組みを採用。ジオメトリも当時の純粋なレーシングロードより安定志向で、荒れた路面でも身体への負担を減らしつつ、速く走れることを狙った設計でした。

興味深いのは、初代Roubaixには、後のDomaneにおけるファビアン・カンチェラーラのような「この選手の要求から生まれた」という象徴的な存在が確認できないこと。むしろSpecialized側が当時のレーシングロードそのものに感じていた問題を起点に、プロチームで石畳レースを使って実戦検証していった、という流れに近かったようです。

2003年にはすでにロンドやパリ〜ルーベでテストされ、同年のブエルタではミケーレ・スカルポーニがRoubaixのプロトタイプを使用していた記録もあります。つまり、市販化以前から石畳や荒れた路面でのレース使用をかなり強く意識していたことは間違いありません。

その後、Specializedがクイックステップとの契約でトム・ボーネンを獲得すると、Roubaixはより明確に石畳レーサーとして磨かれていきます。2008年にはボーネンがRoubaix SL2でパリ〜ルーベを制し、2009年も連覇。2010年にはカンチェラーラもRoubaixで勝利しました。

2012年のTOT(東京→大阪→東京)ではRoubaixを使用。ロングライドにも適した走行性能を持っていた。

こうして見ると、初代Roubaixは「長距離向けの快適車」と「石畳レーサー」のどちらか一方から始まったモデルではなかったようです。当時のレーシングロードが抱えていた「荒れた路面や長時間走行への弱さ」を改善し、その結果として石畳レースでも速く走れる高性能ロードを作る。そんな発想から生まれたモデルだったと言えるでしょう。

実際、私も2010年代前半のロングライドやブルベにはRoubaixを使用しており、走行性能や快適性には全く不満がありませんでした。ただ、各種バッグやフェンダーといったロングライド用の装備は付けにくかったですね。特にゼルツのためにシートステーが特殊な形状をしており、シートステーに取り付けるタイプのフェンダーは全く使えませんでした。

この世代の末期である2015年のRoubaix。Zertzの形状は変わったが、基本コンセプトはずっと引き継がれていた。(出典・スペシャライズド公式サイト

フレーム形状こそ微妙に変わったものの、「Zertzで乗り心地を出す」という思想は長く引き継がれ、この世代は12年あまりも続きました。

2017~2022年: Future Shockの導入

2017年、Roubaixは大きな転換を迎えます。初代以来の象徴だった「Zertz」を廃止し、新たに「Future Shock」を採用しました。

Future Shockはヘッドチューブ上部に組み込まれた機械的なサスペンション機構で、フォークそのものを動かすのではなく、ハンドル側を上下させることでライダーへの衝撃を減らす仕組みです。Specializedはこの世代で、フォークやシートステーに組み込んだZertzで振動を吸収する方式から、ハンドル側を上下に動かしてライダーに伝わる衝撃を減らすFuture Shockへと大きく舵を切りました。

サドル側はFuture Shockとは別の方式が採用されました。2017〜2019年モデルでは、サドル側は初代から使われていた独特の湾曲形状を持つCG-Rシートポストを継承し、シートポストのしなりによって快適性を確保。その後、2019年発表のモデルではサドル側の設計も見直され、Pavéシートポストと、シートクランプ位置をフレーム内部で低くしたHidden drop clampを採用。シートポストをより長い区間でしならせることで、サドル側の可動性を高める方向へ進みました。

この世代のRoubaixもコンセプトは継続。石畳レースでの性能と一般ライダーの快適性を引き続き両立させようとしており、石畳レースでも2017年にズデネク・シュティバルがパリ〜ルーベ2位、2018年にはペーター・サガンが優勝しています。

つまり第2世代は、「石畳を速く、なおかつ快適に走る」という従来の目的は継続しつつ、解決方法をZertzからFuture Shockへ大きく変えた世代だったと言えます。

世代変化直後に試乗したRoubaix。Future Shockでハンドル側の乗り心地は良いものの、フレーム側はガチガチで個人的にはバランスが悪いと感じた。

私もこの世代のRoubaixには試乗したことがあります。Future Shockという明確な可動機構を設けたことで、振動吸収はそちらに任せ、フレーム自体はかなり剛性を高めたような乗り味に感じられました。石畳レースバイクとして考えれば理にかなった設計ですが、私には「ちょっとこれでロングライド用途はキツいな」と思ったことを覚えています。もっとも、短時間の試乗だったため、これはあくまで個人的な印象です。

2023年~: 高速オールロードへ

2023年、RoubaixはSL8へモデルチェンジ。ここで守備範囲はさらに大きく広がります。

試乗したS-Works Roubaix SL8。フレーム側の剛性もバランスが良くなり、Future Shockも3.0となって熟成。非常にバランスの良いバイクへと進化していた。

フロントのFuture Shockは「3.0」へ進化。リア側は前世代で導入されたPavéシートポストと、シートクランプ位置をフレーム内部で低くした構造を継承し、シートポストを長くしならせることで快適性を確保しています。

大きな変化のひとつがタイヤクリアランス。従来の最大33mmから一気に最大40mmまで拡大され、Specialized自身も荒れた舗装路だけでなく「light gravel」まで明確に走行対象として掲げるようになりました。従来のRoubaixが主に石畳や荒れた舗装路を高速に走るためのバイクだったのに対し、SL8では走れる路面そのものの幅が大きく広げられています

もうひとつ注目したいのが、積載・実用面の強化です。ダウンチューブ裏を含む3箇所のボトルケージ台座、トップチューブバッグ用のマウント、さらに前後のフェンダーマウントを新たに装備。フェンダー装着時でも35mmまでのタイヤを使用できます。

前世代までのRoubaixと比べると、単に長距離を快適に走れるだけでなく、レインウェアや工具などの荷物を載せ、天候変化にも対応しながら長時間走るための装備までかなり意識されるようになりました。

この点は、初代Roubaixをブルベで使っていた私から見るとかなり興味深い変化です。初代は走行性能や快適性には不満がなかった一方、バッグやフェンダーといった装備を取り付けにくいバイクでした。それに対してSL8では、20年近くを経て「長距離を走れる」だけでなく、長距離を走るための装備を載せやすい方向にも踏み込んだことになります。普通、そういった仕組みを追加すると走りがダルくなるものですが、そうはなっていない。しっかりと両立しています。

なお、2024年6月号のサイクルスポーツによれば、この世代のRoubaixはウルトラサイクリストのジャック・トンプソンが開発に参加しているとのこと。彼は、日本縦断と東京大阪キャノンボールの両方で最速記録を持つロングライダーです(執筆時現在)。この点から考えても、RoubaixはSL8からは明確にウルトラロングライド方面の知見を設計時から取り入れており、大きな目的に据えられていることが分かります。

そして、この世代でもうひとつ大きいのが、プロレースでの役割が事実上終わったことです。従来のRoubaixはパリ〜ルーベを中心に、Specializedの石畳レース用バイクとして実戦投入されてきました。しかしSL8登場後は、Specializedのプロ選手たちはパリ〜ルーベでもTarmac SL8を選ぶようになり、Roubaix SL8はレース用機材の中心から外れました。レース全体で見た場合、Tarmac SL8の空力・軽量性・総合性能の方が有利と判断されたためです。

ただし、Roubaixがレース的な速さを捨てたわけではありません。フレームは軽量化され、空力性能も歴代Roubaixで最高をうたっています。つまりSL8は、石畳レースを主戦場としていたRoubaixの速さを残しながら、軽グラベルへの走破性と、長距離用途での積載・天候対応力を同時に広げた世代と見ることができます。

② TREK「Domane」

Domaneは、2012年にファビアン・カンチェラーラのための石畳レース用バイクとして登場しました。初代からリアIsoSpeedを採用し、Gen2ではフロント側にもIsoSpeedを追加。ここまでは「石畳を速く、快適に走る」ためのクラシックレーサーという性格が中心でした。

2019年のGen3では最大38mmタイヤ・ダウンチューブ内ストレージ。フェンダー対応などを備え、ロングライドや軽い未舗装路まで用途を拡大。Gen4ではIsoSpeedの簡略化による軽量化を推進。また、多用途ロード的なSL/SLRとは別に、石畳レース向けのRSLも設定されました。

2026年のGen5ではアイコンであったIsoSpeedを全面廃止。タイヤクリアランスを最大40mmまで広げるなど対応路面を拡張。積載面ではダウンチューブ内ストレージがなくなり、より軽量でシンプルな構成へと変わっています。RSLも消滅し、レーサーとしての役割はMadoneに譲った形となります。

カンチェラーラのための石畳レーサーとして始まり、多用途化を経て、現在は軽量オールロードに辿り着いたDomane。 時代とともに役割を大きく変えてきたモデルであると言えるでしょう。

Domaneの用途変化の歴史(クリックで展開)

2012~2015年: 石畳レーサーとして生まれたGen1

2012年、稀代のTTスペシャリストにしてクラシックレーサーであるファビアン・カンチェラーラのために作られたDomane。

2010年までSPECIALIZEDを使用するチーム・サクソバンクに所属していたカンチェラーラは、2011年にレオパード・トレックに移籍。それまでRoubaixを愛用していたカンチェラーラでしたが、当時のトレックにはそのカテゴリのバイクがありませんでした。優勝を狙える速度で石畳を駆け抜けるバイクを追加で作る必要があったわけです。

2014年に筆者が試乗したDomaneのGen1。シートチューブに設けられたIsoSpeedと、大きく湾曲したフロントフォークが特徴。

初代Domaneの技術的な特徴は、何と言っても「IsoSpeed」。シートチューブをトップチューブと分離させ、前後方向にしならせることでサドル部の衝撃吸収性を高める仕組みです。ジオメトリもMadoneより安定志向であり、低重心かつ穏やかなハンドリングになるような工夫が凝らされていました。

Domaneが初投入となった2012年シーズンは落車の影響でクラシックレースでは活躍できなかったカンチェラーラですが、2013年はDomaneを駆ってロンド&パリ~ルーベを勝利。Domaneの石畳レーサーとしての適性を証明しました。

このように初期Domaneは石畳レーサーとしての活躍を目的に作られましたが、当時の記事を見ると「万人のためのバイクでもある」という内容も語られています。カンチェラーラが石畳レースで勝つための性能を突き詰めたら、一般サイクリストにとっても有益なバイクが出来上がった……ということですね。ただ、開発のスタートは石畳レースであったことは強調しておきたいポイントです。

この世代の終盤にはディスクブレーキ仕様も追加されました。私もこの世代のディスク仕様に乗ったことがありますが、15mmスルーアクスルを採用したフロント周りはかなり剛性感が強く、期待していたほど快適な印象ではありませんでした。リムブレーキ仕様の方がバランスが良かったですね。

2016-2018年: フロントIsoSpeedを導入したGen2

2016年、Domaneは第2世代へモデルチェンジ。初代で採用されたリアIsoSpeedを発展させるとともに、今度はフロント側にもIsoSpeedを追加しました。

初代DomaneのIsoSpeedは、シートチューブをトップチューブから独立してしならせることで、主にサドル側の衝撃を抑える仕組みでした。第2世代ではリアIsoSpeedに調整機構を追加し、ライダーがコンプライアンス量を変更できるようになります。さらにヘッドチューブ周辺にもFront IsoSpeedを採用し、ハンドル側への衝撃も抑える構成となりました。TREK自身もこの世代を「フロントIsoSpeedと調整可能なリアコンプライアンスを導入した全面刷新」と位置付けています。

面白いのは、Roubaixとの進化の順序が逆であること。DomaneはリアIsoSpeedから始まり、後にフロントへ拡張。対してRoubaixはフロントのFuture Shockを先に導入し、後からリア側のコンプライアンス設計を大きく見直すという経路をたどりました。両社とも前後からライダーへの衝撃を減らす方向へ進みましたが、その入口は正反対であったことになります。

2018年頃試乗した、Domane Gen2。スルーアクスル軸径が12mmになったことに加え、フロントIsoSpeedによって快適性が向上していた。

用途については、まだ初代から大きく変わっていません。第2世代も引き続き石畳レースを強く意識したモデルで、快適性をさらに高めながらレース性能を維持することが狙いでした。ファビアン・カンチェラーラはこの世代のDomaneで2016年のストラーデ・ビアンケを勝利しており、TREKも後年、このモデルを「高性能と快適性は相反しないことを示した」と振り返っています。

つまり第2世代Domaneは、用途を変えた世代というより、初代の「石畳を速く、快適に走る」という目的を、前後IsoSpeedによってさらに徹底した世代だったと言えます。

なお、この世代からディスクブレーキ対応が本格化。まだリムブレーキ仕様は残っていましたが、軸足はディスクブレーキ側に移行していました。

2019-2021年: 積載性を高め多用途ロード化したGen3

2019年、Domaneは第3世代へモデルチェンジ。ここで、それまでの「石畳レースを快適に速く走るバイク」から、より広い用途を担うロードバイクへと性格を大きく変えていきます。

IsoSpeedは引き続き前後に採用され、最上級のSLRグレードではリア側の調整機構も継続。一方で、フレーム形状はよりエアロを意識したものとなり、先代より高速走行性能も高められました。TREKはこの世代を、後に「TREK史上もっとも汎用性の高いロードプラットフォーム」と振り返っています。パリ〜ルーベのようなレースから日常のライドまで、一台で幅広くこなすことを狙った世代でした。

その方向性を象徴するのが、タイヤクリアランスと積載性能の拡大です。標準搭載タイヤは32mmとなり、最大38mmまで対応。フェンダー装着時でも35mmまで使用できました。さらにダウンチューブストレージを新設し、フェンダーマウントも継続。従来のDomaneが主に「石畳や荒れた舗装路を快適に走る」ためのバイクだったのに対し、Gen3では軽い未舗装路や長時間のツーリングまで視野に入り始めます。なお、このタイヤクリアランスを確保するという理由もあってか、この世代のカーボンモデルからディスクブレーキ専用となり、リムブレーキ仕様は廃止されました。

Gen1・Gen2が「石畳レースをより快適に速く走る」方向へ進化してきたのに対し、Gen3では初めて「一台でどれだけの用途に使えるか」という汎用性を広げてきた。Domaneの歴史の中でも、大きな転換点だったと言えます。

とはいえ、レース用途を捨てたわけではありません。Domaneは引き続きプロレースでも使われ、TREK自身も「パリ〜ルーベから日々のライドまで」と表現しています。つまりGen3は、石畳レーサーから完全に別物へ転身したというより、レース性能を残したまま、タイヤ・積載・フェンダーといった実用性を大幅に加えた世代と見るのが適切でしょう。

2019年に試乗したDomane SLR Gen3。かなり上のグレードのはずだったが、モッサリ感が強く印象に残った。

私もGen3のDomane SLRには試乗しましたが、正直なところGen2に比べるといろいろな意味で「重くなった」印象がありました。標準装着の32Cタイヤに加え、各種機構の影響でフレームも重量化しており、加速・登り・切り返しのすべてでモッサリした感触があったことを覚えています。

Gen3は用途の幅を大きく広げた一方で、その万能性のために重量や軽快感を犠牲にした面もあったのかもしれません。

2022-2025年: レース用と一般用を分けたGen4

2022年、DomaneはGen4へモデルチェンジ。Gen3で大きく広げた多用途性は維持しつつ、軽量化と走行性能の改善が図られました。

もっとも大きな変更はIsoSpeedの簡略化です。Gen3まで採用されていたフロントIsoSpeedを廃止し、リア側も調整機構をなくしたシンプルな構造へ変更。TREKによれば、SL/SLRは共に完成車で約300g軽量化された、とのこと。前後に複雑な振動吸収機構を持たせる方向から、リア側だけに絞って軽量化する方向へ戻ったわけです。Gen3で私が感じた「モッサリ」という感触は間違っていなかったのでしょう……。

Domane SLR Gen4。積載性を残しながら、IsoSpeedの簡略化による軽量化が進められた。(出典:TREK公式サイト

一方、Gen3で得た実用性はほぼ残されています。タイヤクリアランスは最大38mm、ダウンチューブ内ストレージ、フェンダーマウントを継続し、新たにトップチューブバッグ用のマウントも追加。舗装路のロングライドから軽いグラベルまで、一台で幅広く使える性格は変わっていません。

そしてGen4で特徴的なのが、通常のSL/SLRとは別に、Domane RSLというレース特化モデルが追加されたことです。

RSLはSLRのさらに上位という位置付けではなく、当時はフレームセット価格もSLRと同額。つまり、同格ながら用途の違う別仕様として用意されていました。通常のSL/SLRがEndurance Geometry・38mmタイヤ・ダウンチューブストレージやフェンダー対応を備える一方、RSLはMadoneやEmondaに近いH1.5ジオメトリを採用し、ダウンチューブストレージやフェンダーマウントを省略。タイヤクリアランスも35mmとして、快適性や多用途性よりも軽さとレース性能を優先した設計でした。

このRSLは単なるカタログ上の派生モデルではなく、実際にパリ〜ルーベをはじめとするレースで使用された競技仕様です。つまりGen4では、一般向けDomaneは多用途ロードとして進化を続ける一方、石畳レース用途だけをRSLという別枝として切り出したと見ることができます。

Gen3が「レースも、ロングライドも、軽グラベルも一台で」という万能化だったとすれば、Gen4はその万能性を維持しながら軽量化し、レース用途だけを別枝に分化させた世代と言えそうです。

なお、この世代のDomaneは試乗できていません。現段階ではまだショップに残っているはずなので、可能なら試乗してみたいものです。

余談ですが、この世代のDomaneは『ゆるキャン△』で犬山あおい(犬子)が乗るロードバイクのモデルになったと思われます。細部には違いがありますが、フレーム形状やTREKのBlendrシステムを思わせるマウントなど、Domane Gen4との共通点が多く見られます。

2026年~: 軽量オールロードへ一本化したGen5

2026年、DomaneはGen5へモデルチェンジ。初代から続いてきた象徴的な装備であるIsoSpeedをついに廃止しました。これで、Domaneからはメカニカルな振動吸収機構が完全に姿を消したことになります。

Gen4ではリア側にのみ残されていたIsoSpeedも廃止され、27.2mm径のカーボンシートポストのしなりを利用するシンプルな構造へ変更されました。Gen5ではタイヤクリアランスを最大40mmまで拡大。TREKは「35mmタイヤとの組み合わせなら、Gen4比5%以内の快適性を確保可能であると分かった」ことをIsoSpeed廃止の理由に挙げています。要は「タイヤが太くなってエアボリュームが増し、快適性はそちらに任せられるようになった」ということですね。

Domane SLR Gen5。アイコンであったIsoSpeedをついに廃止。ダウンチューブストレージの廃止もあり、かなり軽量化が進んだ。(出典・TREK公式サイト

一方で、トップチューブバッグやフレームバッグ、フェンダー用のマウントは引き続き用意されており、多用途性そのものが失われたわけではありません。ただし、Gen3・Gen4にあったダウンチューブ内ストレージは廃止されました。容量的には大きな後退ではありませんが、工具や予備チューブなどの重量物を車体の低い位置に収納できなくなった点は、ロングライド用途では意味のある変化です。

また、Gen4に存在したレース用のDomane RSLもGen5では姿を消しました。 これはつまり、TREKはレース用途をMadoneに任せ、Domaneはより明確にロングライド/オールロード側の立ち位置に移動させたということです。

Gen5は、多用途性を大きく損なわずにIsoSpeedとダウンチューブストレージを廃止して軽量化と構造の簡素化を進めたものの、積載性はわずかに後退。その一方で40mmタイヤ対応によって走行可能な路面の幅を拡大させました。

Domaneは、Gen5でレース用途から完全に離脱し「軽快なオールロード」へと再構成されたと言えるでしょう。

③ Cannondale「Synapse」

Synapseは2006年に登場した、舗装路ロングを主軸とするエンデュランスロードです。

初期からSAVE(Synapse Active Vibration Elimination)というコンセプトで、フレームそのものを適度にしならせて快適性を確保。2009年のHi-MOD化、2013年の大幅刷新を経て、クラシックレースでも勝てるほど走行性能を高めていきました。ただし、RoubaixやDomaneのようなメカニカルな振動吸収機構には一貫して手を出さず、フレームやシートポストの構造的なしなりで快適性を作るという方針を守っています。

2018年には最大32mmタイヤ・フェンダーマウント・ディスク専用化などによって用途を拡大し、全天候走行や軽いグラベルまで視野に入れた多用途ロードへ。

2022年にはライトとリアレーダーを一体運用するSmartSenseを導入。安全装備まで車体システムに組み込みました。現行世代ではタイヤクリアランスをさらに大きく広げ、StashPortによるフレーム内収納を追加。SmartSenseもGen2となり、前世代で弱点だった稼働時間を大幅に改善しています。

舗装路ロングを出発点に、レース性能→多用途性→安全装備→走破性へと守備範囲を段階的に広げてきたモデル。現在は高速性を残しながら、長距離実用と軽グラベル対応までまとめた高速オールロードへ進化しています。

Synapseの用途変化の歴史(クリックで展開)

2006~2012年: 初期Synapse

Synapseは2006年モデルとして登場。キャノンデール初のカーボンロードバイクで、基本理念は「舗装路を長時間、快適かつ効率よく走ること」でした。

2008年のCannondaleのカタログより。当時のカテゴリは「パフォーマンスロード」だった。ちなみにSuperSixは「エリートロード」。(出典:キャノンデール公式サイト

快適性の演出方法は、ほぼ同世代デビューのRoubaixとはかなり違ったアプローチを取っていました。RoubaixがZertzという専用部材を使って振動吸収を狙ったのに対し、Synapseはチェーンステーやシートステーの形状を工夫し、フレームそのものを適度にしならせる「SAVE(Synapse Active Vibration Elimination)」を採用。メカニカルな可動機構に頼らず、横剛性を確保しながら縦方向のコンプライアンスを持たせるという考え方でした。

一方で、一般向けのロングライド専用車というわけでもありません。2008年のカタログでは「COBBLE KILLER OR LONG HAUL COMFORT – YOU CHOOSE(石畳を制するか、長距離を快適に走るか……選ぶのはあなた。)」というキャッチフレーズを掲げ、春のクラシックからセンチュリーライドまでを用途として想定。フィリッポ・ポッツァートがパリ〜ルーベでSynapseを選んだことも紹介されています。

そして2009年にはフルモデルチェンジを実施。上位モデルにHi-MODカーボンを導入し、BB30やSAVEを取り入れたフォーク/シートポストなども採用され、快適性だけでなく軽さや剛性、レースレベルの走行性能まで強く意識したエンデュランスロードへと進化しました。

つまり初期Synapseは、舗装路ロングを基本用途としながら、早い段階から石畳レースにも対応し、2009年以降はその“速さ”をさらに強化していったモデルと見るのがよさそうです。

2013~2017年: 石畳レース対応を強化

2013年、Synapseは大きく刷新されます。 この世代では、軽量化と高剛性化を進める一方で、快適性を生み出す仕組みも大幅に見直されました。

新たに採用されたのが、BB周辺の剛性を高める「Power Pyramid」と、左右非対称のBB30A。さらにSAVE PLUSを発展させ、25.4mm径の細身シートポストと内蔵式シートクランプを組み合わせることで、シートポストをより長くしならせる構造へと進化しています。ジオメトリも専用の「Synapse Endurance Race Geometry」とされ、従来の快適性重視だけでなく、より高い速度域での走行性能を意識した設計になりました。

この世代で強く意識されたのが、「長距離を楽に走る」だけでなく、「長時間にわたって速く走る」ことです。開発目標には前作以上の剛性、路面追従性の向上、1,000g以下のフレーム重量が掲げられ、Hi-MODモデルでは950g級の軽量フレームを実現しました。

開発にはCannondale Pro Cyclingの選手たちも参加しており、ペーター・サガンもプロトタイプをテストしています。ただし、Domaneにおけるファビアン・カンチェラーラのように「サガンの要求から生まれたモデル」というわけではありません。むしろ当初はSuperSix EVOを好んでいたサガンが、新型Synapseを石畳で試した結果、その性能を気に入り、クラシックで使うようになったという流れだったようです。サガン用には、より低いスタックの専用ジオメトリまで用意されていました。

実戦でも結果はすぐに表れ、2013年にはモレノ・モーゼルがストラーデ・ビアンケで優勝。サガンもヘント〜ウェヴェルヘムで勝利し、ロンドでは2位に入っています。

この世代のSynapseは、舗装路ロングという基本用途を残しながら、快適性・軽量性・剛性をまとめて引き上げ、クラシックレースでも本気で勝負できる高速エンデュランスへ踏み込んだ世代と見るのがよさそうです。

2018~2021年: 多用途への対応

2018年、Synapseは再び大きく刷新されます。 キャノンデールが掲げたのは「TRUE ENDURANCE MACHINERY」というコンセプトで、SuperSix EVOやCAAD12のようなピュアレーサーとは別に、速く・遠く走ることに加え、より幅広い使い方を一台でこなす「Do it all」なロードバイクを目指しました。

SAVEマイクロサスペンションはフレーム・フォーク・25.4mm径シートポストまで含めて再設計され、ジオメトリも従来より低く遠いハンドル位置・短いホイールベース・立ったヘッド角へ変更。快適性を維持しつつ、よりレーシーで反応性の高い性格が与えられています。

一方で、用途の幅は明確に広がりました。最大32mmタイヤに対応し、カーボンモデルでもフルフェンダー用アイレットを装備。さらにSEシリーズでは30Cタイヤを標準装備し、グラベルライドなど、従来の舗装路中心のエンデュランスロードから一歩外へ踏み出す使い方も意識されていました。

つまりこの世代のSynapseは、Endurance Raceとしての高速性能を残しながら、全天候・日常利用・軽いグラベルまで守備範囲を広げた多用途ロードへ進化した世代と見るのがよさそうです。

2022~2024年: SmartSenseの導入

2022年、Synapseはまたもフルモデルチェンジ。 前世代で広げた多用途性を引き継ぎつつ、エアロ要素や拡張性、メンテナンス性まで含めて再設計されました。キャノンデール自身も、SuperSix EVOやSystemSixとは異なる「エンデュランスバイク」として、より幅広いチャレンジに使えるモデルへ作り変えています。

フレームはカムテール形状を多用したエアロ寄りのデザインとなり、従来のSAVEらしい扁平チューブ形状はかなり薄まりました。一方で、カーボン積層やドロップドシートステーによって快適性を確保。シートクランプも臼式から一般的な方式へ戻され、BBにはBSA規格を採用するなど、トラブル対応やメンテナンス性も重視されています。

実用面では、タイヤクリアランスが前世代の最大32mmから最大35mmへ拡大。フェンダー用アイレットは維持しながら、トップチューブバッグ用アイレット・ダウンチューブ下のアイレットを増設し、積載能力を強化。舗装路ロングだけでなく、オンロード中心のバイクパッキングや軽いグラベルまで見据えた構成でした。

そして最大の特徴がSmartSenseです。フロント/リアライトとGarmin製リアビューレーダーを、ダウンチューブ上の共通バッテリーから給電するシステムで、個別充電の手間を減らしつつ安全性を高めることを狙っていました。キャノンデールは、こうした電装を後付けではなく車体の一部として統合したわけです。

この世代のSynapseは、前世代の多用途ロードという方向をさらに進めながら、速さ・快適性・積載性に加えて「安全装備の統合」までエンデュランスロードの役割に含めた世代と言えるでしょう。

なお、初代SmartSenseの共通バッテリーは19.4Wh。最も明るい設定ではライト+レーダーで約3時間しか持たず、ロングライド用途では少々心許ないものでした。省電力モードなら最大20時間程度まで伸ばすことができましたが、それではちょっと暗い。せっかく長時間走り続けられる積載能力を持っているのに、純正のライトの実用性が高くないのは少々残念に思えました。

2025年~: SmartSenseを進化&オールロード化

2025年、Synapseはフルモデルチェンジ。 前世代で導入したSmartSenseを第2世代へ進化させると同時に、タイヤクリアランスを更に拡張し、より明確なオールロード方向へ踏み出しました。

タイヤクリアランスは前世代の35mmから大幅に拡大し、海外仕様ではフロント最大48mm、リア最大42mmに対応。フェンダーマウントも引き続き備え、舗装路だけでなく荒れた路面や軽いグラベルまで、走れる路面の幅が大きく広がっています。

ダウンチューブストレージ。同じ空間にバッテリーも収納される。

積載面では、ダウンチューブ内に「StashPort」と呼ばれるダウンチューブストレージを新設。工具や予備品をフレーム内部に収められるようになりました。一方で、前世代にあったダウンチューブ下面のボトルケージ用アイレットは廃止。内蔵収納は増えたものの、重量物をフレーム下側に外付けできる自由度は失われており、積載性は一方向に強化されたわけではありません。

そしてSmartSenseも大幅に改善されています。Gen2では前作の倍以上の容量となる50Whバッテリーを採用し、点滅モードで最大24時間、常時点灯でも12時間以上の稼働が可能に。初代ではロングライド用途には少々心許なかったランタイムが、ようやく終日ライドでも現実的に使える水準になりました。そして、外付けだったバッテリーもフレームに内蔵され、スッキリした見た目も獲得しています。

この世代のSynapseを象徴する存在が、プロロードレーサーのラクラン・モートンです。正式発表前の新型Synapseを使用してオーストラリア一周14,200kmのFKT(Fastest Known Time: 最速記録)に挑戦し、30日9時間59分で完走。従来記録を1週間以上更新しました。Cannondale自身もこの挑戦を「究極のテスト」と位置付けており、現行Synapseが単なる快適なロードではなく、長期間にわたって高い速度を維持するためのバイクとして開発されていることを象徴する実績と言えます。

現行Synapseは、前世代までの多用途性をさらに発展させ、走破性・積載性・電装の実用性をまとめて引き上げた高速オールロードへ進化した世代であると言えます。

最高峰モデル、Synapse LAB71に横浜で試乗。乗り味は素晴らしかった。ただし価格は200万超え。

この世代は私も実際に試乗しましたが、乗り心地と足当たりの良さは最高でした。お値段的にちょっと手は出ませんでしたが、一度使ってみたいバイクではあります。

④ Bianchi「Infinito」

Infinitoはイタリア語で「永遠」を意味する名前を持つ、Bianchiのエンデュランスロードです。

2013年に登場したInfinito CVは、パリ〜ルーベをはじめとする北方クラシックを強く意識した石畳レーサーとして誕生。独自の振動減衰素材「Countervail」を採用し、素材とカーボン積層そのもので振動を抑えるという独自の方法を選択。2019年にInfinito CVは大幅刷新されましたが、クラシックを狙う石畳レーサーとしての性格は継続しました。

一方、2020年にはCountervailを搭載しないInfinito XEが登場。石畳レースを担うCV系とは別に、グランフォンドなど舗装路を長時間、速く快適に走る用途へ分岐しました。2024年にはXEの後継的な立場として車名をシンプルなInfinitoに改めましたが、ケーブル内装等の近代化が行われたのみでキープコンセプトが貫かれました。

2026年、Infinitoは大きく方向転換。最大40mmタイヤに対応して軽グラベルまで守備範囲を広げ、Countervailも復活。さらに専用シートポストの構造的なしなりを組み合わせ、従来の「素材による振動減衰」に新しい快適性の作り方を加えました。ダウンチューブ内ストレージも備えましたが、フェンダーやバッグ積載用のアイレットを増やす方向には進んでいません。

石畳レース用のInfinito CVから、舗装路ロングのXE系へ枝分かれし、現在は再びCountervailを取り込みながら1本の道に合流。最新モデルでレースからは距離を置き、オールロード方面への転向を図っています。

Infinitoの用途変化の歴史(クリックで展開)

Infinito CV: 石畳レースに特化した本流

Infinito CVは2013年、パリ〜ルーベを目前に発表されました。 開発にはヴァカンソレイユのファン・アントニオ・フレチャも関わり、同年のクラシックで実戦投入されています。

最大の特徴が、Bianchi独自の振動減衰技術「Countervail」です。カーボン積層の中に粘弾性材料を組み込み、材料そのもので振動を減衰させるというもの。RoubaixやDomaneのような可動機構とは異なる方法で、快適性と剛性の両立を狙いました。ちなみに、モデル名のCVはCountervailの略称です。

その後もInfinito CVはクラシックレースで使われ続け、2019年のパリ〜ルーベではワウト・ファンアールトが従来型のInfinito CV(リムブレーキ版)を選択しています。

同じ2019年にはInfinito CVがフルモデルチェンジ。ディスクブレーキ専用設計となり、最大32mmタイヤに対応。空力や剛性も見直され、引き続きクラシックレースを強く意識したモデルとして登場しました。2019年末にはワウトらが新型でパリ〜ルーベの石畳をテストし、Bianchiも2020年春のクラシック投入を予告していました。

ところが直後にCOVID-19の感染拡大で春のクラシックが延期・中止。クラシックレース延期開催時もワウトはOltre XR4を使用し、肝心の2020年パリ〜ルーベは中止となります。翌2021年にはJumbo-VismaがCervéloへ移行したため、確認できる範囲では、この新型Infinito CVはクラシック本番に投入されていません。一部の選手が使っていた可能性はありますが、少なくともスター選手の主力としては使われませんでした。

初代から2019年型まで、Infinito CVの狙いは一貫して石畳レース。Countervailで振動を抑えながら荒れた路面を速く走る、という役割を担ったモデルであったと言えます。ただし、2019年のモデルチェンジ後は本来の領域での活躍はありませんでした。

2020年から2024年まで乗っていたINFINITO CV(2020年モデル)。乗り味は最高だったが、荷物の積載に大変苦労した。

なお、私がかつて乗っていたINFINITO CVは、2019年の刷新後のバージョン。注文は2019年12月で、納車は2020年3月中旬でした。

納車直前にはワウトが「INFINITO CVでクラシックレースに出るぞ!」という投稿が行われていてワクワクしていたのですが……このツイートの直後に春のクラシックレースの延期が発表。前述の通り結局クラシックレースに投入されることはありませんでした。

トップチューブとヘッドチューブ交点の不自然な盛り上がり。トップチューブバッグが上手く付かない。

そして納車後に気づいたのですが、このフレームには荷物を積載するための仕組みが一切ありませんでした。さらに、トップチューブはエアロ効果を狙ったのか不自然に盛り上がっており、トップチューブバッグの座りも悪い。やはり、INFINITO CVはあくまでも石畳レーサーであって、ロングライドバイクではありませんでした。乗り心地も運動性能も非常に良かったんですけどね。

「ロングライド用途に使おうと思っていたのに、石畳レーサーを買ってしまう」という行動を初代Roubaixに続いて繰り返してしまいました。

Infinito XE: 舗装路ロングへの分岐

2020年モデルとして登場したInfinito XEは、Infinito CVとは別の方向性を担うモデルでした。

CVと近いスポーティなジオメトリを持ちながら、Countervailを省略し、より手の届きやすい価格帯へ。名称のXEは「Extra Endurance」を意味します(イマイチ意味が分かりません)。

XEは単なるInfinito CVの廉価版ではありません。Intensoの後継として新たに設計され、CVとは別の金型を使用。ディスクブレーキ専用、最大32mmタイヤ対応とし、グランフォンド等の「舗装路を長時間、速く快適に走る」用途を主眼に置いていました。

石畳レースを強く意識したInfinito CVに対し、XEは舗装路ロングを担う系統として分岐したモデルと見るのが分かりやすいでしょう。

発表直後の試乗会で乗ったInfinito XE。廉価版と聞いていたが思いのほか乗り心地が良く、走行性能も悪くなかった。

Infinito CVの購入前に比較対象として試乗しましたが、廉価版とは思えない走りに驚いたことを覚えています。スタッフの方いわく、「Infinito CVで積層のテストをかなりのパターン行った結果、Countervailを使わずとも乗り心地が良くなる積層パターンを見つけた」そうで。なかなかコストパフォーマンスの高いモデルだったと思います。

ただし、このモデルにもバッグ用のアイレットや、フェンダーマウントは一切ありません。

2024年版Infinito: XEを引き継ぐ舗装路ロング系

2024年、BianchiはInfinito XEに代わる形で、車名をシンプルな「Infinito」へ変更しました。

ただし立ち位置そのものは大きく変わっておらず、上位のInfinito CVとは別に、「Countervailを搭載しない舗装路ロング向けのエンデュランスロード」という性格を引き継いでいます。

このモデルでは、XEでは外出しだったケーブル類をフル内装化し、見た目と空力性能を現代的にアップデートしました。タイヤクリアランスは最大32mm。当時すでに35〜40mmへ拡大しつつあった他社のエンデュランスロードと比べると控えめです。

フェンダーや積載用の追加マウントの増設もなし。用途を広げるための装備を増やすのではなく、舗装路を長時間快適に走るというInfinito XE以来の方向性をそのまま洗練したモデルでした。

結果的にはこの世代は短命で、2026年の新型Infinitoへのモデルチェンジによって姿を消します。

2026年版Infinito: オールロードへの転換

2026年、Infinitoは再び大幅に刷新されました。

最大の変化は、従来の「舗装路ロング」中心の性格から、舗装路と軽グラベルの両方を視野に入れたオールロードへ踏み込んだことです。Bianchi自身も新型を「all-rounder」と位置付け、最大40mmのスリックタイヤに対応しています。

快適性の面では、かつてInfinito CVの象徴だったCountervailが再び中核技術として採用されました。さらに新型では、必要な部分を意図的にしならせる専用シートポストを新たに採用し、そこにもCountervailを組み込んでいます。従来のInfinito CVが材料と積層による振動減衰を主眼としていたのに対し、2026年型ではそこに部品の構造的なしなりを組み合わせるようになりました。

一方で実用性も強化され、ダウンチューブ内部には工具やウインドジャケットなどを収められるストレージを新設。ジオメトリはスタックを高く、チェーンステーを長くする方向へ見直され、長時間走行時の快適性と高速安定性を重視しています。

ただし、Bianchiらしくフェンダーや積載用のアイレットを大量に追加する方向には進んでいません。積載能力を拡張して多用途化するというより、タイヤ幅の増大とダウンチューブストレージによって走れる路面と行動範囲を広げたモデルと見るのがよさそうです。

石畳レースを担ったInfinito CV、舗装路ロングへ分岐したXE/2024年型を経て、2026年型ではCountervailを取り戻しながら40mmタイヤ対応のオールロードへ。一度分岐したInfinitoは再び一つの系統に合流し、用途そのものを広げる方向へ舵を切りました。

あまり名言はされていませんが、この世代で石畳レース用途からは距離を置いたと見て良いと思います。にも関わらず、2026年版Infinitoはパリ~ルーベとのコラボバイクが発表されています。

横浜で2026年版Infinitoに試乗。見た目からは想像できない軽快さに驚き、乗り心地も良かったのですが……

2026年版Infinitoには実際に試乗。35Cという太いタイヤが標準搭載されているのにもかかわらず鈍重さはなく、機敏に加速することに驚きました。その一方で安定性は高くて乗り心地も良い。不思議な感触でした。

ただ……やはり積載能力の低さが気になりました。特に、こういったしなりやすいシートポストを採用している場合、大型サドルバッグを付けると動きすぎてしまう場合があります。別の箇所にバッグを取り付けるとなるとかなり制限が厳しい。そうなると、それなりの荷物を持つ必要があるロングライドには投入しにくいということになります。

乗り味は非常に気に入ったのですが、私の使い方には合わないため、泣く泣く購入候補からは外すことになりました。

⑤ Canyon「Endurace」

Enduraceは2014年に登場した、舗装路を長時間、快適かつ速く走ることを主眼としたエンデュランスロードです。 石畳レースを起源としたRoubaixやDomaneとは違い、最初から一般舗装路での高速ロングライドが中心。Sport GeometryやVCLS 2.0シートポストによって快適性を高めつつ、「十分にレース可能」な軽快さも残していました。

2022年以降は35mm級タイヤやトップチューブバッグ用アイレット、上位モデルではフレーム内ストレージを追加し、基本用途を変えずに長時間走行での実用性を少しずつ拡張。

そして2026年には用途が大きく分岐。CFRはマチューのためのクラシックレース用途へ、CF/CF SLXは従来の高速ロングライド路線を継承しながら積載・全天候性能を強化。さらに旧Endurace ALの系譜を引くAllRoadは、40mmタイヤ・フェンダー・リアキャリア対応によってキャンプツーリングまで視野に入る多用途モデルへ発展しました。

舗装路ロングという比較的シンプルな出発点から、実用性を徐々に広げ、最後は「レース」「ロングライド」「ツーリング」へと三方向に枝分かれしたモデル。 Enduraceは、同じ車名の中で用途の幅が最も大きく広がった例のひとつと言えそうです。

Enduraceの用途変化の歴史(クリックで展開)

2014~2021年: 舗装路を長く速く

Enduraceは2014年に登場しました。 Ultimateなどレーシングモデルが中心だったCanyonが、快適性をより強く意識して開発したモデル。ただし単なる快適車ではなく、「十分にレース可能なバイク」として設計されていました。

この時期のEnduraceのアイコンと言えるのが、VCLS 2.0シートポストです。2枚のカーボン板を重ねた構造で、板バネのようにしなることでサドル側の上下動を生み、路面からの衝撃を和らげるというもの。ただ、ある程度シートポストが出ていないと使えないため、日本人にはなかなか使いにくい装備だったという声もあります。

ジオメトリはUltimateよりやや短いリーチと高いスタックを持つSport Geometryを採用し、25Cタイヤも標準装備。一方で、トップチューブバッグ用アイレットやフレーム内ストレージなどの積載装備は非搭載。長距離向けとはいっても、荷物を積んで長時間行動をするための自転車ではありませんでした。

石畳レース由来ではなく、最初から舗装路を長時間、快適かつ速く走ることを主眼としたエンデュランスロードでした。Canyonはこの方向性を後年まで一貫して「Go Long」と表現し続けています。

2022~2025年: 高速舗装路ロングに実用性を追加

2022年、Enduraceは新しい世代へ移行。

まずCF/ALが刷新され、タイヤクリアランスを従来の30mmから35mmへ拡大。トップチューブバッグ用のアイレットも追加され、従来より荷物を持ちやすくなりました。35mmのグラベルタイヤを装着したAll-Road仕様も用意され、舗装路中心という基本性格を残しながら、荒れた路面への対応力も少し広がっています。

Endurace CFR 2023のトップチューブ収納。フタ部分にはアイレットはなく、トップチューブバッグをボルトオンすることは出来ない

2023年には上位のCFR/CF SLXも刷新。35mmクリアランスに加え、トップチューブ内ストレージを新設しました。ダウンチューブではなくトップチューブに収納を設けるのはかなり珍しいです。なお、Canyonはこの世代でも「GO LONG」を掲げ、「距離を消すためのエンデュランスバイク」と位置付けており、主眼はあくまで長距離を速く快適に走ることです。

一方、フェンダーマウントなどは備えず、DomaneやSynapseほど多用途化したわけではありません。初代の「舗装路を長く、速く」という性格を保ったまま、太いタイヤと最低限の積載能力によって長時間走行での実用性を少し広げた世代と見るのがよさそうです。

2026年~: 3方向へ分派

2026年、Enduraceは一つの方向へ進化するのではなく、用途別に明確に枝分かれしました。

Endurace CFR 2026。積載系の装備は全て廃され、石畳レーサーへと変化。他社とは真逆の方向に進んでいる珍しい例。

最も大きな変化がEndurace CFR。Alpecin–Premier Techと共同開発され、低く長いレーシングポジションや35mmというモデル中では狭めのタイヤクリアランスを採用。マチュー・ファンデルプールがE3で勝利するなど、Enduraceとして初めて明確にプロのクラシックレースを担うモデルとなりました。積載用のアイレットは無くなり、フェンダーマウントもありません。完全なレーサーです。

多くのブランドがエンデュランスロードの石畳レースへの投入をやめてオールロード化する中で、Endurace CFRだけは明確に逆方向の変化を始めたことになります。

一方、CF/CF SLXは従来からの高速ロングライド路線を継承しました。CF SLXでは、従来のトップチューブ内ストレージに代わって、より容量の大きなダウンチューブ内ストレージを採用。最大38mmタイヤに対応し、この世代からフェンダーマウントも追加されるなど、全天候での長距離走行に使いやすい構成へ進化しています。

さらにCFは積載性をより強く意識した仕様となり、フレーム各部のアイレットを増やしてバッグやアクセサリーを取り付けやすくなりました。「速く長く走る」というEndurace本来の方向性は変わっていませんが、2026年型では単に快適に走るだけでなく、必要な荷物を持ち、天候変化にも対応しながら長時間走るための実用性が大きく強化されています。

Endurace AllRoad 2026。従来のEndurace ALの後継に当たり、用途をより多用途側へと振ったモデル。(出典:Canyon公式サイト

さらに、従来のアルミモデルであるEndurace ALの系譜を引き継ぎつつ、40mmタイヤやフェンダー、リアキャリア対応によって多用途性を大きく強化した「Endurace AllRoad」が新たにシリーズへ加わりました。リアキャリアまで装着できることで、キャンプツーリングのような積載を伴う走りも視野に入ってきます。

2026年のEnduraceは、「石畳レーサーのCFR」「舗装路ロングのCF/CF SLX」「ツーリング・多用途のAllRoad」という三つの役割へ分かれました

⑥ GIANT「Defy」

Defyは2009年、OCRの後継として登場したエンデュランスロードです。 OCRの快適性を受け継ぎつつ、TCRの設計思想を取り入れて走行性能を高め、最初から「舗装路を長時間、快適かつ速く走る」ことを主眼としていました。

2012年以降はパヴェやクラシックレースへの適性も高まり、2015年にはD-Fuseシートポストを採用。同年のパリ〜ルーベではジョン・デゲンコルプがDefy Advanced SLで優勝しました。ただし、こうした実績があっても、軸足は一貫して舗装路ロングにあります。

快適性についても機械的な振動吸収機構には頼らず、フレーム設計やD-Fuseシートポスト/ハンドルバーのしなりで対応。実用面では、初期のアルミDefyにはフェンダーやリアキャリア対応もありましたが、2017年にその系統はContendへ移行。以降のDefyはフェンダー対応こそ残すものの、積載性を大きく広げる方向には進んでおらず、フレーム内ストレージも採用していません。

他社が石畳レース、多用途化、オールロード化へ大きく振れる中で、Defyは珍しいほど「舗装路を長く、速く走る」という基本思想を守り続けてきたモデルです。

Defyの用途変化の歴史(クリックで展開)

2009~2011年: OCRの快適性を受け継ぐロングライドバイク

Defyは2009年、従来のOCRシリーズの後継として登場しました。 OCRが比較的ツーリング寄りの快適性を重視していたのに対し、DefyではTCRの設計思想を取り込み、剛性や加速性を強化。アップライト寄りのポジションと安定したハンドリングを残しながら、よりスポーティな舗装路ロング向けへ進化しました。

快適性は、ジオメトリやフレーム/フォークの設計やタイヤなどで作る比較的シンプルな構成。機械的な振動吸収機構は備えていません。

実用性はグレードによって差があり、アルミモデルでは早い時期からフェンダー用アイレットや、モデルによってはリアキャリア対応も用意されていました。一方、カーボンのDefy Advanced系はより走行性能寄りで、初期にはそういった実用装備を備えていませんでした。

つまり初代Defyは、OCRの快適性を残しつつ「もっと速く、もっとスポーティに」という方向性で仕立て直した舗装路ロング向けエンデュランスロードだったと言えます。この時点では石畳レースへの対応する姿勢は見られません。

2012~2018年: 石畳レースへの対応力を強化

2012年頃から、Defyはそれまでの舗装路ロングという基本性格を残しながら、プロレースや荒れた舗装への対応を強めていきます。 ラボバンクからの要望を受け、長距離レースやパヴェでも疲労を抑えながら高い速度を維持できるDefy Advanced SLが開発されました。

2015年には大幅に刷新され、セカンドグレードからはDefyを象徴するD-Fuseシートポストを採用(トップグレードはISP)。断面形状によって前後方向にはしなりやすく、横方向は剛性を確保することで、機械的な振動吸収機構を使わずに快適性を高めています。この頃にはディスクブレーキ化も進み、荒れた路面でのコントロール性も重視されるようになりました。

さらに2017年頃からカーボンモデルにもフェンダー用アイレットが加わるなど、走行性能だけでなく全天候での実用性も少しずつ高まりました。

そして2015年のパリ〜ルーベでは、ジョン・デゲンコルプがDefy Advanced SLで優勝。ただしプロレースでは当時ディスクブレーキを使用できなかったため、使用されたのはリムブレーキ仕様でした。

実用性の面では、アルミDefyにはフェンダーやリアキャリアに対応する仕様もありましたが、2017年モデルからアルミDefyはContendへ統合され、Defyはカーボン系へ一本化されました。結果として、通勤や軽ツーリング、積載といった実用寄りの役割はContend側へ譲り、Defyはより純粋に高速ロングライドを担うモデルへ整理されたと見ることができます。

この時期のDefyについて整理すると、舗装路ロングライドという基本用途を保ちながらパヴェやクラシックレースにも対応できる高速性能を身につけていきつつあったと言えます。

Defy Advanced 2016。ディスクロード黎明期ながら快適な乗り味。ただし、この頃はまだスルーアクスルではなくクイックリリース採用。

筆者は、2016年のサイクルモードでディスクブレーキ化直後のDefy Advancedに試乗。この頃のディスクロードはまだ乗り味が硬すぎるものが多かったのですが、既に上質な乗り味を備えていて驚いた記憶があります。

2019年~: 再び舗装路ロングに戻り高速化

2019年、Defyはフルモデルチェンジ。

D-Fuseシートポストに加えて、新たにD-Fuseハンドルバーを採用し、前後方向のしなりによって路面からの衝撃を抑える考え方を車体前側にも広げました。GIANTは、こうした構造的なしなりによって快適性を確保し、複雑なサスペンション機構には頼らない方針を明確にしています。

タイヤクリアランスは32mmまで拡大し、フェンダーマウントも装備。25mmなら軽快な舗装路走行、32mmならパヴェなど荒れた路面まで対応できるとされ、長距離での実用性も高まりました。

その後の現行世代では、タイヤクリアランスを38mmまで拡大しつつ、D-Fuseシートポスト/ハンドルバーをさらに進化。GIANT自身も「long rides」「all-day comfort」を前面に出しており、石畳レース用というよりも舗装路を長時間速く走るための軽量エンデュランスロードとして再整理された形に。

前世代で高めた荒れた路面への対応力は残しつつ、主役は再び「一般ユーザーの高速ロングライド」へ。Defyの本来の方向性に戻りながら、タイヤ幅とD-Fuseによって対応範囲を広げていって現在に至ります。

Defy Advanced 2024。車重は重いが、そこから想像されるほどモッサリはしていない。このあたりの世代からケーブルの完全内装に対応。

筆者は2024年にもDefy Advancedに試乗。完成車には32Cタイヤが装着されており、全体的に落ち着いた走りが印象的でした。

⑦ GHISALLO「GE-110」

GE-110は、2023年に登場したブルベを強く意識したエンデュランスロード。

開発には元プロロードレーサーで、現在はブルベを中心に走る三船雅彦氏の長距離経験が反映され、2022年のLELで最終テストも実施。単に快適なだけでなく、舗装路をある程度の速度で長時間走り続けることを重視しています。

特徴は積載前提の設計で、トップチューブ上やダウンチューブ下に備えられたアイレット、ボトル搭載能力、重量物を低い位置に集める考え方など、長時間行動に必要な荷物を積んでも走りを崩しにくいよう工夫されています。一方で、快適性のための機械的な振動吸収機構は持たず、構造は比較的シンプルです。

走れる路面を広げることよりも、舗装路を速く長く走ること、そのための荷物をきちんと持てることを優先したモデル。現代的なカーボンロードの走行性能と、長距離走行のための積載性を組み合わせた「現代版スポルティーフ」と見ることもできます。

GE-110の用途変化の歴史(クリックで展開)

2023年~: ブルベを主眼にした舗装路快走マシン

GE-110は、2023年に登場したブルベを強く意識したエンデュランスロードです。

開発には三船雅彦氏が深く関わり、試作を重ねたうえで、販売直前にはLEL(約1500kmの大ブルベ)で最終テストも実施。単に「長距離なら、剛性を落として楽なポジションに」という発想ではなく、実際のブルベで必要になる走行性能や積載性をかなり具体的に落とし込んでいます。

走りについても、極端に快適性へ振ったモデルではありません。一般的なレーシングロードに近い反応性を残しつつ、数十時間にわたって一定出力で踏み続けやすい剛性感に調整され、30〜35km/h程度の巡航を維持しやすい性格。カムテール形状やケーブル内装など、エアロ性能も意識されています。

試乗会では、1Lペットボトルを4本積んだ試乗車も用意。これだけの荷物を積んでも走行性能を崩さない「積載前提の設計」が特徴。(出典:GHISALLO公式アカウント)

GE-110の大きな特徴が積載前提の設計です。トップチューブ上とダウンチューブ下にアイレットを備え、重量物をBB付近へ集める「マスの集中化」を意識。さらにボトルケージ周辺は、荷物を積んだ際の揺れまで考慮してカーボン積層を強化しています。単に「荷物を付けられる」のではなく、荷物を積んだ状態でも走行性能を崩しにくくするところまで設計に含めているのが特徴です。

一方、快適性のための特殊な機械機構や材料は使わず、最大32Cのタイヤやカーボン積層調整に任せる比較的シンプルな構成です。何日も走るブルベでは、壊れうる機構を増やさないこと自体も一つの合理性があります。また、ブルベでは基本的に舗装路を走行することから、グラベルや荒れた路面に対する対応は省かれていることも特徴です。

フェンダー用マウントやブリッジは一切付いていない。筆者は3Dプリンタでフェンダー用ブリッジを自作した。

弱点はフェンダー対応で、専用のフェンダー用アイレットやブリッジは備えていません。雨天走行を避けられないブルベ用を謳うモデルとしては、ここは惜しいところです。

走れる路面を広げることよりも、舗装路を速く長く走ることを優先する。そのために必要な荷物を積んでも走りが崩れない。GE-110は今回取り上げた中でも、「時間方向の継続性」をかなり明確に追求したエンデュランスロードと言えます。

2025年の600kmブルベにて。大量の装備をつけても走りが重くならない。まさにブルベ向きの性能。

筆者は、2024年にブルベ用としてGE-110を購入。以降のブルベは全てGE-110で走っています。これまで所有したエンデュランスロードでの共通の悩みだった積載面が解決され、更に積載をしても走行性能が落ちにくい。

エンデュランスロード4台目にして、ようやく自らの用途と目的に合ったエンデュランスロードを購入できました。

共通する変化と分岐した部分

前章で、エンデュランスロード7モデルの20年間の歴史を見てきました。改めて、その内容を整理した年表を示します。

【再掲】エンデュランスロード 代表的な7モデルの公称用途年表(2004~2026年)

ここまで読んでいただいてお分かりになると思いますが……見事に各社バラバラな歴史を辿っていますよね

誕生時だけ見ても、プロの石畳レースのために作られたモデルもあれば、一般サイクリストが綺麗な路面でロングライドをするために作られたモデルもある。そうかと思えば、ブルベに特化したモデルもあります。

その後の変化を見ても、各社は思い思いのタイミングで「エンデュランス」の意味を再定義してきました。ある時は石畳レースをエンデュランスと呼び、ある時は週末のロングライドをエンデュランスと呼び、ある時はウルトラロングライドをエンデュランスと呼び、またある時は軽いグラベルを含むエピックなライドをエンデュランスと呼ぶ。同じモデル名を冠しているのにも関わらず、想定する用途は常に変化してきたわけです。

その一方で、ある程度共通した方向に変化してきた部分もあります。タイヤクリアランスの拡大や、快適性能の向上などはその代表例でしょう。

この章では、この20年間の各社のエンデュランスロードについて、共通して変化した部分と、分岐した部分を見ていきます。

石畳レーサーという役割の縮小

エンデュランスロードの20年間の歴史を俯瞰すると、2000年代~2010年代の前半にかけては、「プロレーサーが石畳レースを走るための特化マシン」という役割がかなり大きな位置を占めていました。

黎明期は石畳レースで実際に活躍

Roubaixはその名の通り「パリ~ルーベ」を強く意識して誕生したモデルですし、Domaneはカンチェラーラのクラシックレース用として開発されました。Infinito CVも石畳の振動を抑えながらも運動性能を下げないためにCountervailを採用しましたし、SynapseやDefyも石畳レース用として誕生したモデルではないものの実際にクラシックレースに投入されて実績を残しています。

つまり、当時は一般的なレーシングロードとは別に、荒れた石畳を高速で走るためのロードバイクを用意することには明確な意味があったわけです。

クラシックレースでレーシングモデルが優勝

しかし、2010年代後半になると、その役割は次第に小さくなっていきます。リムブレーキ期の終盤になるとタイヤクリアランスも増え、28Cタイヤを履けるフレームも増えてきました。レーシングモデルの快適性能も向上し、徐々にクラシックレースでもレーシングモデルを投入するチームが増えていった頃です。

最も象徴的な出来事は、2016年のパリ~ルーベでしょう。石畳レーサー用途として産まれたエンデュランスロードの花道とも言えるこのレースで、なんとエアロロードのSCOTT「Foil」が優勝してしまったのです。「特化したフレームを用意しなくても最難関の石畳レースを勝てる」ことが証明されてしまい、その後はクラシックレースでもレーシングモデルを使うチームが増加。

更にディスクブレーキ化が進んだことでレーシングモデルのタイヤクリアランスも大幅に増加し、低圧運用も一般化。快適性や走破性をタイヤで出せるようになりました。現在ではクラシックレースにエンデュランスロードが投入されることはほぼ無くなり、MadoneやTarmacのようなレーシングモデルで走ることが一般化しています。

石畳レースでの役割は終焉……と思いきや逆走するモデルも

現象だけ見れば「エンデュランスロードが石畳レースから消えた」なのですが、「レーシングロードが石畳を走れるようになった」と考えたほうが実態には近いと思います。その結果、RoubaixやDomaneのように石畳レースを出発点としたモデルも、現在は一般サイクリスト向けのロングライドや未舗装路を含むライドへと軸足を移しています。

もっとも、この流れは完全に一方向ではありません。2026年のE3ではマチューが未発表のフレームに乗り、独走勝利を飾っています。後に明かされるのですが、この時に乗っていたのが「Endurace CFR」。2026年モデルから石畳レース用に枝分かれしたモデルです。

Enduraceは一般サイクリスト向けのロングライドバイクとして産まれたにも関わらず、突如として石畳レーサーへと変貌を遂げました。他社とは全く逆行する流れですが、今後もEnduraceに追随するモデルが現れる可能性が無いとは言えません。クラシックレースが得意なスター選手向けのモデルを作れば、事実上のシグネチャーモデルになるわけで、ビジネス的にも意味があります。


こうして、エンデュランスロードが生まれた理由の一つである「石畳レーサー」としての役割は終わりつつあり、各社のエンデュランスロードは徐々に一般サイクリスト側の用途に重心を移していくことになります。

タイヤクリアランスは一貫して拡大

今回取り上げた7モデルの歴史を並べると、一番共通している変化が「タイヤクリアランスの拡大」です。もっともこれはエンデュランスロードに限らず、ロードバイク全体の変化ではあるのですが。

タイヤ幅拡大の目的が変化しつつある

初期のエンデュランスロードは25mm前後のタイヤが標準搭載。今となっては「細い」イメージがありますが、当時としては一般的なレーシングモデルよりは太めでした。

Infinito 2026の標準搭載タイヤは幅35mm。それでも挙動が重くならない工夫がこらされている。ちなみにママチャリの一般的なタイヤ幅が35mm。

しかし、世代を重ねるごとにタイヤ対応幅は広がり、現在では最低でも32mm、太いものになると40mm前後まで装着できるモデルも増えてきました。標準搭載されるタイヤも35mm前後のものが増えています。これだけ太いと動作が鈍重になりそうなものですが、昨今のエンデュランスロードはそうならない工夫がこらされたものも増えているようです。

ただし、タイヤが太くなったのはエンデュランスロードだけではありません。レーシングロード側もワイド化は進み、現在では28~30mmのタイヤがクラシックではないプロレースでも使われています。かつては、「レーシングロードより太いタイヤを履けること」自体がエンデュランスロード側の優位性を分かりやすく示していましたが、(快適さの実用性能では)その差は縮まりつつあります。レーシングロードに32Cのチューブレスタイヤを履かせて低圧にすれば、少なくとも綺麗な舗装路では必要十分の快適性が得られますからね。

この点を踏まえると、現代におけるエンデュランスロードにおけるタイヤ幅拡大の目的は、「レーシングロードよりも快適に走るため」よりも「レーシングロードでは想定しない路面まで走るため(≒走破性の拡大)」に意味が変わってきているのだと思われます。

快適性をどこで作るのか

さらに、タイヤのワイド化は「走破可能な路面の拡大」だけではなく、「快適性をどこで作るのか」にも影響を与えています。太いタイヤを低圧で使用することで、路面からの振動や衝撃の大半をタイヤ側で処理できるようになったからです。

初代DomaneからのアイコンだったIsoSpeed。Gen5をもって全廃となった。

Gen5のDomaneにおけるIsoSpeedの廃止はその象徴的な例で、初代から続いてきたアイコンを自ら捨て去りました。これについてTREKは「25mmタイヤの時代にはIsoSpeedが必要だったが、現在は35mmタイヤとフレーム/シートポストのしなりで、ほぼ同じ快適性を実現できる。ならば、より軽くシンプルな構造にできる」と発言しており、快適性を「フレーム側で作る」方向から「タイヤ側で作る」方向に変化したことを表しています。

タイヤクリアランスの拡大は、エンデュランスロードの守備範囲を舗装路の外側(≒軽グラベルや未舗装路)へ広げると同時に、快適性を生み出す設計にも影響を与えているということになります。

タイヤ幅の拡大は「銀の弾丸」ではない

ただし、タイヤが太くなることで、その自転車のあらゆる用途が広がる……というわけではありません。タイヤクリアランスの拡大によって広がったのは、主に荒れた舗装や軽いグラベルといった「走れる路面の範囲」です。積載性やフェンダー対応、長時間行動への適性まで同じように広がったとは限りません。

この違いについては、後ほど「万能性のベクトル」という観点から改めて整理します。

快適性の作り方は収斂せず

タイヤクリアランスの拡大に伴い、フレーム側における「快適性演出」のための機構は、以前よりも搭載の優先度が下がってきました。

前述の通り、DomaneがIsoSpeedを廃止したのはその代表例。ワイドタイヤを低圧で使えば、かつて専用機構が担っていた快適性について、かなりの部分を賄えるようになってきたということです(とはいえ、個人的にはフレーム側で生み出される快適性とタイヤ側で生み出される快適性では、少し違いがあると思うのですが今回は割愛)。

現在もフレーム側に残る快適性演出機構

ただし、それで各社の快適性へのアプローチが一つに収斂したわけではありません。

RoubaixのFutureShock 3.0。サスペンションの効き具合を手元で瞬時に変更可能。

Roubaixは現在もFuture Shockという機械的な振動吸収機構を残しています。Enduraceは、2枚のカーボン板をしならせるVCLS 2.0系のシートポストが引き続き使われ、DefyもD-Fuseによってシートポストやハンドルバーそのものを意図的にしならせる考え方を継続しています。

Infinito 2026のシートポスト。中間部を薄くして意図的にしならせる構造をしている。なお、Countervailも搭載し振動も減らす。

一旦姿を消した、Infinitoの振動減衰素材「Countervail」も現行世代で復活。かつては特に工夫が見られなかったシートポストについても、現行世代ではCountervailを搭載した上で意図的にしならせる形状へと変更しています。「素材で乗り心地を出す」ことに「構造によるしなりで乗り心地を出す」ことがプラスされた格好です。

快適性の作り方は今後も揃わなそう

つまり、近年は「タイヤ側に快適性演出の役割を移し、車体側はよりシンプルにする」流れがある一方で、車体側の工夫そのものが不要になったわけではないということです。やはり、「快適性」はエンデュランスロードを象徴するキーワードということなのでしょう。しかし、その実現方法はバラバラ。機械的に動かすのか、フレーム・部品をしならせるのか、素材で振動を減衰させるのか。20年経っても、各社はそれぞれ違う答えを選び続けています。

興味深いのは、タイヤのワイド化という大きな共通変化があっても、「快適性をどう作るか」については定跡が生まれなかったように見えることです。エンデュランスロードという同じカテゴリの中でも、快適性の設計思想は今もかなり多様なままだと言えるでしょう。

Countervail搭載を「CV」というロゴで強調するBianchi。快適性を出す仕組みは個性の演出の手段でもある。

もっとも、これは純粋に実用上の理由だけではなく、「そのモデルらしさ」を継承することや、他社との差別化を重視した結果なのかもしれません。Future ShockやD-Fuse、Countervailのように、名前を聞いただけでそのモデルやブランドを連想できる技術もあります。案外、そうした「分かりやすい個性」が購入理由になることもありますからね。

「万能性」には2つのベクトルがある

メディアにおいて、エンデュランスロードはしばしば「万能」「何でも出来る」と表現されます。しかし、ここまでの各モデルの歴史を見てくると、その万能性には少なくとも2つのベクトルがあるように私には思えます。

路面方向の万能性

ひとつは、「どこまでの路面を走れるか」という、路面方向の万能性です。

かつてのエンデュランスロードの本流は、石畳のような「バランスを崩すほどの大きな衝撃」を与える路面に対応することでした。しかし、現在はそちらの意味合いは薄れつつあります。

現代の流れとしては、タイヤクリアランスを拡大して太いタイヤを履けるようにし、綺麗な舗装路はもちろんのこと、荒れた舗装、さらには軽めのグラベルまでを快適に走れるようにする。この記事の冒頭で述べた「オールロード」の方向性が本流です。近年の大手各社のエンデュランスロードは、主にこちらの方向への守備範囲を広げるように変化してきたと思います。

時間方向の万能性

もうひとつは、「どれだけ長い時間、多様な環境に対応して走り続けられるか」という時間方向の万能性です。

  • 走行継続に必要な荷物の積載
  • 雨天走行に対応するフェンダーの取り付け
  • 水分を確保するためのボトル取付箇所の増設
  • 重量物をフレーム内部に仕込んで重心を下げ、安定性を増すダウンチューブストレージ
  • ライトやレーダーをスマートに統合し、夜間走行の安全性を増すSmartSense

こうしたエンデュランスロード特有の機能は、走行時に起こるトラブル・昼夜や天候の変化・気温の変化への対応力を高めています。そして、この対応力の向上が最終的に何に繋がるのかと言えば「長時間走り続ける」ということです。

厳密には、「荷物が多く持てる(≒トラブル適応性向上)」と「様々な天候に対応できる」と「昼夜を通して走り続けられる」はそれぞれ別の軸なのではないかと思っていますが、そこを語りだすと複雑になってしまうので、今回は環境変化に適応するための「時間方向の万能性」にまとめました。

各モデルの位置づけを2軸で考える

以下は、エンデュランスロードにおける万能性の2軸を表現した概念図です。

エンデュランスロードにおける「万能性」の2軸マップ。

この2軸で考えると、同じ「エンデュランスロード」というカテゴリの中でも、タイプによって狙っている領域がかなり違うことが分かります。

「舗装路特化」領域は左下に位置し、軽装で舗装路を効率良く走ることを得意とします。そこから路面方向へ万能性を伸ばしたものが「走破性強化」領域、時間方向へ万能性を伸ばすと「長時間対応」領域となります。そして両方を伸ばせば、走れる路面も広く、積載や天候変化にも対応する「両方向強化」領域に近づいていきます。

ただし、右上の多用途タイプは豊富な機能を持たせてタイヤも太くなる(≒重量化)関係上、走行性能は犠牲になりやすいことを考慮する必要があります。基本的には左下に行くほどロードレース競技的な性能は高まるはずです。

また、今回の7モデルでは明確なグループとしては現れませんでしたが、仮にブルベに特化したモデルが複数存在するなら、舗装路中心のまま時間方向の万能性を大きく伸ばした「ブルベ特化」タイプも考えられるでしょう。グラフでは左上の「長時間対応」領域に来るはず。GE-110は、その方向にかなり近いモデルであると言えます。

「万能性」にも守備範囲がある

補足すると、この図のどこか1点に各モデルが存在するわけではありません。実際のエンデュランスロード各モデルにはそれぞれある程度の守備範囲があります。そこで、代表的なタイプがどの領域をカバーするのかを概念的に重ねてみます。比較のために、エンデュランスロードではないレーシングロードも重ねています。

エンデュランスロードにおける「万能性」の2軸マップに、本記事で取り上げた「タイプ」のカバー範囲を重ねたもの。

このように各タイプの範囲を重ねてみると、「万能」という言葉の曖昧さがハッキリします。

例えば、「オールロード」タイプは路面方向(横軸)にはかなり広い範囲をカバーするものの、積載や長時間行動への対応までをカバーしているとは限りません。逆に「ブルベ向き」タイプは走る路面こそ舗装路中心ですが、積載能力や夜間走行、悪天候への対応まで含めた時間方向(縦軸)では非常に広い守備範囲を持ちます。

つまり、「走破性が高い」ことと、「長時間行動への対応力が高い」ことは別物なのです。

もちろんタイヤが太くなれば、乗り心地が良くなって振動による疲労が減り、「長時間漕ぎ続ける」ことは可能でしょう。しかしメカトラが起きたら? 雨が降り出したら? 夜間走行になったら? それは乗り心地が良いことだけでは解決できない問題です。

そして、各タイプの守備範囲の楕円が重なっていることからも分かるように、実際には明確な境界線があるわけではありません。これまで語ってきた通り、同じメーカーの同じモデル名でも世代によって設計思想や対応範囲も変わりますからね。

「万能なエンデュランスロード」と一口に言っても、重要なのはその守備範囲の面積だけではありません。どの方向へ守備範囲を広げているのかを見ておく必要があるわけです

エンデュランスロードは「何に」耐えるのか

ここまで見てきた通り、「エンデュランスロード」と呼ばれるモデルが想定している用途は、時代によってもメーカーによってもかなり違いがあります。

enduranceという言葉の意味

そもそも「Endurance」とはどういう意味でしょうか? 辞書を引いてみると、以下のように書かれています。

  1. 忍耐、我慢、辛抱
  2. 持久力、耐久性

基本的な意味としては「何かに耐える」、または「耐える状態を続ける」ということですね。

ロードバイクの世界においては、一般的なロードレース用とは異なる方向に性能を伸ばしたモデルが、いつしか「エンデュランスロード」に分類されるようになりました。その結果、同じカテゴリの中に「何に耐えることを重視しているのか」が全く違うモデルが詰め込まれた状態になっています

混在する「耐える」対象

初期のRoubaix・Domane・Infinito CVが重視したのは、主に「石畳という過酷な路面」に耐えながら高速でレースをすることでした。一方、初期のDefyやEnduraceは疲れにくくする工夫を加えて、一般的なサイクリストが舗装路で「長時間漕ぎ続けること」に耐えうる性能であることを重視しています。

現行版Synapse。シートチューブとタイヤの間隔を見ても分かる通り、かなり太いタイヤの装着を考慮に入れ、走破性を高めている。

さらに近年では、現行のRoubaix・Domane・Synapse・Infinitoのように、荒れた舗装や軽いグラベルまで含めて「より多様な路面状況」に耐えることを重視するモデルも増えました。逆に、GE-110のように走れる路面は広げず、積載性を重視して「(環境変化を含む)長時間行動」に耐えることを重視したモデルもあります。

つまり、同じ「エンデュランスロード」の中でも、違う方向性の「耐える」が混在してきたわけです。しかも、それはモデルごとに固定されたものではなく、世代ごとにも変わってきたのはここまでお話してきた通り。Defyのように終始一貫しているモデルもありますが、それは一握りです。

今回、7モデルのエンデュランスロードの20年間の歴史を振り返ってみて、「何に耐えるのか」が何度も書き換えられてきたことを改めて認識しました。

共通化と分岐の先にある現在地

本章でここまで示してきたように、エンデュランスロードは20年間で一つの完成形に向かって進化したわけではありません。

レーシングロードは細部の違いこそあれ、大手各社はおおむね似た最適解に収斂しています。対してエンデュランスロードは、そもそも何を目的とするかが揃っていないため、20年を経ても設計思想が一方向には収斂していません。

ただし、完全にエンデュランスロードがバラバラの方向を目指しているかというとそうでもありません。近年の大手各社(特に北米系)を見ると、タイヤクリアランスをかなり大きめに広げ、荒れた舗装や軽いグラベルまで対応する「路面方向の万能性」を強化する傾向が目立ちます。その一方、積載やフェンダーといった長時間走行のための装備は縮小・据え置きとなっている傾向があります。積載やフェンダー対応のためには想定する荷重のぶんだけ丈夫さを上げる必要があり、重量化に繋がります。それならば軽量のまま仕上げて走行性能を上げることが狙いなのでしょう。

Defy・Roubaix・Endurace・GE-110。同じ「エンデュランスロード」カテゴリでも、想定用途は大きく異なる

総括すると、エンデュランスロードは多方向へ分岐しながらも、近年は全体として「より多様な路面を走れる」方向へ重心を移しつつあります。一方、その流れに乗らず舗装路ロングライド志向を貫くDefyや、長時間走行に強く振ったGE-110、ロングライド用として生まれたのに石畳レース用モデルを突如として出してきたEnduraceのような例も存在します。

20年を振り返って見えてきたのは、「エンデュランスロードには今なお一つの最適解がない」ということでした。むしろその「揃わなさ」こそが、このカテゴリの魅力であり、現在地なのかもしれません。

まとめ

エンデュランスロードの20年間の歴史を振り返り、その想定用途の変遷を追いかけてきました。

万能に見えて、得意・不得意がある

結果として見えてきたのは「エンデュランスロード」という言葉だけでは、その自転車が何をするために作られたのか分からないということでした。

石畳レースを速く走るために生まれたモデルもあれば、舗装路を長時間快適に走るために生まれたモデルもあります。荒れた路面や軽いグラベルまで対応範囲を広げたモデルもあれば、積載や天候変化を含む長時間行動への対応を重視したモデルもあります。更に、同じモデル名であっても、世代によってその想定用途が変わることさえあります。

もちろん、エンデュランスロードに分類されるモデルは、一般的なレーシングロードよりも幅広い用途をカバー出来るモデルが多いのは事実です。

ただし、それぞれに専門分野・得意分野がある一方で、当然ながら苦手分野もあります。ある性能を伸ばせば、別の性能との間にトレードオフが生まれることもありますし、そもそもメーカーが重視していない用途については、十分な対応力を持たないこともあります。

「守備範囲が広い」ことと「何でも出来る」ことはイコールではありません。重要なのは、そのモデル・その世代が何を得意とし、何を苦手としているのかを見ることです。

用途と目的のミスマッチ事例

私自身、これまで所有した初期RoubaixやInfinito CVは、走行性能や快適性には不満がありませんでした。むしろ、レーシングロードにも比肩する性能があったと思っています。その一方、フェンダーやバッグなどの装備・積載面には不満が残りました。また、荷物を積んだ際には明らかに走りが重くなる点も気になりました。後から考えればそれは当たり前で、初期Roubaix・Infinito CVは共に石畳でレースをするために作られたもの。フェンダーや大型サドルバッグを付けてパリ~ルーベに出る選手はいないわけで、そういった用途への対応力は弱くして当然です。

現在、GE-110を選んで乗っているのは、そうした経験の結果です。私の場合のメイン用途はブルベであり、細かく分解すれば「補給食・工具・雨具などを積み、舗装路をある程度の速度で長時間走る」ということ。そうなると、荒れた路面の走破性よりも、時間方向の万能性(積載やフェンダーへの対応)の方が優先すべき性能ということになります。一口にエンデュランスロードといっても、その要求を満たすモデルは多くありません。

エンデュランスロード4台目にして、ようやく自分の用途に合った正解にたどり着くことが出来ました。

自分の目的に合った自転車を選ぶ

では、エンデュランスロードを選ぶ時に何を見るべきなのか。

まず、「自分が何をしたいのか」を具体的に考える必要があります。舗装路を中心に走るのか、荒れた路面にも入りたいのか。何時間、あるいは何日走るのか。雨や夜間も走るのか、そのための荷物はどのくらい持つのか。どの程度の速度や走行距離を求めるのか。

その上で、そのモデル・その世代が「何に耐えるために作られているのか」というメーカー側の想定用途を見る。最後に、自分の目的と、そのモデルの想定用途が合っているのかを確認します。

例えば、あなたの目的が「東京~大阪キャノンボールを達成する」だったとします。距離は520km、時間は24時間。数字だけ見れば立派な「エンデュランス」です。しかし、開催日時の決まったブルベと異なり、キャノボは自分でスタート時間を選択できます。天気の良い日・季節を選べば、雨具などの荷物を持つ必要はありません。一部荒れた路面もありますが、基本的には舗装路です。舗装路を軽装で、しかも高い速度域が要求される。こうなると、もはやエンデュランスロードを選ぶ必要はなく、むしろレーシングロードを選んだほうが目的の達成に近づくはずです。

一方、ブルベのように夜間や雨天を含めて長時間走るのであれば、舗装路での快走性を重視しつつ、積載性やフェンダー、ライトなどを無理なく装備できるタイプのエンデュランスロードが向くでしょう。

また、舗装路だけでなく荒れた道や軽いグラベルまで入りたいのであれば、積載性よりもタイヤクリアランスや走破性を重視したタイプのエンデュランスロードが適しています。逆に、キャンプツーリングのように荷物が多い用途では、ラックやバッグを確実に取り付けられることも重要です。


こうして見ると、重要なのは「エンデュランスロードを選ぶかどうか」ではなく、自分が何をしたいのかを自覚し、その目的に合った性能を持つ自転車を選ぶことです。「距離が長いからエンデュランスロード」「レースに出ないからエンデュランスロード」という単純な話ではありません。同じ500kmでも、軽装で速く走るのか、雨具やライトを積んで夜通し走るのかでは、求められる性能はまったく違ってくるからです。

もちろん、自転車選びは性能だけで決まるものではありません。「この色が好き」「この形が好み」「このブランドに乗りたい」という気持ちも重要です。理屈を全部並べた後に、「でもチェレステじゃないと嫌だ」と言われれば、それも立派な判断材料。気に入った自転車に乗ればテンションは上がる。それもまた性能です。

ただ、少なくとも実用性を重視して選ぶのであれば、カテゴリ名だけで判断しない方が良いでしょう。

この記事の裏の目的

この記事の表向きの目的は「エンデュランスロードの想定用途の変遷を追う」ことですが、裏の目的は「エンデュランスロードを買おうとする人がミスマッチに遭遇することを防ぐ」ことです。

「エンデュランスロードを選んだのだから、自分の用途に合うはず」と思って買った後で、「あれ?」となるのは幸せなこととは言えません。納得した上で「でもこれが好き」と選ぶならば良いのですが、そのためにはまず「何が得意で何が苦手なのか」を知るための材料が必要です。

ところが、エンデュランスロードについては、その判断材料が十分に整理されているとは言いにくいのが現状です。タイヤ幅や快適性については語られても、積載性や全天候性、長時間行動への適性、あるいは逆に「この用途はあまり得意ではない」といった話まで踏み込まれることは多くありません。その結果、ユーザー側も「エンデュランスロードなら幅広く使える」という大きなくくりだけで判断しがちです。

この記事を書いた目的は、エンデュランスロードの正しい定義を決めることではありません。各モデルがどんな目的で生まれ、世代ごとに何を伸ばし、何を残し、何を捨ててきたのかを整理することで、ユーザーが自分で判断するための材料を増やすことです。

そのうえで「自分の用途とは少し違う。でも、この自転車が好きだから選ぶ」と決めるのであれば、それは十分に納得のいく選択だと思います。

この記事が、皆さんの「次の自転車選び」のお役に立てば幸いです。

著者情報

年齢: 42歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: GHISALLO GE-110(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)

# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。
# これまでに著者が乗ってきたスポーツ自転車の履歴はこちらの記事にまとめています。

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この記事を書いた人

ロングライド系自転車乗り。昔はキャノンボール等のファストラン中心、最近は主にブルベを走っています。PBPには2015・2019・2023年の3回参加。R5000表彰・R10000表彰を受賞。

趣味は自転車屋巡り・東京大阪TTの歴史研究・携帯ポンプ収集。

【長距離ファストラン履歴】
・大阪→東京: 23時間02分 (548km)
・東京→大阪: 23時間18分 (551km)
・TOT: 67時間38分 (1075km)
・青森→東京: 36時間05分 (724km)

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