真夏の直射日光下で自転車の表面温度はどれくらいまで上がるのか

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35℃の猛暑日、太陽の下に自転車を放置した場合にどのくらいの温度まで上がるのか? サーモカメラで確認しました。

目次

実験の動機

まずは実験の動機から。

TPUチューブは太陽の熱でダメージを受けるのか

7月中旬までは過ごしやすい気候が続いていましたが、その後は今年も猛暑に見舞われています。

すると、SNSでよく見るようになってきたのが「TPUチューブがパンクした」という話です。そういうケースで自転車の写真を見ると大抵はリムブレーキ。しかし、パンクした方の中にはディスクブレーキの方も結構いました。単純に、尖ったものを踏んだり、リム打ちパンクだった可能性もありますが、ここでちょっと気になったのです。

「真夏に太陽からの光だけで、TPUチューブがダメージを受けることはあるのか?」

TPUチューブが溶ける温度はそれなりに高く、100℃以上であることが普通。しかし、それより低い温度でも軟化が始まり、チューブの内圧によって裂けてしまうケースがあることをこちらの専門家への取材で知りました。

何かのニュースで、「真夏の昼間のアスファルトは直射日光で熱せられて60℃以上になっている」という話を見たことがあります。夕方でも、犬を散歩させると足の裏を火傷してしまう例があるそうです。

この2つの要素を考えると、「真夏には、TPUチューブが太陽の熱でダメージを受ける」可能性はありそうに思えます。

サーモカメラで測ってみよう

こんな時、我が家には一つの計測機器があります。

サーモカメラです。サーモグラフィーを搭載しており、写した映像の各部分の温度を計測可能。真夏の直射日光下に自転車をしばらく置いて、その時の温度をこのサーモカメラで撮影すれば温度がわかります。

しばらくはスッキリと晴れない日が続いていましたが、ようやく晴れたので実験を決行しました。

実験

それでは実験をしていきます。といっても、今回はサーモカメラで温度を測るだけなのですが、案外やってみると面倒でした。

測定をしたのは、お昼の12時30分頃。天気予報サイトの記録によると、35℃まで上昇したようです。

路面の温度は約60℃に達しています。実験の条件としては申し分ありません。

実験①: 自転車を5分間、直射日光下に放置する

最初は、「直射日光下に駐輪している自転車のタイヤの温度を測らせてもらおう」と思ってたんですが、他人の自転車にカメラを向けている様子は相当に怪しい。そうなると、自分の自転車を直射日光下に置くしかありません。

測定対象

今回の実験では熱によるダメージを受ける可能性が十分にあるのでTPUチューブは避けたい。我が家の自転車はほとんどがTPUチューブになってしまっているということもあり、ブチルチューブのロードバイクはリムブレーキのOltre XR4のみ。

サドルは変わっていますが、大体今もこの仕様です。TOKENのカーボンホイール、タイヤはAGILEST FASTのクリンチャーが付いており、チューブはブチルチューブが入っています。

測定方法

自転車を南方向に向けて直射日光下に5分間放置し、その後に各部の温度をサーモカメラで測定します。「真夏の駐輪場やコンビニに自転車を放置して買い物などをしている」ケースを想定しています。

5分間なのは、盗難を防ぐため。なるべく直射日光がしっかり当たる場所で測定したいと思ったんですが、そうなると近くに自転車を視認可能な日陰がない。かといって目を離したくない。結局、私も炎天下にいることになり、正直立っているのは5分が限界でした。

測定結果

まずは測定前の温度。27℃のエアコンが効いた部屋にあったので、タイヤも27℃になっています。

そして、直射日光下に5分置いた結果がこちら。左上に「Cen」「Max」「Min」と出ていますが、その対応関係は以下の通り。

ラベル意味画面上の表示
Cen画面中央の温度白丸
Max画面で一番高い部分の温度赤丸
Min画面で一番低い部分の温度青丸

赤丸(最高温度)の位置を見ると、タイヤの太陽と正対する位置に来ていることが分かります。ここが57℃まで上昇していました。路面のアスファルト温度と大差ありません。画面中央部分はやや温度が下がり、55℃です。

意外なことに、リム部分はそこまで熱くなっておらず、画像の色を見る限り40℃台に見えますね。リム側面は太陽光に正対せず、斜めから光を受けていたことが理由だと思われます。

カーボンハンドル。60℃と出ていますが、これは画面に映り込んでしまった路面部分の温度。ハンドル部分は52℃くらいのようです。

黒いから温度が上がりそうだと思っていたDuraAceのブレーキは38℃しかなくてびっくり。金属部品は放射率や周囲の反射によって表示温度がずれる可能性があるため、参考値とします。

一番温度が高かった部位はサドル。こちらも太陽に正対しており、光を受ける面積が大きいことが効いていると思います。あと、このサドルは黒いことも熱くなる理由でしょう。

実験②: カーボンホイールを15分間、炎天下に放置する

「5分間では温まりきらないのではないか」と思ったので追加実験をすることにしました。

「長時間目を離しても盗まれる心配がない」「直射日光が十分に当たる」場所にホイールのみを放置します。

測定対象

ちょうど家にあったホイールで、TPUチューブを使っていないホイールと言うと、コレでした。

このホイールはフックレスなので、基本的にチューブレスタイヤしか使えません。チューブレスタイヤが付いた状態のホイール(前輪)のみを使用します。

測定方法

自宅のベランダ(物凄く日が当たる)に、南方向に向けて直射日光下に15分間放置して、その後サーモカメラで温度を測定します。

ベランダに登ってくる人がいなければホイールが盗まれることはありません。待っている間はエアコンの効いた自室で涼めます。

測定結果

やはり太陽と正対する部分の温度が高く、64.7℃まで上昇していました。もっと上がるかと思いましたが、そこまでではなかったですね。

カーボンリムの温度もそこまで上がらず、50℃止まり。スポークも温度が低く、40℃前後でした。ただ、リムの側面を太陽に向けたらもう少し温度は上がる可能性があります。

熱のリスク評価

今回測定されたタイヤ表面の最高温度は約65℃。チューブの温度が何℃まで上昇しているかは不明ですが、50℃台になっていても不思議ではありません。

ガラス転移点

私が以前こちらの記事でGueeの専門家に聞いたTPUチューブの性質変化の温度について引用します。

TPUチューブの状態が変化する温度は以下のとおりです。

ガラス転移点(Tg):45~55℃
軟化/クリープ開始:70~90℃
接着剤の劣化:90~110℃
深刻な変形リスク:110℃以上


(訳注) TPUや接着剤には多種多様なグレードが存在し、その特性や状態変化が起こる温度は、個別の配合によって異なります 。ここで挙げられた温度は、自転車用インナーチューブに使用される一般的なTPU素材における「物理的な特性の目安(平均的な指標)」として提示されたものです。

こちらの情報では、45~55℃で「ガラス転移点」を迎えるとされています。

ガラス転移点とは、「高分子材料の分子鎖が動きやすくなり、力学的な性質が大きく変わる温度」のことで、それより低温では「ガラス状(固く変形しにくい)」、高温では「ゴム状(柔らかく変形しやすい)」になります。

TPUは、硬い部分と柔らかい部分を併せ持つ素材です。そのため、常温でもチューブ全体がガラスのように硬いわけではなく、ある程度は弾性的に変形します。この時に聞いた45~55℃というガラス転移点も、「ここを境に初めてゴムのように柔らかくなる温度」というより、TPUの粘弾性や弾性率がさらに大きく変化し始める温度帯と考えるのが良さそうです。便宜上、この後も「ガラス転移点」と呼びます。

そうなると、真夏の直射日光下では、タイヤ内部のTPUチューブもガラス転移点付近まで温まる可能性があります。その場合、常温時より弾性率が低下し、内圧による局所的な変形や薄肉化が起こりやすくなることは考えられます。

見えない場所の話ですし、更にTPUはモノによって耐熱性が異なるのでガラス転移点も異なるはずなので、断言はできませんが、耐熱性の低いTPUを使っているチューブの場合は力学特性の変化が始まっていてもおかしくないでしょう。

Smartubeの説明書

Pirelli「Smartube」の説明書より引用

柔軟性が高いTPUチューブとして有名な、PIRELLIのSmartubeのマニュアルを見ると、こんな記載があります。以下は日本語訳です。

空気を充填したタイヤを60℃以上の温度環境(夏の車内など)で保管する場合は、バルブの変形を防ぐため、チューブの空気を1気圧まで落としてください。

Smartubeのバルブは樹脂製です。とはいえ、電動ポンプのように100℃以上になるのであればともかく、60℃程度で変形まで行くとは思えない。それでもわざわざ書いているということは、何かチューブに問題が起こる温度の可能性が高い。バルブ単体が60℃で直ちに変形するとは考えにくいため、バルブ根元の接合部を含め、高温・内圧下での変形を考慮した制限ではないかと推測します。

真夏の対策

以上のことを考えると、真夏に屋根のない駐輪場へ長時間置く用途では、耐熱仕様が不明なTPUチューブは避けた方が無難でしょう。

私は、クロスバイクにはブチルチューブを入れています。これは、真夏の駐輪場(屋根なし)の場所に長時間駐輪する可能性が高いからです。TPUチューブには厳しいだろうとは思っていたのですが、それが今回の実験で確信に変わりました。

それでもTPUチューブを使いたい場合には、駐輪する際に自転車を日陰に置くようにした方が良いでしょう。

2023年PBPの駐輪場。超暑い

来年のPBP、TPUチューブで行くのはちょっとリスクが高いかもしれません。以前は「寒さに耐える」イベントでしたが、近年はフランスも熱波のリスクが増えて「暑さに耐える」イベントに変わりつつあります。機材の方も耐熱仕様にしないと、思わぬトラブルに見舞われる可能性があります。

まとめ

「真夏の直射日光下で自転車の表面温度はどれくらいまで上がるのか」実験レポートでした。

正直、アスファルト路面と同等までタイヤ表面温度が上昇するとは思っていませんでした。黒いとは言え、そんなに熱くならないだろうと思ってたんですが……そうではなかったですね。十分TPUチューブにトラブルが起きうる温度になりそうでした。

「黒いサドルが熱くなる」のは感覚としては分かっていましたが、70℃近い温度になっていたとは。場合によっては火傷する可能性もありますし、最近流行りの3Dプリンタ製サドルは変形してしまうかもしれません。真夏の直射日光、怖い。


なお、ChatGPTに「駐輪時のタイヤを熱くしない方法はない?」と聞いてみた答えがこちら。

駐輪時のみ使う、タイヤ用の日傘。誰か作ってください。

著者情報

年齢: 41歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: GHISALLO GE-110(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)

# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。
# これまでに著者が乗ってきたスポーツ自転車の履歴はこちらの記事にまとめています。

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この記事を書いた人

ロングライド系自転車乗り。昔はキャノンボール等のファストラン中心、最近は主にブルベを走っています。PBPには2015・2019・2023年の3回参加。R5000表彰・R10000表彰を受賞。

趣味は自転車屋巡り・東京大阪TTの歴史研究・携帯ポンプ収集。

【長距離ファストラン履歴】
・大阪→東京: 23時間02分 (548km)
・東京→大阪: 23時間18分 (551km)
・TOT: 67時間38分 (1075km)
・青森→東京: 36時間05分 (724km)

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