【実験】スルーアクスルの断面形状による感触の違い

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スルーアクスルシャフト(以下、スルーアクスルと略します)の断面形状による感触(主に反応性・突き上げの大きさ)を比較してみた実験です。数値的な計測は行っていないので、あくまで主観的な「感じ方」の違いを述べた内容となっています。

目次

実験の動機

まずは実験の動機から。

軽量スルーアクスルの違和感

2020年の話です。

当時乗っていたINFINITO CV用に軽量なスルーアクスルを購入しました。軸の中央部が軽量化のためにくびれた形状になっているタイプのものです。

しかし、その軽量スルーアクスルに挿し替えて走ってみた所、違和感を覚えました。なんかとてもモッサリした感触に変わってしまったからです。一方で、乗り心地は良くなったようにも感じられました。

「モッサリした感触」を具体的に言うと、信号からのゼロスタートでフレームが進み出すまでにタイムラグがあるというか。一言で言えば「反応性が落ちた」気がしたのです。スルーアクスル以外には何も変えていないので、原因があるとすればスルーアクスルのはず。

結局、どうにもモッサリ感が気持ち悪くて1週間ほどで前のスルーアクスル(Brand-Xのもの)に戻してしまいました。

モッサリ感は綺麗サッパリ消えたので、やはり原因はこの軽量スルーアクスルだったようです。

GE-110で気になった「くびれ」スルーアクスル

2024年、INFINITO CVから、GHISALLO「GE-110」へと乗り換えました。

乗り換えからしばらく経って気になったのは、フレームに付属する純正スルーアクスルです。

くびれてます。軸の中央部分だけ細い。

これを見て思い出したのが、前段の2020年の軽量スルーアクスルに関する出来事でした。

その時はくびれたスルーアクスルに変更したことで、「反応性が落ちる」という経験をしました。では、逆に純正のくびれたスルーアクスルを外し、くびれていないスルーアクスルに変更したら反応性が上がるのではないか?

特段、GE-110の反応性という部分には不満を持っていませんでしたが、興味本位で実験してみることを思い立ちました。

互換スルーアクスルを購入して比較実験

実験をするためには互換スルーアクスルを入手する必要があります。

こちらの記事にまとめてありますが、互換スルーアクスル探しって結構難しいのです。

地味にパラメータ(太さ・ネジピッチ・軸長)が多く、なかなか自分のフレームにぴったりなスルーアクスルは手に入りません。

特に今回、GE-110の後輪用のスルーアクスルがロード用としてはかなり長く(169mm/通常は165mmが多い)、互換品を探すのにはかなり苦労しました。

安全上の不安から普段は走行に関わる部品では手を出さないAliexpressにまで手を広げてなんとか互換スルーアクスルを揃えることに成功。なんとか実験可能となりました。

実験内容

実験方法とテスト対象のスルーアクスルについて述べます。

実験方法

実験方法
  1. 最初に、後輪用スルーアクスル(3種類)を挿し替えて、感触の差を記録する。
  2. 次に、前輪用スルーアクスル(3種類)を挿し替えて、感触の差を記録する。

今回は後輪用の互換スルーアクスルが先に揃ったので、後輪→前輪の順番で実施します。

重量や軸径などの数値データは事前に取得しますが、「感触の差」についてはあくまで私の主観を述べるだけです。

可能ならば機械的なテストをやりたいですが、そんな設備もないのでとりあえず「主観」での感触差を確かめることにしました。

テスト対象 (後輪用)

後輪用としても、GE-110の純正に加えて2種類の互換スルーアクスルを用意しました。

スクロールできます
#製品名重量くびれ軸長軸径
R-1GE-110純正 スルーアクスル37.7gあり中空169mm11.9mm
R-2ノーブランド スルーアクスル35.6gなし中空170mm11.7mm
R-3KOOZER スルーアクスル57.2gなし中実170mm11.9mm
リヤ用スルーアクスルのデータ

(R-1) GE-110純正 スルーアクスル

GE-110に付属したスルーアクスルです。

くびれあり、軸の中は中空です。その割に重量は結構重め。肉厚があるのかもしれません。

(R-2) ノーブランド スルーアクスル

Aliexpressで購入したスルーアクスルです。ノーブランドで「超軽量」という謳い文句でした。

くびれなし、軸の中は中空です。中空の径が大きいため、他よりもかなり軽くなっています。

後述しますが、このスルーアクスルだけ軸の外径が11.7mmと細く、他では出なかった不具合が生じました。

(R-3) KOOZER スルーアクスル

Amazonで購入したスルーアクスルです。

くびれなし、軸の中は中実です。六角レンチを通す分だけ穴が開いており、逆側には貫通していません。

他のものより圧倒的に重いです。これを購入したのは「重くて肉厚がありそう(=剛性が高そう)だから」だったのですが、まさか中空ですらないとは思いませんでした。

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テスト対象 (前輪用)

前輪用としても、GE-110の純正に加えて2種類の互換スルーアクスルを用意しました。

スクロールできます
#製品名重量くびれ軸長軸径
(太い部分)
F-1GE-110純正 スルーアクスル30.9gあり中空120mm11.9mm
F-2HEPPE スルーアクスル28.5gなし中空120mm11.9mm
F-3KOOZER スルーアクスル38.7gなし中実120mm11.9mm
フロント用スルーアクスルのデータ

「くびれ」の有無と「軸の中空/中実」で3パターン。前輪用も同様のパターンで用意しています。

「くびれあり」かつ「中実」の組み合わせはありません。

(F-1) GE-110純正 スルーアクスル

GE-110に付属したスルーアクスルです。

くびれあり、軸の中は中空です。

(F-2) HEPPE スルーアクスル

Aliexpressで購入したスルーアクスルです。

くびれなし、軸の中は中空です。

これの後輪用も一応買ったのですが、何故か後輪用は「くびれあり」でした。

(F-3) KOOZER スルーアクスル

Amazonで購入したスルーアクスルです。

くびれなし、軸の中は中実です。六角レンチを通す分だけ穴が開いており、逆側には貫通していません。

実験結果

実験の結果です。

前述の通り、後輪のほうが先に互換スルーアクスルが揃ったので、そちらからテストしています。

以降、スルーアクスルは略称(R-2など)で記述します。

後輪のテスト

3本のスルーアクスル(R-1・R-2・R-3)を挿し替えて、同一区間を走行して感触の違いを確認しました。

やはり感じられたのは、ゼロスタート時の反応性の違い。R-3が最も動き出すまでが早く感じられ(掛かりが良い)、R-1が最も遅く感じられました(掛かりが悪い)。R-2はその中間です。R-1とR-3を比べると、「別のフレームでは?」と感じられるほど、剛性感に違いを感じました。

一方、段差を越えた際の地面からの突き上げが一番強く感じられたのはR-3でした。R-1は比較的地面からの突き上げがマイルドに感じられます。ただ、乗り心地の差は反応性ほど大きくは感じませんでした。

整理すると、以下のようになります。

反応性R-3 > R-2 > R-1
突き上げの強さR-3 > R-2 > R-1

総合的に一番印象が良かったのは「R-3(くびれなし・中実)」でした。

前輪のテスト

3本のスルーアクスル(F-1・F-2・F-3)を挿し替えて、同一区間を走行して感触の違いを確認しました。

反応性F-3 > F-2 > F-1
突き上げの強さF-3 > F-2 > F-1

結果は後輪とほぼ同じです。ただ、後輪と比べると前輪は突き上げの強さの差を大きく感じました。

総合的に一番印象が良かったのは「F-2(くびれなし・中空)」でした。

反応性で言えば一番良いのはF-3(くびれなし・中実)でしたが、突き上げがあからさまに強く感じられました。反応性・突上げともに中庸なF-2が一番印象良く感じたということです。

結果の考察

今回は、前輪・後輪ともに3本ずつのスルーアクスルをテスト対象としています。

テスト対象の構造

テスト対象のスルーアクスルの構造パターンは以下の3つに分けられます。

テスト対象の構造パターン
  • F-1/R-1
    くびれあり・中空
  • F-2/R-2
    くびれなし・中空
  • F-3/R-3
    くびれなし・中実

構造的に言えば、上から下に向けて剛性が高まるはず。もちろん素材の差や中空の切削具合によっても異なるはずですが、おおむねこの順番に並ぶはずです。

構造と感触の傾向

感触的には「スルーアクスルシャフトの剛性が高いほど反応性は高まり、地面からの突き上げは強く感じる」という傾向がありました。

凄く単純に考えれば、地面からの突き上げで上下方向に多少シャフトが変形している……と推測します。もしかしたらハブもそれに連られて変形しているかもしれません。

剛性の高いシャフトは変形しにくいので、踏み込んだ時にハブも動かずにダイレクトに反応する。一方で、地面からの突き上げもダイレクトに伝えてくる。そういうことなのかな?と。

なお、ハブ軸の内壁はこんな感じになっています。前輪後輪ともにこうなっていて、穴などはありません。

ハブ軸とシャフトの接触面積について考えると、くびれなしのシャフトならば軸が全体的にハブ軸内壁に接触するはず。

一方、くびれありのシャフトはくびれている部分はハブ軸の内壁との接触面積は減ります。GE-110純正のスルーアクスルの場合、くびれた部分の外径は11.00mmと0.9mmほど削り込まれていました。

もしかしたらこの接触面積の差も感触に影響しそうですが、ちょっと私には説明を用意することが出来ませんでした。

GE-110に「くびれあり」アクスルが付属する理由は?

今回はGE-110のアクスルを「くびれあり」→「くびれなし」へと挿し替えましたが、前述の通り元々の反応性に不満があったわけではありません。「変えたらどうなるかな」ということを確かめたくて変えました。

ラルートのGE-110開発者インタビューには、「ネジ切りBBを採用したら突き上げが強かったので、あえて圧入BBにした」というような記載がありました。もしかすると、GE-110が「くびれあり」のスルーアクスルを採用したのは、乗り心地のためにあえてそうしたのかもしれませんね。

実際、私も前輪側に「くびれなし」「中実」のスルーアクスルを付けた場合には「突上げが強すぎる」と感じましたし……。

RWSとの類似性

本件で思い出したのが、リムブレーキ時代に私がハマっていた「RWS」です。

クイックリリースよりも強い力でホイールを固定できるシステムなのですが、これも通常のクイックリリースよりも「反応性が上がり、突上げは強く感じる」という傾向がありました。

同じ軸の話なので、何か似た原理で同じように感じるのかもしれません。

余談

R-2(中華ノーブランド品)のみ、大パワーを掛けた瞬間にドライブトレインからの異音(パキパキ音)が発生しました

恐らく原因は軸の外径。通常、ロード用のスルーアクスルの径は11.90-95mm。しかし、本製品をノギスで計測すると11.7mm。0.20mmほど細かったのです。

ハブ軸の内径は12.00mm。スルーアクスルの外径はそれより0.05-0.10mm細いくらいが普通ですが、R-2はハブ軸の内径より0.30mm近く細いということです。

ホイールのハブはフレームのエンドに挟まれて固定されるため動かないはずですが、スルーアクスル(シャフト)が細いと大トルクを掛けた時にハブが前後に動いてしまうのかもしれません。

坂を登るたびにパキパキ鳴ってうるさいので、R-2はお蔵入りとなりました。こういう思いもよらぬトラブルがあるのが中華パーツの怖い所です。

もし、「スルーアクスルを交換したタイミングで音鳴りが発生した」という方がいれば、軸の外径を測ってみてください。11.9mm未満の場合、それが原因の可能性があります。

まとめ

スルーアクスルの断面形状(くびれの有無・中空 or 中実)による感触の違いを確かめた実験の報告でした。

変形の度合いを定量的に分析する手段がないため、あくまで「感触」という不確かなもので話を進めなければならないのがもどかしかったです。フレームブランドであればそういう実験をしていてもおかしくない気もしますが……

将来的に、どこかのメディアで詳しい分析をやってくれないかな?と勝手に期待しています。

私は反応性が良い方が好きなので、「くびれなし」のスルーアクスル(F-2 / R-3)を使っていこうと思っています。

なお、本記事は「くびれありはダメ」「くびれなしが良い」と言っているわけではありません。スルーアクスルを差し替えることにより、好みの範囲で感触を変えられる可能性があり、それは断面形状に由来するのではないか……という仮説を示したものです。


GE-110は「GHISALLO」ブランドですが、こちらは問屋のフカヤのプライベートブランドです。同じくフカヤのプライベートブランドに「DAVOS」がありますが、そちらの公式アカウントがこんな発信をしています。

ここで比較用に置かれている左側のスルーアクスルはGE-110の純正スルーアクスルです。

軸に書いてあるスペックはすっかり同じであることが分かります。

つまり、発売元であるフカヤも「剛性感に差があるかも」と書いているわけですね。今度どこかのイベントでフカヤの中の人とお話する機会があれば、そのあたりの話を聞いてみたいと思っています。


「本当にスルーアクスルで感触に違いが出るのか?」が気になる方は、前述のDAVOSのスルーアクスルを試してみてください。こちらは「くびれなし・中空」のタイプになります。軸の直径は11.95mmあり、しっかりしています。価格も1500円程度と安価。

ただし、六角穴の素材が柔らかく、引っ掛かりが浅い状態で回すと穴を舐めやすいのでご注意ください。

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著者情報

年齢: 40歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: GHISALLO GE-110(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)

# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。

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この記事を書いた人

ロングライド系自転車乗り。昔はキャノンボール等のファストラン中心、最近は主にブルベを走っています。PBPには2015・2019・2023年の3回参加。R5000表彰・R10000表彰を受賞。

趣味は自転車屋巡り・東京大阪TTの歴史研究・携帯ポンプ収集。

【長距離ファストラン履歴】
・大阪→東京: 23時間02分 (548km)
・東京→大阪: 23時間18分 (551km)
・TOT: 67時間38分 (1075km)
・青森→東京: 36時間05分 (724km)

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